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シロッコのガンダム日記
1  P・シロッコ  2001/11/13(Tue) 18:13
とりあえず、再来って事で
ヨロシクお願いします。

目指せケロググ!ぐはー
2  一匹狼  2001/11/13(Tue) 18:17
それじゃあ、3の人一言お願いします。
3  だれ子ちゃん?  2001/11/13(Tue) 18:20
楽しみにしています。
4  カイザーマルチ  2001/11/13(Tue) 20:43
毎日書くの?
5  だれ子ちゃん?  2001/11/13(Tue) 20:51
2chに逝け。暖かく迎えてくれるだろうから。
6  だれ子ちゃん?  2001/11/13(Tue) 21:12
>>5
生暖かくな
7  デブダム  2001/11/13(Tue) 21:29
ガンダム下火だけどがんばってね〜。で、今日は?
8  だれ子ちゃん?  2001/11/14(Wed) 03:03
やるならジオンでやってくれ。
連邦は強すぎなもんで。
9  だれ子ちゃん?  2001/11/14(Wed) 05:48
なんで、マルチとデブが食いついてるんだよ!
10  シロッコ  2001/11/14(Wed) 05:57
11/14
シャアゲルをつかっていたら180にハメられてやられました。
とてもつまらなかったし、はずかしかった。嗚呼072ー1919
11  だれ子ちゃん?  2001/11/14(Wed) 06:58
もう行ったのかよ!?ゲーセン!
12  だれ子ちゃん?  2001/11/14(Wed) 07:59
ageるな。続けるな。
おまえは前ビマニア並の価値観しかないのか。
それより、盛り上げようとしてるのかデブダムとマルチの方も並んで腹立つがな。
どうしてもやりたいならマルチスレへ逝ってください。
13  デブダム  2001/11/14(Wed) 15:59
すいません。もりあげようとしてるわけじゃないんです。「ああこの人もDQNかせいぜいがんばれ」ってみたいな感じです。
14  だれ子ちゃん?  2001/11/14(Wed) 21:30
>>5
2chもここも寒いだしょ
冬だし
15  だれ子ちゃん?  2001/11/14(Wed) 23:00
デブダム
おまえがDQNなんだけど、早く気付けよ。
16  デブダム  2001/11/14(Wed) 23:06
>>15
レス13に「この人も」ってかいてます。つまり俺もDQNってことですよ。おわかりいただけましたかな?
17  だれ子ちゃん?  2001/11/14(Wed) 23:11
>>16
いちいち反論しなくていい。
18  だれ子ちゃん?  2001/11/14(Wed) 23:29
>16
DQNがDQNにDQNって言って良いのか?
そんぐらいわかんだろーがボケ
19  だれ子ちゃん?  2001/11/14(Wed) 23:40
つーか、ここ読んでて思ったんだけど、
このスレに書いてるだれ子ちゃんたちも、充分DQNだな。
もちろん俺もだが(w
まだ自覚してるだけデブダムの方がまし。
20  カイザーマルチ  2001/11/14(Wed) 23:56
DQNって何?
21  だれ子ちゃん?  2001/11/14(Wed) 23:57
DQNって君のことだよ。マルチ君。
22  だれ子ちゃん?  2001/11/14(Wed) 23:58
だから次から名前は
「カイザーマルチ」改め「DQNマルチ」でどうよ?
23  DQNマルチ  2001/11/15(Thu) 00:01
んで何なの?
24  だれ子ちゃん?  2001/11/15(Thu) 00:06
これからはずっとそれで逝けよ。
そうすりゃわかるって。
25  DQNマルチ  2001/11/15(Thu) 00:07
教えろよ
26  だれ子ちゃん?  2001/11/15(Thu) 00:10
そこらへんがDQNなんだよ。
27  だれ子ちゃん?  2001/11/15(Thu) 00:10
偽者マルチ君w
28  だれ子ちゃん?  2001/11/15(Thu) 00:10
DQNなマルチ君の偽者だから、WDQN偽者マルチ君w
29  だれ子ちゃん?  2001/11/15(Thu) 00:25
うう・・・苛めして楽しいか?
℃急訴←
30  だれ子ちゃん?  2001/11/15(Thu) 00:26
ドラゴンクエストなんじゃこりゃ〜
の略
31  だれ子ちゃん?  2001/11/15(Thu) 00:29
いい加減叩くのやめなよ。
底が浅いと思われるぞ。嘘でも心を広く持ってだな〜。
32  だれ子ちゃん?  2001/11/15(Thu) 00:32
>>31
フォローになってなかったり・・・
33  だれ子ちゃん?  2001/11/15(Thu) 00:39
目撃ドキュン
ドキドキさせるよドキュンちゃん
闇のドキュン

34  31  2001/11/15(Thu) 00:42
>>32
したつもりもなかったりして(w
それより一匹狼の方がタチが悪いぞ。

35  32  2001/11/15(Thu) 01:14
>>31
あれって本当に1人なのかな?って思ったり…。
36  ぴろり  2001/11/15(Thu) 16:45
いぞいでsage

37  31  2001/11/16(Fri) 00:00
>>35
それは俺も思うな。
電波くん大量発生とか。
38  シロッコ  2001/11/16(Fri) 12:49
age
39  だれ子ちゃん?  2001/11/16(Fri) 13:52
>31
総合板の奴はクズだが、地域板の奴は鋭い突っ込みを入れてたりする。
「一匹狼連合」っての実在するのかもね。
40  だれ子ちゃん?  2001/11/16(Fri) 20:43
>39
「連合」してちゃ一匹狼じゃないよ(w
41  ネタバレ中尉  2001/11/16(Fri) 22:56
↑「鋭いツッコミ」って、このこと?
42  だれ子ちゃん?  2001/11/16(Fri) 23:44
40は一匹狼。
43  31  2001/11/17(Sat) 00:20
取り合えず一匹狼は放置って事でどうだ?
44  40  2001/11/17(Sat) 04:26
おやおや・・・俺が一匹狼扱いされるとは。
つか、なんでそう思うのかね>42

45  だれ子ちゃん?  2001/11/17(Sat) 06:17
声が聞こえたんだろ>42
ageてるしな
46  だれ子ちゃん?  2001/11/17(Sat) 18:19
40は元ネタも知らないのに突っ込みをいれてます、
知ったかぶるなよ・・・・
47  40  2001/11/17(Sat) 23:36
ん?確かに俺は「一匹狼」については一切知らんが何か?
俺は揚げ足を取っただけで「知ったか」ではないと認識しているが?
元ネタを知らん人間は突っ込み入れてはいかんのかな?
答えてほしいものだな。
48  だれ子ちゃん?  2001/11/18(Sun) 08:28
で日記はどうした
誰か書けよ
49  だれ子ちゃん?  2001/11/18(Sun) 10:54
40は段々厨房っぷりを露呈し始めました。

晒しage。
50  真面目な話  2001/11/18(Sun) 11:01
>俺は揚げ足を取っただけで「知ったか」ではないと認識しているが?
どーいう頭の構造してんの?説明求む。
あ、本人は出てくるなよ、余計分からなくなる(w

51  通りすがったが  2001/11/18(Sun) 11:19
べつに40は普通だと思うがなぁ
52  だれ子ちゃん?  2001/11/18(Sun) 12:28
日本語の使い方はできてないね。
53  ネタバレ中尉  2001/11/18(Sun) 13:12
>>50
「確かに、元ネタは知らないなぁ。
 でも俺はただ『一匹狼連合』という単語を単品で見たとき、
 その言葉に内包される矛盾点を指摘しただけだぜ?」
という意味では?(かく言う自分も元ネタ知らず)
54  40  2001/11/18(Sun) 16:17
>49
俺は自分のことを大人だとは思っていないが、
理由もなく人を厨房と決めつけることのほうが厨房くさいと思う。
俺の発言のどこが厨房なのか書いてみなよ。
つ〜か、2chならともかくここで晒しageって無意味だし、
削除待ちのスレなんだから、やるならsageで。

>50
ネタバレ中尉さんが詳しく解説してくれたのでそれで理解して。
最初から「誰にでもわかる」ように書かなかった俺も悪かった。

>52
以後気をつけるよ。

49、50からなんか臭うが・・・まぁいいや。

55  部外者  2001/11/18(Sun) 18:20
40は煽りに踊らされすぎ。
56  一匹狼  2001/11/18(Sun) 21:12
俺の事で喧嘩してるの?暇人だね〜
とりあえず糞スレが上がっても困るんでサゲでやってくれない?

ちなみに元ネタっつーか、名前の由来は「擬似トランプラー」だよ、
誰もしらね〜だろうけど・・・
57  だれ子ちゃん?  2001/11/18(Sun) 22:43
>>56
一つ聞きたいんだけど・・・
悪いけど煽ってるとしか思えんよ。つーか確信犯なのか?
なら俺も放置するけど。

58  だれ子ちゃん?  2001/11/19(Mon) 00:30
連ジ2まで頑張って盛り上げてくれ。
もっと荒れてもいいぞ。
まだまだ、お子ちゃま級だ。
59  一匹狼  2001/11/19(Mon) 16:36
>56
お前誰?
60  だれ子ちゃん?  2001/11/20(Tue) 07:24
ところでシロッコはどうした?
61  だれ子ちゃん?  2001/11/21(Wed) 10:22
みんなで日替わりで書こうよ。日記
62  だれ子ちゃん?  2001/11/21(Wed) 10:28
さっきから駄スレ上げまくってるやつは誰だ?
63  だれ子ちゃん?  2001/11/21(Wed) 10:41
俺かな?(嘘
64  だれ子ちゃん?  2001/11/24(Sat) 12:12



























































65  だれ子ちゃん?  2001/11/24(Sat) 12:14








































































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66  だれ子ちゃん?  2001/11/27(Tue) 14:32
               o
            /  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ /
           /   このスレは無事に /
           /  終了いたしました  /
          /ありがとうございました /
          /            /
         /    モナーより   /
         / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄/
  ∧_∧  /             /∧_∧
 ( ^∀^)/             /(^∀^ )
 (    )つ          ⊂(    )
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67  だれ子ちゃん?  2001/11/27(Tue) 14:38
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68  だれ子ちゃん?  2001/11/29(Thu) 23:02
わははは、面白い。笑い死ぬかと思ったよ。
69  だれ子ちゃん?  2001/11/30(Fri) 00:08
>64、65
うざすぎ。無駄にスペースとってあって他のスレに迷惑がかかる。
sageで逝こう
70  だれ子ちゃん?  2001/11/30(Fri) 18:41
やめれー
71  だれ子ちゃん?  2001/11/30(Fri) 23:34
ならageんな
72  だれ子ちゃん?  2001/12/01(Sat) 04:42
竜田揚げ
73  だれ子ちゃん?  2001/12/01(Sat) 11:02
UZEE
74  だれ子ちゃん?  2001/12/01(Sat) 16:43
自作自演晒しage
75  だれ子ちゃん?  2001/12/01(Sat) 18:36
sage

76  だれ子ちゃん?  2001/12/02(Sun) 09:57
ageちまった鬱田詩納
77  だれ子ちゃん?  2001/12/03(Mon) 03:28
ageるな!!ageないでくれ!!
このままsageてくれ!!
これは命令だ!分かったか!?
頼むよ・・・お願いだからさ・・・
78  だれ子ちゃん?  2001/12/03(Mon) 18:54
ふん



































79  だれ子ちゃん?  2001/12/03(Mon) 19:46
管理人が放棄するわけだ・・・・・・・・・
私は呼びかける!
閉鎖されたくないのなら駄(堕)スレ立てはやめましょう。
マジで!!!
もちろん駄(堕)スレに意味のないレスをつけるのもおなじこと。
いいかげん考え直しましょう。
80  だれ子ちゃん?  2001/12/03(Mon) 20:09
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81  だれ子ちゃん?  2001/12/03(Mon) 20:24
↑コイツ自分の糞とか食べてるヤツだから相手にするなよ。

で、シロッコは結局単なる荒らしってことでOK?
82  だれ子ちゃん?  2001/12/03(Mon) 21:37
81もウンコ食ってるんだろ?
駄スレや荒しにレスつけんなよ。
オレモナー
83  だれ子ちゃん?  2001/12/03(Mon) 22:15
>>80-81
えっと・・・
だれ子ちゃん@ピンキー?
84  カイジ  2001/12/04(Tue) 03:43
麻雀
85  だれ子ちゃん?  2001/12/04(Tue) 06:36
レスつけた奴アホ決定。
ア〜〜〜ホ
86  だれ子ちゃん?  2001/12/04(Tue) 13:10
sage
87  だれ子ちゃん?  2001/12/04(Tue) 13:11
sagesage
88  だれ子ちゃん?  2001/12/05(Wed) 19:41
ガンシャゲ厨逝って良し。
我が魂の叫び。
89  だれ子ちゃん?@憂国志士  2001/12/09(Sun) 15:15
☆☆スレッドを立てたい人は、まず初心者質問スレで相談を!☆☆

総合版のスレッド数も遂に100を超えました。
管理人不在の今、無闇なスレ乱立はこの掲示板自体の存続を
危うくする行為であることを、利用者の皆さんは肝に命じて下さい。

以上は一掲示板利用者としての個人的なお願いですが、多くの利用者が
皆それぞれ円滑に掲示板を利用できるよう、ご協力をよろしくお願いします。
[初心者質問スレ]
http://village.infoweb.ne.jp/~fwgc1419/g/readres.cgi?bo=pc&vi=997707607
90  だれ子ちゃん?  2001/12/17(Mon) 11:24
100万回氏んで100万回生きたギコがいました。

      _____∧∧  / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
   〜′ 100万回 (゚Д゚)< 俺様は100万回も逝ったぞゴルァ!!
    UU ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄UU  \________________


100万回万人の人(?)がそのギコをかわいがり、
100万人の人がそのギコが氏んだ時に泣きました。


      | うぐぅ    |
      |        |    ∧ ∧   ギコちゃん…氏んじゃった。
        ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄      (;∀;=j
    (  Λ_Λ          ⊂__ つ
    ⊂´⌒つ_ _)つ        / _ _ ゝ
                   (_(__)


ギコは1回も泣きませんでした。
なぜならギコは自分がだいすきだったからです。


      _____∧∧  / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
   〜′ 100万回 (゚Д゚)< 俺様サイコー!!
     UU ̄ ̄ ̄ ̄ ̄UU  \ 泣く奴は逝って良し
                \__________

91  だれ子ちゃん?  2001/12/17(Mon) 11:27
あるとき、ギコはだれのギコでもなくなりました。
なにしろりっぱなギコだったので、りっぱなノラギコになりました。
そんなノラギコに何ひきものメスギコがノラギコのおよめさんになりたがりました。
でもノラギコはだれよりも自分が好きだったので、だれのおむこさんにも
なりませんでした。



            |俺様は100万回逝ったんだ。      |
            |いまさらチャンチャラおかしいぞゴルァ |
             \                     /
                ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
   ∧ ∧            ∧∧
  (,,゚−゚)アイシテル        (゚Д゚)          ∧∧
  @uu)           (|100 |)        (゚∀゚,,) オヨメサンニシテー
                〜|万回|         (_)〜
                  ∪∪
   ∧ ∧                  ∧ ∧
   (  ,,)               スキ〜(゚−゚,,)
  /  | ドキガムネムネ             (uu@
 (___ノ
  ι

92  だれ子ちゃん?  2001/12/17(Mon) 11:29
そんな中、ノラギコに見向きもしない、1ぴきのメスギコがいました。


    ハニャーン♪
     ∧_∧____
    /(*゚ー゚)./\
  /| ̄∪∪ ̄|\/
   |____|/
   ,,,,∪∪,,, ,,

93  だれ子ちゃん?  2001/12/17(Mon) 11:31

      ______∧∧  / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    〜′  100万回 (゚Д゚)< 俺様は100万回も逝ったぞ!!ゴルァ
      UU ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄UU  \_________________


メスギコは

  |          |
  |  そう…    |
    \      /
      ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄
       ∧_∧____
     /(*゚ー゚)./\
    /| ̄∪∪ ̄|\/
      |____|/
     ,,,,∪∪,,, ,,


と言ったきりでした。

94  だれ子ちゃん?  2001/12/17(Mon) 11:33
ノラギコは少し腹を立てました。
なにしろ、自分が大好きでしたから。


            |俺様は100万回も逝ったんだ。  |
            |これがどういう事か解らないとは|
            |とんだ厨房だなゴルァ        |
             \              /
                ̄ ̄ ̄ ̄○ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
       ______∧∧   O
   〜′  100万回 (゚Д゚)  。
     UU ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄UU

95  だれ子ちゃん?  2001/12/17(Mon) 11:35
次の日も、次の日も、ノラギコはメスギコのところへ行って言いました。
               
   |  そう …   |
   \      /
     ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄
       ∧_∧____
      /(*゚ー゚)./\
    /| ̄∪∪ ̄|\/  |君はまだ1回も逝っていないんだろう? |
     |____|/     \                      /
      ,,,,∪∪,,, ,,         ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                     ∧∧_____
                    (゚Д゚) 100万回  ~〜
                     UU ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄UU


メスギコは「そう…」と言ったきりでした。

96  だれ子ちゃん?  2001/12/17(Mon) 11:37
そんなある日、ノラギコは

      ______∧∧  / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
   〜′  100万回 (゚Д゚)< 俺様は100万回も…
     UU ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄UU   \__________


と言いかけましたが

    |そばにいてもいいか?|
     \         /
        ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         ∧∧_____
        (゚Д゚) 100万回  ~〜
          UU ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄UU

とメスギコにたずねました。
メスギコは

   |       |
   |  ええ…  |
    \      /
      ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄
       ∧_∧____
     /(*゚ー゚)./\
    /| ̄∪∪ ̄|\/
      |____|/
      ,,,,∪∪,,, ,,

といいました。

97  だれ子ちゃん?  2001/12/17(Mon) 11:40
ノラギコはメスギコのそばにいつまでもいました。


     ∧_∧____    ∧ ∧
   /(*  )./\   (   )
  /| ̄ ̄ ̄ ̄;|\/  /100 |
   |____;|/ 〜(万回ノ
               ̄ ̄

その後、2ひきの間にはかわいい子ギコがたくさん生まれました。
ノラギコはもう「俺様は100万回も逝ったぞ!!ゴルァ」とは決して言いませんでした。


    ∧ ∧ イッテヨチ ∧ ∧ イッテヨチ  ∧ ∧ ハニャーン♪
   (,,・Д・)   (・Д・,,)    ( *゚−゚)
 〜(___ノ     (___ノ〜    @uu)


ノラギコは、メスギコと子ギコたちを、自分よりもすきになっていました。

98  だれ子ちゃん?  2001/12/17(Mon) 11:42
やがて子ギコたちもりっぱなギコ猫に成長して、どこかへ行きました。
メスギコはおばあさんになっていました。

             |こいつといつまでもいっしょに|
             |生きていたいぞゴルァ      |
             \             /
    ミテクレハカワラナイケド  ̄ ̄ ̄ ̄○ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    コレデモオバアチャンヨ      O
     ∧_∧____    ∧ ∧ 。
   /(*  )./\  (   )
  /| ̄ ̄ ̄ ̄;|\/  /100 |
   |____;|/ 〜(万回ノ
               ̄ ̄

ノラギコはメスギコといっしょに、いつまでも生きていたいと思いました。

99  だれ子ちゃん?  2001/12/17(Mon) 11:46
ある日、メスギコはノラギコの隣でしずかに、動かなくなっていました。
ノラギコは初めて泣きました。


           |しぃっ、しぃっ? |
          \ しぃぃぃぃぃぃ/
     ____  ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄
    /   ./\  ∧∧_____
   /| ̄ ̄ ̄:|\/ (;Д;) 100万回 ~〜
    |    |/    UU ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄UU
     ̄ ̄ ̄ ̄

夜になって、朝になって、また夜になって、朝になって、
ノラギコは100万回も泣きました。
朝になって、夜になって、ある日のお昼にノラギコは泣き止みました。

    ___
   /   ./\  ∧∧ __ _〜
  /| ̄ ̄ ̄ |\/⊂(- -)⊂ ⌒っっ
   |   :|/
     ̄ ̄ ̄ ̄

ノラギコはメスギコの隣で、しずかに動かなくなっていました。
ギコはもう、決して生き返りませんでした。

おわり

100  シロッコ  2001/12/17(Mon) 19:06
感動したっ!(涙

おつかれさん。

これからもsage進行でヨロシク
101  シロッコ  2001/12/19(Wed) 01:29
あ、ageちゃってたみたいだ。ゴメンネ、皆様
迷惑かけました。
102  だれ子ちゃん?  2001/12/21(Fri) 16:25
ええ話やなぁ〜(;д;)
103  だれ子ちゃん?  2002/01/09(Wed) 15:54
今から6年前の話です。
僕がまだ10代で、あまり携帯電話は普及してなくて
ポケベル全盛期の時代のことです。

僕はその頃高校を出て働いていたんですけど
2つ年上の女性と付き合っていました。
お互いの親にも会ったりして
僕は結婚する事を信じて疑いませんでした。

毎朝ポケベルに「オハヨウ」とか
「ガンバッテネ」みたいなメッセージのやりとりをしていたのですが、
ある日僕がメッセージを送るのがめんどくさくて送らない日があって、
彼女からもメッセージは送られてきませんでした。
ちょうどその日は給料日で
僕は今日は彼女にメシでもおごろうと
どこに行こうか考えていました。
仕事が1段落つき、昼休みに入り
食事に行こうとした時に僕宛の電話がなりました。
その電話は彼女の交通事故を告げる電話でした。
104  だれ子ちゃん?  2002/01/09(Wed) 15:55
僕はその電話を置いた後、
しばらく何のことかわからなかったんですが、
「今意識不明だ」という言葉に体中汗ばんだのを覚えています。
すぐに無理やり会社を早退し
彼女が運ばれた病院へ向かいました。
電車の中で「実はたいした事ないんちゃうかな?」
とか自分に都合のいい方にしか考えたくなかったんですが、
「もしかしたら・・」って考えると周りに人がいるのに
ボロボロと涙が出てきて、すごくさみしい気持ちが溢れてきました。
105  だれ子ちゃん?  2002/01/09(Wed) 15:55
僕が病院に着く頃には、意識が戻っている事を祈りながら
病院まで走っていきました。
彼女の家族に出会い、容態を聞いてみると
彼女は集中治療室に入っている、という事を聞いて
事態の深刻さを悟りました。
外傷はほとんどなく、脳にショックを受けたらしく
まだ意識は戻っていませんでした。

僕はとりあえず会社に彼女の意識が戻るまで休む事を
電話で伝えて病室の前で、意識が戻るのを待つ事にしました。

その日は病院のソファーで、ほとんど眠れずに夜を明かしました。
目の前のストーブで背中は寒かったのに
顔だけがすごく火照っていました。
106  だれ子ちゃん?  2002/01/09(Wed) 15:56
結局その日は意識が戻る事なく
次の日の朝1番で着替えなどを家にとりに帰りました。
病院に帰ってみると明日手術ができるかどうかが
わかるだろうという、医者からの話があったそうです。
そして5分だけ面会時間がもらえるとの事で、
僕は会いたいような会いたくないような、
複雑な気持ちでしたが、給食当番の時の様な服を着て
彼女に会いに部屋にはいりました。
部屋の中は訳のわからない機械がいっぱいで
その中のベッドの一つに彼女が寝ていました。
まるで眠っているだけの様な顔で
名前を呼べば今すぐにでも起き上がってきそうでした。
手を握ると腕のあたりに、点滴などの管が何本も刺されていて
容態の悪さを物語っているようでした。
それと唇が妙にカラカラになっているのが気になりました。
5分間をいうのは短いもので、
何か話しかけようとしたのですが、
なんとなく周りの目が恥ずかしくて
言葉らしい言葉をかけれませんでした。
107  だれ子ちゃん?  2002/01/09(Wed) 15:56
顔を見ると眠っているだけに見えるので、
その日は少し気分も落ち着いて
なぜか「絶対大丈夫!」という根拠のない自信でいっぱいでした。
それからは彼女の意識が戻ってからの事ばかり
考えるようになり、頭の手術するんやったら
髪の毛剃らなあかんから、帽子がいるし買いに行こう!
と看病の事を考えて買い物に行く事にしました。
この時僕は目を覚ました彼女を喜ばせる事だけを考えていました。
さっそく帽子を探しに行き、
キャップは似合わんし、ニット帽だとチクチクするから
という事で、綿で出来た帽子を探して買いました。
買い物が済んで、帰ろうとした時に
街中を歩く女の子を見てると、
なんか自分が現実から少しズレた場所にいるような気がして
妙な不安を感じました。
その不安からか、彼女の意識が戻ったら正式にプロポーズしようと
安物ですが指輪まで買って帰りました。

その日も結局容態に変化はなく過ぎていきました。
108  だれ子ちゃん?  2002/01/09(Wed) 15:57
次の日のお昼前、彼女の父親だけが医者に呼ばれて
病状の説明を受けるとの事だったのですが、
無理を言って僕も同席させてもらいました。
どうしても自分の耳で医者から聞きたかったんです。
多分あれほど緊張した事は今までになかったと思います。
医者の部屋に入って、医者の顔色を見てみると
どっちともとれない無表情な顔をしていました。
医者が口を開いて、簡単な挨拶が終った後喋り出したのですが、
病状はよくなるどころか病院に運ばれた時点で
すでに手遅れでした。
僕はこれを聞いて頭がグラグラして
椅子から落ちないようにする事しか考えれませんでした。
どうやら今治療をしている様に見えるのは、
家族に心の準備をさせる為に
無理やり心臓を動かして、体だけ生かして少しずつ
悪い方向へ持っていくというものでした。

僕は部屋を出て彼女の父親に、家族にはまだ言わないで欲しいと言われ
泣き出しそうなのをこらえて、母親に話かけられても
「用事が出来た」とだけ言い残して、誰もいない場所まで走りました。
街中であれだけ涙を流して大声で泣いたのは初めてでした。
109  だれ子ちゃん?  2002/01/09(Wed) 15:57
それからちょうど涙が枯れた頃、病院へ戻りできるだけ普通に振舞いました。
その夜、彼女の父親と銭湯へ出かけました。
二人ともほとんど無言で風呂に入り、
話す事といっても関係ないどうしようもない会話ばかりでした。
僕は彼女の父親にはどうしても聞いておきたい事がありました。
僕が彼女と結婚するって言ったら許してくれるかどうかでした。
今考えると絶対に聞くべきではない時に聞いたような気がします。
病院に戻る前に父親を呼び止めて
ストレートには聞けなかったのですが、
買ってきた指輪を彼女の指につけてもいいか?と聞きました。
彼は黙ってうなずくだけでした。
その夜は眠る事ができなくて、家族と顔をあわせると泣いてしまいそうで
外で一人で過ごしました。

次の日また5分だけ面会できるということだったので、
もう1度彼女の顔を見に行きました。
彼女の顔は相変わらず眠っているようで
もう目を覚まさない事がウソのようでした。
僕は彼女の左手にこっそりと指輪とつけました。
もう何の意味もないのはわかっていましたが、
少しでも彼女に近づきたいという気持ちでいっぱいでした。
みんなが部屋を出た後僕は忘れ物をしたそぶりをして
ベッドの側に戻り、彼女のカラカラの唇にキスをしました。
110  だれ子ちゃん?  2002/01/09(Wed) 15:58
それからしばらく経ち、彼女は一般病棟の個室に移ることになりました。
医者が言うにはもう長くないので
少しでも家族が長く一緒に入れるようにとの配慮だそうです。
僕は1日のほとんどをその部屋ですごすようになりました。
何もする事もなかったのですが、
話かけると声が届いてるような気がして
耳元で歌を歌ったり、話し掛けたりしていました。
そして夜が明けて昼すぎになると、医者と看護婦が入ってきて
みんなを呼んでくださいみたいになって、
みんなが見守る中、心拍数を表示しているピッピッってなる
機械に異変が見られるようになりました。
最後まで僕に片方の手を握らせてくれた
彼女の家族に感謝しています。
それから1時間ほど経った後、
そのまま静かに心臓が停止しました。
僕も含め部屋にいる人みんなの泣き声だけが聞こえてきて、
覚悟はしていたものの、本当にこうなった事が信じられなかったのですが、
医者の何時何分とかっていう声に現実に引き戻されました。

そして部屋にいる全員が驚く事が起こりました。
僕が握っていた彼女の手がものすごい力で
僕の手を握り返してきたのです。
僕は本当に驚いて多分変な声を出していたと思います。
しばらくして彼女の手からスーっと力が抜けていきました。
僕は涙はふっとんで、全員にその事を伝えました。
すると彼女の母親が
「きっと一生懸命看病してくれたからありがとうって言ってるんやで」
って言ってくれました。
冷静に考えると死後硬直だったのでしょうけども、
その彼女の母親の一言で僕は今まで道を間違わずにこれたと思います。

年上だった彼女は今では僕の方が年上です。

111  だれ子ちゃん?  2002/01/11(Fri) 17:29
感動age
たぶんコピペだろうけど
112  だれ子ちゃん?  2002/01/11(Fri) 17:47
スレの趣旨が激しく変わっている・・・

113  shot  2002/01/11(Fri) 18:20
(´-`).。oO(このスレを完全に忘れたころに長編の書き込みがあるのはなんでだろう?)
(´-`).。oO(もしもコピペなら、修正なしでただ単にコピペしているのはなんでだろう?)
114  だれ子ちゃん?  2002/01/11(Fri) 20:24
シロッコはどうした?
115  だれ子ちゃん?  2002/01/12(Sat) 18:44
シロッコは還ったよ。
116  だれ子ちゃん?  2002/01/13(Sun) 18:22
>>114
おなかグサリで死にましたw

117  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 15:10
はじめまして。
今日、このスレッドの存在を知りました。
今まで、誰にも言えずに心の中にしまってあったことを、
ここでなら吐き出してしまえると思って書き込みます。
スレッドの趣旨に合わないかもしれませんが、
自分の中で決着を付けたいだけですので、
お叱りを受けても仕方がないと思います。

何から書いたら良いのか分かりませんので、
小さい頃の事から順番に書きます。

118  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 15:13
物心付いたとき、わたしの家が特に変わっているとは意識しませんでした。
他の家の事をよく知らなかったからです。
意識したのは、自分が変な子だという事でした。

小学校に入っても、一人も友達が出来ません。
1週間ずっと学校で誰とも口を利かない事もありました。
内気だったのと、体が弱かったせいもありますけど、
一番大きな理由は、
わたしがみんなの話題に付いていけなかった事です。

テレビの話題とか、芸能界の話題とか、全く興味が湧きませんでした。
わたしが痩せていて体が弱いのが知られていたおかげで、
いじめられる事はありませんでしたが、
教室ではいつもひとりぼっちでした。

家に帰っても、お母さんはいつも留守でした。
両親ともに働いていたせいです。

その寂しさを紛らわすために、いつも本を読んでいました。
本と言っても、図書館の児童書と、少年漫画が半々でしたけど。
3つ年上のお兄ちゃんが毎週買ってくる少年ジャンプが本当に楽しみでした。
先に読ませてくれるわけではないので、
いつも月曜日に学校から帰ると、
ジャンプを読んでいるお兄ちゃんの足許に座り込んでじっと待っていました。

119  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 15:15
お兄ちゃんはわたしの憧れでした。
運動音痴のわたしと違って、スポーツ万能で、サッカー部に入っていました。
本の虫のわたしもテストの成績だけは良かったのですが、
お兄ちゃんは家で勉強している所を見た事がないのに上位の成績でした。
身内褒めで恥ずかしいのですが、
鼻筋が通っていて眉毛がきりっとしたハンサムで、
わたしのようなストレートの硬い髪の毛じゃなくて、
ふわふわしたくせっ毛を肩に届かないぐらいに伸ばしていました。

でも、ただスポーツが出来るとか、頭がいいとか、外見がかっこいいとかだけなら、
あんなに好きになる事はなかったでしょう。

今考えても可愛げのなかった、引きこもりがちの、暗いわたしに、
お兄ちゃんはとてもとても優しくしてくれました。
自分も遊びたい盛りなのに、
足手まといのわたしを、外に遊びに連れ出してくれました。
小学校時代にわたしが外で遊んだ記憶のほとんどは、
お兄ちゃんとの大切な思い出です。
ブラコンと言われても構いません。

恐がりで小学校3年生まで自転車に乗れなかったわたしに、
小学校の校庭で自転車の練習をさせた時は少し恨みましたけど。
暗くなるまで練習に付き合ってくれて、
転んで膝をすりむいたわたしがわんわん泣き出すと、
自転車の荷台に乗せて家に連れて帰って、
ぬるま湯で泥まみれの足を洗ってくれました。

120  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 15:15
友達の居ないわたしでも、
お兄ちゃんを好きになるのがおかしな事だとは分かっていました。
でも、そうならなければきっと、
中学に上がる前にわたしの心は寂しさで押しつぶされていたと思います。

家の中で味方はお兄ちゃんだけでした。
母親は、女にしておくのが勿体ないとよく言われる豪傑肌で、
家に居着く事がありませんでした。
後から、父親との仲が上手くいっていなかったせいだと分かって許しましたが、
お世辞にも母親らしい母親ではありませんでした。

父親は、もう父親とこうして書くのも嫌です。
あの男は、心が狭くて、お金にうるさくて、ずっと前の失敗でも覚えていて
ねちねち言ってくるような最低の人間でした。
身内の事をこんな風に悪く書くのはいけない事なのでしょうが、
あの男と同じ血が自分にも流れていると考えただけで寒気がします。

121  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 15:16
小学校4年生まで。
それがわたしにとって一番幸せな時期だったのかもしれません。
まだ世間の事も知らず、大人の事情も知らず、ただ本を読み、
お兄ちゃんと遊ぶだけで暮らして行けたのですから。

お兄ちゃんは中学校に上がるとますます格好良くなりました。
ギターを弾き、剣道部に入って腕が太く逞しくなりました。
わたしはお兄ちゃんと同じ小学校に通えなくなるのが残念でなりませんでしたが、
今思えば小さい子と遊ぶのが恥ずかしい年頃だっただろうに、
お兄ちゃんの優しさは少しも変わらず、
休みの日には校則で禁止されている喫茶店に連れて行ってくれて、
チョコレートパフェをおごってくれたり、
買い物に付き合ってくれたりしました。

喫茶店に初めて入った時は、
チョコレートパフェの美味しさにびっくりして、
たった10分で食べ尽くしてしまい、
「バカ、こういう所は場所代も料金の内なんだから、
 ゆっくり味わわないと駄目だろ」
と叱られましたが。

お兄ちゃんがわたしをあの家から連れ出してくれた時、
どういう気持ちだったのかはよく分かりません。
単に長男の義務として、
引っ込み思案のわたしを放っておけなかっただけかもしれません。

買い物に付き合ってくれたというのも、
お兄ちゃんに言わせれば、
「おまえのセンスは最悪だからな、放っておくと何選ぶかわからん」
ということでしたし。
実際、わたしのファッションセンスは我ながら最悪で、
色のコーディネートというものが上手くできないのです。
お兄ちゃんは、いつもとてもシックで垢抜けた格好をしていました。

今こうして思い出すだけで、心の中があたたかくなります。
でも、わたしのささやかな幸福は、そう長くは続きませんでした。

122  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 15:17
わたしは、たぶん学校で一番の本の虫だったので、
テストの問題はいつも簡単でした。
小学校のテストの点数なんて、
実際には何の役にも立たないものですが、
その頃のわたしにとってはたった一つの自慢でした。

わたしは手先が不器用で、
リンゴの皮を剥くと実の方が少なくなってしまう程でした。
そのせいか、お兄ちゃんはわたしには料理をさせず、
その代わり掃除と洗濯がわたしの役目でした。
わたしは潔癖性で几帳面だったので、
二倍時間が掛かっても綺麗にするのが好きでした。

両親の帰りが遅い日には、
いつもお兄ちゃんが晩ご飯を作ってくれました。
お兄ちゃんも部活で疲れているのに、
買い物をして帰ってきて、
料理の下手な味音痴のお母さんが作るより、
お店で食べるのより美味しいおかずを作ってくれました。
濃い味付けのものが食べられないわたしの舌に
合わせてくれたから美味しかったのだと思います。

123  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 15:18
5年生になって間もない頃、
社会と国語のテストが返ってきた日の事です。
毎週小さな書き取りのテストはありましたが、
一度に二つのテストが返ってくるのは希でした。
どちらも百点満点でした。

百点を取るのはわたしには当たり前の事で、
百点でないのが20回に1回ぐらいでしたから、
それ自体は特に嬉しくもありませんでした。

一つ問題を間違えて98点だった時に、
悔しくて教室で泣いてしまった事はありましたが、
それは間違えたのが悔しかったのではありません。
お兄ちゃんに見せられないから涙がこぼれたのです。

わたしが百点の答案用紙を見せると、
お兄ちゃんは決まってわたしの頭に手を乗せ、
前髪からうなじまでわしゃわしゃしながら、
「よし、よくやった」とか
「○○は頭がいいな」とか言ってくれました。

124  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 15:18
その日、わたしは2枚の答案用紙を持って、
自宅まで出来る限り急いで歩きました。
走っても、急いで歩くのとあまり変わらなくて、
そのうえ息が切れてしまうので、結局歩いた方が早いのです。

お兄ちゃんの方が遅く帰ってくるのが当たり前でしたが、
帰ってきたらすぐにテストを見せようと心が躍っていました。

自宅に着くと、既に玄関にお兄ちゃんの靴がありました。
お兄ちゃんが早く帰って来てる!
と思ったわたしは、お兄ちゃんの部屋に飛び込みました。
いつもならドアを開ける前に声を掛けるのに、
その時は「お兄ちゃん」と声を上げるのと、
中に入るのが同時でした。

ベッドの上で胡座をかいているお兄ちゃんに駆け寄ろうとして、
わたしはそのまま固まってしまいました。

125  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 15:19
お兄ちゃんは、下半身裸でした。
枕の上には、裸の女の人の写真が載った本が持たせかけてありました。
右手に、細めの消臭スプレー(8×4)のような物を握っていました。

お兄ちゃんは口を開けてぽかんとしていました。
股のあいだに、お風呂で見たのと全然違う
大きさのものが立ち上がっていました。

わたしが「あ、あ、あ」と訳の解らない事を言うと、
お兄ちゃんは我に返ったのか、
掛け布団で下半身をあわてて隠し、
もの凄い形相で怒鳴りつけてきました。

何を言われたのか聞き取れませんでしたが、
いつものあたたかくてよく通る優しい声とは
別人のような剣幕だったので、
わたしはとっさに「殴られる」と思いました。

恐ろしくて体が硬直してしまったので、
逃げる事も出来ませんでした。
わたしはその頃、恐がりの上に泣き虫で、
学校でクラスメイトにからかわれたりすると、
わんわん泣く事が多かったのですが、
この時は声が出ないのに、
涙だけ勝手にどんどん溢れてきました。

すると、お兄ちゃんは急に意気消沈して、
顔が優しくなり、
「泣くなよ……」
と小さな声で呟きました。

126  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 15:19
お兄ちゃんはそのまま黙り込んでしまい、
わたしはそのまま突っ立っていました。
永遠のようでしたが、たぶん実際には数分だったと思います。
思い返すと、たぶんお兄ちゃんは、
わたしが落ち着くのを待っていたのでしょう。

わたしは興奮のあまり、
しばらくはあはあと荒い息をついていましたが、
ハンカチで涙を拭くと、
部屋がぐるぐる回るような眩暈が収まってきました。

視界が晴れたわたしの目に入ったのは、
見たこともないほど小さく縮こまった、
お兄ちゃんの目を伏せた姿でした。
いつも頼もしかったお兄ちゃんがわたしに見せた、
初めての気弱そうな表情です。

それを見てしまうと、
なんだストンと気持ちが静かになりました。
思えばわたしがお兄ちゃんに対して、
精神的に優位に立ったのは、
たぶんこれが初めてです。

横に放り出した丸い筒が目に付きました。丸い筒には見覚えがありました。
肩凝り性のお母さんが無くしたと言って
探していた、婦人用のマッサージャーです。
肩のツボに振動する先端を押しつけて、
凝りをほぐすというアレです。

わたしはお兄ちゃんに尋ねました。
「それで、なに……、してたの?」

127  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 15:20
お兄ちゃんはぶるっと震えて、
まだ押し黙っています。

「教えてくれないなら、
 お母さんに、お兄ちゃんがそれで変な事してた
 って言うよ」

なんでその時そんな事を口に出来たのか、
自分でもよく解りません。
気が動転した時のショックが抜けて、
一時的に精神的優位に立ったと、
舞い上がっていたせいかもしれません。

お兄ちゃんをじっと見ると、
お兄ちゃんは口をあわあわ動かした後、
とても言いにくそうにこう言いました。
「それを……、あそこに当てて……」
最後の方は声が小さくて聞こえませんでした。

「どうして、そんなことするの?」
と聞くと、
「気持ち、よくなるんだ」
と答えました。

その頃のわたしは、毎日欠かさず新聞を読んで、
お兄ちゃん程ではなくても、
自分ではかなり大人のつもりでいました。
けれど、一つ決定的に欠けていたのが、性の知識でした。

学校で、女の子の仲良しグループから疎外されていたせいかもしれません。
性教育の授業で男女間のセックスを教えられたのは、
5年生の半ばでした。
当時のわたしはオナニーという言葉さえ
知らなかったのですから笑ってしまいます。

お兄ちゃんはわたしに頼みました。
「お母さんには、黙っててくれ」
普段のわたしなら、
お兄ちゃんにわざわざ懇願されなくても、
たとえ一方的な命令でも唯々諾々と従ったでしょう。
しかし、この時のわたしは、
いつものわたしではありませんでした。

128  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 15:21
わたしはずいぶんと大胆な事を口にしました。

「秘密にする。
 その代わり、わたしにも貸して」

お兄ちゃんは、何とも言えない変な顔をしました。
わたしの出した交換条件が、
あまりにも突拍子もなかったからでしょう。

「わたしも同じ事すれば、
 お兄ちゃんと同じ。
 二人だけの秘密……」

わたしは、お兄ちゃんと共有する「秘密」という言葉に
魅せられていました。
誰も知らないお兄ちゃんを、
独占できるような気がしたのです。

お兄ちゃんは、身動きしませんでした。
目をおかしいぐらいきょろきょろさせて、
わたしが右手を差し出すと、
ロボットみたいなぎこちない動きで、
マッサージャーを手のひらに載せてくれました。

わたしは、くるりと回れ右して、
足許に落ちていたテスト用紙を拾い上げ、
結局それをお兄ちゃんに見せる事なく、
部屋を出ていきました。

129  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 15:23
自分の部屋に戻ると、
カクンと腰の力が抜けてしまって、
ベッドの前で座り込んでしまいました。
気が付くと、体中が汗でびっしょりでした。

お風呂に全自動給湯器でお湯を溜めて、
一人で先に入浴しました。
一番風呂だとお湯が肌にピリピリするので、
いつもはお兄ちゃんが最初に入るのですが、
この日は特別でした。

お湯に肩まで浸かってお湯の刺激を受けていると、
さっきの事が脳裏に蘇りました。
お兄ちゃんのあそこは、
先っぽだけピンク色で、
なんだかそこだけお兄ちゃんの体から独立した、
宇宙から来た謎の生物のようでした。

洗い場で頭からシャワーを浴びます。
と言っても、まるで色っぽさとは縁がありません。
今から思うと死にたくなるほどお子様でした。
当時のわたしは、頭を洗うとき、
シャンプーやリンスが目に沁みないように、
シャンプーハットを被っていたのです。

それでも、4年生の頃と違って、
お兄ちゃんに頭を洗ってもらわないで、
自分一人で洗えるようになっただけ、
おおいに大人になったつもりでした。

わたしがシャンプーハットを捨て、
そして人前で決して泣かなくなったのは、
色々な事が次々と起こった5年生という1年間が
終わる頃でした。

130  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 15:23
部屋に戻ったわたしは、パジャマに着替え、
タオルで髪を乾かしました。
その頃はいわゆるおかっぱ頭だったので、
乾かすのはとても簡単でしたが、
放っておくと硬くて太い髪の毛が撥ねてしまいます。
お兄ちゃんの少し栗色で自然に波打った癖毛とは大違いです。

同級生には既にブラジャーを着けている子もいましたが、
わたしは同級生より発育が遅く、
胸はほとんど膨らんでいませんでした。

肌が弱くて日に当たらないせいと生まれつきで、
肌の色は真っ白でした。
この病的な青白さも、
お兄ちゃんの日に焼けた肌と比べて劣等感の種でした。

目も奥二重の少し目尻が上がったきつい感じで、
お兄ちゃんの二重で少し垂れ気味の優しい目とは大違いです。
なんでお兄ちゃんみたいに産んでくれなかったのか、
とお母さんを密かに恨んだ事もありました。

お正月なんかで親戚が家に来ると、
よく「日本人形のようだ」と褒められましたが、
あれはきっとお世辞だったのでしょう。
実際は、細身のコケシ人形の方が似ていたと思います。

131  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 15:24
髪を整え終わって、
枕の下に入れておいたマッサージャーを取り出しました。
細長い形を見て、またお兄ちゃんのあそこを連想しました。

匂いをかいでみると、
お兄ちゃんがいつも髪に付けている整髪料の香りではなく、
なんだか生臭いような変な匂いが微かにしました。

お兄ちゃんがしていた体勢を真似て、
ベッドの上で胡座をかき、
あそこに当ててみました。
スイッチを入れていないので何も起こりません。

目の前に持ってきて、スイッチを「弱」に合わせると、
プーンという蚊の鳴くような音がして、
先端を中心に小刻みに震えました。

もう一度そうっとあそこに当ててみると、
くすぐったいような、足が痺れた時のような、
不思議な感覚がして、それから段々と、
おしっこが近くなったような感じがしてきました。

どれぐらいのあいだそうしていたのか、
よく分かりません。
おしっこを漏らしてしまったような気がして、
あわててマッサージャーを遠ざけました。

ショーツの中に手を入れてみると、
あそこからおしっことは違うぬるぬるしたものが、
少し漏れていました。

ショーツを脱いで見ると、小さく染みになっていました。
いつの間にかお尻にも汗をかいていたので、
気持ち悪くてまたお風呂に入りたくなりましたが、
さっき入ったばかりなのに変に思われると困るので、
我慢して湿ったタオルで拭いて、
新しいショーツに穿き替えました。

132  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 15:25
初めて経験した未知の感覚にぼうっとしていると、
お母さんが早く帰ってきて夕食になりました。
お通夜のような夕食でした。
家ではいつも、食事の時にテレビを見ません。
それが当たり前だと思っていました。

わたしは元々、テレビは教育チャンネルしか見ない、
変わった子だったので平気でした。
そのせいでますます、
学校で周りと話が出来なくなったのかもしれませんが。

いつもなら、お兄ちゃんがわたしに話しかけてきて、
学校での話をしたり冗談を言って笑わせたりするのですが、
その場では一言も口にしようとしてくれません。

普通なら様子がおかしいと心配するはずですが、
お母さんは黙々と食べるだけで何も言いません。
この頃、お母さんはわたしたちの事に無関心でした。

わたしは、お兄ちゃんに、
「今日、社会と国語のテストで満点だったんだよ」
と言いました。
お母さんは、
「○○は勉強しか出来ないからね」
と言い、
お兄ちゃんは、小さくわたしに頷きかけただけでした。

133  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 15:26
この日からマッサージャーは、
わたしとお兄ちゃんとの二人の秘密の玩具になりました。
今思うと、お兄ちゃんはずいぶんマニアックな
やり方でオナニーをしていたのだなと可笑しくなります。

わたしがマッサージャーを使うのは、月に2回ぐらいでした。
あまり頻繁に使うと、なんだか怖いような気がしたからです。
お兄ちゃんより早く帰って来た時に使って、
後でお兄ちゃんの枕の下に返しておくのです。

お兄ちゃんがどれぐらいの頻度でオナニーをしていたのかは、
わたしにはよく分かりません。
二人のあいだでは、
あの日の事をお互いに決して口にしないのが、
暗黙のルールになっていました。

わたしは愚かにも、こう信じていました。
マッサージャーを使った遊びを発明したのはお兄ちゃんで、
こんな気持ちの良い遊びを知っているのは、
世界でもわたしたち二人だけだと。

それが全くの勘違いである事に気付いたのは、
5年生の半ば過ぎです。
教室に男の子が居ないと遠慮のない大声でおしゃべりする、
エッチな話が好きなクラスメイトの話を聞いてしまったのです。
オナニーという言葉を初めて知って、
わたしは茫然自失としましたが、
教室ではいつも無口だったせいで気付かれなかったと思います。

好きな人の事を考えながらあそこを慰めるのがオナニーなのに、
わたしがしていたのはただ玩具を使っていただけでした。
わたしが本当のオナニーを始めたのは、その日からです。

134  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 15:27
夏が来ました。
でも、夏休みになっても、別に心は弾みませんでした。
体力のないわたしは、日中にあまり出歩けません。
帽子を被っていても、炎天下を遠くまで歩くと、
すぐに首や二の腕が真っ赤になり、日射病に罹ってしまいます。

それに第一、夏休みと言っても、剣道部の部活があるので、
お兄ちゃんは毎日ずっと登校していました。
朝に弱いわたしが遅く起きてくると、
早朝お兄ちゃんが庭でやっている竹刀の素振りが終わった頃で、
慌ただしく朝食を一緒にとって、すぐに居なくなってしまいます。

わたしはお兄ちゃんを見送ってから、近くの市立図書館に行って、
エアコンの効いた環境で、夏休みの宿題をしたり、好きな本を読んだりし、
お小遣いに余裕があれば、本屋に寄って帰るのが日課でした。

そう言えばわたしは、家族旅行というものをした事がありません。
両親ともに家庭を顧みない人でしたし、
わたし自身が乗り物酔いする質で、
遠出すると電車でも船でもバスでも吐き通しになってしまうからです。

そんなある日、お兄ちゃんが海水浴に行こうと誘って来ました。

135  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 15:27
「○○、今度のお盆に海に泳ぎに行こう」

お盆休みだけは、剣道の部活もお休みなのです。

「…………」

わたしはすぐには返事できませんでした。
他の人から誘われたのだったら、即座に断っていたでしょう。

わたしは5年生になっても、まだ全く泳げませんでした。
プール授業の時は、ほとんど日陰で見学していたからです。
泳げなくて、直射日光の照りつける浜辺で遊ぶ事もできなければ、
何のために海水浴に行くのかさっぱり解りません。

「わたし、泳げないし。
 スクール水着しか持ってない」

わたしが泳げないのを知っているはずのお兄ちゃんが、
なんでわたしを海に誘うのか不思議でした。

「じゃあ、土曜日に一緒に買いに行こう。
 俺も新しい水着買うつもりだし。
 お母さんに言ってお金貰っておくよ」

お兄ちゃんは、やけに強引でした。

「どうしても、海でないと駄目?」

136  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 15:28
内心は、遊園地という所に一度行ってみたかったのです。
が、わたしは人に何かをねだった経験が一度もありませんでした。

「うーん…………」

お兄ちゃんは、困ったような顔をして口を濁しました。
わたしは心の中で首をひねりながらも、
自分がきっと、誘いを断れないと知っていました。

そして土曜日。お兄ちゃんと連れ立ってお出掛けの日。
わたしも自転車に乗れるようにはなっていましたが、
駅前商店街まではかなり距離があったのと、
交通量の多い駅前でわたしの運転ではふらついて危ないという事で、
お兄ちゃんの自転車の荷台にクッションを敷いて、二人乗りです。

甘えるのが苦手だったわたしが、
お兄ちゃんと一緒にお風呂に入らなくなってから、
お兄ちゃんの体に触れるのはずいぶん久しぶりでした。

お兄ちゃんは服を着るとほっそりして見えましたが、
後ろからお兄ちゃんの腰に腕を回すと、
背中にもお腹にも堅い筋肉が付いているのがポロシャツ越しに判って、
まるで樫の木に抱きついているようでした。
二の腕も太くて、試しに握ってみてもわたしの力では凹みません。

大通りに出て、スピードが上がりました。
わたしがペダルをこぐのとは段違いの速さでしたが、
自転車は少しもふらつく事がなく、
お兄ちゃんの腰にしがみついている限り、
何の不安もありませんでした。

137  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 15:28
駅前の駐輪場に自転車を預けて、デパートに向かいました。
デパートの近くの歩道は、人波で溢れています。
先に立って人波を切り開いて行くお兄ちゃんの後を、
背中を見失わないように付いていきます。
わたしの前に道が出来ていく様子を見ていると、
なんだかお兄ちゃんが除雪車になったようで可笑しかったのを覚えています。
デパートの店内は、冷房が効きすぎていて寒いぐらいでした。
わたしとはぐれないように、お兄ちゃんが手を握ってきました。
わたしの手を引いて、お兄ちゃんは迷わずエスカレーターに向かいます。

今朝は遅く起きて朝ご飯を食べていなかったので、少し早い昼食です。
最上階のレストランで、オムライスとミニグラタンのセットを二人前。
わたしは一人前を食べきれないので、外食の時いつもそうするように、
オムライスを真ん中で割ってその半分をお兄ちゃんに食べてもらいます。
オムライスは中のチキンライスのケチャップが利きすぎていましたが、
お兄ちゃんが作ったものではないので我慢するしかありません。

食事が終わって、男性用水着を売っているフロアーに移動しました。
お兄ちゃんは店の入り口でわたしの手を放し、
「ここでちょっと待ってて。すぐだから」
と言って中に入って行きました。

わたしが見ていると、お兄ちゃんは大股にワゴンに近づいて行って、
何枚かひっくり返した後、紺地に黄色いラインの競泳用水着を手に取り、
レジに並びました。この間わずか1分ぐらいしか経っていません。
お兄ちゃんが小さな包みをリーバイスの尻ポケットに仕舞って出てくると、
わたしは尋ねました。

138  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 15:29
「お兄ちゃん、前にもここに来た?」
「ん、なんで?」

お兄ちゃんには質問の意味が分かっていないようでした。
初めての店で、あれだけ色とりどりの中から迷わず一品を選べるのが驚異でした。

「どうしたら、あんなに早く選べるの?」
「ん? 海パンなんて大して種類ないからさ、
 粋がってビキニとか派手な柄の穿いてたら馬鹿みたいだろ。
 穿いてて学校の海パンと間違われるようなんでなけりゃいいんだ」

わたしはまだ納得がいきませんでしたが、とりあえず頷いて、
子供用水着の売場に移動しました。

お兄ちゃんは入り口の近くで立ち止まって、
「お兄ちゃんここで待ってるからさ。
 時間気にしないでゆっくり選んでいいぞ?
 決まったらレジに呼んでくれたらいいから」
と言い、腕組みして背中を向けてしまいました。

中を見ると、女性店員が奥でこっちを見てにこにこしています。
わたしは店員という人種が嫌いでした。
顔見知りでもないのに遠慮なく話しかけてきて、返事を強要するからです。

店員からできるだけ離れたワゴンの前に立ちましたが、
圧倒的に彩り豊かな品々を見て立ち竦んでいると、
やっぱり店員が後ろから忍び寄って来て、話しかけてきました。
立て板に水の要領で次々と商品を薦め、イエスノーを強要します。

似合っているかどうか見当も付かないわたしが、
困り切って無言で外のお兄ちゃんの背中をちらちらと窺っていると、
店員はそれに気付いたのか、外に出てお兄ちゃんを連れてきました。

お兄ちゃんは「どうした?」と居心地悪そうに顔をしかめていましたが、
わたしが「どれがいいと思う?」と我ながら哀れっぽく聞こえる声を出すと、
真剣な目になってワゴンやマネキンをゆっくり眺め始めました。

139  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 15:31
わたしがしばらく息を呑んで見守っていると、
おにいちゃんは「あれがいい」と言って、ライトグリーンの生地に、
大きな向日葵の花を幾つもプリントしたワンピースの水着を指さしました。
胸元に、フリルが控え目にあしらってあります。
わたしは、いつもお兄ちゃんが選ぶシックな服と違う派手さに仰天しました。

「……派手じゃない?」
「ん、着てみれば分かる」

そう言えば、お兄ちゃんは返事をする時まず「ん」と言う癖がありました。
お兄ちゃんは店員にサイズを告げてその水着を持って来させました。
店員はわたしを試着室に連れて行き、頼みもしないのに着替えを手伝って、
「よくお似合いですよ」と欠片も本当らしく聞こえないお世辞を言います。
着てみても分からなかったわたしは、まだ半信半疑でした。

わたしはカーテンの隙間から顔を出して、お兄ちゃんを呼びました。

「本当に、変じゃない?」

140  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 15:31
お兄ちゃんは店員と入れ替わりに試着室に入ってきて、
わたしの全身を何度も視線を往復させて眺めた後、真面目な顔で断言しました。

「○○は色が白いから、水着ははっきりした色の方がいい。
 それにおまえは小さくて細いから、明るい柄のが映える。
 絶対似合ってる」

その時のわたしにお兄ちゃんの言う推論の真偽は判りませんでしたが、
強い口調で保証して貰ったせいで不安が無くなりました。
今思うと、当時のわたしにとってお兄ちゃんの言葉は絶対でした。
もしかすると、お兄ちゃんも女性の水着の趣味には自信が無かったのに、
わたしを安心させるために、あえて断言したのかもしれないと思います。

この後、デパートの書籍売場に行って文庫本を自分のお小遣いで買い、
帰り道に、いつもお兄ちゃんと行きつけの喫茶店に寄りました。

ここでは必ずチョコレートパフェを注文するので、わたしでも迷いません。
余所のチョコレートパフェは底にコーンフレークが入っている偽物ですが、
ここのは底までチョコレートシロップとフルーツが詰まっていました。

お兄ちゃんは決まって、マンデリンというコーヒーをブラックで飲みます。
この時ではありませんが、わたしがじっと見ていたら、
一口飲ませてくれた事がありました。
わたしが苦さに顔を思い切りしかめると、お兄ちゃんは大笑いして、
「もっと大きくなったら美味しくなる」と言いました。
それは本当でした。

こうして、5年生の夏で一番輝いた一日が暮れて行きました。

141  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 15:32
海水浴の日。
早く起きると、外は海水浴日和の良いお天気でした。
曇ってくるかもしれないと期待して荷物に入れておいた、
浮き輪が無駄になるかもしれないと思いながら、
お兄ちゃんと一緒に駅に向かいます。

券売機の所まで来ると、そこで見た事の無い人たちが待っていました。
いつもお兄ちゃんと出かける時は二人きりだったので、
わたしが驚いて立ち竦んでいると、
お兄ちゃんはわたしの背中を押してその前に立たせ、言いました。

「これが俺の妹の○○。
 俺に似て賢くて真面目だけど恐がりだからな、イジめんなよ?」

いつもはわたしと同じぐらいゆっくりと、静かに話すおにいちゃんの口調が、
早口で楽しげに高くなっていました。見ると、顔が笑っています。

正面に立っていたスポーツ刈りの男の人が、
お兄ちゃんに向かってパンチを繰り出す振りをし、こう言いました。

「そんな訳ないだろ。お前と一緒にすんなよ!」

怒ったような事を口にしても、顔中がにこにこしていました。
お兄ちゃんより少し背が低く、肩ががっちりしています。
目や口や鼻一つ一つが少し大きくて丸く、愛嬌のあるクマのようでした。

お兄ちゃんがわたしに男の人の名前を告げ、
彼が、お兄ちゃんの冗談の中で学校一おかしな事をするという、
部活仲間のAさんだと分かりました。

142  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 15:33
わたしは、親戚の人に初めて紹介された時のように、帽子を取って、
「はじめまして。○○と申します。よろしくお願いします」
とお辞儀しました。

Aさんはわたしには返事をせずに、お兄ちゃんに向かって腕を振り、
「お前と全然似てねぇな! どっかでさらって来たんじゃないのか?」
と冗談を言いました。
喋るたびに腕を振るので、近づくと撥ね飛ばされそうでした。

「馬鹿か! そんな訳あるか!
 ○○、コイツの話を真に受けたら駄目だぞ。
 それとな。コイツらは兄ちゃんの友達だからな。
 別に緊張して礼儀正しくしなくっていいんだ」

お兄ちゃんはなんだか怒っているようでした。
わたしは「うん」と頷きましたが、正直どうしていいのか分かりませんでした。

おじさんおばさんへの挨拶のやり方は覚えていましたが、
緊張しないで気安くしゃべれる相手は、お兄ちゃんだけでした。
それにわたしには同年代の友達が居ないので、
本で覚えた堅苦しい言い回ししか知りません。

Aさんの言った事は、わたしにもすぐに冗談だと分かりました。
わたしとお兄ちゃんはあまり似ていませんが、
お兄ちゃんとお母さん、わたしと父親は顔立ちが似ていたからです。
お兄ちゃんとわたしが血を分けた兄妹である事は確かでした。

その時、Aさんの後ろにいた女の人が、前に出てきてお兄ちゃんに言いました。

「わたしたちの事は無視?
 紹介してくれんじゃなかったの?」

143  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 15:35
髪の毛を男の人のように短くした、目が大きくて溌剌とした感じの人でした。
その人はお兄ちゃんの返事を待たず、わたしに言いました。

「わたしBって言うの。よろしくね」

わたしはどう挨拶を返したらいいのか分からず、ただ「はい」と答えました。
お兄ちゃんが、Bさんは剣道部の数少ない女子部員の一人だと教えてくれました。
すると、もう一人の女の人も前に出てきて、

「わたしはC。部員じゃないけどBとは前から友達なの。
 お兄ちゃんとはあんまり話したことなかったけど、同級生。
 仲良くしてね」

と言葉を掛けてきました。

Cさんの口から出た「お兄ちゃん」という言葉は、なんだか耳慣れない響きがして、
違う人の事を言っているように聞こえました。
Cさんは真っ直ぐで綺麗な髪を肩より長く伸ばし、二重瞼が印象的でした。
お化粧していたわけでもないのに、わたしの目には、とても大人っぽく見えました。

144  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 15:36
その後、海に向かう列車に乗り、目的地に着くまでのあいだ、
自分がどんな受け答えをしたのか、よく思い出せません。
列車の中で、お兄ちゃんが作った弁当を食べましたが、何を食べたのかさえも。

思えばこの時、わたしはただ機械的に体を動かしていただけだったのでしょう。
わたしにとって、お兄ちゃんの存在は世界のほとんどを占めていましたが、
お兄ちゃんにとって、わたしは世界のほんの一部に過ぎませんでした。

考えてみれば至極当然の事で、その時まで気付かない方がどうかしています。
お兄ちゃんがわたしと顔を合わせている時間より、
お兄ちゃんが学校で友達と過ごす時間の方が長いのですから。
しかしわたしにしてみれば、それはお兄ちゃんと二人きりだと思っていた家に、
知らないあいだに知らない人が大勢住んでいると突然気付いたようなショックでした。

目的地に着いてホームに降りた時、お兄ちゃんが聞いてきました。
「酔ったか?」
わたしは黙って頭を振りました。実際少しも酔っていませんでした。
乗り物酔いを感じないほど魂が抜けていたのだろうと思います。

145  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 15:37
もうお昼前でした。
日射しがきつく、駅からの道のりは、かなり時間が掛かりました。
わたしが遅れがちだったので、先行するAさんとBさんに、
お兄ちゃんがゆっくり歩くようにと声を掛けました。

お兄ちゃんとCさんが、学校での事をぽつりぽつり話していましたが、
わたしの知らない話題ばかりだったので、
お兄ちゃんが時々声を掛けてきた時の他は、地面ばかり見ていました。
ずいぶんと歩いて、帽子が熱くなった頃、潮風の香りがしてきました。

思い描いていた海水浴場のイメージとは、全然違っていました。
海水浴場と言うよりは、むしろただの小さな入り江でした。
砂浜は幅が狭く、両側にごつごつした岩場がありました。
人影も数える程しか見えません。
海の家もなく、あるのは水道栓とぼろぼろの小屋だけです。

BさんがAさんに何か文句を言っていましたが、
わたしは人混みが無くて良かったと、ぼんやり思っていました。

お兄ちゃんは、わたしに水着とバスタオルの入った袋を手渡し、
Aさんと一緒に雑木林の方に行ってしまいました。
BさんとCさんが、わたしを小屋に連れていきます。

Bさんの水着は、細いラインで縁取った紺色の競泳用で、
Cさんのは、鮮やかなオレンジ色のワンピースでした。
わたしが二人の、同級生よりずっと立派な胸に見とれている内に、
二人とも手慣れている風に、たちまち着替えを済ませました。

「○○ちゃん、着替えないの?」

Bさんの陽気な声が聞こえました。
格子窓から差し込む日射しを見て、このままでいようかと迷いましたが、
お兄ちゃんに選んで貰った水着を、着てみたい気持ちが勝ちました。

146  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 15:38
わたしが小屋の隅に行って背中を向け、もぞもぞと服を脱ぐと、
いきなりBさんが大声を上げました。

「ほっそーい! しっろーい!」

気にしている事を二つも言われて、思わず向き直ってしまいました。

「うらやましー。アタシなんて、こんななのに。
 ○○ちゃん、ちょっとお腹のお肉交換してよ」

Bさんが自分の脇腹の肉を摘んで見せ、
それから両手をわきわきさせながら近づいて来ました。
わたしは、この人は絶対おかしい、と怖くなり、逃げようとしましたが、
どこにも逃げ場がありません。

わたしが壁に背中をぴったり押しつけて身を縮めると、
Cさんが声を上げました。

「なにやってんの、もう!
 ○○ちゃん怖がってんじゃない。
 あんまりいじめてると、こわ〜い『お兄ちゃん』が仕返しに来るよ」

Bさんは立ち止まり、ごめんごめん本気じゃなかったと謝りましたが、
いつしかわたしはCさんを睨み付け、胸で大きく息をしていました。
「お兄ちゃん」という言葉を耳にする度に、
なんだか胸の中に黒いもやもやが溜まっていくようでした。

Cさんはわたしを見て微笑み、言いました。
「ごめんなさい。お兄ちゃんのこと馬鹿にしたんじゃないの。
 ××(お兄ちゃんの苗字)クン優しいから、
 ちょっと意地悪したくなっちゃって」

Bさんも口を揃えました。
「そうそう。男子はだいたい馬鹿だけどさ。
 ××やっさしーもんね。一番マシだよ、ホント」

147  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 15:39
お兄ちゃんを褒められて誇らしいはずなのに、心は浮き立ちませんでした。
お兄ちゃんは優しいに決まっているのですが、
その優しさが他にも向けられている事実に心が付いていかなかったのでしょう。

わたしが表情をなくしていると、Bさんが今度は普通に歩み寄ってきて、
「着替えるの手伝ってあげる」と言いました。
わたしが水着に足と手を通し、背中を向け、ファスナーが一番上まで行くと、
またしても大音声が降ってきて、思わず跳び上がってしまいました。

「なによこれ!? 真っ赤じゃない!」

来る道々、俯いて歩いていたせいか、うなじが赤く腫れていたのです。

わたしが自分の皮膚の弱さを説明すると、二人とも顔色が変わりました。
「バッカじゃない? こんな日に海に連れ出すなんて、何考えてんのアイツ。
 シメてやんなきゃ!」
「信じらんない!」
わたしは二人を落ち着かせようとしましたが、納得させる言葉が見つかりません。

その時、遠くから、お兄ちゃんの声がしました。
「ま〜だか〜?」

Bさんが扉を開けて外に出て行きます。わたしはその後を追い掛けました。
恐ろしい事が起こるような気がして、お兄ちゃんに詰め寄るBさんに取り縋ります。
しかし、勢いの付いたBさんに引きずられて足をもつれさせてしまい、
わたしは地面に転がってしまいました。

Bさんはハッとして立ち止まりましたが、今度はお兄ちゃんが怒り出しました。
わたしを助け起こしながら、Bさんに怒鳴りつけようとします。
わたしは「お兄ちゃんやめて!」と大きな声を上げました。

148  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 15:41
Cさんが来て、厳しい声で言いました。

「どういうことなのか、教えてくれる?
 ○○ちゃん、もう首が真っ赤よ。
 どうしてあの子を連れてきたの?」

お兄ちゃんは、見るのが辛いほどしょんぼりしながら、右手を挙げました。
手首から、見たことのない巾着袋が下がっていました。
お兄ちゃんは中から綺麗な瓶を2本取り出して、こう言いました。

「こっちに着いてからこれを塗るつもりだったんだ。
 駅から浜までこんなに遠いとは思わなかった。
 ごめんな、○○」

瓶は、日焼け止めでした。お兄ちゃんが買っておいてくれたのです。
近寄るだけで頭の痛くなる匂いがするので、
わたしはデパートの化粧品売場に入った事がありません。
女の人だらけの売場で買い物するお兄ちゃんは、想像が付きませんでした。

「○○はまだ一度も海で遊んだ事がないんだ。
 海水浴をした事の無い小学生なんて、淋しいじゃないか。
 俺は親が連れて行ってくれなくても勝手に友達と行ってたけどな」

おにいちゃんはこっちをチラリと見て、続けました。

「コイツは夏休みになっても、毎日家と図書館と本屋にしか居ないんだ。
 外で友達と遊べないせいもあるだろうけど。
 コイツは我慢強いからいつも平気そうな顔してるけど、
 俺だったらきっと、我慢できないだろうな。
 だから、ちょっとだけでも思い出を作りたかった……」

わたしは「ありがとう、お兄ちゃん」と言いました。
嬉しくても涙は出てくるものだと、この時はじめて経験しました。

149  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 15:42
Bさんが、おどけた声を出しました。

「わたしはさっき、
 ○○ちゃんにお兄ちゃんは優しいねって言ってたんだよ。
 やっぱりわたしの目に狂いはなかったか!」

お兄ちゃんは照れ臭そうにしながら抗議しました。

「何言ってんだ、だったらさっきの剣幕はなんだよ!
 信用してくれてたのは○○だけじゃないか」

Cさんが口を挟みました。

「まあまあ、ふざけるのはそれぐらいにして。
 それより早く日焼け止め塗らないと拙いんじゃない?
 こうしているあいだも日は照ってるんだし」

雑木林で日陰になっている所に、お兄ちゃんがシートを敷きました。
上に荷物を並べて、バスタオルを広げ、わたしに横になるように言いました。
わたしが仰向けになると、またBさんが邪魔してきました。

「××、ひょっとして、
 ○○ちゃんを体じゅう撫で回すつもり?
 なに考えてんのアンタ?
 やっらしー」

お兄ちゃんは、真っ赤になって反論しました。

「変なコト考えてんのはそっちだろ!
 塗り方が決まってるんだ。
 俺が塗らなきゃ一人じゃ塗れないじゃないか」

Cさんが間に割って入りました。

「はいはい。言い訳は聞いたけど、
 塗り方をわたしたちに教えれば済むコトでしょ?
 下心が無いんだったら、わたしたちに任せなさい」

150  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 15:42
格好の良いお兄ちゃんも、BさんやCさんとの口げんかでは形無しでした。
Aさんは後ろの方に腕を組んで立ち、ずっとにやにやしていました。
わたしは残念でしたが、お兄ちゃんを困らせたくなかったので黙っていました。

お兄ちゃんからやり方を聞いて、Cさんがわたしの手足や首、顔にまで、
なにか臭い匂いのする油を塗り、その上からさらにクリームを塗り広げました。
日焼け止めはべたべたして、頭の痛くなるような嫌な匂いがしましたが、
お兄ちゃんがわざわざ買ってきてくれた物だと思うと、気になりませんでした。

わたしは体力がないし、日焼け止めを塗っても安心はできないという事で、
日陰で荷物の番をする事になりました。
お兄ちゃんは、「時々来るからな」と言い残してみんなと行ってしまいました。

Aさんの水着は、南の島のビーチを描いた派手なトランクスでした。
わたしはお兄ちゃんがデパートで言った事を思い出して、
ひとりでくっくっと笑いました。

日陰にいると海からの潮風が涼しく、思ったよりも暑くはありませんでした。
わたしはいつも本ばかり読んでいましたが、目は悪くありませんでした。
水平線の近くを、小さく見える船の影が横切っていくのが見えました。

わたしは膝を抱えて、浜辺でビーチボールを使ってバレーボールをしたり、
泳いだり潜ったりしているお兄ちゃんたちを眺めました。

友達と遊んで楽しそうにしているお兄ちゃんを見ていると、
嬉しいような、悲しいような、不思議な気持ちがしました。
でも、今日お兄ちゃんと海に来て良かった、と思いました。

151  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 15:44
どれぐらいそうしていたのか、わたしがボーッとしていると、
お兄ちゃんがどこからか、冷えた缶ジュースを持ってきました。
1本まるまるは飲みきれなかったので、半分お兄ちゃんに飲んで貰いました。

お兄ちゃんが、空を見上げて言いました。
「曇ってきたし、少し海に入ってみるか?」

わたしは頷いて、荷物から浮き輪を取り出しました。
お兄ちゃんが子供の頃、使っていたという青い浮き輪です。
息を吹き込んでみると、ほんの少し膨らみました。

膨らむスピードがあまりに遅くて痺れが切れたのか、
お兄ちゃんが浮き輪を取り上げて、空気弁に口を付けました。
わたしの時の3倍ぐらいのスピードで、見る見る膨らんでいきます。

念のために帽子を被ったまま、お兄ちゃんに手を引かれて波打ち際へ。
波に浚われていく砂が足の裏を流れて、くすぐったくなりました。
海の水は思っていたよりずっと冷たくて、火照った体を冷やしてくれました。

海面が胸ぐらいの高さに来ました。
お兄ちゃんの手を放して、バタ足してみましたが、ちっとも前に進みません。
波に揺られて上下しているだけです。

お兄ちゃんが片手で浮き輪を掴んで、沖に歩いて行きます。
ふと、海底に足が届かなくなっている事に気付いて、一瞬恐怖に身が縮みました。
でも、お兄ちゃんがすぐ傍に居たので、余分な力が抜けました。

入り江の外側には出ていませんが、浜辺の人影が小さく見えるぐらいになると、
お兄ちゃんは「ここに居ろよ」と言って、泳いで行ってしまいました。
ぷかぷか波に揺られながら見ていると、お兄ちゃんたちは競泳を始めました。

お兄ちゃんとAさん、BさんとCさんが組になって、
こっちに泳いで来ます。わたしの周りをぐるりと回って、また浜の方角へ。
わたしは目印代わりのブイの役目でした。
しぶきを上げてクロールで波を切るお兄ちゃんは、魚のようにしなやかで、
見入らずにいられませんでした。

152  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 15:45
何度か繰り返した後、お兄ちゃんが傍で止まって、声を掛けてきました。
「そろそろ戻るか?」

わたしは首を横に振って、答えました。
「もう少し、ここに居たい」

暑い浜辺より海の中の方が涼しかったのと、波に揺られるのが心地よかったからです。
お兄ちゃんは、「しばらくしたら迎えに来るから」と言って、戻って行きました。

わたしは、浮き輪に身を預け、仰向けになって足を伸ばしました。
こうしていると、なんだか大きな海に抱かれているようでした。
泳げないわたしを強引に連れてきてくれたお兄ちゃんに、心の中で感謝しました。

気が付くと、入り江の端の岩場に近い、淀んだ所に近づいていました。
目をつぶってじっとしている内に、いつの間にか、潮に流されていたようです。
流木や玩具のような物が浮いているのを、見に行く事にしました。

バタ足では前に進まないので、蛙のように平泳ぎの真似をしました。
近寄ってみると、元がなんだか分からない流木や玩具のパーツのあいだに、
海草が揺れていました。

その時です。
右の太股に感電した時のような、熱いショックが走りました。

153  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 15:45
一瞬、何が起こったのか解りませんでした。
遅れて、物凄い痛みが襲ってきました。
何がなんだか解らず、思わず手足をバタバタさせると、
右足の先にも左足にも右手にも、次々とショックが走ります。

本当の激痛に襲われると、泣く事も叫ぶ事も出来ません。
頭の中が真っ白に染まって、痛みしか考えられなくなります。
浮き輪にしがみついて、「お兄ちゃん!」と声を上げたような気もしますが、
実際には声が出ていなかったかもしれません。

痛みに握り潰されてどれぐらいの時間が経ったのか、
気が付くとお兄ちゃんが目の前に居ました。
「○○! 大丈夫か!」と声を掛けられましたが、
息をするのが精一杯で、頷くことも出来ませんでした。

お兄ちゃんに抱き上げられて浜辺まで戻ると、自分の右手が見えました。
大きな赤いミミズ腫れが幾つもありました。
足の裏も痛くて立てなかったので、浜辺に横にされました。

誰かの「クラゲだ」という声が聞こえました。

お兄ちゃんが耳元で、「○○、目をつぶってろ!」と叫びました。
わたしが目を堅くつぶって身もだえしていると、
温かい液体が手足に掛かってきました。お兄ちゃんのおしっこでした。

クラゲの毒の応急手当には、アンモニア水や食酢が使われます。
尿に含まれるアンモニアが有効なのかどうかは分かりませんが。

お兄ちゃんに手を握られて、おしっこまみれのままじっとしていると、
救急車のサイレンの音が聞こえてきました。
わたしはバスタオルにくるまれて、病院に運ばれました。

こうして、わたしが新しい現実を知り、
初めて海で遊ぶ楽しみを知った夏の日は、最悪の幕切れを迎えました。

この時のミミズ腫れと痒みが引くのには3日程、
残った痣が完全に分からなくなるまでは、結局1年以上掛かりました。

154  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 15:47
夏休みが終わり、新学期になって、思いがけない事が起こりました。
学校で、わたしの痣の事が大きな噂になったのです。
わたしは担任の女の先生に呼び出されて、
手足の痣がどうして出来たのかと聞かれました。

わたしは正直に答えましたが、先生は信じようとしませんでした。
誰かに口止めされていないか、しつこく念を押されました。
わたしはどうして先生が信じてくれないのかと、内心困惑しました。

今思うと、普段プールの授業に出ないわたしが、
海でクラゲに刺されたのだと言っても、信じられなかったのでしょう。
それに、普通の種類のクラゲに刺されたのなら、あんな痣は出来ません。

わたしにとっては悪夢のような展開で、両親が学校に呼び出されました。
先生は始めから、両親がわたしを虐待していたのだと疑っていたようです。
両親ともに、授業参観に一度も来たことがなかったせいかもしれません。

わたしは両親から、肉体的な虐待は受けていませんでしたが、
お兄ちゃんとわたしは家の中で、捨てられていたようなものかもしれません。

学校から帰って来た両親は、先生から失礼な質問をされたと言って、
カンカンに怒っていました。
怒りの矛先は、わたしを海に連れて行ったお兄ちゃんに向けられました。

わたしが「お兄ちゃんは悪くない」と言っても、聞いては貰えませんでした。
溺れそうになっていたわたしを助けてくれた、
お兄ちゃんがなぜ責められなければいけないのか、
わたしにとっては茫然とするほど、理不尽な成り行きでした。

155  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 15:49
それまで、父親に小言を言われても聞き流していたお兄ちゃんが、
この時だけはなぜか、猛然と反発しました。
先生に疑われるのは、両親がわたしに構ってやらないからだと言うのです。

父親は、「親に意見するのか! 誰のおかげで食べていけると思ってるんだ」
と喚いて、お兄ちゃんの顔を殴りました。
お兄ちゃんは、鼻から血を流して立っていました。

わたしは、お兄ちゃんが父親を殺すんじゃないかと怖くなりました。
怒って喚く父親の顔より、お兄ちゃんの目の方がずっと恐ろしかったからです。
その時のお兄ちゃんの目は、憎悪に燃えていて、背筋が凍るようでした。

お兄ちゃんは、父親を睨み付けた後、黙って背を向けて部屋を出て行きました。
それから、それまで表面上は波乱の無かった家の雰囲気が険悪になりました。
それまでは、たまに家族4人が食卓を囲む時、会話は弾まないものの、
平穏ではあったのに、お兄ちゃんが席を立って居なくなるようになりました。

わたしの方を見るときは、以前のように優しい目を向けてくれますが、
ふと見ると、お兄ちゃんは虚空を睨み付けているのです。
わたしが「お兄ちゃん、どうしたの?」と問い掛けても、
ぎこちなく笑ってごまかすだけです。
わたしは、お兄ちゃんに何もしてあげられない、ただの子供でした。

156  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 15:49
そんなお兄ちゃんも、機嫌の良くなる時がありました。
二学期になってから、夜遅くにお兄ちゃんによく電話が掛かってきます。
受話器に向かって冗談を飛ばすお兄ちゃんの顔は、とても楽しそうでした。

わたしはその事を考えないようにしようとしましたが、うまくいきません。
頭の中では、海水浴の日の3人のお友達の顔が浮かびました。

お兄ちゃんとお互いに冗談を言い合っていたAさん。
お兄ちゃんをからかってばかりいたBさん。
お兄ちゃんとはあまり話さなかったけど、一番大人っぽかったCさん。

秋が深まったある日、わたしは電話機の傍に座っていました。
お兄ちゃんより早く受話器を取るためです。
今日はもう掛かって来ないかと思い始めた頃、電話のベルが鳴りました。

「もしもし、××ですが、どちらさまですか」
「あ、その声は○○ちゃん?
 ごめんなさい。お兄ちゃんいる?」

電話の声は、Cさんでした。
「お兄ちゃーん、電話!」
お兄ちゃんが、自分の部屋からバタバタとやってきました。
わたしは、無言で受話器をお兄ちゃんに渡し、部屋に戻りました。
お兄ちゃんの顔を、見ていたくなかったからです。

157  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 15:50
わたしは部屋の扉を閉め、ベッドに潜り込みました。
お兄ちゃんの笑い声が響いてこないように、布団を頭から被って、
枕に顔を埋めました。

お兄ちゃんの優しさは変わらないのに、
なんだかお兄ちゃんからも捨てられてしまったような気がして、
熱い涙がこみ上げてきました。
枕をいくら濡らしても、涙は止まりませんでした。

次の日の夜、お兄ちゃんと二人だけの食卓で、
お兄ちゃんの目を見ないようにして、わたしは切り出しました。

「お兄ちゃん。
 Cさんと、付き合ってる?」

お兄ちゃんは、飲んでいたお茶を吹いてしまいました。

「な、なに言うんだいきなり」

心のどこかで、聞いてはいけない、という声がしましたが、
わたしの口は止まりませんでした。

「あの海水浴の日から?
 もっと前から?
 お兄ちゃんから告白したの?
 ……もう、キス、した?」
158  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 15:51
キス以上の事は、おぼろげにしか知りませんでしたし、
想像したくもありませんでした。

「いい加減にしろっ!」

お兄ちゃんが食卓を、バン、と乱暴に叩いて立ち上がりました。
そしてそのまま背を向け、自分の部屋に帰ってしまいました。

お兄ちゃんを本気で怒らせてしまった、嫌われてしまった、
と思って、わたしは目の前が真っ暗になりました。
がくがく震える足を運んで、お兄ちゃんの部屋の前に行きました。

部屋のドアに取り縋って、何度も何度も叩きながら、謝りました。

「お兄ちゃん、ごめんなさい。
 お兄ちゃん、ごめんなさい、ごめんなさい……」

そう涙声で繰り返していると、ドアが開きました。
お兄ちゃんが顔を出して、「入れよ」と言いました。

お兄ちゃんはわたしを、ベッドに連れていって座らせ、
ぐちゃぐちゃになった顔をタオルで拭いてくれました。
そしてわたしの隣に座り、わたしの顔を膝に乗せ、
頭を撫でながら話し始めました。

159  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 15:52
「○○、お兄ちゃんもう怒ってないから泣くなよ。
 でも、あんな事、ずけずけ聞くモンじゃないぞ。
 噂好きのおばさんみたいだ」

わたしはお兄ちゃんの膝に顔を埋めたまま、うん、と頷きました。

「淋しかったか?」

わたしはまた、頷きました。
この時は、何でもお兄ちゃんに言えるような、素直な気持ちでした。

「まだ誰にも言ってないけどな。
 お前にだけ全部話すよ。
 お父さんやお母さんには絶対内緒だぞ?」

わたしは大きく頷きました。
お兄ちゃんとの大切な秘密を、両親に明かすなんて考えられません。

「Cはな、元々同級生だったけど、
 海水浴まではあんまり話した事がなかったな。
 あの海水浴はな、Aが最初に言い出したんだ。
 AはBの事が前から好きでな」

お兄ちゃんは、くっくっと笑いました。

「でも、二人だけで海に行こうってのはあんまりロコツだろ?
 ん? よく分からんか。
 それで、AとBが友達を一人ずつ連れて来る事になったんだ。
 俺は初めどうしようかと思ったけどな。
 お前が一度も海に行った事ないの思い出してな。
 お前には、俺以外の人とも喋る事を覚えさせたかったし」

お兄ちゃんの優しい声が、高い所から降ってくるようでした。

160  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 15:53
「海水浴の後、Cがクラゲの怪我のこと心配してな。
 色々とお前のこと聞きに来たんだ。
 澄ましてるように見えたのに、話してみると思ったより話が合ってな。
 向こうから付き合わないかって言ってきて、OKしたんだ」

わたしの頭が、少し乱暴に掻き混ぜられ、
お兄ちゃんの少しおどけた声がしました。

「こう見えてもな、お兄ちゃん結構モテるんだぞ!」

その時まで深く考えていませんでしたが、
こんなに格好良くて優しいお兄ちゃんなら、きっとモテるに違いない、
と思い、小さく頷きました。
たぶんこの時、お兄ちゃんは照れていたのでしょう。

お兄ちゃんの声が、再び低くなりました。

「でもな、今まで女の子と付き合った事なかったんだ。
 部活が忙しかったしな」

部活だけでなく、わたしのために食事を用意するのにも忙しかったはずです。

「んー。本気で好きなのかどうか、まだよく分からん。
 でもな、アイツあれで意外と甘えたがりでな。
 家の中が複雑なんだそうだ。
 話聞いて相談に乗ってる内に、放っておけなくなった」

お兄ちゃんの手が、背中を撫でてくれていました。

161  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 15:54
「お前もな。
 あんまり我慢ばっかりしてないで、もっと甘えていいんだぞ。
 欲しい物は欲しいって口に出さなきゃ。
 お前が淋しそうな目をしてじーっとしてると心配なんだ」

わたしは物欲が薄い子供だったので、欲しい物などありませんでした。
欲しいと言わなくても、買い与えられた物で満足していました。
欲しいと口に出しても、決して手に入れられなくなった、
たった一つの「もの」を別にすれば。

お兄ちゃんは最後に、ぽんぽん、とわたしの頭を叩いて、
「もういいか?」と言いました。

その時なぜかわたしには、お兄ちゃんがまだ何か隠している、と分かってしまいました。
でもそれは、きっと今の幼いわたしには言えない事なんだと、同時に分かりました。
だからわたしは、起きあがって「お兄ちゃんありがとう、ごめんなさい」と言い、
お兄ちゃんの部屋を出ました。
涙が溢れそうになっている、わたしの顔をお兄ちゃんに見られたくなかったからです。

昨夜あれだけ泣いて、涙は枯れたかと思ったのに、
後から後から涙が湧いてきました。
でもそれは、悲しい涙ではなく、心を洗い流すような、どこかあたたかい涙でした。

162  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 15:55
涙の日の後、わたしは一刻も早く大人になりたい、と願うようになりました。
お兄ちゃんを電話で笑わせているCさんより、わたしはどこを取っても子供でした。
Cさんと肩を並べて去っていくお兄ちゃんを、頭の中で無意識に想像して、
少しでもそれに追いつきたい、と思ったのかもしれません。

お兄ちゃんに付き合っている彼女が居ると知っても、
お兄ちゃんへの気持ちを無かった事にするなんて、考えられませんでした。
お兄ちゃんにとってそうではないと分かっても、
相変わらずわたしにとっては、お兄ちゃんが世界のほとんど全てでしたから。

いえむしろ、それまでわたしにとって絶対だった憧れのお兄ちゃんを、
一人の男性として好きになったのが、あの涙の日だったのかもしれません。

お兄ちゃんに彼女が居ると聞いて、失恋という心の痛みを知った事と、
お兄ちゃんの、わたしへの変わらない優しさに触れた事で、
はじめてお兄ちゃんへの恋心を、はっきりと意識するようになりました……。

でも、目の前の現実は、幼いわたしの目に、この上なく残酷に映りました。
Cさんは大人で、優雅で、健康で、胸が立派で、ユーモアのセンスもありました。
わたしは子供で、のろまで、虚弱で、胸は平らで、ユーモアのセンスが皆無でした。

誰だって暗いわたしより、Cさんの方を好きになるだろう、と思いました。
わたしに有利な点は、お兄ちゃんの妹として、同じ家に住んでいる事だけです。
わたしが妹でなかったら、お兄ちゃんもわたしには構ってくれなかったでしょう。

わたしは、妹が兄に恋をするのは異常な事だと知ってはいましたが、
それでも、わたしがお兄ちゃんの傍に、妹として生まれてきた事を、
何処にいるのか知らない神様に感謝しました。

163  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 15:56
しかし、大人になると決めても、いざ実行するとなると、具体策が浮かびません。
お兄ちゃんに「どうしたら大人になれるの?」と尋ねるわけにはいきません。
お兄ちゃんに頼るのが、子供っぽい振る舞いに思えたからです。

体の発育は時間に任せるしかないとしても、それ以外は何でも、
自分の力だけで出来るようにならないといけない、と思いました。

迷った挙げ句、まずは休みの日に一人で外出する事にしました。
わたしが一人で出歩けるようになれば、お兄ちゃんもCさんとデートする暇が出来ます。

お兄ちゃんとCさんの仲を、邪魔しようと考えませんでした。
デートに出かけるお兄ちゃんを、我が侭を言って引き留めたり、
思ってもいないCさんの悪口を言ったりしたら、
きっとお兄ちゃんに決定的に嫌われてしまう、と思って怖かったのです。

いつもの夜の食卓で、わたしはお兄ちゃんに言いました。

164  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 15:57
「今度の日曜日、わたし、一人で出かけるから」

お兄ちゃんは怪訝そうな顔をして、問い返しました。

「ん? 今度の日曜は一緒に散髪に行く日だろ。
 なんか用事あるのか?」

それまでは、月に一度は必ず、お兄ちゃんと一緒に駅前に出て、
同じ床屋で髪を切って貰っていました。

「今度から、美容院に行くことにする。
 クラスの子もみんな、美容院でセットして貰っているっていうし」

同級生から話を聞いたというのは、真っ赤な嘘でした。
お兄ちゃんは、複雑な顔をして言いました。

「んー、それじゃ、途中まで一緒に行くか?」

「いい。一人で行きたい。
 途中で、お兄ちゃんに連れられているんだって、
 クラスの子に見られたら、恥ずかしいから」

恥ずかしくなんか、ありませんでした。
同級生に会ったら、格好良いお兄ちゃんを見せびらかしたかったぐらいです。

お兄ちゃんは、なんだか淋しそうな顔で微笑みました。

「……そうか。
 じゃ、最初はいくらかかるか分からないから、
 余分にお金渡しとくよ」

この頃、家計は実質的にお兄ちゃんが管理していました。

わたしはこの後、夕食が終わるまで、嘘を付いて酷い事を言ってしまったような
気がして、お兄ちゃんの顔を見られませんでした。

165  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 15:58
次の日曜日。
朝、いつもお兄ちゃんを見送るわたしが、珍しくお兄ちゃんに見送られました。

「お兄ちゃんは、どこか行かないの?」
「ん、ちょっとな……約束の時間まで、まだあるから」

わたしはお兄ちゃんが、きっとCさんと会うのだろうと思いました。
わたしは内心を顔に出さないように表情を消し、小さく手を振って、
「行ってきます」
と告げました。

自転車に乗り、交通量の多い大通りを避け、細い裏通りを通って駅前の駐輪場へ。
商店街にある、はじめて入る大きな美容院の前を、何度も行ったり来たりしました。
外から見ると、中は大人の女の人が一杯で、
まともにわたしの相手をしてくれるだろうかと不安になりました。
入り口のガラス戸の前で立ち竦んでいると、
中から年輩の女の人が出てきて、わたしに声を掛けました。

「お嬢ちゃん、ここは初めて?
 今ちょっと混んでるけど、中で座って待ってたらすぐだから」

166  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 15:59
愛想の良い女の人に案内されて、わたしは待合室のソファーに腰掛けました。
いつも行っていた床屋とは違う、なんだか甘ったるい匂いがしました。
周りでは大人のおばさんやお姉さんが、退屈げに雑誌を読んでいます。

顧客カードに記入してしまうと、順番が回って来るまで手持ち無沙汰でした。
華やかな雰囲気の室内を、きょろきょろ見回していると、
誰かと目が合いそうになったので、あわてて手元の雑誌を手に取りました。

ヘアカタログらしく、沢山の種類の髪型が載っています。
でも、どのモデルさんの顔も自分とは似ても似つかないように見えて、
自分の顔にどんな髪型が似合うのか、見当も付きません。

カタログを睨んでいると、わたしの順番になって、名前が呼ばれました。
鏡の前の椅子に腰掛けると、まだ若い、元気そうな美容師さんが後ろに立ちました。

「美容院は初めて?
 緊張しなくていいからねー。
 どんな感じにしよっか」

わたしは床屋では、自分の希望を口にした事などありませんでした。
わたしがかちこちになって黙り込んでいると、美容師さんが髪の毛を撫でました。

「うーん。真っ直ぐで真っ黒で綺麗な髪ねー。
 ちょっと髪の量が多いから、全体に梳いて軽くしよっか。
 毛先をシャギーカットにした方が可愛いわね」

わたしはやっとの事で、ぎくしゃくと口に出しました。

「お任せします。
 ……大人っぽい感じにして下さい」

167  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 16:00
この抽象的でかなり無理のある希望にも、すぐに答えが返って来ました。

「じゃあ、襟足を段カットして、ちょっとだけカールしてみよっか。
 ちゃんとお手入れしたら、すっごく艶が出て綺麗になるわよ」

床屋とは逆に髪をカットするより先に、仰向けの形で頭を洗われました。
髪をいじられていると、なんだか眠くなって来ました。
美容師さんは初めに鋏でなく、櫛のような形の剃刀でわたしの髪を削りました。

わたしは気持ちよさにいつしか、こっくりこっくりして来ました。
美容師さんに肩を叩かれて、ハッ、とすると、もう終わっていました。
正面の鏡の中で、髪を短くした見慣れないわたしが、ぽかんとした顔をしています。

両脇のボリュームが少なくなったせいか、なんだか変な顔に見えました。
どう見ても、大人っぽくなったようには見えません。
わたしが鏡とにらめっこしていると、美容師さんがフォローを入れました。

「どう? すっごく可愛くなったでしょ?
 中学生に見えるわよ」

わたしはきっと、見え透いたお世辞に違いないと思いましたが、
それでも心が少し動きました。

それから美容師さんは、日常の髪の手入れのやり方を教えてくれて、
最後に髪を柔らかくするという、外国製のトリートメントを勧めて来ました。
今思うと、平凡なセールストークだったのだろうと思いますが、
その時のわたしには、硬い髪を柔らかくできるのが何より魅力的でした。

お兄ちゃんから余分に貰っていたお金で、トリートメントを1瓶買い、
帰宅する事にしました。
自転車で風を切ると、軽くなったショートボブの頭がすーすーしました。

168  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 16:00
期待と不安の入り交じった気持ちで家に着くと、
お兄ちゃんはまだ、帰って来ていませんでした。
食卓の椅子に座っていると、そわそわしてきて、時計にしょっちゅう目が行きます。
待っている時間は、ひどくゆっくりと流れているように思えました。

ふと、玄関で物音がしました。
わたしはぱたぱたと、玄関に駆けて行きました。
やっぱりお兄ちゃんでした。

「お帰りなさい! お兄ちゃん」

お兄ちゃんは、大きな荷物を持って、なぜか制服を着ていました。

「ん、○○、もう帰ってたのか」

お兄ちゃんはわたしの横をすり抜け、足早に自分の部屋に上がって行きました。

半分開いたままのドアの外に、人影が見えました。
お兄ちゃんの学校のブレザーの制服を着た、Cさんでした。

「○○ちゃん、久しぶりー。
 髪切ったのね、見違えちゃった。
 すっごく可愛いじゃない」

Cさんと会うことは、このとき全く予想していませんでした。
お兄ちゃんはそれまで、家に友達を連れて来た事が無かったのです。
家に友達を連れて来て、万が一両親を見られるのが嫌だったんだろうと思います。
わたしも数年後に、同じ事を考えるようになりましたから。

わたしがうろたえて黙っていると、お兄ちゃんが下りてきました。

「○○、ずいぶん短くしたんだな。
 さっきはびっくりしたよ。
 なんか、女らしくなったじゃないか」

お兄ちゃんがわたしの髪に手を置こうとしました。
その手を、途中でCさんが掴みました。

169  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 16:01
わたしの頭に置こうとしていた手を止められて、
お兄ちゃんが戸惑った声を出しました。

「ん? なにすんだよ?」

Cさんが言い募るように畳み掛けました。

「なにじゃないでしょ!
 セットしてきたばっかりの髪に、
 そんな汚い手で触っちゃ駄目じゃない!
 もう、なに考えてんの!」

お兄ちゃんは、右手を後ろに回してお尻でごしごし擦りながら、
恥ずかしそうに言いました。

「……ん、ああ、そっか。
 ○○、ごめん。
 あんまり綺麗な髪だったんで、つい」

一番聞きたかった言葉を、お兄ちゃんの口から聞いたのに、
わたしは反応できませんでした。頭の中が、真っ白になっていました。
わたしでも触れる事の出来ない、おにいちゃんの大きな手を、
なんの躊躇いもなく自然に取ったCさんの細い指が、目に焼き付いていました。

わたしが黙り込んでいると、お兄ちゃんの怪訝そうな声がしました。

「ん? ○○、どうした?
 顔色が悪いみたいだな。疲れたのか?
 ちょっと彼女送って来るけど、
 帰って来たら晩ご飯作ってやるからな」

わたしは微かに頷くのが精一杯でした。
Cさんは「一人でも大丈夫」とか言っていましたが、
お兄ちゃんは「荷物があるだろ」と言って靴を履きました。

170  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 16:02
わたしは、「お兄ちゃん、行ってらっしゃい」と口の中で呟いて、
お兄ちゃんの背中を見送らず、自分の部屋に戻りました。

わたしがベッドの中で布団を被って丸くなっていると、
お兄ちゃんの帰ってきた物音がしました。
じっとしていると、階段を上る足音がして、ドアがノックされました。

「○○、寝てるのか? 入るぞ」

ベッドの端が、お兄ちゃんのお尻の重みで少し沈みました。
目をつぶったままでいると、ごつごつした硬い手のひらの感触が額に当たりました。
わたしが目を見開いて身じろぎすると、お兄ちゃんの声がしました。

「悪い。起こしちゃったか」

「お兄ちゃん、お帰りなさい」

「熱は無いようだな。
 晩ご飯、食べられるか?」

食欲は全くありませんでしたが、病気ではないと分かっていたので、
頷きました。お兄ちゃんは立ち上がりかけて、また腰を下ろし、
気遣わしげに尋ねてきました。

「○○、Cのこと、苦手か?」
171  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 16:03
わたしは少し考えて、答えました。

「Cさんのこと、嫌いじゃない、
 けど、なんて話していいか分からない。
 わたしとぜんぜん違うから」

嘘では、ありませんでした。Cさんはわたしに優しくしてくれました。
嫌う理由など、どこにもなかったはずです。

お兄ちゃんは、苦笑いしながら言いました。

「アイツもな、見た目は違うけど、結構お前と似たとこあるぞ。
 緊張すると強気でおっかなくなるとことか、
 ホントは神経細いとことかな」

わたしは、わたしにもおっかない所がある、というのが意外で、
「怖い?」と言って、思わずお兄ちゃんの顔をじっと覗き込みました。

「それそれ、その目。
 お前、緊張すると黙って人の目をじーっと見つめるだろ。
 瞬きしないもんだから、すげー迫力あるよ。
 Cもだいぶビビってた」

お兄ちゃんは笑いながら、「きゃーこわい」と手で頭を庇いました。
わたしは「もう!」と、怒ってお兄ちゃんを叩く振りをしました。
お兄ちゃんはひょいと立ち上がって、ドアの方へ後退し、

「もう大丈夫みたいだな。ご飯出来たら呼ぶから」

と言って、出ていきました。

残されたわたしは、天井を見つめ、やっぱりお兄ちゃんには敵わない、
と思いました。
いつしか、やりきれなさではち切れそうだった胸が、苦しくなくなっていました。

わたしは起きあがって、枕元に置いたトリートメントの瓶を手に取り、
Cさんよりも髪を長く伸ばそう、と何故だか心に決めました。

172  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 16:04
次の日の朝。
食卓に着いて、少し薄味のおみそ汁を飲みながら、考えました。
お兄ちゃんはいつも、わたしの朝ご飯と晩ご飯を作ってくれる。
たまに気まぐれのようにお母さんが作るご飯より、ずっと美味しい。
でも、そのせいで、お兄ちゃんには遊ぶ暇も無いんじゃないだろうか。

「お兄ちゃん、今日は早く帰って来る?」

「ん、今日は文化祭の打ち合わせがあるからな、
 ちょっと遅くなるかもしれん。
 どうしたんだ?」

「いい。遅くなっても待ってるから」

晩ご飯は、自分で作ってお兄ちゃんを驚かせよう、と決めました。
わたしの作った料理を食べて喜ぶ、お兄ちゃんの笑顔を想像すると、笑みが零れました。
お兄ちゃんはわたしの笑みの訳が解らず、首を傾げていました。

その日学校で何があったのか、全く覚えていません。
放課後になると脇目も振らず、急いで家に帰りました。

173  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 16:05
服が汚れないように、いつもお兄ちゃんがしているエプロンを身に着けます。
冷蔵庫を開けると、卵、お肉、人参、ピーマン、玉葱がありました。
今日のメニューはたぶん、炒飯でしょう。
お兄ちゃんの作る炒飯には、いつもほわほわした小さな卵焼きが入っていましたが、
それをどうやって作るのか見当が付かなかったので、卵は使わない事にしました。

包丁とまな板を出して、真剣に肉と野菜を切ります。
包丁が滑って怖いので、手を刃のそばに添える事が出来ず、
肉は切れ端の一つ一つが大きい上に、不揃いになってしまいました。

人参の皮が硬くて、上手く剥けません。
手を切りそうになったので、剥くのを諦めて、金たわしで削り取りました。
切った人参も、大きさが不揃いです。

いつもなら料理が出来ているはずの時間を掛けても、
まだ準備さえ終わらないので、段々と心細くなってきました。

ピーマンはまだ楽でしたが、玉葱を切るのは、人参よりもっと大変でした。
汁で刃が滑る上に、溢れる涙で手許が全く見えません。
出来る限り小さく切り終えた後、顔を洗いました。

お兄ちゃんが炒飯を作るとき、
大きな黒い柄付き中華鍋を、片手で振るっていたのを思い出し、
鍋置きからガステーブルに載せようとして、あまりの重さに驚きました。

174  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 16:06
火を着けて油を入れ、肉と野菜を鍋に入れました。
木のへらで掻き混ぜながら炒めます。
ご飯を加え、塩と胡椒とお醤油を適当に振りかけます。

木のへらで混ぜようとしましたが、なかなか上手くいきません。
ご飯が塊になってしまいます。
お兄ちゃんがやっていたように、鍋を持ち上げようとしましたが、
重すぎて両手を使っても持ち上げられません。

木のへらでこねくり回していると、ご飯がべたべたして来ました。
底の方が鍋とくっついて来て、焦げ臭い匂いが漂いました。
慌てて火を止めましたが、底が完全に焦げていました。

大きなお皿に、鍋の中身を移しました。
お兄ちゃんが作ってくれる炒飯とは、似ても似つきません。
ゴミの日に透明のビニール袋に入れて捨ててあった、残飯のようでした。

試しに一口食べてみました。
塩辛さと焦げ臭さい苦みが口一杯に広がって、思わずシンクに戻してしまいました。
惨めでした。
こんなモノを、お兄ちゃんに見られる訳にはいかない、と思いました。

証拠を隠滅する為に、ガスレンジの周りに飛び散った、ご飯粒や具を台布巾で拭きました。
しかし、中華鍋の底にこびり付いた焦げは、束子で擦っても取れません。

一心にごしごし擦っていると、玄関で物音がしました。
ハッとすると、お兄ちゃんの「ただいまー」という声がしました。
お皿と鍋をどこかに隠そうと思いましたが、大きすぎて何処にも入りません。

お兄ちゃんが、台所に入ってきました。

175  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 16:06
「ここにいたのか。
 ん? ○○、料理したのか?」

わたしは下を向いて俯いていました。

「手、切ってないか?」

わたしが両手のひらを広げて見せると、お兄ちゃんが近づいて来ました。

「炒飯か。腹減ったから、早いけど晩飯にするか」

「……駄目。失敗しちゃったから、食べられない」

わたしは泣いてはいけないと思って、涙がこぼれないように、
目を一杯に見開きました。

「折角作ったのに勿体ないだろ。
 ○○が初めて自分で料理したんだから」

お兄ちゃんは鍋が焦げ付いているのに目を向けると、
鍋に少しお湯を入れ、火に掛けました。
煮立ってから、お兄ちゃんがシンクで鍋を束子で擦ると、あっさり焦げは取れました。

176  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 16:07
お兄ちゃんが大皿から普通の皿に、炒飯を取り分けました。
お兄ちゃんの皿の方が、わたしの3倍ぐらいの量があります。
わたしはエプロンを外して、お兄ちゃんと食卓に着きました。

わたしは、お兄ちゃんがお腹を壊すんじゃないか、と本気で心配しました。

「お兄ちゃん……やっぱり食べなくっていい。
 お腹壊しちゃう」

お兄ちゃんは構わず、大きなスプーンで炒飯を頬張りました。

「ん……ちょっと塩辛いな。
 俺はこのぐらい平気だけど、
 お前は食べない方がいいだろ」

わたしが俯くと、お兄ちゃんが笑いながら言いました。

「最初でこれだけ形になってれば上出来だって!
 俺が最初に料理したときは、
 真っ黒な炭になっちゃって、
 どうしたって食べられなかったもんな〜。
 あん時は参ったよ。
 兄ちゃんだって、上手くなるように結構料理の練習したんだぞ。
 工夫して料理するの好きだしな」

お兄ちゃんはそう言うと、手を休めず食べ始めました。
コップの水を沢山飲んでいましたが、
いつもの夕食の時より早いぐらいでした。
わたしが見つめている内に、お皿はすっかり綺麗になりました。

177  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 16:08
お兄ちゃんは、げふっ、とげっぷをして、気取った調子で言いました。

「それじゃ、お兄ちゃんが、お手本を見せてあげよう。
 ○○の晩ご飯も炒飯でいいな?」

わたしは勿論、大きく「うん」と頷きました。

お兄ちゃんはエプロンを着けて、冷蔵庫を開けました。

「えっと、材料は……。
 お前はあんまり肉食べないから、
 はんぺんを入れてやろう。
 後は残ってる人参と葱と卵でいいかな……」

取り出した材料を、信じられないような包丁捌きで切り始めました。

「この包丁はよく研いであるからな、
 力は要らないんだ。
 力を入れすぎると刃先が滑って危ない。
 今度はゆっくりやって見せるから、よく見てろよ」

わたしにもよく見えるように、手の動きがスローモーションになりました。
それでも、わたしが切った時とほとんど変わらない速さです。

「包丁は少し引くようにすると切れるんだ。
 力任せにやると危ないし、刃を傷める」

お兄ちゃんは蘊蓄を語りながら、火を着けてフライパンを温めます。
油を敷く前に鍋を温める事、火加減、材料を入れる順番とタイミングなどを、
のんびりした口調で続けながら、休みなく手を動かしています。
わたしが言葉もなく見つめていると、お兄ちゃんが言いました。

「んー、最初は卵焼きから始めるのがいいかな。
 卵焼きを上手く焼けるようになるのも大変だぞ」

お兄ちゃんは「ホントは片手で割るんだけどな」と言いながら、
わたしによく見えるように、両手を使ってゆっくり卵を割りました。
フライパンと菜箸を使って、炒り卵を作るやり方がやっと分かりました。

具にご飯を加えて炒める時、お兄ちゃんが中華鍋を振るうと、
ご飯が30センチぐらい宙に伸びて、魔法のように鍋に戻りました。
今考えても、お兄ちゃんの料理の腕前はプロ顔負けでした。

178  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 16:09
出来上がった炒飯は、外で食べるどんな料理より美味しく感じました。
わたしは感嘆して、お兄ちゃんに尋ねました。

「どうしてお兄ちゃんは、こんなに料理が上手なの?」

「ん、最初は仕方なく始めたんだけどな。
 自分で作らないとロクなもん食えないし。
 でもやってる内にだんだん面白くなってきてな。
 ……まだ内緒だけど、
 兄ちゃん、料理人になりたいんだ。
 いつか、自分の店を持って、お客さんを喜ばせたい」

わたしは仰天しました。その時までずっと、お兄ちゃんは将来、
父親の跡を継ぐものだと思っていたのです。

「お前にも、少しずつ料理のコツを教えてやるよ。
 お前も勉強ばっかりじゃなくて、料理も出来た方がいいしな。
 これから、俺が料理するとき隣で見てるといい」

わたしは、お兄ちゃんに料理を教わる約束をしました。
この時わたしは、お兄ちゃんと肩を並べて、
お兄ちゃんを驚かせるような包丁捌きをする、将来の自分を夢想しました。

しかしこの約束が、最後まで果たされる事はありませんでした。
わたしがお兄ちゃんの異変に気付いたのは、それからしばらく経ってからの事です。

179  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 16:10
お兄ちゃんと並んで、台所で料理の練習をするのは幸せでした。
ジャガイモの芽の取り方や、皮の剥き方も教えてもらいました。
手のひらの上で、豆腐を賽の目に切る事が出来るようになりました。

でも、和やかな雰囲気は、たまに父親が帰ってくると破られました。
お兄ちゃんは父親が居ると席を外してしまうのですが、
父親がお兄ちゃんを捕まえて、ぐじぐじとお説教を始める事もあります。

わたしはなぜ、この男は同じ事ばかり何度も繰り返し言うのだろう、
と不思議に思いました。

お兄ちゃんはわたしに、向こうに行っているようにと言いますが、
わたしはその場を動きませんでした。

なんだか、目を離すと、とんでもない事が起こるような気がしました。
お兄ちゃんは黙ってお説教に耐えていましたが、
どこか体の中が、ぐつぐつ煮えたぎっているように見えました。

お母さんは、居ても居なくても何も変わりませんでした。
お母さんにとっては、わたしたちは透明人間と同じだったのでしょう。

そんな冬のある日、わたしは、夜中に尿意で目が覚めました。
わたしが最後におねしょをしたのは、1年前の事でした。
シーツや下着をこっそり一人で洗おうとして、
お兄ちゃんに見られた時の、あの恥ずかしさは忘れられません。

わたしが部屋を出ようとすると、階下で何か物音がしました。
泥棒かと思って、そーっと覗いてみました。
お兄ちゃんが外出姿で、玄関から出ていくところでした。

180  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 16:10
トイレでしゃがみながら、お兄ちゃんはこんな夜中に何処に行くのだろう、
と思いました。
帰ってきたら聞いてみようと決めて、わたしはベッドの中で目を開けていました。
でも、お兄ちゃんはなかなか帰って来ず、わたしはいつしか眠りに落ちていました。

朝、目覚めると、お兄ちゃんはいつも通りの顔で挨拶して来ました。
朝ご飯を食べながら、昨夜の事は夢だったのだろうか、と思いました。
でも、わたしはあんなにくっきりした夢を見た事がありません。

その日のわたしは授業中、ずっとぼんやりしていました。
昨夜遅くに起きていたせいか、だんだん眠くなってきて、
給食が済むと、午後の授業ではただ目を開けているだけでした。
先生に指名されても、何を質問されているか分からないぐらいでした。

放課後になると、わたしは真っ直ぐ家に帰り、ベッドに入りました。
今夜はもっと遅くまで、起きていなくてはならない、と思いました。
そのために、お兄ちゃんが帰って来るまで、ずっと寝ていました。

夜が更けてから、暖かいコートを着て、忍び足で家の外に出ました。
わたしの足では、追い掛けてもお兄ちゃんに追い付けないからです。
物陰でじっと立っていると、爪先が冷えてきて目が冴えました。

どれぐらいそうしていたのか、ふと気が付くと、玄関の扉が音もなく開きました。
見ていると、短いコートを着たお兄ちゃんが、そっと出て来ました。
わたしは足音を立てないようにして、お兄ちゃんの行く手に回り込みました。

「お兄ちゃん」

わたしが囁くと、お兄ちゃんは棒立ちになりました。

181  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 16:11
「っ! ……○、○○?
 どうしてこんな所に居るんだ?」

「お兄ちゃんこそ、こんな夜遅くに、
 毎晩何処に行ってるの?」

わたしは、真剣な目で、お兄ちゃんの目を見ました。
お兄ちゃんが、何か危ない事に巻き込まれているんじゃないかと、心配でした。

街頭の薄明かりに照らされたお兄ちゃんの顔は、焦っているようでした。

「……散歩さ。眠れなかったから、
 ちょっと風に当たろうと思って」

嘘でした。嘘だと、わたしには分かってしまいました。

「じゃあ、わたしも連れて行って。
 わたしも昼間寝過ぎて眠れない」

「ばっ、ばか。夜中に散歩するなんて、危ないだろ」

「お兄ちゃんと一緒なら、危なくない。
 お兄ちゃん、強いんでしょ?」

お兄ちゃんはしばらく迷っているようでしたが、やがて、
ため息をついて、苦笑いしながら言いました。

「……そうだな。
 今夜は二人で夜のお散歩と行くか」

お兄ちゃんと手を繋ぎました。
見慣れない、寝静まった夜の街は、なんだか知らない世界のように見えました。
国道の側に来ると、車のヘッドランプが、巨大な動物の目のように流れて行きました。

星はあまり見えませんでしたが、丸い月が出ていました。
お兄ちゃんとわたしだけが、この単色の世界に取り残されているような、
錯覚をしました。
お兄ちゃんの囁きが聞こえました。

「○○、手、寒くないか?」

182  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 16:12
わたしは右手をポケットに入れていましたが、お兄ちゃんと手を繋いでいたので、
左手の甲が寒さに痺れていました。
でも、お兄ちゃんの手を離したくなくて、黙っていたのです。
お兄ちゃんはわたしの手を握ったまま、右手をジャケットのポケットに入れました。

「あったかいだろ?」

「うん」

左手が熱くなって、手のひらに汗を掻くほどでした。
本当に前に来たことの無い、夜の知らない街を歩きました。
いつも冗談を絶やさないお兄ちゃんが、ずっと黙っていました。

それでも、言葉は何も要りませんでした。
このままずっと夜が明けずに、どこまでもどこまでも、
お兄ちゃんと二人で歩き続けられれば良いのに、と思いました。

でもやがて、足が痛くなって来て、わたしの歩みが遅れがちになりました。
お兄ちゃんが立ち止まり、こう言いました。

「疲れたか?
 そろそろ帰ろう」

これで、魔法は解けました。

183  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 16:12
「同じ道を戻るんじゃ面白くないな。
 違う道を通るぞ」

帰途に就きながら、なぜだかさっきまで感じなかった、
何か言わなくてはいけない、という焦燥が湧いて来ました。

「お兄ちゃん」

「ん?」

「……危ない事、しないでね。
 お兄ちゃんが居なくなったら、
 わたし、どうしていいか分からない……」

お兄ちゃんはしばらく黙った後、しみじみとした口調で言いました。

「○○……お前はいい子だ。
 でもな、お兄ちゃんはホントは悪い奴なんだ。
 あの家に居ると、
 どんどんどんどん胸の奥で黒いモンが膨らんで来て、
 爆発しそうになるんだ。
 だから、夜中にこっそり捨てに行くんだ」

月明かりに照らされた、お兄ちゃんの遠くを見る横顔は、とても寂しそうでした。
その寂しさを消したくて、必死に言葉を探しました。

「お兄ちゃんは悪くない。
 絶対悪くない。
 もし世界中の人がお兄ちゃんの敵になっても、
 わたしはお兄ちゃんの味方だから」

お兄ちゃんはわたしの顔を見て、うっすら笑いました。

「ん、ありがと。
 お前はやっぱりいい子だ」

でも、わたしの言葉に、お兄ちゃんの苦しみを無くす力はありませんでした。

184  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 16:13
帰りたくない家への道は、あっけないほど早く、終点に着きました。
物音を立てないように階段を上ると、お兄ちゃんは別れ際に、
「おやすみ」と囁いて自分の部屋に消えて行きました。
疲れ切っていたわたしは、お兄ちゃんの事を考えようと思いながら、
ベッドに潜り込むとすぐに、眠りに落ちました。

翌朝、お兄ちゃんは、いつもと変わりのない顔で起きて来ました。
わたしは眠い目を擦りながら、お兄ちゃんはいつ寝ているのだろう、と思いました。

それからも、日常は一見平坦に過ぎて行きました。
でも、父親が帰って来た時には、
お兄ちゃんが針鼠のような空気を身にまとうのが分かりました。
お兄ちゃんは相変わらず、夜中になると夜の街に姿を消しました。

わたしは滅多に見ない夢を見ました。
お兄ちゃんが、真っ黒いどろどろした海に呑まれて行く悪夢でした。
目が覚めても、体の震えが止まりませんでした。

お兄ちゃんの汗が染みたシャツを、洗濯機に入れながらわたしは考えました。
わたしでは駄目なんだ、と。
わたしではお兄ちゃんを助けてあげる事が出来ない、と。
お兄ちゃんを助けられそうな心当たりは、たった一人しか思いつきませんでした。

わたしは自分から、電話を掛けた事がありませんでした。
電話を掛ける友達が居なかったからです。
その人の電話番号も、もちろん知りません。

普段、家で外に電話を掛けるのは、お兄ちゃんだけでした。
わたしはお兄ちゃんが帰って来る前に、電話機のリダイヤルボタンを押しました。
緊張して鼓動がどくん、どくん、と耳を打ちました。
コールの音が永遠に続くような気がしました。

かちゃ、という音がして、誰かが出ました。

「もしもし……わたし、××○○と申します」

「あら? ○○ちゃん?
 どうしたの? 電話なんて」

Cさんの声が聞こえて来ました。

185  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 16:13
「…………」

なかなか、言葉が出てきません。

「もしもし……? 何かあったの?」

わたしは意を決して、声を出しました。

「……お兄ちゃんの事で、お話があります」

わたしの声音の真剣さを感じ取って、Cさんの口調から柔らかさが消えました。

「いいよ。聞かせて」

お兄ちゃんの秘密を話す事に、しばらく躊躇ってから、わたしは口を切りました。

「……お兄ちゃんが、夜中に外に出かけているって、知ってますか?」

もしかしたら、Cさんと会っているのかもしれない、と思った事もありましたが、
夜の散歩の時の、お兄ちゃんの暗い瞳を見てしまってからは、
そうは思えなくなっていました。

「え? ××クンが……?」

意外そうな声でした。
186  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 16:14
「はい。いつからだったかは、分かりません。
 でも、最近は毎晩みたいに。
 お兄ちゃん、家でお父さんと上手く行ってないんです。
 だから、もやもやが溜まっているんだと思います」

「……そう、だったの」

わたしは考えていた事を、一気に捲し立てました。
こんなに必死に、他人に何かを訴えたのは、これが初めてだったと思います。

「お兄ちゃん、前みたいに笑ってますけど、
 でも、前と違うんです。なんだかとても、辛そうです。
 ……でも、わたしじゃ駄目なんです。
 わたしじゃなんにも、お兄ちゃんにしてあげられない。
 だからCさん。
 お兄ちゃんを助けてあげて下さい!
 お願いします」

「…………」

重苦しい沈黙が流れました。
しばらくしてCさんの、少し震えた声が聞こえて来ました。

「ごめんなさい。わたし、なんにも気付かなかった。
 毎日学校で話したり、一緒に帰ったりしてたのにね……。
 ××クン、いっつも笑ってたし、すっごく優しくしてくれて。
 わたしが家の事で悩んでいるって言ったら、
 嫌がりもせずにずっと話を聞いてくれて……。
 でも、そういえば、××クン、自分のコト、
 なんにも話してくれなかった……。
 わたしに心配かけないようにしてくれてたんだね。
 ……馬鹿だな。あたしって。
 彼女失格だな。
 ねえ○○ちゃん、あたし、どうしたらいいと思う?」

最後の方は、涙声になっていました。
わたしは、呆気に取られました。
決死の気持ちで、一番大人っぽいと思っていたCさんに相談したのに、
まさかそのCさんから、逆に相談を持ち掛けられるとは思ってもいませんでした。

187  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 16:17
わたしが沈黙を守っていると、再びCさんの声がしました。

「ごめんなさい。こんなコト、あなたに聞いても無理だよね。
 あたし、どうかしてるみたい。
 ……うん、頑張ってみる。
 上手く行くかどうか分からないけど、
 ××クンにそれとなく聞いてみる。
 わたしで力になれるコトだったら、なんでもするから。
 ホントにありがと、○○ちゃん、教えてくれて」

「はい、お兄ちゃんを、よろしくお願いします」

わたしは受話器を持ったまま、深々とお辞儀しました。
受話器を置くと、固く握り締めた手のひらの汗で、べとべとになっていました。

それから数日は、わたしが秘密を明かした事が、お兄ちゃんにばれるんじゃないか、
と気になって、お兄ちゃんの顔をちらちら窺いました。

お兄ちゃんに、特に変わった素振りは見られませんでした。
わたしには、お兄ちゃんとCさんの話し合いが、どうなったのか分からず、
密かに胸を焦がすしかありませんでした。

188  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 16:18
表面上は何事も起こらないまま、一日一日と過ぎて行きました。
わたしはお兄ちゃんに料理を教わって、お兄ちゃんには及ばないものの、
焼き魚や卵焼きやおみそ汁、簡単なサラダぐらいは作れるようになっていました。
お兄ちゃんはもう、家の中ではわたしとしか、話をしなくなっていました。

休みの日に、お兄ちゃんと出歩く事は少なくなりましたが、
駅に向かう路線のバス停へ、お兄ちゃんと肩を並べて、
白い息を吐きながら歩いた時、この平穏さが、いつまでも続けばいい、
と祈りました。

でも、時折ふいに胸騒ぎが襲ってくるのは、避けられませんでした。
心の何処かで、自分の祈りが叶えられない事を、予感していたのかもしれません。
そして明日から冬休みに入るという夜、わたしの願いは、唐突に断ち切られました。

真夜中に、電話の着信音が鳴り響きました。
わたしは飛び起きて、電話機に向かいました。
心の中で「来た!」という声がしました。

どきどきしならが受話器を取り上げると、その向こうから、
嗄れた男の人の声がしました。
警察の人でした。

189  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 16:44
連載の続きを思い出すと、気持ちが沈んでしまうので、気分転換に、
連載と関係ないお兄ちゃんとの思い出を、番外編として書いてみます。
記憶がかなり断片的なので、会話の内容はその通りではないと思います。

わたしがまだ、小学校3年生ぐらいの頃だったと思います。はっきりした
年月は覚えていません。

わたしが学校から帰る道すがら、アパートの建て込んだ細い道を通った時、
軒下に見慣れない白い小さなモノが、落ちているのを見つけました。

しゃがんでよく見ると、まだ毛の生えそろっていない、雀の雛でした。
雛は目を閉じていましたが、触ってみるとまだ温かく、息があるようでした。
わたしはその雛をハンカチにくるんで、両手で捧げ持ちながら家に帰りました。

やがて、部活を終えたお兄ちゃんが帰って来ました。

「お兄ちゃん、見て」

「ん? どうしたんだ? それ」

「帰りに拾って来たの。……このヒナ、死んじゃう?」

お兄ちゃんは難しい顔をしました。

「……やってみるけど、たぶん、無理だと思う」

お兄ちゃんが冷蔵庫から牛乳を持ってきて、指先に付けて吸わせようと
しましたが、雛は飲んでくれません。

「寒くて弱ってるのかもしれない」

「じゃあ、わたしが抱いて寝る」

「お前が寝返り打ったら、潰れて死んじゃうぞ?」

「じゃあ、手で持って、起きてる」

「……お前がそうしたいんなら、そうしろ」

お兄ちゃんはきっと、この時すでに、雛が助からない事を知っていたのだと
思います。
190  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 16:45
わたしは夜になると、ベッドの上に胡座をかいて、ハンカチでくるんだ雛を、
股のあいだに抱えました。

夜が更けると、眠くなって来ました。
わたしは目を開けていようと努力しましたが、
こっくりこっくりしているうちに、いつの間にか眠りに落ちていました。

朝の光で目が覚めました。
わたしはハッとして、お腹の下で雛が潰されていないか手探りしました。
手を突いて上体を起こしてきょろきょろすると、
少し離れた掛け布団の端に、ハンカチのピンク色が見えました。

わたしがこわごわハンカチを開いてみると、その中で雛が、
冷たくなっていました。
冷たい雛を両手で温めながら、わたしは泣きました。

朝食の時間になってもわたしが下りてこないので、お兄ちゃんが起こしに来ました。

「お兄ちゃん……雛、死んじゃった」

お兄ちゃんは、小さな声で、「そうか」と言いました。

「もう着替えないと、学校に遅れるぞ。
 帰ってきたら、一緒にお墓を作ろう」

「お墓?」

「ああ、死んだらお墓を作って、その下に埋めるんだ。
 そうしないと、可哀相だろ」

「お墓を作ったら、可哀相じゃなくなる?」

「ああ、雛もきっと喜ぶ」

その日は学校で、ずっと死んだ雛の事を考えました。
まだわたしには、死というモノが、よく分かっていませんでした。
191  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 16:46
死んだら何処に行くのだろう?
死んだらどうなってしまうのだろう?

考えている内に、だんだん怖くなって来ました。
わたしもいつか、死ぬかもしれない。
交通事故で若くして死んだ、叔父さんのお葬式を思い出しました。
人はいつか死ぬ。事故で死ぬ。歳を取って死ぬ。

学校から帰ると、お兄ちゃんも早く帰って来ました。
お兄ちゃんと二人で、近くの公園の雑木林に歩いて行きました。

木の根本に、お兄ちゃんがスプーンで穴を掘りました。
わたしは促されて、穴の中にハンカチで包んだ雛の死骸を納めました。
穴の上から土を掛け、握り拳ぐらいの大きさの、綺麗な石を載せました。

「手を合わせて、雛が天国に行けるように、目をつぶってお祈りするんだ」

言われるままに手を合わせ、目をつぶってわたしは祈りました。
目を閉じると、その暗闇が死を連想させました。
わたしは不意に、お兄ちゃんに尋ねました。

「お兄ちゃん、わたしも死んじゃうの?
 ねえ、わたしもいつか死ぬの?」

わたしは、お兄ちゃんの腰に取りすがって泣きました。
お兄ちゃんの手のひらが、わたしの頭を撫でました。

「……人間は誰だっていつか死ぬ。
 でも、生きているあいだはお兄ちゃんも一緒だ。怖くないだろ?」

「うん」

思えば、お兄ちゃんもまだ、死を理解していなかったのかもしれません。
でも、お兄ちゃんの優しさが、わたしから死の恐怖を祓ってくれました。
わたしはこの時、お兄ちゃんの魔法に掛かったのかもしれません。

(番外編終わり)
192  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 17:18
それから何を聞き、自分が何をしたのか、細かい記憶がはっきりしません。
わたしは叫び声で両親を起こして、父親に電話を替わりました。
両親はその後、慌ただしく服を着替え、外に出て行きました。
我に返ると、わたしは玄関のマットの上に取り残されて、蹲っていました。

胸が痛いほど高鳴り、全身がざわざわしました。
お兄ちゃんがもう二度と、帰って来ないような気がしました。
わたしはその場から動く事が出来ず、膝を抱えてお兄ちゃんの帰りを待ちました。

長い長い夜でした。朝はやって来ないかもしれない、と思いました。
明け方になって、わたしが朦朧としていると、両親が帰って来ました。
その後ろに、お兄ちゃんの姿が見えました。顔が腫れていました。

わたしが呆けたように見上げると、父親が「早く寝ろ」と言いました。
わたしは追い立てられるように、自分の部屋に戻りました。

お兄ちゃんが帰って来た。帰って来た。
わたしはそう心の中で呟きながら、ベッドに倒れ伏しました。

起きてみると、もう昼過ぎでした。わたしは服を着替え、洗面所に行きました。
早くお兄ちゃんの顔を見たい、という思いと、お兄ちゃんが変わってしまった んじゃないか、という怖れが、胸の奥で鬩ぎ合いました。

お兄ちゃんの部屋の前で、うろうろしてから、まだ髪を手入れしていない事を
思い出しました。
部屋に戻って髪をブラッシングしていると、またぼーっとして来ました。
何回髪を梳いたのか分からなくなって、何度もやり直しました。

腕を動かすのに疲れて、身繕いする事が何も無くなって、やっとお兄ちゃんの
部屋に向かいました。
ドアの前に立つと、また胸が高鳴って、息が苦しくなりました。
193  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 17:19
「お兄ちゃん」と小声で言って、ノックしました。返事はありませんでした。
そっとノブを回して、ドアを引きました。
お兄ちゃんは、服を着たまま、背中を向けて、ベッドに横になっていました。

近寄って、「お兄ちゃん」と呟きました。
お兄ちゃんは身じろぎして、疲れた声で言いました。

「○○か……。
 悪い。心配かけた。
 ……いま、一人になりたいんだ。
 出て行ってくれ」

お兄ちゃんはわたしの顔を、見ようともしませんでした。
わたしは黙って部屋を出て、ドアを閉めました。

お兄ちゃんに拒絶された、と思いました。
わたしは心の中で、でもお兄ちゃんは帰って来た、帰って来た、と、
呪文のように繰り返しました。

それからの数日間は、悪い夢の中に居るようでした。
お兄ちゃんの顔を見られるのは、夕食の席だけでした。
おにいちゃんの顔はずっと、硬くこわばっていました。
この数日間だけは、両親共に早く帰宅していて、食卓を囲んでいました。

父親はお兄ちゃんを罵倒し、お母さんの育て方のせいだと言いました。
お母さんが言い返して、汚い言葉の応酬になりました。
わたしはこんな事なら、お兄ちゃんと二人だけの穏やかな夕食の方が、
ずっとましだと思いました。

断片的な言葉から、何が起こったのか朧気に分かりました。
お兄ちゃんは、木刀で人に大怪我をさせていました。
相手にも非があったので、なんとか示談になりそうだ、という事でした。
194  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 17:20
あの夜から数日経った夕食後、父親が一方的に宣告しました。

「△△(お兄ちゃんの下の名前)、
 お前は此処に置いておけん。
 近所の手前もある。
 婆ちゃん(父親の母親)の所で預かってもらう事になった。
 あっちには俺の出た良い学校もある。
 身を慎んで受験勉強しろ。
 高校を出る頃には、ほとぼりも冷めてるはずだ」

お兄ちゃんは、歯を食いしばって聞いていました。
わたしは突然の衝撃に、気が遠くなりそうでした。
わたしは初めて、大きな声で父親に主張しました。

「お兄ちゃんが居なくなっちゃうの?
 だったら、わたしも付いて行く!」

父親は、ぎょろりとこちらを見て、言いました。

「何を言ってる。
 お前まで余所に遣ったら、それこそなんて言われるか分からん。
 この話はこれで終わりだ。
 △△、今夜の内に荷物をまとめておけ。
 明日の朝、発って貰う」

頭の中が、ぐるぐると回りました。その場で吐きそうでした。
お兄ちゃんが居なくなってしまう、居なくなってしまう。
その言葉だけが、耳の奥で繰り返し繰り返し聞こえました。

椅子に座ったまま呆けているわたしの手を、お兄ちゃんが取りました。
手を引かれて、自分の部屋に戻りました。
お兄ちゃんに促されて、わたしは自動人形のようにベッドに腰を下ろしました。
お兄ちゃんは立ったままでした。

お兄ちゃんの膝を眺めていると、目の奥が熱くなってきて、涙が湧いて来ました。
その時、お兄ちゃんが話し掛けて来ました。
195  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 17:21
「○○、ごめんな。
 お兄ちゃん、約束守れなかった」

約束ってなんだろう、と、わたしは不思議に思いました。
お兄ちゃんは、早口で話を続けました。

「お前に危ない事するなって言われてたのにな。
 友達が揉め事に巻き込まれてな。
 ほっとけなかったんだ。
 相手が大勢でな。
 友達が木刀持って来てなかったら、やられてたかもしれない。
 ……はは、言い訳だな」

父親に一言も話さなかったお兄ちゃんが、わたしに向かって必死に言い訳していました。
お兄ちゃんはわたしの目の前で、膝を折って両手をベッドに突き、項垂れました。

「畜生、畜生、畜生……」

唸るようなお兄ちゃんの声に、わたしは、お兄ちゃんが壊れてしまうのではないか、
と思いました。
わたしはお兄ちゃんの首を抱え、自分の膝に引き寄せました。
お兄ちゃんはまるで力が無いかのように、されるがままになっていました。
お兄ちゃんの顔が太股に当たり、やがて、一つ、また一つと、熱い点の感触が、
パジャマの布地越しに伝わって来ました。

わたしが泣いてお兄ちゃんに慰められた、以前とは全く正反対の状況に、
わたしは何をしたらいいか、何を言ったらいいか分からず、狼狽えました。
胸の中では、お兄ちゃんと一緒に居る嬉しさと、お兄ちゃんが苦しんでいる事への
焦燥と、離ればなれになる事への不安とが、入り混じって渦巻いていました。

196  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 17:23
やがて、お兄ちゃんはがばっと立ち上がり、背中を向けました。

「ふふ、格好悪いとこ見せちゃったな。
 あーあ、なにやってんだろ俺」

恥ずかしそうな、淋しそうな声でした。

「お兄ちゃんは格好良いよ!」

わたしは反射的に断言しました。

「ん、ありがと。
 そう言ってくれるのはお前だけだ。
 ……よし、頑張らなくっちゃな。
 ○○、お兄ちゃん遠くへ行くけど、
 きっとまた帰って来る。
 それまで、一人で頑張れ。
 いや、友達も作れよ。
 ……悪い友達は作っちゃ駄目だぞ。
 お前をこの家に残して行きたくないけど、
 お兄ちゃんにはどうしようもない……ごめんな」

「いい、いい。お兄ちゃんのせいじゃない」

わたしは子供でした。わたしが手が届かないほど大人だと思っていた、
お兄ちゃんもまた、大人の都合に抗う術のない、子供でした。

あの時、お兄ちゃんが父親に反抗していたら、どうなっただろうと思います。
父親は頑健で、腕も太かったのですが、お兄ちゃんなら勝っていたかもしれません。

でもなぜか、お兄ちゃんがわたしの見ている前で、暴力を振るっているのは、
一度も見た事がありません。
197  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 17:24
わたしの言葉にお兄ちゃんは頷き、「おやすみ」と言って部屋を出て行きました。
わたしは一人になり、ベッドに横になりました。
でも、そのまま寝付くことは出来ませんでした。
色々な事が、頭を去来しました。

わたしは起きあがって、部屋の中を行ったり来たりしました。
居ても立ってもいられませんでした。
頭の中がぐちゃぐちゃになって、泣く事も笑う事も怒る事も出来ませんでした。

わたしは枕を抱いて、お兄ちゃんの部屋の前に立ちました。
そうっとドアを引き、中に入りました。
明かりは、お兄ちゃんがいつも寝る時に点けている、小さな赤いランプだけでした。

わたしは囁くような声で言いました。

「お兄ちゃん、起きてる?」

お兄ちゃんがごろりと、こちらを向きました。

「ん……○○、まだ、起きてたのか?」

「うん……眠れない。
 お兄ちゃん、今夜だけ、一緒に寝ていい?
 ……お願い」

わたしが真剣にお兄ちゃんに何かをねだったのは、これが初めてだったと思います。
一瞬の沈黙の後、お兄ちゃんが答えました。

「……いいよ。おいで」

お兄ちゃんが自分の身を、ベッドの向こう側ぎりぎりに寄せました。
わたしはベッドに這い上がりながら、言いました。

「そんなに端っこだと、落ちちゃうよ。
 お兄ちゃんの方が大きいんだから、
 もっと、こっちに来て」
198  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 17:26
お兄ちゃんは、左肩を起こして、右肩を下に横になりました。
狭いシングルベッドで、二人が寝るために、わたしの場所を作ってくれたのです。
わたしは左肩を下に横になって、お兄ちゃんに身を寄せました。

シーツから仄かに、お兄ちゃんの匂いがしました。
お互いの息が掛かるほど近い距離で、お兄ちゃんの顔を見つめました。
お兄ちゃんが、毛布と布団をわたしに掛けて、微笑みながら言いました。

「一緒に寝るなんて、何年ぶりかな?
 寝付くまで見ててやるから。
 安心して眠れ」

わたしの頬を、お兄ちゃんの息がくすぐりました。
お兄ちゃんの優しい目を見ていると、体がとろけて行くようでした。
なんだか、世界にお兄ちゃんとわたししか居ないような気がしました。

わたしは、お兄ちゃんの右腕を取って抱え込み、胸に抱き締めました。
わたしの体に当たった所から、お兄ちゃんの温もりが伝わってきて、
全身に熱が行き渡るようでした。
不安も怖れも無くなって、胸の奥に熱い塊が生まれました。

今なら、なんでも好きなことを、言えそうな気がしました。
胸の中の熱い塊が、だんだんと大きくなって、喉元まで上がって来ました。
ぼうっとした頭のまま、ひとりでに言葉が口を衝いて出ました。

「……お兄ちゃん」

わたしの熱っぽい声に、お兄ちゃんが答えました。

「ん? どうした?」

199  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 17:27
続けて口を開こうとした、その刹那、自分が何を口走ろうとしているのか、
ハッと気付いて、舌が麻痺しました。

どうして、今の今まで、お兄ちゃんにCさんという恋人が居る事を忘れていたのか?
それに実の妹が告白したら、お兄ちゃんは「気持ち悪い」と思うかもしれない。
この二つの思いが、わたしの舌を縛ったのです。

もう少しで口から出るところだった、「愛してる」という言葉だけでなく、
「なんでもない」という誤魔化しさえ、わたしの舌は紡いでくれませんでした。

わたしは、気遣わしげなお兄ちゃんの視線を避け、目をつぶって、
お兄ちゃんの肩に顔を埋めました。
お兄ちゃんは、何も言いませんでした。
お兄ちゃんの左手が、わたしの髪を繰り返し、優しく撫でました。

わたしは、熱い塊を胸の奥底に閉じ込め、お兄ちゃんの温もりに包まれながら、
眠りに落ちて行きました。

夢も見ない、一瞬の暗闇から浮かび上がると、わたしの腕の中には、
もう何もありませんでした。
目蓋を開いて、残っていたのは、お兄ちゃんの作ったシーツの皺だけでした。

「お兄ちゃん、行っちゃった……」

わたしは虚ろに呟き、シーツに顔を埋めました。
かすかに、お兄ちゃんの残り香がしました。
なぜだか、涙はひとしずくも湧いて来ませんでした。
胸の中が、空っぽでした。
大きな穴が開いて、冷たい風がひゅうひゅうと吹き抜けるようでした。

その日からわたしは、魂の無い人形になりました。

200  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 17:28
新学期が始まりました。
わたしに生じた外見上の異変は、ほんの些細なものでした。
誰かに話し掛けられても、ぼんやりするだけになりました。
授業中に指名されても、答えられない事がありました。
本を開いても、何も頭に入らなくなりました。

けれど、時間を掛けて体に染み付いた、習慣の力は偉大です。
何も考えていなくても、わたしは一人で起きて、
朝ご飯を作って食べ、身支度し、学校に行き、授業を受け、帰宅し、掃除し、
洗濯し、晩ご飯を作って食べ、お風呂に入って寝る事が出来ました。

わたしが言葉と表情を無くした事に気付く人は、誰も居ませんでした。
わたしは元々、学校でひとりぼっちでした。
今は、家でもひとりぼっちになっただけです。

201  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 17:29
わたしがお兄ちゃんに電話する事は、
お兄ちゃんに里心が付くといけないからと言って、両親に禁じられていました。
田舎の電話番号も、正確な住所さえ、教えて貰えませんでした。
わたしが毎晩、何時間も長距離電話するんじゃないか、と疑われたのです。
実際、禁じられていなかったら、そうしていたかもしれません。

わたしの目に映る、お兄ちゃんの居ない世界は、影絵のようでした。
わたしはその中で、死んではいないだけで、生きてもいませんでした。
一日一日が同じ事の繰り返しになり、昨日と今日の区別が曖昧になりました。
休日の朝、登校して、正門が閉まっているのを見て、そのまま帰る事もありました。

わたしは何も見ず、何も感じず、何も考えず、
ただ、胸に開いた大きな穴を通り過ぎる、風の音だけを聞いていました。

2月の末になって、ようやくわたしの異変に気付いた人が居ました。
担任の先生でした。

わたしはテストの日の後、職員室に呼び出されました。
先生はわたしを会議室に連れて行って、扉を閉めました。
わたしは椅子に座らされ、先生と膝を突き合わせました。
わたしがぼんやり遠くを眺めていると、先生が口を切りました。

「××さん。どうしたの?
 テストの点数が3学期になってから落ちてるけど。
 まだ平均点よりは上だけど、あなたからすると信じられないようなミスをしてる」

202  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 17:31
「すみません」

わたしは機械的に頭を下げ、それっきり黙り込みました。
先生は心配そうな顔で、言いました。

「何か、悩み事があるんじゃないの?
 先生に相談してみない?」

わたしはちらりと先生の顔に、目を遣りました。
先生に話しても、お兄ちゃんが帰って来るなんて、あり得ません。
わたしはまた遠くを見て、沈黙を守りました。
先生はため息を一つ吐き、こう告げました。

「黙っていたんじゃ、どうしようもないでしょ。
 このままだとまた、
 お父さんやお母さんに来ていただかないといけなくなるけど?」

脳裏に、以前両親が呼び出された時の事が蘇りました。

「駄目ッ!」

自分でもびっくりするほどの大声でした。
わたしはいつの間にか、立ち上がっていました。

「お父さんもお母さんも関係ない!
 どうして先生は余計な事ばっかりするの!」

大人と話す時、いつも使う敬語を、わたしは忘れていました。
息が荒くなって、胸が大きく波打ちました。

「お兄ちゃんが殴られたのも、先生のせい!
 あんな事が無かったら、
 お兄ちゃんはまだ家に居たかもしれないのに!」

203  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 17:31
無茶な八つ当たりだと、自分で分かっていても、止まりませんでした。
言いながら、涙が溢れて来ました。
慣れない大声を出して、喉がひりひりしました。

いつも大人しい、わたしの突然の爆発に、先生は驚いて口を開けていました。
やがて先生は、目を細め、そっとわたしの肩に手を置きました。

「わかった。
 お父さんやお母さんは呼ばない。
 約束する。
 だから、座りなさい。
 ……お兄ちゃんが、居なくなったの?」

わたしは、こくこくと頷きました。
そして切れ切れに、お兄ちゃんが遠くに遣られた事を、語りました。

「お兄ちゃんが遠くに行ってしまったから、
 勉強もなにも手に着かない、ということね?」

先生はしばらく思案してから、続けました。

「お兄ちゃんは、遠くに行って、
 友達とも別れて、一人で頑張ってるのね?」

わたしは頷きました。お兄ちゃんが、頑張らないはずはありません。

「もし、お兄ちゃんが突然帰って来たら、どうする?  あなたが、暗い顔して、いつもぼーっとしてるの見たら、
 お兄ちゃんはどう思うかな?  恥ずかしく、ない?」

そう言われて、わたしは愕然としました。
お腹がすうっと冷たくなりました。
わたしが何もしないで、人形のように、ただ日々を浪費していた事を、
お兄ちゃんに知られたら……。
恥ずかしさで、胸が灼けるようでした。
わたしはやっとの事で、言葉を絞り出しました。

「恥ずかしい……です」
204  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 17:32
「そんなら、頑張らなくっちゃ。
 あなたは勉強は問題ないし、
 もっと積極的に友達を作るようにすれば、
 きっと素敵になって、
 お兄ちゃんもびっくりするよ?」

わたしは再び立ち上がり、深々とお辞儀しました。

「先生……ありがとうございました。
 それから、さっきは怒鳴ったりして、ごめんなさい。
 わたし……頑張ります」

先生はわたしの肩をぽんぽんと叩き、言いました。

「いいっていいって。
 悩み事があったら、いつでもいらっしゃい。
 もう帰っていいよ」

帰り道、歩きながらずっと、わたしは考え続けました。
自分を変えなければいけない、と思いました。
お兄ちゃんが、恥ずかしいと思わないような妹にならなければ、
お兄ちゃんに顔を向ける事などできません。

お兄ちゃんが居なくなって、以前、大人になりたいと願った決心とは、
比べ物にならないほど、熱い力が体中に漲りました。

お兄ちゃんが最後の日に、わたしに残した言葉を思い出しました。
一人で頑張ること。良い友達を作ること。

胸の穴は、まだ塞がっていませんでした。
でも今、わたしには、はっきりした目的が出来ました。
205  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 17:34
目的が出来ると、どこからともなく、活力が湧いてきました。
まずは、一人で頑張ることから始めよう、と思いました。

良い友達を作るのは、わたしにとって、とてつもない難題だったからです。
小学校での5年間、一人の友達も作れなかったのに、
思い立ったと言っても、いきなり良い友達を作れるわけがありません。

お兄ちゃんが居なくなってから、家の中は荒れていました。
わたしは休みの日に、一日中かけて、家中を掃除しました。

特にお兄ちゃんの部屋は、念入りに雑巾掛けして、埃一つ無いようにしました。
布団を干し、シーツを洗うと、お兄ちゃんの匂いが薄れていくようで、
胸がちくりと痛みました。

それからも、お兄ちゃんがいつ帰って来ても良いように、
お兄ちゃんの部屋の窓を開けて風を入れ、埃が溜まらないように、
毎日欠かさず掃除しました。

料理ももう、お兄ちゃんに教わることはできません。
新しいメニューを覚えて、お兄ちゃんを驚かせるために、
写真のたくさん載った料理の本を買ってきました。

わたしの腕前は、味付けも盛り付けも、お兄ちゃんには遠く及びませんでしたが、
それでも、お兄ちゃんが疲れている時ぐらいは、代わりに料理できるように なりたかったのです。

206  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 17:35
意外な盲点だったのは、食材の買い出しでした。
わたしがスーパーで選ぶ品は、料理する以前から、
お兄ちゃんの買ってきた物より、質が落ちるような気がしました。

こんなことなら、お兄ちゃんと一緒に買い物に行って、
食材の見立て方を教わっておくんだった、と後悔しました。

家計の管理も、お兄ちゃんの居ない今は、わたしが引き継いでいました。
わたしは、克明に家計簿を付けることにしました。

毎日、一円の狂いも無いように記帳していると、そのうち、どこのお店で
何が安いのか、わたしにも見当が付くようになりました。

浮かせたお金は、いつか、お兄ちゃんの住んでいる所が分かった時の
ために、旅行資金として貯金箱に入れました。

その頃、同級生で塾に通ったことの無いのは、たぶんわたしだけでした。
わたしは、学年でトップの成績を取る、と心に決めました。

それまで特に、勉強というものをしたことがありませんでしたが、
お兄ちゃんが使っていた、6年生や中学の教科書・参考書を読んで、
まだ授業で習っていないところまで、予習をしました。

知識を広げるために、文学以外の本も読むようになりました。
学校の図書室でも、市立図書館でも、同じ学年で、わたしよりたくさんの 本を読んでいる人は、たぶん居なかったと思います。

時間を無駄にしないように、登下校中にも、歩きながら本を読みました。
最初のうちは、電柱にぶつかる事もありましたが、慣れてくると、
無意識によけられるようになりました。
今思うと、周囲の注目の的になっていたに違いありません。

そうしているうちに、桜の花が咲き、わたしは6年生になりました。
新しいクラスで、友達を作るまでは行かなくても、せめて、
クラスメイトと普通に会話ができるようになろう、と決意しました。
207  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 17:37
第一歩は、ノートを取ることから始めました。
わたしは、人の名前と顔を覚えるのが、大の苦手だったからです。
それまではクラスメイトでさえ、半分も名前を覚えていませんでした。

わたしは、黙って周囲の声に耳を傾けながら、
こっそりと、専用のノートに名前とへたくそな似顔絵を描き、
誰と誰が友達で、誰と誰が反目しているか、細かく記入していきました。

その時まで、注意して聞いていなかったため、耳に入っていなかった クラスメイトの会話は、わたしの気を滅入らせました。

テレビの話。ゲームの話。漫画の話。芸能界の話。お洒落の話。
そして、その場に居ないクラスメイトの噂話。
かろうじてわたしの興味を惹いたのは、漫画の話ぐらいで、
それさえも、話題の対象はわたしの趣味と、食い違っていました。

わたしは、一時撤退して、戦略を練り直すことにしました。
5年間のブランクは、わたしの周りに壁を築いていました。
興味もなく、知識もない話題に、いきなり加わるなんて、
どう考えても自殺行為に思えました。

考えあぐねた末、お兄ちゃんはどうしていただろう、と思い当たりました。
お兄ちゃんにはユーモアのセンスがあり、いつもわたしを笑わせてくれました。
わたしにそんなセンスはありませんでしたが、あらかじめネタを仕入れて、
繰り返し練習しておけば、なんとかなるかもしれない、と思いました。

とりあえず、落語の本やコントの本、ジョーク集を借りてきました。
長い文章を覚えても、わたしの喋り方では最後まで聞いてもらえそうにないので、
一つ一つが短いジョーク集に的を絞って、丸暗記することにしました。

何度か暗唱してから、念のために、お兄ちゃんの部屋のステレオセットに
吹き込んで、自分の声を聞いてみました。
わたしは落胆のあまり、思わずクッションに倒れ込みました。
抑揚のないわたしの声は、ジョークと言うより、むしろお経に似ていました。
208  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 17:38
しかしこの頃のわたしは、めげるという事を知りませんでした。
深呼吸して落ち着いてから、ジョークを頭の中でシミュレートし、
抑揚や声の大きさを考えて、本にマーカーで書き込みました。

喉がかれるまで練習した挙げ句、なんとか、やや不自然かな、
というレベルにまで達しました。

数日後、昼休みの教室で、待ちに待ったチャンスが巡ってきました。
女の子のグループが、固まって談笑している側に腰を下ろし、
会話の途切れる頃合を見計らって、とっておきのジョークを披露しました。

突然、話し始めたわたしに、教室中の視線が集まりました。
わたしの声に耳を傾けたみんなは、あっけに取られているようでした。
わたしが最後まで言い終わると、教室に、死の沈黙が舞い降りました。

クラスメイトたちは、わたしから目を逸らし、何も言いませんでした。
おそらくみんなは、わたしの正気を疑っていたんじゃないか、と思います。

この時、わたしが話したジョークが何だったのか、この後、
わたしが何をしたのか、なぜだかどうしても、思い出せません。
どうやら、忌まわしい記憶として、封印されてしまったようです。

それでもわたしは、諦めませんでした。諦める訳にはいきませんでした。
同じような事が何度か続いた後、ある日の国語の授業で先生が、
家で父親をどういう風に呼んでいるか、とみんなに聞きました。

クラスメイトが口々に「お父さん」「お父ちゃん」「親父」「パパ」などと 声を上げました。
わたしは、前に読んだ落語の本を思い出し、一通りみんなが言い終わって、
ざわめきが静まってから、できるだけ大きな声を出しました。

「おとっつぁん!」

一瞬、教室は静まり返り、続いて爆笑の渦に包まれました。
わたしは、げらげら笑うクラスメイトの顔を見ながら、自然と微笑みました。
209  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 17:39
それからだんだんと、タイミングを見て、真面目な顔でボケた事を言うのに 慣れて来ました。

まだクラスメイトたちと、打ち解けて話せるようにはなっていませんでしたが、
わたしにとっては、一大進歩でした。

夏の初め。
わたしは、6年生になってからずっと、心に温めていた計画を実行しました。
夏休みに、お兄ちゃんの所に行きたい、と、父親に訴えたのです。
父親は、小学生のわたしに独り旅ができる訳がないと、鼻で笑いました。

わたしは、攻略目標を変更しました。
軽蔑している父親に、それ以上、乞いたくなかったからです。

遅く帰ってくるお母さんを待ち構え、
半年も会っていないお兄ちゃんに会いたい、と訴えました。
お兄ちゃんは、春休みに帰って来ませんでした。
高校受験を控えて、夏休みにも帰って来るとは思えません。

お母さんがすんなり許してくれる、とは、最初から期待しませんでした。
それでも、しつこく1ヶ月も嘆願を続けると、根負けしたようです。
お母さんは、ふだん気にしたこともないのに、
夏休みに遊んで勉強は大丈夫か、と尋ねて来ました。

わたしは、実技科目以外はオール5を取る、と約束しました。
そして家計簿を見せ、半年のあいだに、家計を節約して、
十分な旅費を貯めた事実を明かしました。

父親は夕食の席で、お母さんから話を聞いて、
「勝手にしろ。俺は知らん」と言いました。
210  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 17:40
わたしは時刻表を買ってきて、旅行の計画をひとりで立てました。
ページをめくりながら、わたしの心は、すでに遠くD地方に飛んでいました。

半年のあいだに、わたしの髪は、あのCさんより長くなっていました。
背も少し伸びて、服や靴が窮屈になって来ました。

わたしはある日曜日、新しい服と靴を買いに行くことにしました。
外はもう、日射しの厳しい季節になっていました。
自転車で行くのは諦めて、日傘を差してバス停に向かいます。
思い出せる限り、あのデパートに一人で行くのは初めてでした。

上りのエスカレーターに進みながら、その横のワゴンに目が止まりました。
若者向けのアクセサリーや化粧品が売っていました。

鏡に自分の顔を映すと、血の気の薄い唇が目に付きました。
わたしは、唇の色を明るくするリップクリームを1本、買いました。

婦人服のフロアに向かうわたしは、すでに買う服のイメージを決めていました。
色のコーディネートに自信が無かったので、シンプルなデザインで、
袖口と襟だけが薄い水色の、真っ白いワンピースを探しました。

店員に声を掛けられないように、早足で売場をぐるぐると回りました。
わたしの目に、イメージにぴったりのワンピースが飛び込んで来ました。
わたしは躊躇せず、店員に「あれ、下さい」と指さしました。
ワンピースに合わせた、白いローヒールの靴も、買いました。

終業式の日、わたしはオール5の通知票をお母さんに見せ、
夏休みが始まって1週間で、宿題をすべて片付けました。

わたしはお母さんから、お兄ちゃんの詳しい住所と電話番号のメモを貰いました。
白いワンピースで正装し、白い麦わら帽子を被ると、身が引き締まりました。
冒険の旅の、始まりです。

211  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 17:41
飛行機に乗るのは、生まれて初めての経験でした。
空港の最寄り駅まで、乗り換えて行かなければなりません。
乗り換えホームまでは、前もって調べられませんでした。

わたしは経路を記したメモを、駅員に見せて道を聞き、
なんとか間違えずに、空港行きのバスに乗りました。
初めて見る空港は、頭の中のイメージとは、ずいぶんと違っていました。

たくさんの人がロビーを行き交い、カウンターがあちこちにあります。
わたしは案内板を頼りにして、国内線のカウンターの前に立ちました。
佇んでいると、カウンターの制服を着た女の人が、わたしを見ました。

「どうしたの? お嬢ちゃん」

「E空港まで、子供1枚、お願いします」

女の人は、首をきょろきょろさせて、辺りを見回しました。
付き添いの大人を探していたのでしょう。
女の人が聞いてきました。

「お嬢ちゃん、一人?」

「はい」

「飛行機に乗るのは、初めて?」

「はい。田舎のお兄ちゃんの所に行きます」

「じゃあ、一番前の、窓際の席を取ってあげるね」

わたしは背中のディバッグを下ろし、中のがまぐちからお金を出して
支払いしました。
212  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 17:43
搭乗時刻まで、まだかなり時間がありました。
わたしは、空港を見て回ることにしました。

売店の書籍売場で、文庫本を買おうとして、やっぱり止めました。
気が逸って、とても読書に集中できそうになかったからです。

なにか食べておくべきだろうか、とも思いましたが、
緊張のせいか、何も喉を通りそうにありませんでした。

搭乗時刻が近付くと、乗り遅れたら大変なので、ソファーに座って
じっと待ちました。

トンネルのような通路を抜けて、ジェット機の中に入りました。
わたしの席は、一番前の列の、左側の窓際でした。

隣の席に、和服を着たお婆さんと、小学1年生ぐらいの男の子が座りました。
男の子は、窓の外をじっと見ています。
わたしは、外の景色に興味がなかったので、立ち上がって言いました。

「席、替わります」

お婆さんは驚いたようでしたが、男の子はさっさとわたしの席に座り、
窓にかじり付きました。

「あらあらあら、ごめんなさいネェ」

お婆さんがぺこぺこ頭を下げ、わたしも同じだけお辞儀しました。
席に着くと、お婆さんが話し掛けてきました。
わたしが聞かれるままに答え、遠いD地方に居るお兄ちゃんを、
一人で訪ねるのだと言うと、しきりに感心していました。

213  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 17:44
お婆さんに分けてもらったお菓子を食べ、ジュースを飲んでいるうちに、
わたしの主観ではあっという間に、E空港に着きました。
気流が安定していたためか、心配していた飛行機酔いにもなりませんでした。

飛行機を降りて、ロビーに出ると、お婆さんと男の子の出迎えに、
30過ぎの夫婦が来ていました。
お婆さんは、夫婦にわたしを紹介し、席を譲ってもらったお礼に、
駅まで車で送ってあげると言いました。

男の子の父親らしい、男の人が運転するセダンに乗せられて、
次の通過点になる駅に向かいました。

もう昼を過ぎていたので、途中でレストランに寄って、具のたくさん載った、
冷やしうどんをごちそうになりました。
お婆さんはお小遣いまでくれようとしましたが、さすがにそれは遠慮しました。

駅に着くと、道がややこしいからと言って、お婆さんは入場券を買い、
ホームまでわたしを送ってくれました。

お礼の手紙を書くために、連絡先の住所を紙に書いてもらい、
麦わら帽子を振って、手を振るお婆さんに別れを告げました。

214  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 17:44
お婆ちゃんの家の最寄り駅までは、特急と普通を乗り継ぐ必要がありました。
数時間後、普通列車を降りた時には、乗り物酔いで気分が悪くなっていました。

ホームから改札への通路を歩いていると、吐き気がこみ上げてきました。
わたしは、急ぎ足でトイレに向かいました。

個室に入って吐こうとして、ハッとしました。
今吐いたら、しぶきが掛かって、新調したワンピースが汚れてしまいます。

喉元までせり上がっていた塊を、わたしは呑み込みました。
口の中が酸っぱくなり、涙が滲んできました。

わたしは急いでワンピースを脱ぎ、個室の壁のフックに掛けました。
下着姿になってしゃがみ、昼に食べた物を便器に戻しました。

そのまましばらく休んでから、汚れた口をハンカチで拭き、
床で裾を汚さないように気を配りつつ、ワンピースを着ました。

個室を出て、洗面所で顔を洗い、歯を磨きました。
鏡を見ると、唇に血の気がありませんでした。

わたしはリップクリームを取り出して、緊張に震える手で、唇に塗りました。

215  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 17:46
駅からお婆ちゃんの家までは、路線バスに乗らねばなりません。
時刻表には、地方の路線バスまでは載っていませんでした。

電話してお兄ちゃんに迎えに来てもらうのが、たぶん最善だったでしょう。
でもわたしは、お兄ちゃんの前に突然姿を現して、驚かせたかったのです。

以前のわたしなら、見知らぬ通行人に声を掛けられなかったかもしれません。
その時のわたしは、ただ目的地を目指すことしか頭にありませんでした。

わたしは駅前ロータリーのバス停で、バスを待っている人にメモを見せて、
どの行き先のバスに乗れば良いのか尋ねました。

しかし運の悪いことに、教えられたバスの行き先は、方向がずれていました。
何かおかしい事に気付いて、運転手に尋ね直した結果、
終点まで行って、また駅に戻ることにしました。

ところが、バスに揺られているうちに、乗り物酔いがぶり返してきました。
わたしは駅に戻る途中で降ろしてもらい、歩いて行くことにしました。

日射しはだいぶ傾いていましたが、アスファルトの道を歩いていると、
体中から汗が噴き出してきました。

途中で何度も歩いている人に道を聞き、目指す所番地に近付いた頃には、
白かったワンピースが、汗と土埃でよれよれになっていました。
白い靴も埃にまみれ、履き慣れていないせいで、靴擦れが痛みました。

216  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 17:47
疲れた足を引きずって、お婆ちゃんの家があるはずの所まで来ました。
2軒の家のあいだに、細い私道が伸びていました。

家と家のあいだに入ると、奥まった家の玄関の前に、真っ黒に日に焼けた、
髪の短い男の人が、腕組みをして立っているのが見えました。

目と目が合いました。

「……○○、か?」

「…………お兄、ちゃん?」

記憶の中のお兄ちゃんとの、あまりの違いに、わたしは唖然としました。

目の前のお兄ちゃんは、頭を丸刈りにし、黒いタンクトップのTシャツ姿で、
ハーフパンツを穿いて、逞しい肩と臑を剥き出しにしていました。

お兄ちゃんが近寄って来て、頭の天辺から足の爪先まで眺め回しました。
わたしは、自分の服が薄汚れていることを、思い出しました。

「……お兄ちゃん、あんまり、見ないで」

「ん……ああ……すまんすまん。
 あんまりお前が変わってたんで、びっくりしてな。
 そんなに髪を伸ばしてるとは、思わなかった……」

お兄ちゃんも、妙に慌てているようでした。

217  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 17:48
「ま、こんな所で立ち話も何だ。
 早く中に入って、爺ちゃん婆ちゃんに挨拶しなきゃ」

わたしは、お兄ちゃんに肩を抱かれるようにして、玄関をくぐりました。
帽子を脱いでバッグを置くと、仏間に通されました。

自宅には、神棚も仏壇も無かったので、お兄ちゃんにやり方を聞いて、
会った記憶もない、曾お爺ちゃんの位牌に、線香を上げて手を合わせました。

その次は、奥の間で寝たきりになっている、曾お婆ちゃんにご挨拶です。
わたしは畳の上に正座して、指を突いて頭を下げました。

「お婆ちゃん。○○です」

曾お婆ちゃんは口をふごふごさせて、手を振りました。
曾お婆ちゃんには、わたしが誰だか、よく分かっていなかったようです。
そのあと居間で、お爺ちゃんとお婆ちゃん、叔父さんにご挨拶しました。

挨拶が済むと、夕食になりました。
夕食の席では、お爺ちゃんの影が薄く、お婆ちゃんが大きな声を出して、
一人で喋っていました。

「遠いところを一人でよう来たよう来た。
 えろう大きゅうなったな。
 6年生になったか?
 もっと食べて太らにゃいかんで……」

どうやらお婆ちゃんは耳が少し遠いらしく、勝手に延々と喋るので、
相槌を打つきっかけが掴めません。

おみそ汁は、わたしの舌には濃すぎる味付けで、おつゆを飲めませんでした。

218  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 17:49
しばらく経って叔父さんが、お婆ちゃんにも聞こえる大きな声で、
話を遮りました。

「母ちゃん。話はもうそれぐらいにしとき。
 ○○も長旅で疲れとるやろ。
 早う風呂に入って休んだ方がええ
 風呂は沸かしてあるし、客間に布団も敷いてある」

叔父さんはわたしの父親の弟で、面立ちこそわたしの父親によく似ていましたが、
笑い皺の目立つ優しげな目をしていました。

お兄ちゃんが間取りを説明しながら、脱衣所まで案内してくれました。
わたしは下着の替えだけは、ディバッグに入れて持って来たものの、
パジャマや他の着替えは、別に宅配便で送っていました。

「お兄ちゃん」

「……ん?」

「荷物、明日届くと思うけど、今夜着るパジャマが無いの。
 お兄ちゃんのパジャマ、貸してくれない?」

お兄ちゃんは、真面目くさった顔で答えました。

「ん……それは困ったな。
 こっちじゃ、夏場は寝苦しいから、みんな裸で寝るんだ。
 余分の布団も無いぞ。俺の布団で寝るか?」

219  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 17:51
「え……?」

頭の中が、真っ白になりました。
わたしは口をぽかんと開け、お兄ちゃんの目を見ました。
吐く息が熱くなって、喉を灼くようでした。

お兄ちゃんは、うろたえた顔で言いました。

「……お前、なに真っ赤になってんだ。
 冗談に決まってるだろ?」

「……ウソ……だったの?」

お兄ちゃんが、こんな下品な冗談を口にするなんて、信じられませんでした。
胸の奥にある、お兄ちゃんの偶像に、細いヒビが入りました。
裏切られたような気がして、思わずお兄ちゃんを睨んでいました。

「……お兄ちゃんの、馬鹿ッ!」

わたしはお兄ちゃんを廊下に残して、脱衣所の扉を閉めました。
服を脱ぎ捨てて畳み、風呂場に入ると、自宅の2倍は広い、立派な檜風呂でした。
お湯には、白く濁る温泉の素が溶かしてありました。

わたしは目をつぶって、頭からお湯を被りながら、考えました。
お兄ちゃんは、変わってしまったんだろうか?
それとも、お兄ちゃんは昔のままで、わたしが知らなかっただけなんだろうか?

不安が、黒い雲のように胸を覆ってきました。
湯船に肩まで浸かっても、体が温まらないような気がしました。
日に当たった二の腕が、ぴりぴりと痛みました。

涙が、じんわり滲んできました。
わたしは何のために、はるばるやって来たんだろう、と思いました。
と、その時、ハッと一つの疑問に思い至りました。
220  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 17:52
前もって電話していないのに、どうしてお兄ちゃんは外に立っていたのか?
もしかして、わたしが来るのを、何時間もずっと待っていたんだろうか?
お兄ちゃんなら、きっと心配していたに違いありません。

どうしてその事を、今まで疑問に思わなかったのか、自分でも不思議でした。
そう言えば、わたしはまだ、お兄ちゃんにちゃんと挨拶さえしていません。

お兄ちゃんの外見が変わっていたので、気が動転していたのでしょう。
それならお兄ちゃんも、わたしが変わったのに動揺したのかもしれません。

わたしは、さっきお兄ちゃんを、馬鹿呼ばわりした事を思い出しました。
ふだんのわたしなら、そんな事をお兄ちゃんに言うなんて、考えられません。

つらつら考えているうちに、のぼせそうになってきました。
湯船から上がって、いつもの順番で機械的に体を洗いました。

もう一度きちんと、お兄ちゃんと話し合わなければいけない、と思いました。
せっかく7ヶ月ぶりに会えたのに、いきなり喧嘩するなんて、あんまりです。

どういう風に話をするか、じっくり考えながら、髪を洗います。
愛用のシャンプーとリンスとトリートメントを使って、
長い髪を整えるのは、けっこう時間が掛かります。

ようやく終わった時には、体が冷えてきました。
もう一度湯船に浸かって体を温めてから、風呂場を出ました。

脱衣所の籠の中に、タオルと、バスタオルと、男物の白いボタンダウンシャツが、
畳んで入れてありました。

ボタンダウンシャツは、洗いたてのようで、お兄ちゃんの匂いはしませんでした。

わたしはバスタオルで体を拭き、タオルで髪を包んで湿り気を取りました。
鏡を見ると、顔に血の気が戻っていました。
221  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 17:53
新品のショーツを穿き、薄いシャツを着てから、ボタンダウンシャツを
羽織ってみました。

わたしは去年より少し、胸が膨らんでいましたが、まだブラジャーが
必要になるほどではありません。

ボタンダウンシャツは、綾織りの透けない生地だったので、
暑くなりそうだと思って、素肌に着る事にしました。
ボタンの左右がブラウスと逆で、ボタンを穴にはめるのに苦労しました。

ボタンダウンシャツはぶかぶかで、袖口を何度も折り返す必要がありました。
最後にわたしは、リップクリームを取り出して、唇を塗り直しました。

お兄ちゃんの部屋に行く前に、客間に荷物を置きに行きました。
襖を開けると、中でお兄ちゃんが、胡座をかいて待っていました。

お兄ちゃんは膝立ちになり、がばっと畳に手を突いて、言いました。

「○○、すまん!  さっきはお兄ちゃん、どうかしてたみたいだ。
 許してくれ」

お兄ちゃんに、こんな情けない格好をさせてしまった、と罪悪感を覚え、
わたしも同じように、四つん這いになって言いました。

「いい。もう、怒ってない。
 それよりさっき、酷いこと言って、ごめんなさい。
 あれも、ウソ。
 だから、おあいこね」

お兄ちゃんは上体を起こして、にっこり笑いました。
白い歯がこぼれるのを見て、わたしは、ああ、お兄ちゃんの笑顔だ、
と思いました。

「……でも、あんな冗談、いつも言ってるの?」

「いや、そんなこと無いって。
 こっちのクラスの女子は開けっぴろげでさ。
 下ネタも平気で言うもんだから、つい、釣られてさ」

「……やっぱり、言ってるのね……」

「あんまり虐めるなよ……。どこでそんな言い方覚えたんだ?」
222  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 17:55
情けない顔をするお兄ちゃんを見て、わたしはくすくす笑いました。

「練習したの。
 お兄ちゃんが話してくれた、ジョークを思い出して。
 まだ、お友達は出来ないけど、
 たまには、クラスの子を笑わせたり、できるようになった」

「ホントか?
 良かったなあ……。
 なんかお前、明るくなったみたいだ」

「お兄ちゃんと、また会えたから」

わたしはきちんと座り直して、畳に指を突きました。

「まだちゃんと挨拶してなかったけど……
 お兄ちゃん、会いたかった……」

お兄ちゃんは、座り直して「うん、俺も」と言ってから、
お腹を抱えて笑い出しました。

「くっくっくっくっく……。
 これじゃあなんだか、お見合いだよ。
 あー苦しい。お前も腕を上げたな」

「もう! 今のは真面目に言ったのに」

「くくくく。いや、お前、お笑いの才能あるよ」

223  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 17:56
わたしがそっぽを向くと、お兄ちゃんがしみじみと言いました。

「しかし、お前、髪伸びたなあ。
 そんなに長く伸ばしてるなんて、知らなかった。
 見たことない服着てたし、最初見たとき、見違えちゃったよ。
 背も伸びたんじゃないのか?」

わたしは振り向いて、言いました。

「お兄ちゃんだって。最初、誰だか分からなかった。
 髪、すっごく短くしてるし。着ている物も、ぜんぜん違うし」

わたしの背は少し伸びていましたが、お兄ちゃんはもっと伸びていました。

「んー。これは、ま、仕方がないんだ。
 こっちは色々と厳しくてな。中学のあいだはみんな丸坊主だ。
 あっちで着てたみたいな服だと、軟派だって思われるしな」

「……硬派って、あんなエッチな冗談、言うの?」

「あー。その話はもう勘弁してくれって!
 お前が来るのを楽しみにしてたけど、
 こんなに成長してるなんて、思わなかったよ」

わたしはまた、くすくす笑いました。

224  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 17:56
「……でも、不思議。
 どうして、わたしが来るって、分かってたの?」

「なんでって……? そりゃ、お袋が1週間前に電話してきたからさ。
 お前、旅行の予定表をお袋に見せただろ?」

常識的に考えれば、子供を一人で旅に出すのに、前もって旅行先に、
連絡しておかない親などいません。
わたしはお母さんに、そういう常識があることを知って、驚きました。

「てっきり、駅に着いたら電話してくると思ったんだけどな。
 なんで電話しなかったんだ?」

「……ごめんなさい。
 いきなり来て、お兄ちゃんをびっくりさせようと思って。
 心配、した?」

「ん、ま、そりゃ、心配したけどな。
 なんにしても、無事に着いたんだからもういいさ。
 お前の元気そうな顔見たら、吹っ飛んだよ。
 あのワンピース、一人で買いに行ったのか?」

「うん」

「よーし。偉い偉い。センス良いぞ」

お兄ちゃんの手が伸びてきて、わたしはまた、頭を撫でられるのだと
思いました。でも、なぜか、お兄ちゃんは手を引っ込めました。

225  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 17:58
わたしが首を傾げると、お兄ちゃんが立ち上がって言いました。

「髪、ちゃんと乾かしておかないと、風邪引くぞ。
 ドライヤー貸してやるよ。
 それに、お前、まだ起きてて大丈夫なのか?」

「せっかく来たんだから、もっとお話したい。
 お兄ちゃんも、お風呂入ってきて。
 ずっと外に立ってたんだから、汗かいたでしょ?
 お湯はもう、ぬるくなってると思うけど……」

「そっか。じゃ、沸かし直して一風呂浴びてくるか」

お兄ちゃんは、ドライヤーを取って来てから、風呂場に行きました。
わたしは、お兄ちゃんが居ないあいだに、髪を梳く事にしました。

艶を出すためのヘアクリームを擦り込んで、低めの温度でブローします。
ヘアスプレーは、匂いで頭が痛くなるので、わたしは使いません。

壁に立てかけた手鏡を見ながら、家から持ってきたブラシで、
丁寧にブラッシングしていると、襖の開く音がしました。

わたしは振り返って、そのまま硬直しました。
お兄ちゃんは、紺地に白のチェックのトランクスを穿いて、
上は白いランニングシャツ一枚で、タオルで頭を拭いていました。

薄いシャツの生地を通して、乳首が透けて見えそうでした。
お兄ちゃんが胡座をかくと、パンツの隙間から、あそこが見えそうでした。

226  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 17:59
わたしはバッと下を向いて、言いました。

「……お、お兄ちゃん……なんで、パジャマ着ないの?」

「ん……?
 ああ、さっきの裸で寝るってのはウソだけどな。
 寝苦しいってのはホントだ。
 いつもはパンツ一丁で寝てるんだ。
 今日はシャツも着てきたけどな。
 ……って、なに下向いてんだ?」

一昨年まで一緒にお風呂に入っていたのに、どうしてこんなに恥ずかしいのか、
自分でもよく分かりませんでした。顔が火照って、耳まで熱くなりました。

わたしは自分の胸を抱いて、動悸を静めようとしましたが、なかなか収まりません。
胸を押さえる手も、頭も、体中が、どきどきしました。

「……おい、そんなに恥ずかしがるなよ。
 こっちまで照れるじゃないか。
 ……ハァ、しょうがないな」

お兄ちゃんは、襖を開けて出て行きました。
お兄ちゃんが居なくなって、深呼吸すると、だんだん気が静まってきました。

襖が開いて、お兄ちゃんが入って来ました。
今度は、黒いタンクトップのTシャツに着替えて、パンツの上に、
水色のショートパンツを穿いていました。

227  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 18:00
「落ち着いたか? これでどうだ?」

わたしは頷きました。

「ん……わけわからん。
 出てるところさっきと変わらんぞ?」

お兄ちゃんは、不思議そうでした。

「……ぜんぜん違う」

どう違うのかは、うまく説明できませんでした。
お兄ちゃんの顔が、ふと意地悪そうになりました。

「でも、お前の格好の方が、どっちかというと恥ずかしいんじゃないか?」

なにが恥ずかしいのか、わたしにはよく分かりませんでした。
ワイシャツの袖は、折り返しても二の腕を隠していましたし、
裾は膝まで届いていて、脇の切れ込みから、太股が少し覗いているだけです。

「……?
 これ、お兄ちゃんが貸してくれたんでしょ?
 でも、どうして長袖なの?」

お兄ちゃんは、半袖のワイシャツも持っていたはずです。
お兄ちゃんは、言いにくそうに答えました。

「ん……ま、その、あれだ。
 パジャマは冬物しか無いしな。
 俺のTシャツとか、半袖のワイシャツだと、
 その……胸が透けるかもしれないだろ?
 ……決して、変な趣味だからじゃあ無いぞ」

「……?」

お兄ちゃんをからかう、絶好のチャンスでしたが、この時はまだ、
変な趣味の意味が、わたしには分かっていませんでした。

「……そんなことはどうでもいい。
 それより髪、編んでやろうか?」

「お兄ちゃん、三つ編み出来るの?」

「おう。結構上手いんだぞ。
 クラスの女子に教えてもらったんだ」

なんだか、お兄ちゃんのイメージが、大きく変わりそうな気がしました。
228  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 18:01
お兄ちゃんに髪を弄られながら、聞きました。

「お兄ちゃん、女の子と遊んでるの?」

「……その言い方は語弊あるけどな。
 こっちに来た最初のうちは、男子の中で孤立してたから、
 女子の友達の方が先に出来たんだ。
 丸坊主にして、一緒に馬鹿やるようになってから、
 男の友達もたくさん出来たけどな」

「……そう」

転校して7ヶ月で、たくさん友達を作るなんて、さすがお兄ちゃんだ、
と思うと同時に、何かしら淋しい気もしました。

「……Cさんとは、どうなったの?」

お兄ちゃんの手が、止まりました。

「ん……ああ。あいつとは……別れた」

「え?」

わたしは、自分の耳を疑いました。

「手紙をやりとりしてたんだけどな。
 こないだ、新しい彼氏が出来たんだそうだ」

229  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 18:02
「……そんな」

「ん……あいつ、淋しがりなんだ。
 やっぱり、側に誰か居てやらないと、駄目なんだろ。
 仕方が、ないさ。
 あんまり、あいつのこと、悪く思わないでやってくれ」

お兄ちゃんにそう言われても、わたしには、納得できませんでした。

「でも……。
 お兄ちゃんはもう、Cさんのこと、忘れちゃった?」

「……忘れてはいないけどな。
 正直、時間が経つと、思い出すこと、だんだん少なくなってる」

お兄ちゃんの声は、淋しそうでした。

「……お兄ちゃん、わたしのことも、忘れる?」

わたしの声は、少し震えていたかもしれません。

「……馬鹿。そんなわけないだろ。
 彼女は別れたらもう他人だけど、
 お前は一生、俺の妹だ」

お兄ちゃんの優しい声が、胸に沁み入るようでした。

お兄ちゃんはそれから、黙々と手を動かしました。
わたしも、黙っていました。
でも、その沈黙は、決して嫌ではありませんでした。

230  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 18:04
「おっと、紐がないな。
 ○○、ちょっと端っこを手で持っててくれ」

お兄ちゃんは、わたしに編んだ髪の端を持たせて、出て行きました。
しばらくして戻って来た時は、手に赤いゴム紐を持っていました。

大きく編んで端をゴム紐で縛った髪の房を、
お兄ちゃんの硬い手のひらが包んで、わたしの左肩に載せました。
お兄ちゃんの指先が、わたしのうなじをくすぐって、ぞくりとしました。

「うん。我ながら良い出来だ。
 朝ほどいたら、しばらくウェーブがかかって感じ変わるぞ」

「お兄ちゃんは、パーマの方が好き?」

「ん……俺は自分が癖毛だからな。
 どっちかって言うと、真っ直ぐの方が良いな。
 それにお前は髪の毛多いから、
 パーマ当てたりしたら、頭が爆発して凄いぞ!」

言いながら、お兄ちゃんは笑い出しました。
わたしも、自分の頭がアフロヘアになったのを想像して、くすくす笑いました。

231  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 18:04
「……そろそろ、寝るか?」

髪を弄られているうちに、気持ちよくなってきて、目蓋が重くなっていました。

「うん。明日は、遊べる?」

「ん……俺は、午前中、夏期講習があるんだ。
 昼過ぎには帰ってくる。
 叔父さんが、お前が来るって知って、休み取ったそうだ。
 あ、こっちじゃ、年上の男の親戚は何々兄ちゃん、
 年上の女の親戚は何々姉ちゃん、って呼ぶのが習慣なんだ。
 叔父さんのことは、下の名前を付けて、
 『F兄ちゃん』って呼ぶんだぞ?」

「わかった。
 ……お兄ちゃんも、もう、寝る?」

「ん……なんだ、淋しいのか?」

「この部屋、なんだか、広すぎて……」

「じゃ、お前が寝るまで、見ててやる。安心して寝ろ。
 朝は好きなだけ寝てていいぞ。朝ご飯は残しておくから」

わたしは、布団に横になりました。

「このお布団、ふかふか」

お兄ちゃんは、苦笑して言いました。

「こっちじゃ、こういうとこにしかお金使わないからな。
 俺の布団は薄くて固いぞ。
 電気、消すか?」

「いい」

横になると、重い疲れが、背中から這い上がってきて、
わたしを暗い眠りに、引きずり込もうとしました。
わたしは抵抗しようとしましたが、自然に目蓋が下がってきました。

夏掛けの横から右手を出すと、お兄ちゃんが、そっと握ってくれました。
いくら外見が硬派になっても、口調が軟派になっても、
やっぱりお兄ちゃんはお兄ちゃんだ、とわたしは思いました。
わたしは満ち足りて、なんの恐れも無く、あたたかい闇に沈んで行きました。
232  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 18:06
何かの物音で目覚めると、お兄ちゃんが枕元に立っていました。

「ごめん。起こしちゃったか」

お兄ちゃんは、黒い学生ズボンを穿いて、白い半袖シャツを着ていました。
胸ポケットに、初めて見る校章と名札が留めてありました。
わたしが朦朧とした頭で上体を起こすと、お兄ちゃんが言いました。

「いいからまだ寝てろ。
 じゃ、行って来る」

わたしは、「行ってらっしゃい」と呟いて、また横になりました。
再び目が覚めたのは、もうだいぶ遅い時間でした。
部屋の隅に、送っておいた荷物が置いてありました。
わたしは肩の見える涼しい夏着に着替えて、顔を洗い、居間に行きました。

ちゃぶ台に向こうに、F兄ちゃんが、胡座をかいて座っていました。
わたしを見ると、上機嫌な顔になって、言いました。

「おお、○○か。よう眠れたか?
 こっち来い、こっち来い」

わたしはF兄ちゃんの前に座って、挨拶しました。

「F兄ちゃん、おはようございます」

「うんうん。礼儀正しいのお。
 ええから膝崩して楽にし」

わたしが膝を崩すと、F兄ちゃんがちゃぶ台の下から、何か箱を取り出しました。

「○○はチョコレート好きか?
 全部食べてええぞ」
233  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 18:07
箱を開けると、小さな仕切りで分けられた、丸いチョコレートが入っていました。
数の多さにわたしが手を出しかねていると、さらに声が掛かりました。

「子供は遠慮せんでええ。
 △△の分は別にある。
 それは全部お前の分やから、食べ食べ」

一つ取って頬張ると、口の中に、例えようのない芳醇な味と香りが広がりました。

「美味しい……」

わたしは思わず目が、まん丸になりました。
こんなに美味しいチョコレートを食べるのは、初めてでした。
勧められるままに、一つ、また一つと、残らず食べ尽くしてしまいました。
お腹が一杯になり、頭がのぼせてきて、酔っぱらったようになりました。

「F兄ちゃん、ありがとう。ごちそうさまでした」

頭を下げると、ぽたり、と鼻水が落ちたような気がしました。
畳の上に、赤い染みが出来ていました。
鼻に手をやると、手の甲に血が付きました。

F兄ちゃんは慌てて、お婆ちゃんを呼びに行きました。
わたしは涼しい縁側に、バスタオルを敷いて寝かされました。
F兄ちゃんはお婆ちゃんから、がみがみ怒られていました。

わたしが口で息をしながらぼうっとしていると、お兄ちゃんが帰って来ました。
お兄ちゃんは、わたしが鼻にティッシュを詰めているのを見て、爆笑しました。
わたしはバスタオルで顔を隠して、チョコレートの甘い誘惑に負けたことの、
罰が当たったのだと思いました。
234  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 18:07
結局、お昼ご飯は何も食べられませんでした。
わたしが横になっていると、お兄ちゃんは居間ののちゃぶ台で、勉強を始めました。
お兄ちゃんは時々難しい顔をしながら、シャーペンを動かしていました。
わたしがその様子をじいっと見ていると、聞いてきました。

「○○、退屈か?」

「ううん。
 ……でも、一緒に勉強していい?」

「ん? 夏休みの宿題、持ってきたのか?」

「宿題は、もうぜんぶ済ませてきた」

お兄ちゃんは、怪訝そうな顔をしました。

「え? もう?
 ……じゃ、なにを勉強するんだ?」

「お兄ちゃんと一緒のところ」

「ん? 俺がやってるのは、高校の受験勉強だぞ?
 まだぜんぜん習ってないだろ?」

「中学2年のところまでなら、分かると思う」

「なに? お前、どんな勉強の仕方してるんだ?
 塾とか家庭教師とか……あの親父やお袋が、そんなもん考えるわけないか」

「……? 普通に、授業を受けて、宿題するだけ。
 家では、お兄ちゃんの、教科書や参考書を読んでる」

「……それって、普通じゃないよ……」

お兄ちゃんは、情けなさそうな表情になりました。

「それじゃ、1〜2年の復習問題やってみるか」

数学の問題集から、お兄ちゃんが20問選びました。
わたしは1問間違えてしまい、がっかりしましたが、お兄ちゃんは、呆れ顔でした。

「……俺ももっと、頑張らなくっちゃな」
235  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 18:08
夕方まで勉強していると。F兄ちゃんが、わたしたちを外食に誘いに来ました。
わたしに鼻血を出させたお詫びに、美味しい焼き肉を奢ってくれると言います。
わたしは脂っこい料理はあまり、好きではありませんでしたが、
お兄ちゃんの顔がパッと輝いたので、行くことにしました。

わたしは髪をほどいて、外出着に着替えました。
F兄ちゃんの車はセダンで、後ろの席も広々としていました。
F兄ちゃんはしきりに、わたしに話し掛けてきました。
今思うと、F兄ちゃんは男兄弟だったので、女の子が珍しかったのでしょう。

F兄ちゃんは、もう適齢期を過ぎていましたが、独身でした。
わたしが「どうして結婚しないの?」と聞くと、笑ってごまかしていました。

焼き肉専門店は、明るく広々として豪華でした。
お兄ちゃんが、お肉を焼いて、ひっくり返してくれました。
お兄ちゃんは、こと料理に関しては、焼き加減などにとてもうるさいのです。

大根下ろしのタレで、程良く焼けた肉を口にしました。
お兄ちゃんの料理より美味しいはずがない、と期待していなかったのですが、
舌がとろけるような味に、びっくりして言葉を失いました。

わたしの驚いた顔を見て、お兄ちゃんが言いました。

「ここの肉は美味いんだ。
 俺も一度しか連れて来てもらってないんだぞ」

わたしはいつもより多く、普通の1人前ぐらいのお肉を食べました。
お兄ちゃんは、わたしの5倍ぐらい食べていました。
F兄ちゃんは、「1杯だけ」と言って、ビールを美味しそうに飲みながら、
にこにこしていました。
236  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 18:09
会計の時、F兄ちゃんは大きな財布を取り出して、ふだん家計を預かっている
わたしの目からすると、許せないほど高い代金を支払っていました。

F兄ちゃんは財布からさらに、一万円札を2枚抜き出して、
「お婆ちゃんには内緒だぞ」と言いながら、
わたしとお兄ちゃんに1枚ずつ握らせました。
わたしは、受け取って良いものかどうか迷いましたが、
お兄ちゃんが頷いたので、「F兄ちゃん、ありがとう」と言ってお辞儀しました。

家に帰って夏着に着替え、お兄ちゃんがお風呂から上がるのを待ちながら、
居間のちゃぶ台で勉強していると、またF兄ちゃんがやって来ました。

「○○、また勉強か?
 子供はもっと遊ばにゃいかんぞ。
 真面目すぎても面白うない。
 兄ちゃんが笑い方教えたろか?」

F兄ちゃんが、隣に腰を下ろしました。
何をするのだろう、と、わたしが不思議に思っていると、
F兄ちゃんの両手が伸びてきて、わたしの脇の下を、くすぐりだしました。

わたしは仰向けに倒れて、身をよじりましたが、くすぐりは止まりません。
容赦のない攻撃に、わたしはお腹の底から声を上げて、笑いこけました。
やがて、脇腹が引きつって、息ができなくなりました。

わたしがぴくぴくと痙攣していると、騒ぎを聞きつけたお婆ちゃんが、
どたどた入って来て、怒鳴りつけました。

「F、お前なにやっとるん!」

F兄ちゃんは、お婆ちゃんに耳を掴まれて、連れて行かれました。
237  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 18:10
わたしがそのまま、ぐったりしていると、お兄ちゃんがやって来ました。
お兄ちゃんは、乱れたわたしの夏着の裾を、そっと直してくれました。
それから枕とバスタオルを持ってきて、わたしにしばらく寝ていろと言いました。
わたしが息を整えていると、団扇であおいでくれました。

「なあ、○○。
 F兄ちゃんはちょっとやりすぎたけどな、
 別に悪気はないんだ。
 反省してるみたいだし、許してやってくれるか?」

わたしは寝たまま、こくこく頷きました。
F兄ちゃんはわたしより子供っぽい、と思いましたが、嫌悪はしませんでした。
むしろ、わたしに言葉を掛けない父親より、
F兄ちゃんが本当のお父さんだったらいいのに、と思いました。

横になっていても、手の届くところにお兄ちゃんが居て、勉強している。
それだけで、他になにも望むものはありませんでした。
わたしは、自宅に居た時の体の強張りが取れて、タコになったような気がしました。

そうして数日が、平穏に過ぎて行きました。
お兄ちゃんは、わたしと布団を並べて、客間で寝るようになりました。
わたしは毎晩遅くまで、お兄ちゃんと話し込んで、朝寝坊しました。

でも、お兄ちゃんは夏期講習があるので、午前中、家に居ません。
わたしは、する事がないので、お婆ちゃんの白髪を抜いてあげたり、
広い家の拭き掃除をしたりしました。

数日掛けて、お兄ちゃんの部屋以外を、すっかり綺麗にしてしまうと、
お兄ちゃんの部屋を見たくなりました。
田舎に来てからまだ、お兄ちゃんの部屋には入っていません。

勝手に入るのは気が引けましたが、お兄ちゃんが田舎に来る前も、
お兄ちゃんの部屋は、わたしが掃除していた事を思い出して、
お掃除するだけだから、と自分を納得させました。

鍵が掛かっているかもしれない、と思いましたが、行ってみると、
お兄ちゃんの部屋のドアには、鍵が付いていませんでした。
238  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 18:11
お兄ちゃんの部屋に入ると、鼻にツンと来る変な匂いがしました。
お兄ちゃんが自宅に居た頃の、部屋の匂いとは違っています。
くんくん嗅いでみると、煙草の残り香のようです。

お兄ちゃんが煙草を吸っているのは、見たことがありません。
わたしは部屋の窓を開けて、空気を入れ換えながら
お兄ちゃんは田舎に来て、悪い習慣が付いたんじゃないか、と顔をしかめました。

見回すと、畳の上にカーペットが敷いてあり、机と本棚と洋服ダンスと
ベッドがあります。
机の上や周りには、本や雑誌、鉄アレイやギターが、乱雑に散らばっています。
押し入れを開けると、なにに使うのかよく分からない道具が、ごちゃごちゃに
突っ込んでありました。

わたしはため息をついて、黙々と片付け始めました。
まず、押し入れの中の物を出して、整理して入れると、隙間が出来ました。
その隙間に、本や雑誌をきちんと重ねて入れていきます。
鉄アレイを運ぶのには、両手を使わなければなりませんでした。

床と机の上が綺麗になると、掃除機をかけ、絞った雑巾で机や本棚を拭きました。
終わった頃には、もう昼前になっていて、わたしは汗をかいていました。

この際だから、洗濯しておこうと、ベッドからシーツを剥がしました。
ふと、ベッドの下にエッチな本が隠してあるのだろうか、と思いました。
マットレスを持ち上げてみると、案の定でした。

239  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 18:12
それまでわたしは、お兄ちゃんの部屋でエッチな本を見つけても、
表紙を見るだけで、手を触れる事はありませんでした。
隠している物を暴き立てるのは、悪い事のような気がしたからです。

でも、この時は、抵抗しがたい好奇心が、むくむく湧いてきました。
お兄ちゃんが、どんな女の人の裸を見ているのか、知りたかったのです。

最初に目に付いたのは、大判の豪華な写真集でした。
アイドルのようでしたが、わたしはテレビを見ないので、誰だか分かりません。
開いてみると、南の島の砂浜で、綺麗な女の人が、水着を着ていました。
ページをめくっていくと、全裸の写真もありました。

写真の女の人は、波打つ黒髪を長く伸ばしていて、よく日に焼け、
足が長く、形の良い大きな胸をしていました。

わたしは、発達途上の自分の胸を見下ろして、やっぱり、お兄ちゃんは、
大きな胸が好みなんだろうか、と思いました。

気を取り直して、写真集を元の場所に戻し、別の1冊を手に取りました。
今度は、平綴じの雑誌でした。ぱらぱらめくると、色んな女の人が載っています。
一番目立っていたのは、ショートカットの、可愛い感じの人でした。

さらさらの髪と大きな目が綺麗で、学校の制服らしいブレザーを着ていました。
ページをめくると、控え目な胸と、白い肌を晒していました。
わたしは、お兄ちゃんの趣味に一貫性を見出せず、首をひねりました。

240  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 18:14
雑誌を戻そうとして、他の本の下敷きになっている、薄い本が目に入りました。
その本は、ひどく薄っぺらで、表紙の色が暗い感じでした。
裏返してみると、出版社名も雑誌の名前も、なにも印刷されていません。

最初のページをめくって、わたしの口はあんぐりと開きました。
男の人の大きくなったあそこを、少し年取った女の人が舐めています。

男の人のあそこは、信じられないほど太く長く、毒々しい色をしていました。
わたしの目は、それに釘付けになってしまいました。

わたしは1年前に見た、お兄ちゃんのあそこを思い浮かべてみましたが、
とても同じものだとは信じられません。
まるで、宇宙から地球を侵略しに来た、おぞましい寄生生物だと思いました。

ハッと我に返ると、口の中がからからに乾いていました。
緊張してぎくしゃくとした手で、ページをめくりました。
やくざのような男の人が、さっきの女の人と、セックスしていました。
あそことあそこが、繋がっている所まで、はっきりと見えます。

わたしにも漠然とした、男女間のセックスの知識はありましたが、
この写真は到底、現実に可能な行為だとは思えませんでした。
わたしは呼吸が、おかしくなってきました。

さらにページをめくると、女の人が太い縄で縛られて、吊り下げられています。
気持ち悪くなってきて、思わず本を閉じました。

わたしは、慎重に本を元の場所に戻し、マットレスを載せました。
目の前の壁に、巨大なあそこが、ちらちらと重なって見えました。
わたしは洗濯する気力を無くして、シーツを元通りにしました。

掃除機を片付け、居間でぼんやり座っていると、お兄ちゃんが帰って来ました。
わたしはどんな顔をして、お兄ちゃんを見たらいいのか、分かりませんでした。
241  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 18:15
お昼ご飯は、素麺でした。わたしは食事中、ずっと無言でした。
素麺だけだと軽すぎるので、デザートに切った西瓜を食べました。
お婆ちゃんが西瓜の皮を台所に持って行くと、お兄ちゃんが声を掛けてきました。

「○○、今日、俺の部屋を掃除してくれたか?」

「……うん……。
 ……お兄ちゃん、煙草吸うの?」

「え? ……どうして分かった?」

お兄ちゃんは、狼狽しているようでした。

「煙草の匂い、残ってる。
 体に悪いから、やめた方が良いと思う」

「……ああ」

なんとなく、煮え切らない返事でした。
でもそれ以上、この場で煙草の事を追及する気には、なれませんでした。

お兄ちゃんの膝を見ていると、またあの巨大なものがちらつきました。
わたしがそれきり黙り込んでいると、お兄ちゃんが聞いてきました。

「……怒ってる、のか?」

「……違う。ずっと掃除してたから、手がだるいだけ」

毎日広い家を念入りに掃除していたので、腕がだるくなっていたのは本当でした。

「お前は生真面目だからなあ……。
 ちょっとぐらい手を抜いた方が良いぞ。
 こんな広い家を真面目に掃除してたら、日が暮れちまう。
 ……って言っても、お前のことだから、
 とことんやらないと気が済まないんだろうな」

その時、わたしの頭に、天啓が閃きました。

「お兄ちゃん……今夜、お風呂で髪、洗ってくれない?
 長い髪洗うの、すごく手が疲れるから」
242  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 18:16
お兄ちゃんは、すぐには返事をしませんでした。
わたしが固唾を呑んで待っていると、やっと答えが返ってきました。

「ん……ちょっとそれは……まずいだろ」

「駄目?」

「ん、ああ、俺は良いけどな。
 お婆ちゃんが知ったら、きっと怒る」

「……そう」

お兄ちゃんのあそこを、もう一度観察するという野望が潰えて、
わたしはしょんぼりしました。

「でもな、その代わり肩揉んでやるよ。
 兄ちゃん、マッサージも上手いんだぞ」

「え?」

「あっち向いてみ?」

わたしが背中を向けると、お兄ちゃんの硬い指が、首筋を掴みました。
わたしはびくっ、としましたが、ちっとも痛くはなく、
お兄ちゃんが指を動かすと、涙が出るほどの心地よさに、頭がぼうっとしました。

「部活で筋肉が突っ張った時、部員でお互いに揉みっこしてたんだ。
 婆ちゃんの肩もよく揉んでるしな。
 ……しっかし、なんで小学生の肩がこんなに凝るんだ?」

243  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 18:18
わたしは陶然として、返事もせずに、はあ、はあ、とため息をつきました。
肩胛骨のあいだを揉まれていると、頭がふわふわ軽くなっていくようでした。
お兄ちゃんが肩から二の腕、手のひらまで揉みほぐすと、腕が痺れるような
感じがしました。

「ん? 気持ち良いか? よしよし」

わたしが頷くと、今度はバスタオルを敷いて、うつぶせに寝かされました。
わたしの腰の辺りで膝立ちになって、背骨の両側を、腰から上に向かって、
順番に親指で押してきます。
わたしは気持ち良さに、ああ、とか、うう、とかと呻くだけでした。

その後、また座らされて、顎を前から押さえられ、うなじをぐりぐりされました。
最後に、腕を首に回され、「力を抜いて」と言われた後、こきっ、と首を
捻られました。そして、反対側に、もう一度首を鳴らされました。

わたしは腰が抜けたようになって、お礼も言わず、ぼうっとしていました。
お兄ちゃんは、「昼寝するか」と言って、枕を持ってきてくれました。
わたしはそのまま、夕方まで寝てしまいました。

夕食が済んで、ちゃぶ台に勉強道具を広げるお兄ちゃんに、言いました。

「お兄ちゃん、さっきはありがとう。
 すっごく気持ち良かった」

マッサージは、オナニーより気持ち良いかもしれない、と思いました。

244  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 18:18
「ん、良かった。
 また今度、やってやるよ。
 後でちょっと痛むかもしれないけど、心配すんな」

「お兄ちゃんって、何でもできるね」

「ん……まあ、そんなこと……あるけどな」

お兄ちゃんは自分で言って、ぷっと笑いました。

「わたしにも教えてくれる?」

「そうか? じゃ、ちょっとやってみてくれ」

背中を向けたお兄ちゃんの肩を掴むと、お兄ちゃんはくすぐったいのか、
身をよじりました。

「手のひら全体で掴むんじゃなくって、
 親指で、その、もうちょっと下を押すんだ」

「……こう?」

「ん、上手い上手い。
 お前、手が小さいから、結構効くな」

力を入れて押していると、5分もしないうちに、親指が痛くなってきました。

押す力が弱くなったのを感じ取ったのか、お兄ちゃんが言いました。

「ん、もういいぞ。気持ち良かった。
 たまに婆ちゃんの肩を揉んでやると、お小遣いくれるぞ」

わたしは、自分の力の無さが、情けなくなりました。
なにか、お兄ちゃんにお返ししたい、と思いました。
ふと、田舎に来た日から感じていた疑問を、思い出しました。

「お兄ちゃん、どうして、お料理しないの?」

夕食のご飯は、柔らかすぎてべたべたしていました。
おみそ汁はしょっぱすぎて、焼き魚は焦げすぎでした。
お兄ちゃんなら、ずっと美味しくできたはずです。

「ん……。
 俺も料理したいんだけどな。
 こっちじゃ、男は台所に入れてもらえないんだ。
 腕が鈍りそうで、困っちゃうよ」

わたしの頭に、一つのアイディアが浮かびました。
245  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 18:19
わたしは夕食の前に、お婆ちゃんに、食事の支度を手伝うと申し出ました。

「そら助かるけど、子供は外で遊ばな」

「この辺に、お友達居ないし。外は暑いから」

わたしは一品だけ、おかずを作ることになりました。
なにを作るのかは、もう決めていました。
お兄ちゃんがよく作ってくれた、わたしの大好物の、出汁巻き卵です。

お兄ちゃんは本格的に、昆布と鰹節で出汁を取っていましたが、
今回は時間がないので、仕方なく本だしで代用します。
本だしを水で溶かし、薄口醤油とお酒、砂糖を加えます。

醤油は控え目、砂糖はたくさん入れて、甘くするのがお兄ちゃんの味でした。
隠し味に、塩もちょっぴり入れます。

卵を割ってときほぐし、少しずつ出汁を混ぜながら、泡立たないように、
均一になるように、菜箸でかき混ぜます。

卵と出汁の割合は、普通3:1ぐらいですが、お兄ちゃんは出汁を多めにして、
ふっくらと柔らかに焼き上げていました。

砂糖や出汁を多くすると、焦がさず焼くのが大変になります。
やり直しをする時間はありません。
わたしは自宅に居た時に、何度も練習したのを思い出しました。

長方形の卵焼き鍋を、強火に掛けて熱します。
サラダ油を多めに入れて、鍋を回して四隅までよくなじませます。

余分な油をペーパータオルの上に捨て、そのペーパータオルを丸めて、
油膜が薄く均一になるように、鍋を拭きます。

火加減を調節して、卵の滴を落とした時に、ジュッと音がするぐらいにします。
温度が高いと卵が焦げ、低いと舌触りが粗くなります。
246  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 18:22
ここからがいよいよ、正念場です。
鍋の底に行き渡るように、溶き卵を流し込みます。
卵が半熟になったら、向こう側から手前にくるくる巻きます。

タイミングが重要です。
卵が柔らかすぎると、うまく巻けませんし、固まりすぎると、
舌触りが悪くなります。
この時、わたしの顔つきはきっと、鬼気迫るものがあったでしょう。

手早く、卵を奥に滑らせ、空いた場所に薄く油を敷きます。
菜箸で卵を浮かせながら、また溶き卵を流し込みます。
これを3回ほど繰り返すと、出来上がりです。
一度に作れるのは2人前なので、これを3回繰り返します。

出来上がった出汁巻き卵は、まな板の上に並べ、巻き簀で形を整えて、
4等分に切ります。
四角いお皿に盛り付け、汁気を切った大根下ろしを添えると完成です。

もちろん、お兄ちゃんのお皿には、焼き加減が一番上手く出来た、
焦げのない綺麗な物を選んであります。

曾お婆ちゃんは、あまりたくさん食べられそうにないので、
お兄ちゃんのお皿だけ、1切れ多く盛りました。

247  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 18:22
お皿やお茶碗を食卓に運んで、夕食の時間になりました。
席に着いたお兄ちゃんが、出汁巻き卵の皿を見て言いました。

「ん? これは○○が作ったのか?」

わたしはこっくりと頷きました。

いただきますの後、お兄ちゃんは真っ先に、出汁巻き卵に箸を伸ばしました。
わたしは、卵を頬張るお兄ちゃんの顔を、息を凝らしてじいっと見つめました。

お兄ちゃんは、よく噛んで味わった後、にっこりして言いました。

「うん、美味い。合格」

それを聞いてわたしは、天にも昇るような心地になりました。
お兄ちゃんは、出汁巻き卵だけを、最初に食べ尽くしました。

お兄ちゃんはそれ以上、なにも言葉にしませんでしたが、
たぶん、他の料理を作ったお婆ちゃんに、気を遣っていたのでしょう。

お兄ちゃんは料理の味に厳しくて、お世辞で美味しいと言ったりする事は無い、
とわたしは知っていました。

自分の皿から、出汁巻き卵を1切れ取って、口に入れて噛んでみると、
舌の上でとろけて、出汁の旨みと甘みが、口一杯に広がりました。

わたしは、練習の時と同じ料理なのに、自宅で食べた一人きりの夕食より、
どうしてこんなに美味しいのだろう、と思いました。

思い返しても、その日の夕食に、出汁巻き卵以外のどんなおかずがあったのか、
どうしても思い出すことができません。

そうして、平穏で充実した日々を過ごしているうちに、お盆が近付いてきました。
お盆のあいだは、人の出入りが多くなるので、わたしはお兄ちゃんと一緒に、
お母さんの実家に行くことになりました。

実家へ行く途中にある、お母さんの下の妹に当たる、G姉ちゃんの家で、
いとこたちが集まるんだ、とお兄ちゃんが言いました。
お兄ちゃんとわたしを、F兄ちゃんが車で送ってくれました。
248  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 18:23
G姉ちゃんの家は、お婆ちゃんの家より小さい、住宅街の中の一軒家でした。
初めて会うG姉ちゃんと旦那さんと、従弟のHクンが迎えてくれました。

G姉ちゃんは、お母さんによく似ていました。
夫婦ともに学校の先生で、縁付きの眼鏡をかけています。
わたしは、白いワンピースの皺を伸ばして、挨拶しました。

1歳年下のHクンは、お兄ちゃんより華奢でしたが、顔立ちがそっくりでした。
雰囲気も似ていて、まるで、数年前のお兄ちゃんを見ているようでした。

「××姉ちゃん、はじめまして……」

わたしは末っ子で、前から弟が欲しかったので、思わず微笑みながら、
自分とあまり背の変わらないHクンの肩に、手を置いて言いました。

「はじめまして、Hクン。よろしくね」

Hクンは照れているのか、赤い顔をしてそっぽを向きました。

挨拶が済んで、F兄ちゃんが帰った後、リビングダイニングに集まって、
みんなでケーキを食べながら紅茶を飲みました。

G姉ちゃんの家は、調度品の趣味も、洋風のようでした。
わたしは、同年代の子供の居る、余所の家庭を見たことが無かったので、
物珍しくてきょろきょろしました。

お兄ちゃんとHクンが、受験勉強の話を始めました。
二人は前からお互いに親しかったようです。
Hクンが、まだ5年生なのに、私立中学校を目指して受験勉強している、
と知って、わたしは驚きました。

249  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 18:24
Hクンが、口をとがらせて言いました。

「ほんまにやんなるわ。
 いっつも勉強勉強ってうるさいねん。
 勉強のオニやで」

G姉ちゃんが怒った口調で返しました。

「なにいうてんの!
 あんたのためやないの。
 遊んでばーっかりおったら、後で苦労するねんで」

わたしは、今にも喧嘩が始まるのではないか、と身を硬くして、
HクンとG姉ちゃんの顔を、交互に見ました。
二人とも、言葉はきつくても、目が笑っていました。
旦那さんも、にやにやしているだけです。

お兄ちゃんが口を挟みました。

「H、そのへんにしとき……。
 ○○はこっちの言い方にまだ慣れてへんねん。
 喧嘩してんのか思うてびっくりしとるで」

お兄ちゃんの口調は、わたしと話す時と違って、方言丸出しでした。

Hクンが済まなそうに言いました。

「○○姉ちゃんゴメン。
 別に喧嘩してへんから。いっつもこんな感じやねん」

わたしは頷きましたが、急に胸がふさがって、大好きなショートケーキの
味がしなくなりました。
なぜだか、幸せな家族の団欒を、外からガラス越しに眺めているような、
そんな気がしました。

お兄ちゃんに目をやると、お兄ちゃんも、どこか遠い目をしていました。
250  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 18:25
お茶会が終わると、年上のいとこたちが到着しました。
I兄ちゃんとJ兄ちゃんは兄弟で、K姉ちゃんとL姉ちゃんは姉妹でした。
ワゴン車を運転して来たのは、大学生のI兄ちゃんでした。

I兄ちゃんとJ兄ちゃんは、微妙にお兄ちゃんと似た顔をしていましたが、
歳が離れているせいか、Hクンに感じたような親しみは覚えませんでした。

K姉ちゃんとL姉ちゃんは、柄が同じで色違いの浴衣を着ていました。
今夜、この近くで夏祭りがあるそうです。
いとこたちが集まったのは、そのせいでした。

K姉ちゃんは、わたしの分の浴衣と帯も持って来ていました。
K姉ちゃんが前に着ていたという、ピンク地に金魚の柄の浴衣と、
オレンジ色の帯でした。

K姉ちゃんとL姉ちゃんが、奥の部屋にわたしを連れて行って、
着せ替え人形で遊ぶように、二人掛かりでわたしを着替えさせました。

K姉ちゃんの浴衣は、わたしには大きすぎました。
K姉ちゃんは、わたしの胸にバスタオルを巻いた上に浴衣を着せ、
胸の所で折って裾を上げてから、帯を締めました。
それから髪を編み上げて、針金細工のような髪飾りで留めてくれました。

リビングに出ていくと、お兄ちゃんや兄ちゃんたちの視線が集まりました。
お兄ちゃんは、目を丸くして言いました。

「おお、すげぇ可愛いじゃん。
 やっぱ浴衣はいいなぁ」

うんうん頷くお兄ちゃんに、K姉ちゃんが声を掛けました。

「わたしらのことはどうでもええのん?
 めっちゃむかつく〜」

「ははは、怒らんといて。姉ちゃんたちもよう似合うてるで。
 ○○は浴衣着るの初めてやからな。サービスやサービス」

251  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 18:27
お祭りには、歩いて行くことになりました。
わたしは、K姉ちゃんから借りた、赤い鼻緒の、草履のような下駄を履きました。

下駄は少し大きくて歩きにくく、わたしは遅れがちでした。
自然と、先を行く年上のいとこたち4人と、お兄ちゃんとわたしとHクン3人が、
グループに分かれました。

お祭りに行く様子の人影が、多くなってきました。
お兄ちゃんが、向き直って言いました。

「○○、はぐれたら迷子になるぞ。
 手をつなごう」

お兄ちゃんが差し出した右手を、わたしは取りました。
わたしもHクンに右手を差し出しました。
Hクンがそっと、わたしの手のひらを握りました。

遠くから祭囃子の音が、聞こえてきました。
道の脇に、夜店が軒を並べています。

金魚すくいの前で、お兄ちゃんが立ち止まりました。

「いっぺんやってみるか?
 1本ずつで勝負しよう」

わたしは、針金と紙で出来た網を持たされました。
網を水に入れると、近くの金魚は逃げてしまいました。
追っても、金魚の方が速くて追い付けません。
無理に追い掛けると、網は簡単に破れてしまいました。

次はHクンの番でした。
Hクンはじっと、金魚の動きを観察していました。
Hクンの手がさっと動いて、網を水に突っ込みました。
金魚をすくった、と思った瞬間に、網は破れていました。

「ま、見てろよ」

お兄ちゃんは自信ありげでした。
252  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 18:28
「水の中にずっと入れてると、紙が溶けちゃうからな。
 よーく金魚の動きを見て、油断するのを待つんだ」

わたしはじっと、お兄ちゃんの手を見ていました。

「ぼやーっとしてるのが居たら、
 後ろから、ほらこうやって……」

お兄ちゃんの手が横にすうっと動いて、網が水に入りました。
そのまま、網が水面から出てくると、金魚が1匹、載っていました。
同じようにして、お兄ちゃんは3匹すくいました。

お兄ちゃんは金魚を、透明の小さなビニール袋に入れてもらい、
わたしにくれました。
わたしは、左手の手首にビニール袋をぶら下げました。

「お兄ちゃん、ありがとう」

わたしがそう言うと、お兄ちゃんは得意そうでした。
Hクンをちらっと見ると、悔しそうな顔をしていました。
なんだか、今夜のお兄ちゃんは、いつもより子供っぽく見えました。

「なんか食べるか?
 お金預かってるから、いくら食べても平気だぞ」

お兄ちゃんは、焼きトウモロコシを買って、片手で囓り出しました。
Hクンは、林檎飴を買いました。

わたしは、そんなに食べられそうになかったので、姫林檎で出来た、
小さな林檎飴を買って、左手に持ちました。
甘さと酸っぱさが混じった、奇妙な味がしました。

253  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 18:29
広場に着くと、真ん中の櫓の周りで、大人や子供が、祭囃子に合わせて
踊っていました。
わたしがそれを見ていると、お兄ちゃんが言いました。

「俺たちも踊るか」

「え? ……でも、わたし踊れない」

「前の人を見て、適当に手を動かしながら歩けばいいさ。
 ほら、行こう」

わたしは、お兄ちゃんとHクンに続いて、踊りの輪に入りました。
お兄ちゃんとHクンの踊りは、ちっとも揃っていませんでした。
わたしはどちらを真似したらいいか分からず、めちゃくちゃに手を動かしました。

でも、輪を1周する頃には浮かれてきて、このままずっと、
お祭りが続けばいいのに、と思いました。

やがて、わたしたちは踊り疲れて、広場から元の道に戻りました。
3人で手をつないで歩いていると、I兄ちゃんがわたしたちを見つけました。

「なんや、どこ行っとんたんや?
 探したんやで」

J兄ちゃんとL姉ちゃんが冷やかしてきました。

「お前らホンマに仲ええなぁ。
 手ぇつないでからに」

「○○ちゃん、両手に団子やね〜。
 うらやましいわぁ〜」

Hクンが、バッとわたしの手を放しました。
J兄ちゃんが笑いました。

「Hー、お前なに照れてんねん」

254  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 18:30
帰り道、Hクンはわたしから少し離れて歩きました。
わたしはお兄ちゃんと手をつないで歩きながら、右足を引きずっていました。

右足の親指と人差し指の股を、履き慣れない下駄の鼻緒で擦り剥いていたのです。
わたしが我慢していると、お兄ちゃんがそれに気付きました。

「○○、お前、右足どうした?」

お兄ちゃんが、わたしの足許にしゃがんで、覗き込みました。

「うわ、血が出てるじゃないか。
 なんで早く言わないんだ!」

身をすくめると、お兄ちゃんは立ち上がり、わたしの肩をぽんと叩きました。

「ちょっと待ってろ」

お兄ちゃんは、先に行っているI兄ちゃんに追いついて、何か言いました。
I兄ちゃんたちは、わたしとお兄ちゃんを残して、先に帰って行きました。

お兄ちゃんが戻ってきて、またしゃがみました。

「右足の下駄を脱いで、肩に掴まれ」

わたしが片足で立って、お兄ちゃんの肩に掴まると、お兄ちゃんは、
ポケットからガーゼのハンカチを取り出して、わたしの右足の先を包みました。
お兄ちゃんがガーゼを足首で縛ると、右足だけ足袋を履いたようになりました。

「歩けるか?」

また下駄を履いてみました。
今度は、鼻緒がこすれないので、それほどの痛みではありません。

「だいじょうぶ。
 お兄ちゃん、ありがとう」

「ん、じゃ、ちょっと休んでいくか」

255  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 18:32
お兄ちゃんは、自動販売機で缶ジュースを1本買いました。
少し歩くと、小さな児童公園がありました。
わたしとお兄ちゃんは、ブランコに並んで腰を下ろしました。

「飲むか?」

缶ジュースを開けて、お兄ちゃんが聞いてきました。

「後でいい。先にお兄ちゃん飲んで」

お兄ちゃんは、一口飲んで、空を見上げて言いました。

「星、きれいだな」

見上げると、確かに、いつもより多くの星が見えて、きれいでした。

お兄ちゃんが突然、言いました。

「○○、お前、Hのこと、好きか?」

「うん、お兄ちゃんに似てる」

「そうか……」

お兄ちゃんは、それきり黙り込みました。
わたしがふと、横を向くと、公園の薄明かりで、お兄ちゃんの横顔が見えました。
お兄ちゃんは、今にも泣き出しそうな顔をしていました。

わたしは驚いて、声を上げました。

「お兄ちゃん。どうしたの?」

お兄ちゃんは、しばらく考え込んだ後、口を開きました。

「○○、お前はもう、大人だと思う。
 だから、大事な話をしなくちゃいけない。
 これから話すことは、お前と俺だけの秘密だ。
 聞いてくれるか?」
256  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 18:32
わたしは、この上なく真剣なお兄ちゃんの声に、息を呑みました。

「……うん。わかった。なに?」

「……何から話したらいいんだろな……。
 ○○、お前、HとG姉ちゃんを見て、どう思った?」

お兄ちゃんが何を言おうとしているのか、見当も付きませんでした。

「……?
 家とは、ぜんぜん違う……って思った」

「俺は前、Hにアルバムを見せてもらった事がある。
 ○○は、アルバムって何か知ってるか?」

「……写真ばっかりの本でしょ?
 わたし、アルバム委員してるから、知ってる」

「…………。
 写真を印刷してるんじゃなくて、写真を貼ってあるのが、普通のアルバムだ。
 家で、普通のアルバムを見たことあるか?」

「……? 無いけど?」

「お前は知らないだろうけど、俺は友達がたくさんいるから知ってる。
 子供が生まれて、写真を撮らない親なんて、居ないんだ。
 俺の知ってる限り、アルバムの無い家なんて、俺たちの家だけだ」

「どういう、こと?」

「家にも、アルバムはあったんだ。
 でも、あると都合が悪いから、無くしてしまったのさ」
257  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 18:34
わたしはまだ、お兄ちゃんの言おうとしている事が、分かりませんでした。
でも、一生忘れられない秘密を聞かされるのだと予感して、体が震えました。

「……俺はずっと、不審に思ってたんだ。
 なんで親父やお袋は、お前にあんなに冷たいのか。
 末っ子だったら、普通は可愛がるもんだ。
 なのに、俺は親父がお前を抱き上げているのを、一度も見たことが無い」

お兄ちゃんは、まだ中身の入った缶を投げ捨て、両手で顔を覆いました。

「俺は、こっちに来て、役所に行こうと思った。
 俺もお前も、覚えてないだろうけど、生まれたのはここでなんだ。
 役所の戸籍を見れば、はっきりすると思ってな……」

わたしの脳裏に、一つの可能性が閃きました。
あまりに思いがけない、その想像に、息が止まるかと思いました。

……まさか……!

「……だけど、役所には親戚の人が居る。
 俺が調べたら、そのことがばれるかもしれない。
 俺は考えて、考えて、F兄ちゃんに相談することにしたんだ。
 F兄ちゃんは俺を可愛がってくれてたし、
 俺たちが生まれた頃の事を、よく知ってるはずだからな」

お兄ちゃんが、こっちを向きました。
何とも言えない、泣いているような、笑っているような顔でした。

「F兄ちゃんは、俺が聞いたとき、顔色を変えたよ。
 そして、お前たちは絶対に、兄貴と義姉の子供だ、って言った。
 でも、F兄ちゃんのうろたえる顔を見たら、納得できなかった。
 しばらくにらめっこしてたよ……。
 そしたら、F兄ちゃんは根負けして、白状した」

258  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 18:37
お兄ちゃんは立ち上がって、わたしの周りをぐるぐる歩き回り始めました。

「俺が生まれた頃、親父とお袋の仲は、最悪だったらしい。
 親父は事業を始めたばっかりでな、家……その頃は今の婆ちゃんの家だけど、
 月に一度しか帰って来なかった。
 ま、今もたいして変わってないか……」

お兄ちゃんは苦笑しました。

「お袋は離婚を考えたらしいけど、俺が生まれたせいで、周りから説得された。
 親父は決して離婚に応じなかったらしいし。
 お袋は、家に籠もりきりで、お前が生まれた頃には、ノイローゼになった」

「え……?」

お兄ちゃんの話は、わたしの想像とは、大きく違っていました。

「お前が生まれてしばらくして、お袋はまた妊娠した。
 ……まったく、夫婦仲が最悪だってのに、
 なんで次々と子供を作れるんだろうな?」

お兄ちゃんの顔は、鬼のように恐ろしくなっていました。
わたしは、想像を超える事実に、打ちのめされました。

「親戚のあいだで、お袋とF兄ちゃんの仲が噂になったんだ……。
 F兄ちゃんは、絶対そんなことは無かった、って言ったけどな」

お兄ちゃんの声が、遠くから聞こえてくるように思えました。

「親父は滅多に帰って来てなかった。
 お袋は、ノイローゼで心細くて、F兄ちゃんに相談していたらしい。
 F兄ちゃんは優しいからな。
 噂を耳にした親父は、お袋やF兄ちゃんを疑って、大変な騒ぎになった。
 親父にしてみれば、お前や生まれてくる赤ん坊が、自分の本当の子供かどうか、
 分からなかったんだろう。
 俺の事だって、疑ったかもしれない。
 親父は怒り狂って、アルバムを燃やしてしまった。
 ……そんな中で、赤ん坊が生まれた」

わたしは、やっとのことで声を出しました。

「赤ん坊って……わたしの、弟?」
259  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 18:37
「そうだ。
 その頃、お袋は赤ん坊を育てられるような状況じゃ無かった。
 親戚が集まって相談して、赤ん坊とお前を、養子に出すという話が出た」

「養子? わたしも?」

「その時、親戚の中に、子供の出来ない夫婦が居たんだ。
 二人とも、子供を欲しがってたのに、子供を作れる可能性が無かった」

「……じゃあ、わたしはどうして、ここにいるの?」

「二人の希望は、赤ん坊が大人になって、自分の戸籍を見ても、
 養子だと分からないようにする事だった。
 お前にはもう、親父とお袋の子供として戸籍があった。
 赤ん坊は、その夫婦の実子として届けられた」

「そんなこと、できるの?」

「もちろん法律違反だ。
 でも、ここは田舎だ。市役所にも病院にも親戚が居る。
 みんなで口裏を合わせれば、不可能じゃない」

「……じゃあ、その赤ん坊って……」

「そうだ、Hは、俺とお前の、本当の弟だ」

260  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 18:38
わたしは固まってしまいました。
欲しいと願っていた弟が、降って湧いたように突然現れたのです。

「けど、Hはそのことを知らない。
 周りも知らせる気は無い。
 Hは一生、知らないままだろう……」

お兄ちゃんが、後ろからわたしの両肩に手を置きました。

「俺も、その方が良いと思う。
 あいつは、今のままが幸せそうだ。
 本当の親子より、親子らしい。
 だから、俺たちがきょうだいだと、名乗り出ることはできない。
 ……分かってくれるな?」

わたしは、こくりと頷きました。

「あいつは、俺に懐いてる。
 俺も、あいつが可愛い。
 お前も、そうだろ?
 人見知りするお前が、初対面であんなに気安くするなんて、
 俺は見たことないよ」

「Hクンみたいな、弟が居ればいいな、って思った……」

「でも、お前はもう、会わない方が良い」

「え……?」

261  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 18:40
「Hの好みは知ってる。
 あいつの周りにいる女の子は、みんなけたたましい。
 お前みたいに、大人しくて落ち着いたのは居ない。
 あいつはお前のことを気にしてる。
 見てれば分かる。初恋かもしれない」

「でも……」

「5年生でも男は男だ。
 恋ぐらいするさ。俺もそうだったしな」

「えっ?」

「ま、俺のことはどうでもいい。
 あいつにしてみれば、お前は眩しい年上のいとこだ。
 いとこなら、結婚もできる。
 好きになったって、不思議じゃない」

わたしは混乱しました。Hクンを、恋愛の対象とは見ていなかったからです。

「でも、わたし……」

「お前だって、知らずに付き合ってれば、惹かれるかもしれない。
 でも、駄目だ」

駄目、という言葉が、頭に響きました。

「……姉弟、だから?」

「…………。
 Hは知らなくても、親類の大人たちはみんな知ってる。
 ワケも分からないうちに、猛反対される。
 つらい目に、遭うだけだ」

お兄ちゃんの声は、悲しげでした。

262  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 18:40
「……そう。わかった。
 ありがとう。お兄ちゃん。教えてくれて」

「ごめん。つらい話、聞かせちゃったな」

「いい。聞いて良かったと思う。
 わたしにも、弟が居るんだ、ってわかったし。
 言えなくても、しあわせに暮らしてくれてたら、それでいい」

わたしは、下を向いて、目をつぶりました。
胸の奥で、重い塊が、ぐるぐる回っていました。

後ろからお兄ちゃんの腕が、わたしの胸に回されました。
お兄ちゃんの頬が、わたしのうなじに当たりました。
お兄ちゃんの声が、耳元でしました。

「大丈夫、大丈夫」

わたしはいつの間にか、ぶるぶる震えていたようです。
お兄ちゃんにぎゅっと抱き締められていると、震えが収まりました。

「お兄ちゃん……もう、だいじょうぶ」

お兄ちゃんは、腕をほどいて立ち上がりました。

「もう、帰るか?」

「うん」

263  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 18:40
人通りもまばらになった道を、お兄ちゃんに手を引かれて帰りました。
わたしは星空を見上げて、今日の事は、一生忘れないだろう、と思いました。

G姉ちゃんの家に帰って、着替えてから賑やかな軽い夕食を摂り、
リビングダイニングに毛布を敷いて、いとこたちみんなと雑魚寝しました。

みんなはまだ元気でしたが、わたしは疲れ切っていて、
お兄ちゃんとHクンに、おやすみなさい、と呟いて眠りに落ちました。

珍しく深い眠りから目覚めると、みんなもう起きていました。
わたしは慌てて顔を洗い、ワンピースに着替えました。
朝食の後、I兄ちゃんの車で、Hクンを残して出発することになりました。

「○○姉ちゃん、また来てね」

「Hクンが良い子にしてたらね」

わたしは、Hクンの背中を撫で、二度と会うことの無いだろう弟に、
心の中で別れを告げました。

264  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 18:42
道程は、途中からカーブの多い細い道に変わり、すっかり酔ってしまいました。
お兄ちゃんの膝を枕にして、ぐったりしていると、ますます道が悪くなりました。
わたしはお兄ちゃんに膝に戻すわけにいかず、吐き気を堪えるのに必死でした。

お兄ちゃんが運転席に声を掛けました。

「I兄ちゃん、どっかで休んだ方がええんとちゃうか?
 ○○の具合が悪いみたいや」」

「○○、寝とるかと思っとったら酔うたんか?
 ……途中で休むとこないしなぁ。
 早う着いて横になった方がマシやろ
 なるべく静かに運転するさかい、辛抱しいや」

車が止まって、K姉ちゃんとL姉ちゃんが降りました。
二人は、I兄ちゃんとJ兄ちゃんの隣の家だそうです。

また少し走って、お婆ちゃんの家に着きました。
わたしは、お兄ちゃんの手を借りて、車から降りました。

山を切り崩して、昔風の日本家屋が建っていました。
父方のお婆ちゃんの家も大きかったのですが、母方のお婆ちゃんの家は、
まるでお屋敷のようでした。

K姉ちゃんとL姉ちゃんの家は、隣だというのに向こうの山の中でした。

お爺ちゃんとお婆ちゃん、それにI兄ちゃんとJ兄ちゃんの両親である、
M姉ちゃん夫婦が出迎えてくれました。

わたしは一人で立って、なんとか自己紹介しました。
わたしの具合が悪かったので、すぐに布団を敷いてくれました。
乗り物酔いと疲れが出たのか、わたしはお風呂にも入らず寝てしまいました。

265  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 18:44
目が覚めると、すっかり夜になっていました。
起き出して、居間に行くと、十畳敷きぐらいの続き部屋の襖が取り払われて、
大広間になっていました。

壁の三分の一を占める大きな仏壇があり、お線香の香りしました。
立派なちゃぶ台の上に、色々な料理が載っています。
お兄ちゃんが、お爺ちゃんやいとこたちに混じって、お酒を飲んでいました。

お爺ちゃんに言われて、仏壇の前に座り手を合わせました。
改めて挨拶すると、お爺ちゃんはわたしにも、ビールを勧めてきました。
お兄ちゃんが、それを横取りして飲みました。

「○○にはまだ早い」

中学生のお兄ちゃんがビールを飲むのも、まずいのではないかと思いました。
お爺ちゃんは、焼酎のお湯割りを飲んでいました。

わたしがお酌をすると、お爺ちゃんは真っ赤な顔で自慢話を始めました。
この家は、裏の山の木を伐って建てたそうです。

M姉ちゃんがやってきて、目を釣り上げてお爺ちゃんに怒鳴りました。

「なに子供にクダ巻いてるん!」

わたしは、M姉ちゃんに手を引かれて脱出し、お風呂に入りました。
お風呂は、檜造りで、良い匂いがしました。

266  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 18:44
J兄ちゃんのお古の、浴衣のような紺色の寝間着を着ました。
J兄ちゃんの名前が、襟の所に縫い込んでありました。

客間に戻って、押し入れからもう一組布団を出し、隣に敷きました。
あまり使われていない客間は広すぎて、静かで、怖いぐらいでした。

いつもならもう眠っている時間ですが、ずっと寝ていたせいか、眠気がしません。
布団の上に座って、じっとお兄ちゃんの帰りを待ちました。

もともと、待つのは苦手ではありませんでした。
わたしはずっと、待ち続けていたようなものです。
もうすぐに、会える、と分かっていれば、苦になどなりません。

でも、その時は、お兄ちゃんの事だけでなく、他にも考える事がありました。
HクンやF兄ちゃんの顔が、頭をちらちらよぎりました。
考えても仕方がないと思っても、頭を離れません。

ふと、足音がしました。
襖が乱暴に開かれて、お兄ちゃんが入って来ました。
なんだか、様子が変でした。

お兄ちゃんは目を半分ぐらい閉じて、ゆらゆら揺れていました。
わたしは立ち上がって、歩み寄りました。

「……お兄ちゃん、だいじょうぶ?」

「ん……? ○○ー、居たのかぁー」

お兄ちゃんが、そう言いながら抱きついてきました。
強烈なお酒の匂いがしました。
わたしは、抱き締める力の強さに息が止まりました。

二人とも足がもつれて、後ろの布団に斜めに倒れ込みました。
まともに倒れていたら、押しつぶされていたかもしれません。

お兄ちゃんの腕が緩んで、やっと息がつけるようになりました。
わたしはパニックに陥って、身を硬くしていました。

腕の中から抜け出して、お兄ちゃんの顔を見ると、寝入っていました。
わたしは大きなため息をついて、その場に座り込みました。

「もう、しょうがないなあ」という憤慨と、
「やっと来てくれた」という安堵が、交錯しました。
267  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 18:46
お兄ちゃんをきちんと、布団に寝かせようとしましたが、
わたしの力では、体を裏返して仰向けにするのが精一杯です。

寝顔を見ると、前髪が額に張り付いていたので、ハンカチで拭いました。
着替えさせるのは諦めて、苦しくないように、シャツのボタンを外し、
ベルトを取って、靴下を脱がせてあげました。

電灯を暗くして、薄明かりでお兄ちゃんの寝顔を眺めました。
なんだか、無防備であどけなく見えました。

膝枕をしてあげようと思いましたが、重くて足が痺れてしまいそうなので、
枕を頭の下に入れて、髪を撫でました。

枕元に座ってじっと見ていると、わたしもうとうとしてきました。

「この野郎!」

突然、お兄ちゃんの声がして、わたしは座ったまま跳び上がりました。
慌てて顔を覗き込むと、まだ眠っているようでした。
でも、目覚めているのかと思うほど、はっきりした声でした。

お兄ちゃんの表情は、苦しげに歪んでいました。
わたしは、眠っているお兄ちゃんの胸に、そっと抱き付きました。
お兄ちゃんの腕が、無意識にか、わたしの肩に回されました。

また、はっきりした声がしました。

「○○……」

わたしの名前を呼ぶお兄ちゃんの声を聞いて、
わたしはお兄ちゃんが本当に目覚めたのかと、顔を上げました。
でも、お兄ちゃんはまだ、眠ったままでした。

お兄ちゃんの呼吸が落ち着いてきたのを確かめて、
わたしもお兄ちゃんの脇の下で丸くなりました。
いつの間にか、わたしも眠りに誘われていました。
268  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 18:47
何かの物音に目を開けると、まぶしさに目がくらみました。
まばたきすると、枕元にお兄ちゃんが、昨日と違う服を着て立っていました。

「○○、そろそろ起きないと。
 朝ご飯だぞ」

お兄ちゃんは、目を逸らしてそう言いました。
ハッと気が付くと、わたしは上掛けを蹴飛ばして、寝間着も半分脱げていました。
慌てて上掛けの下に潜り込み、首だけ出しました。

「二度寝するなよ?
 みんな待ってるんだから」

「うん。もう起きる。
 お兄ちゃんはもう、だいじょうぶ?」

お兄ちゃんが、向き直って言いました。

「ん? なにが?」

「ゆうべ、いっぱいお酒飲んでたでしょ?
 ふらふらになって、わたしに抱き付いたし」

「えっ! ホントかそれ……。
 あちゃあ……ぜんぜん覚えてないよ」

「いつもあんなに、お酒飲むの?」

「……い、いや、ふだんは平気なんだけどな。
 ビールと焼酎をチャンポンしたのは拙かった……」

お兄ちゃんはうろたえて自爆していました。
わたしはくすくす笑って、言いました。

「あんなに酔っぱらうまで飲んじゃダメ」

「……はい」

「着替えるから先に行ってて」
269  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 18:47
お兄ちゃんが出ていくと、わたしは夏着に着替えました。
居間に行くと、みんな揃って、K姉ちゃんとL姉ちゃんの顔も見えました。

L姉ちゃんが提案しました。

「せっかく○○が来たんやから、
 みんなでとっときの場所に案内したるわ。
 ちょっと歩かなあかんけど、
 綺麗なとこやで〜」

お兄ちゃんがわたしの顔を見て、言いました。

「○○、体は大丈夫か?」

せっかく田舎に来たのに、わたしだけ留守番する事になっては意味がありません。

「うん、行きたい」

わたしの格好は山歩きに適していなかったので、
L姉ちゃんが昔着ていたという、キュロットと長袖のワークシャツを借りました。

大きな麦わら帽子を被って、水筒を持って出発です。
いとこたち4人と、お兄ちゃんとわたし、合わせて6人でワゴン車に乗りました。

途中から、細い山道を歩きました。
わたしは、ちょっと歩く、という意味が、山育ちのいとこたちとは、
ぜんぜん違っていることに、やっと気付きました。

バーベキューセットの入った、重いリュックを担いだお兄ちゃんは、
それでも楽々と歩いていましたが、わたしは膝ががくがくしました。

わたしがはっきり遅れだしたのに気付いたお兄ちゃんが、休憩を宣言しました。
わたしは、木に寄り掛かって、水筒のお茶を飲みました。

270  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 18:49
何度も休んで、足の感覚が無くなってきた頃、やっと渓流に着きました。
小川と言って良いほど細い流れでしたが、水は澄み、小さな魚が閃いています。

わたしたちは荷物を置いて、靴と靴下を脱ぎ、足をせせらぎに浸しました。
小石で足を滑らさないように、お兄ちゃんがわたしの手を取りました。
川の水はびっくりするほど冷たく、火照った足を冷やしてくれました。

岩に腰を下ろして休んでいると、お兄ちゃんたちが食事の準備を始めました。
バーベキュー用のグリルを組み立て、あらかじめ切った材料を出します。

日焼けして元気に動き回る、いとこたちとお兄ちゃんを見ていると、
自分ひとりが見知らぬ異邦人になったような気がしました。

バーベキューが始まりました。
お兄ちゃんは、お肉や野菜を焼き過ぎるのが我慢できないのか、
次々とわたしの皿に、バーベキューの串を載せます。

「お兄ちゃん、こんなに食べられない……」

「ん、ちょっと多いか。
 残したら俺が食ってやるから」

疲れているせいか、あまり味がわからず、半分も食べられませんでした。
するとL姉ちゃんが、わたしの二の腕や太股を見ながら言いました。

「○○ちゃんも、もっとお肉付けなあかんわ。
 ダイエットしすぎと違う〜?」

ダイエットどころか、わたしはもっと太りたいと思っていました。

271  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 18:51
食事が済んで、後片付けする時も、わたしはぼうっとしていました。
なんだか、体が浮いているように、ふわふわしました。

お兄ちゃんが何か声を掛けて、近付いてきました。
わたしは黙って立ち上がり、お兄ちゃんの所に行こうとして、よろけました。
転びかけたわたしを、お兄ちゃんが抱き留めました。

「お前、熱があるじゃないか!」

わたしは機械的に頷きました。頭がうまく回らなくなっていました。
それから後の事は、よく覚えていません。
お兄ちゃんに背負われて、山を下りたような気がします。

目覚めると、布団の中で、寝間着を着ていました。
混乱して、いままで夢を見ていたのか、と思いました。

枕の感触が冷たくて変です。
起き上がろうとすると、痛くて体が動きません。
呼吸もおかしくて、喉の奥がひゅーひゅーと鳴っています。

ぎゅっと目をつぶってから目蓋を開けると、目の前にお兄ちゃんの顔がありました。

「○○、目が覚めたのか?」

お兄ちゃんの顔が憔悴して、病気のように見えたので驚きました。
わたしは返事をしようとしましたが、声がうまく出ません。

わたしが口を動かすと、お兄ちゃんが耳を近づけてきました。
わたしはやっとのことで、囁くような声を出しました。

「お兄ちゃん、どうしたの?」

「お前、二日も眠っていたんだぞ」

「?」

「山でお前が倒れて、兄ちゃんたちと交替で背負って運んだんだ。
 40度近い熱が下がらなくて、お医者さんを呼んだんだ。
 ……お前が死ぬかと、思った」

見ると、お兄ちゃんは、涙を流していました。
お兄ちゃんが泣くのをまともに見るのは、これが初めてでした。
272  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 18:51
「……泣かないで」

「……お前は覚えてないだろうけど、
 昔もこんなことがあったんだ。
 お前が小学校に上がる前だ。
 あの時は、本当にお前が死ぬと思った……」

お兄ちゃんは顔を腕でごしごし拭って、続けました。

「あの時も40度近い熱が続いてな。
 それまでお前は体が丈夫だったんだぞ」

「え?」

「それが、1ヶ月近くも寝込んで、
 起き出した時には、すっかり痩せ細ってた。
 人が変わったみたいにぼんやりしてな。
 体質が変わったのか、すぐに寝込むようになったしな」

お兄ちゃんは、長いため息をつきました。

「……ちょっと、その時の事を思い出しちゃったよ。
 あの時、俺は夜、布団の中で、
 明日になったらお前が息をしていないんじゃないかって、
 震えてたんだ」

「……お兄ちゃん。
 わたし、だいじょうぶ。
 ごめんね。
 わたしのせいで」

「いいんだ。
 お前のせいじゃない。
 誰も好きこのんで病気するわけじゃない」

お兄ちゃんの指が、わたしの首を、そっといたわるように撫でました。
273  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 18:54
「腹減ってないか?」

お腹は空っぽでしたが、空腹感はありませんでした。

「少し痩せたみたいだし、ちゃんと食わないとな」

お兄ちゃんが出て行って、わたしはまた、うとうとしました。
しばらくすると、土鍋を持ったお兄ちゃんが帰って来ました。

「お粥だ」

お兄ちゃんの手を借りて、わたしは上体を起こしました。
軽い目眩がして、頭がくらくらしました。

お兄ちゃんはレンゲでお粥をすくって、ふーふーしました。
目の前に来たレンゲの中を見ると、透けて見えるほど薄いお粥でした。

口を開けると、レンゲが入って来ました。
ほぐした鶏を煮込んで、薄く味付けた鶏粥でした。

砂に水が滲み込むように、美味しさが全身に行き渡りました。

「美味しい……」

「そうかそうか。どんどん食べろ」

わたしが大きく口を開けると、またレンゲが近付いてきました。
急にレンゲが引き戻されて、お兄ちゃんがぱくりと口に入れました。

「……?」

「ははは、ホントに美味しいな」

わたしが口を開けたままでいると、お兄ちゃんはうなだれました。

「……ごめん」

わたしがくすくす笑うと、お兄ちゃんも笑顔になりました。

「なんか、雛鳥に餌やってるみたいだな」

274  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 18:55
数日のあいだは、トイレに行くのにも、お兄ちゃんの肩を借りなければ
なりませんでした。

わたしたちは、お盆が過ぎれば父方のお婆ちゃんの家に戻る予定でしたが、
わたしの療養のために、夏休み中ここにとどまる事になりました。

毎日お兄ちゃんは、わたしの傍らで勉強していました。
時々ちらちらと、こちらに視線を向けました。
わたしは布団に横になって、お兄ちゃんの横顔を眺めました。

「お兄ちゃん」

「ん? どした?」

「お兄ちゃんは帰らなくていいの?
 夏期講習、あるんでしょ?」

「勉強はここでだってできるさ。
 勉強道具も一式持ってきたしな。
 お前が寝ていると思ったら、おちおち勉強してらんないよ」

ごめんなさい、と言うとお兄ちゃんが怒ると思って、こう言いました。

「ありがとう、お兄ちゃん。
 わたし、しあわせ……」

お兄ちゃんと毎日ずっと一緒に居られて、嬉しいのは確かでした。
でも、早く元気になって、お兄ちゃんと遊びに行きたい、と思いました。
お兄ちゃんに気遣われるばかりでは、情けなかったのです。

275  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 18:56
数日経って、不意にお兄ちゃんが、勉強の手を止めて言いました。

「○○、退屈じゃないか?」

「……別に」

お兄ちゃんは立ち上がり、首をこきこき鳴らしました。

「んー。俺はずっと座って勉強してると血が騒ぐなあ。
 気分転換になんかしたいよ。
 ……そうだ。
 奥の間に本棚があったから、
 なんかお前が読む本ないか見てくる」

戻ってきたお兄ちゃんは、1冊の本を手にしていました。
文庫本ではなく、ハードカバーでした。

「ろくな本なかったなあ。
 辞書とか分厚い家庭の医学とか、雑誌ばっかりだ。
 小説はこれぐらいだった」

お兄ちゃんが、かなり古びた本の表紙を見せました。
三浦綾子の『氷点』でした。

お兄ちゃんは枕元に胡座をかきました。

「読んでやろう……なんか懐かしいな。
 お前、昔は風邪引いた時、
 絵本を読んでくれってよく言ってたっけ」

「え?」

「そっか、覚えてないか……。
 お前が何かをおねだりしたのは、あの時ぐらいだったのにな」

276  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 19:13
お兄ちゃんは、少し寂しそうでした。
わたしは、お兄ちゃんとの思い出が、記憶に残っていない事が意外でした。

「……すり切れてぼろぼろになった絵本だった。
 俺に読んでほしいって言うんだ。
 いったい何度読まされたことか……。
 うっかりページを飛ばすと、
 すかさず指摘されるしな。
 お前、中身を一言一句暗記してたじゃないか。
 なんで俺が読まなくちゃいけないんだろうって、
 不条理を感じたよ」

言いながら、お兄ちゃんの顔がほころんできました。

「……ごめんなさい。
 ぜんぜん覚えてない……」

「はははっ。いいっていいって。
 気にすんな。覚えてなくて当たり前だって」

お兄ちゃんは表紙を開いて、読み始めました。
ただ読むのではなく、登場人物の台詞に合わせて声音を変えて、
表情たっぷりに演技するのです。

最初わたしは呆気に取られましたが、
舞台俳優のようなお兄ちゃんの巧みな話術に、引き込まれていきました。

時間を忘れていると、お兄ちゃんが不意に本を閉じました。

「ふう。流石に疲れたな。
 今日はここまでにしよう。
 お前もあんまり集中していると疲れるだろ?」

「……え? あ、そんなこと無い。
 すっごく面白かった」

わたしは、ほう、と感嘆のため息を漏らしました。

「ふふふ、そうだろそうだろ。
 あんまり熱心に見つめられて、つい調子に乗っちゃったよ」

お兄ちゃんは得意そうに、にやにや笑いました。

……穏やかで満ち足りた時間は飛ぶように過ぎ、出発の前夜になりました。
277  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 19:15
明日からは、またひとりきりの毎日が始まる。
どうしてもその考えが胸をよぎって、心が重く沈みました。

夕食の後、わたしが意識を宙にさまよわせていると、
お兄ちゃんが声を掛けてきました。

「○○、もう体はよくなったか?」

わたしはハッと現実に引き戻され、とっさに返事しました。

「うん。もう歩き回っても大丈夫みたい。
 明後日からは学校行かなきゃいけないし……」

「学校、嫌なのか?
 いじめられたりしてないだろな?」

「……別に。
 わたし目立たないし、体弱いから、無視されてるんだと思う」

「え? お前が目立たない?
 ふははははは!
 ……それは無いと思うぞ」

「……?」

いきなり爆笑し始めたお兄ちゃんを、わたしは怪訝な目で見つめました。
お兄ちゃんは笑いを止め、ふう、とため息をつきました。

「お前はとびきり変わってるよ。
 俺が保証してやる」

「変?」

「違う違う。面白いってことさ」

「……?」

自分のどこに面白みがあるのか、さっぱり分かりませんでした。
278  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 19:15
「お前が目立たないなんてあり得ないよ。
 どうしてそう、自信を持てないんだろうな?
 ……ああ、独り言だから気にするな」

「……?」

そう言われてしまうと、それ以上問いただす事はできませんでした。

「ま……来年になればお前も中学だ。
 俺も、うまく行けば高校だしな。
 環境が変われば、友達が出来るかもしれない。
 そうなれば、お前も変わるさ」

お兄ちゃんの予言は、翌年になるまでわたしには謎のままでした。

「それより、散歩でも行くか?」

「散歩?」

「ずっと籠もりっきりで、足がなまるといけないしな。
 この辺にはけっこう景色の良い所が多いらしい。
 せっかく来たんだから、見ておかないと損だろ」

お兄ちゃんとの夜の散歩は、8ヶ月ぶりでした。

「じゃあ、行く」

わたしは久しぶりに、外出着に袖を通しました。
帽子を被らずに済むので、頭が軽い感じです。
外に出て夜気を吸い込むと、草の匂いがしました。

「道が暗いから、手をつなごう」

お兄ちゃんが、わたしの左手を取りました。
広い道を少し歩いて、少し起伏のある細い道に入りました。

だんだん闇に目が慣れてきて、周りの景色が見えてきました。
聞こえるのは、風に木々の枝がざわめく音と、虫の声だけです。

人の気配の無い山道を歩いていても、恐怖は感じませんでした。
8ヶ月前の散歩の時のような、焦燥感もありません。
この道がどこまでも続いているような、そんな気がしました。

お兄ちゃんが立ち止まり、わたしも釣られて足を止めました。
茂みの中の、小さな広場でした。

「着いたぞ。上を見てみろ」

見上げると、満天の星空でした。
279  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 19:18
「……わあ」

「……凄いだろ」

空いっぱいに、星屑がちりばめられていました。
言葉もなく、二人して無数の星を見上げました。
夜空すべてが、わたしたち二人のもののように思えました。

首が痛くなった頃、お兄ちゃんがつぶやきました。

「座るか」

広場の端に積み上げてあった、丸太に腰掛けました。
夜のとばりに包まれて、いつもと違った空気がお兄ちゃんとのあいだに、
あたたかく流れていました。

わたしは自分でもよく分からない何かを、口に上せたくなりました。
焦燥感とは違う、胸の熱さがありました。

「……お兄ちゃん」
「……○○」

ほとんど同時に、わたしとお兄ちゃんの口から言葉が漏れました。

「え、あ、なに?」

「お前こそ、なんだ?」

280  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 19:18
躊躇して、息を吸い、改めて言いました。

「お兄ちゃん。
 どうして、手紙くれなかったの?」

「……あ」

「住所や電話番号を教えてもらえなかったから、
 わたしからは、手紙も電話もできなかった。
 明日、わたしは家に帰って、
 次に来れるのは、きっと冬休み。
 電話は禁止されてるけど、手紙は書く。
 返事は、もらえないの?」

こんな風に言うつもりはなかったのに、
お兄ちゃんを責めるような言い方に、なってしまいました。

わたしがうつむくと、お兄ちゃんは立ち上がって、動物園のクマのように、
辺りをうろうろし始めました。
お兄ちゃんは、しばらくして立ち止まり、こう言いました。

「……すまん。
 お前のこと、忘れてたわけじゃないんだ。
 気にはしてた。
 でもな……。
 あの家に電話して、もし親父が出たら、と思うと。
 手紙も、多分開封されるしな。
 気が進まなかったんだ。
 これからは、あんまり度々は無理だけど、
 手紙書くよ」

わたしは安堵のため息をつきました。
手紙を開封されるというのは、あの父親なら、いかにもありそうに思えました。

281  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 19:19
「お兄ちゃんがわたしのこと、
 忘れたんじゃなくって、よかった……。
 これから、毎日一番に郵便受け見るから。
 電話もなるべく一番に出る」

「頼む」

「さっきお兄ちゃんが言いかけてたのは、なに?」

「……アルバムの事だ」

HクンとF兄ちゃんの顔が、すっと目の前をよぎりました。

「家にはアルバムが無かったからな。
 俺たちは写真を見る、って習慣が無かったけど、
 これから、二人でアルバムを作らないか?」

「二人で?」

「ああ、お前の写真撮って、送ってくれよ。
 俺も送るからさ」

「……うん」

言われてみると、良い考えだ、と思いました。
離れていても写真があれば、お兄ちゃんの顔を、毎日見ることができます。

自然にわたしの顔が、綻びました。
星明かりに照らされたお兄ちゃんの顔も、微笑んでいます。

「ぼちぼち、戻るか?
 あんまり遅くなると、みんな心配するしな」

「うん」

帰りの道すがら、写真を撮りに行くことを、考えました。
明日からの日々が、重苦しくなくなったような気がしました。

最後の晩は、お兄ちゃんと手をつないで寝ました。
冬休みに来るときまで、この温もりを覚えていよう、と思いながら。
282  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 19:21
最後の日の朝はいつもよりだいぶ早く、目が覚めました。
でも、お兄ちゃんの布団は、すでにありませんでした。
着替えて身繕いしていると、お兄ちゃんが入ってきました。

「○○、もう起きてたのか。
 お前もシャワー浴びるか?」

お兄ちゃんの頭はまだ濡れていました。
きっと朝のランニングの後、シャワーを浴びていたのでしょう。

「いい……髪乾かすの、時間かかるから」

「んー、でもなあ。
 今日は電車や飛行機でずっと座ってないと駄目だろ。
 さっぱりしてった方が良いって。
 乾かすの手伝うからさ」

シャワーを浴びて帰って来て、お兄ちゃんに髪をブローしてもらいました。

「お客さん、かゆいトコロはありませんか〜?」

「お兄ちゃん、美容師さんみたい」

わたしはくすくす笑いました。

「んー、美容師か。それも良いな〜」

なんとなく、お兄ちゃんが女のお客さんに囲まれているところを、
思い浮かべてしまいました。

「もう……お兄ちゃん、なに考えてるの?」

「くくくくく、いや別にぃ」

「もう」

「もうもう言って、お前はウシか?」

「もう!」

「こらこら頭動かすな。頭、編んでやるから」
283  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 19:22
また、大きな一本お下げに髪を編んでもらいました。
連れ立って居間に行くと、いとこたちが集まっていました。
K姉ちゃんとL姉ちゃんも、わたしたちを見送りに来てくれたのです。

「あんまし遊び行けへんかったけど、
 来年もまた来(き)いな。
 やっぱし凶暴な姉ちゃんよりかわいー妹のほうがエエわ」

L姉ちゃんがそう言って、すかさずK姉ちゃんにげんこつを貰っていました。
玄関の外でみんなに見送られ、I兄ちゃんの運転する車に乗りました。
駅でI兄ちゃんに手を振って別れを告げると、お兄ちゃんと二人になりました。

「酔ったか?」

「……少し」

乗り物酔いもありましたが、もうすぐお別れだと思うと、心が沈みました。

「まだ時間あるし、ゆっくり行こう」

乗り換えに時間を掛けて、休み休み行きました。
空港の最寄り駅への特急列車は、席が空いていました。
お兄ちゃんが自分の膝を、ぽんぽん叩いて言いました。

「ここに頭乗せろ。少しは楽になる」

わたしが黙って頭を乗せると、麦わら帽子がかぶせられました。
列車の揺れに誘われて、わたしはうとうとしました。
お兄ちゃんに揺り起こされて目覚めると、列車が停まりました。
284  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 19:22
「なんか腹に入れてくか?
 朝からなんにも食べてないだろ」

「食べると吐きそうになるから、我慢する」

「そっか……。
 じゃ、ちょっと風に当たってくか」

駅前の繁華街を歩きましたが、人通りが多くて風はありませんでした。
お兄ちゃんが、不意に足を止めました。

「お兄ちゃん、どうしたの?」

「ほら」

お兄ちゃんの向いた先に視線を向けると、路上でアクセサリーが売っていました。

「ああいうの、興味ないか?」

「ない」

実際に興味はありませんでした。お兄ちゃんは苦笑しました。

「……そっかあ。ま、ちょっとだけ見ていこ」

お兄ちゃんがしゃがみ込んだので、わたしもしゃがみました。

「こんなのどうだ?」

お兄ちゃんは、サングラスを掛けた売り子の人に目をやってから、
シンプルな銀のデザインリングを取り上げました。
お兄ちゃんはわたしの左手を取って、薬指にはめました。

「うーん。やっぱ指が細すぎるか。
 まだお前には早いな。
 学校に指輪していくわけにもいかないしな」

お兄ちゃんは指輪を戻し、わたしのおでこから前髪を払いました。
285  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 19:23
「前髪、少し伸びたな。目に入りそうだ」

「うん、帰ったら、美容院に行く」

お兄ちゃんは並べてある中から、いぶし銀のシンプルな髪留めを手に取り、
売り子のお兄さんに声を掛けました。

「これ、下さい」

お金を払って、お兄ちゃんは髪留めをポケットに入れました。

「お茶でも飲んでくか?」

「うん……」

誰のために、お兄ちゃんは髪留めを買ったのだろう、と気になりました。
わたしたちは、アーケードの下の、古い喫茶店に入りました。
扉を開けるとき、からんころん、と音が鳴りました。

席に着くと、お兄ちゃんが立ったまま言いました。

「ちょっと詰めてくれ」

わたしは奥の席にお尻をずらしました。
お兄ちゃんはいつも向かいの席に座るのに、どうしたんだろう、と思いました。

ウエイトレスのお姉さんが、注文を取りに来ました。
わたしはレモンスカッシュ、お兄ちゃんはアイスコーヒーとホットサンドの
セットを注文しました。

286  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 19:24
お兄ちゃんはおしぼりで手を拭いて、呟きました。

「○○、顔を横に向けて」

「……?」

わたしは、黙ってその通りにしました。
視界の隅で、お兄ちゃんがポケットから、髪留めを取り出すのが見えました。
わたしがじっとしていると、お兄ちゃんがわたしの左耳の上に、
髪留めをはめました。

わたしが向き直ると、お兄ちゃんは言いました。

「ん。やっぱり俺はセンス良いな。
 似合うぞ」

「お兄ちゃん……これ、いいの?」

「ん? 当たり前だろ。
 何のために買ったと思ってるんだ?」

この時のわたしは、嬉しさを感じるより先にぽかんとしていました。

「どした?」

「……あ、ありがとう。お兄ちゃん。
 すごく嬉しい。大切にする」

わたしはそっと、手で髪留めに触ってみました。

「まぁ、誕生祝いもできなかったしな。
 せっかく来てくれたお土産だ」

わたしは舞い上がってしまって、すっかり乗り物酔いを忘れました。

やがて、注文した飲み物とサンドイッチが運ばれてきました。
わたしは、お兄ちゃんに勧められて、サンドイッチを半分食べました。

食べながら、今度来たときには、一緒に初詣に行く約束をしました。
楽しい時間は、飛ぶように過ぎて行きました。
287  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 19:25
お兄ちゃんが時計をちらりと見て、言いました。

「そろそろ時間だな」

わたしは黙って立ち上がりました。
空港行きのバスの中では、お兄ちゃんも押し黙っていました。

空港のロビーで、お兄ちゃんと別れました。
お兄ちゃんはわたしの姿が見えなくなるまで、手を振っていました。

飛行機の座席に背中を預けて、髪留めに手をやりながら、
わたしは目をつぶりました。夏は、終わったのだと思いました。
つうっと、涙が頬を流れました。

家に着いた時分には、もう暗くなっていました。
灯りの点いていない玄関の鍵を開け、中に入ると、無人の廃墟のように
思えました。

ああ、お兄ちゃんはこの家には居ないんだ、と思い、
相変わらず胸に大きな穴が空いていることを、久しぶりに実感しました。

新学期が始まりました。
昨日までの1ヶ月が、夢の中の遠い出来事のように思えました。
わたしは虚脱して、また機械的に一日一日を過ごしました。

それでも、朝起きたときや、学校から帰ってきたときは、まず最初に
郵便受けを確認しました。
まだ届いているはずがないと思いながらも、
どうでもいいダイレクトメールしか入っていない郵便受けに落胆しました。

次の日曜日、お昼前に郵便受けを見に行ったわたしは、
中に白い封筒が入っているのを見つけました。

お兄ちゃんからの手紙でした。
288  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 19:26
わたしは封筒を胸に抱き、ぱたぱたと自分の部屋に走り込みました。
封筒を破らないように注意して、封緘をていねいに剥がすと、
便箋が1枚と、スナップ写真が3枚出てきました。

写真は縁なしのサービスサイズで、お兄ちゃんが笑っています。
友達らしい男子生徒と一緒の写真もありました。

便箋に記された文面は短いものでした。
体育祭で、クラス対抗リレーの選手に選ばれたと書いてありました。
お兄ちゃんは小学校の時も、1年から6年までずっと、徒競走で1位でした。

わたしは写真を汚さないように、そっと勉強机の上に並べ、
すぐにパスケースを買いに行きました。

ポケットから落としても無くさないために、紐付きのパスケースを選びました。
お兄ちゃんへの返事を書く、水色の封筒と便箋、それに切手も買いました。

家に帰って、机に向かい、パスケースに大事な写真を収めました。
写真を見ながら、便箋を取り出した時、わたしはハッとしました。

お兄ちゃんに手紙で報告するような、面白い出来事が何もありません。
毎日薄ぼんやりと過ごしている事なんて、書くわけにはいきません。
そのうえ、返信に同封する写真さえありませんでした。

わたしは焦って、とにかく写真を用意しなくちゃ、と思いました。
あの白いワンピースに着替えて、また外出しました。
駅前までバスで行き、見覚えのあった証明写真ボックスに直行しました。

鏡に上半身を映してみると、髪が撥ねていました。
わたしはボックスを出て、行きつけの美容院に行きました。
予約していなかったので、待たされて気が逸りました。
いつもの美容師さんに、髪をセットしてもらいました。
289  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 19:28
再び証明写真ボックスで、鏡の前に座ると、緊張した顔が映りました。
ほっぺたを自分で揉みほぐして笑ってみましたが、
なんだか引きつったような、おかしな表情にしかなりません。
自分はいつも、こんな変な顔をして歩いているのだろうか、と思いました。

不自然な笑顔より真面目な顔の方がマシだと思って、
じっと前方を見つめながら、硬貨を入れて写真を撮りました。

ランプが点いて、出来上がりの写真が出てくるまで、じりじりしました。
縦に3つつながったカラー写真が出てきました。

印画紙に写ったわたしの顔は、鼻と口が飛んでのっぺらぼうでした。
そのうえ、交番に貼ってある手配写真の、犯人のような目つきでした。

これは、ダメだ、と思いました。
どうしよう……と思ったわたしの脳裏に、デパートの近くにある写真館が
浮かんできました。

写真館のショーウインドウには、晴れ着姿の子供の写真が飾ってありました。
ガラスの重いドアを押して中に入るのには、抵抗がありました。
でも、見えない手で背中を押されているかのように、わたしは足を踏み入れました。

カウンターでは、太った髭面のおじさんが何かしていました。
わたしは前に立って、小声で呼びかけました。

「あの……」

「あ? いらっしゃい。写真の受け取り?」

「いえ……わたしの写真を、撮ってもらいたくて」

おじさんは、手を止めて顔を上げました。

「お嬢ちゃん、ひとりで?」

「お金は、あります。
 田舎のお兄ちゃんに送る写真を、撮ってください。
 外に飾ってあるようなのを」

「ふむう……服と髪はそのままで良いとして。
 ああいうのは高く付くけど、大丈夫?」
290  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 19:34
おじさんの口にした金額は、写真1枚にしては思ったより高額でした。
でも、わたしは家計をそっくり財布に入れて持っていました。
ここで奮発しても、後で節約すればなんとかなる、と思いました。

「お願いします」

わたしは奥のスタジオに通されました。わたしは椅子に座らされ、
おじさんはいくつもあるライトスタンドの明かりを点けました。
おじさんがブラシで、わたしの髪と服の埃を払いました。
目の前に、黒い布を被せた、見たこともない大きなカメラがありました。

「楽ーにして。
 手のひらは膝の上で重ねて。
 そうそう。
 にっこりしてみて」

わたしは笑顔を作ろうと、努力しました。
おじさんは少し離れて、不意に手に持ったポラロイドカメラで1枚撮りました。
1分ほど経って、ポラロイドカメラの印画紙に色が浮かんできました。
写真のわたしは、笑っているようには見えない、強張った顔をしていました。

「ほーら。表情が硬い。
 目をつぶって、一番楽しかったことを思い出してみるといい」

わたしは目蓋を閉じて、この夏の出来事を思い浮かべました。
髪を編んでもらった事……マッサージしてもらった事……出汁巻き卵を作った事。
お祭りの金魚すくい……盆踊り……本を読んでもらった事……星を見た事。

「ゆーっくり目を開けて。
 そのまま頭を上げて、顎を少し引いて」

わたしが目を開けて、言われるままにすると、シャッターを切る音がしました。
291  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 19:34
写真はすぐには出来ないそうなので、引き換え伝票を貰って帰りました。
大きなサイズの他に、サービスサイズもおまけしてもらいました。

帰宅して、写真を撮りに行った事を、便箋に書き始めました。
書いているうちに、だんだんと気持ちが高ぶってきました。

5枚の便箋を字で埋めたあと読み返すと、まるでラブレターそのものでした。
わたしは便箋を丸めて、ゴミ箱に投げ入れました。

夏休みの前は、自分を抑えていられたのに、1ヶ月のあいだずっと、
お兄ちゃんの笑顔を見て、お兄ちゃんと一緒に過ごして、
そして再び離ればなれになってみると、締め付けられるような胸の痛みが、
かえって強くなってしまいました。

どうしてこんなに苦しいのに、好きになってしまったんだろう、と思いました。
夜、ベッドに入っても、なかなか寝付くことができませんでした。

真夜中になって、わたしは不意に目が覚めました。
頭を空っぽにしても、胸苦しくて、息がはあはあと大きくなってきて、
居ても立ってもいられなくなりました。

わたしは起き上がって、蛍光灯も点けずに、外出着に着替えました。
枕の下に入れてあったパスケースをポケットに仕舞い、部屋を出ました。

家の外に出ると、頬に当たる風が涼しすぎるぐらいでした。
星明かりの下、お兄ちゃんと一緒に散歩した道を、ひとりで歩きました。
足が疲れるまで、声もなく涙を流しながら、わたしは歩き続けました。

朝になって、洗面所で鏡を見ると、目が赤く充血していました。
眠い目のまま登校して、自分の席に着きました。
そう言えば、新学期が始まってから、学校で誰とも口を利いていませんでした。
292  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 19:35
午後のロングホームルームの議題は、10月の運動会の役割分担でした。
わたしは、運動会が嫌いでした。
1年生から5年生まで、いつも徒競走でビリだったからです。
運動会の前日に、大雨で運動会が中止になればいい、と思った事もあります。

誰かが、わたしを応援団に推薦しました。
信任投票では、あっさり過半数の手が上がりました。
わたしが応援に向いていたから、選ばれたのではありません。

応援団に入ると、参加する競技が少なくて済みます。
わたしのような戦力外の子に割り当てるのが、通例だっただけです。

放課後、応援団員が、校庭の隅に集められました。
結団式があって、6年生の男子が団長に就任しました。

男子は中学の詰め襟学生服を着て鉢巻きを締め、
女子はテニス部のスカートを穿いて両手にポンポンを持つことになりました。

女子は、自分の分のポンポンと、クラス単位の応援で振る旗を、
各自で作ってくるように指示されました。
ポンポンの材料のビニール紐と、旗の材料の短い竹竿、赤い布を持って帰りました。

家に帰ってポンポンを作っていると、手を動かしているあいだだけ、
余計なことを考えずに済みました。

次は、竹竿に赤い布を縫いつけるだけです。
裁縫箱を取り出しながら、ふと、考えがひとつ浮かびました。
応援団で活躍できれば、お兄ちゃんへの手紙にそれを書けるのではないか、と。

わたしのように背が小さくて、大きな声が出せなくても、
大きくて派手な旗を振れば、応援で目立つことができるかもしれません。
293  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 19:35
わたしはまず、近くの住宅建設現場で、細長い棒切れを拾ってきました。
板の端切れで柾目が横に走っていましたが、ちょうど手頃な長さだったのです。

棒を端から端まで白と赤のガムテープで巻いて、ささくれを隠しました。
旗の材料に、古いシーツを80センチ四方に2枚、切り取りました。

2枚のシーツそれぞれに、赤いガムテープで、

 赤 組

 優 勝

と、太く字を書きました。
ガムテープが剥がれないように、赤い刺繍糸でテープを固定します。

余白には、何種類も刺繍糸を使って、字を囲むように模様を描きました。
最後に、2枚のシーツを張り合わせて、縁を刺繍で飾りました。

わたしは手先が不器用だったので、これだけのことを仕上げるのに、
空いた時間を毎晩全部つぎ込んでも、1週間掛かりました。

そのあいだに、出来上がった写真を取りに行き、写真館で写真を撮った事、
運動会で応援団に所属する事を記した短い手紙を付けて、お兄ちゃんに
送りました。

放課後には、運動会の練習がありました。
わたしは、応援団の全体応援練習で、ダンスを踊らされました。
運動神経の鈍いわたしは、みんなの動きに付いていくのが大変でした。

でも、わたしが頑張っている事を、お兄ちゃんへの手紙に書くのが楽しみで、
筋肉痛や疲れは、少しも苦になりませんでした。
むしろ、疲労困憊するまで体をいじめた方が、夜ぐっすりと眠れました。

10月になり、運動会の日がやってきました。
今度ばかりは、大雨が降ることを祈ったりはしませんでした。

わたしは、全員参加の玉入れと徒競走に出場する事になっていました。
保護者席にはお兄ちゃんはもちろん、両親の姿も見えませんでした。
294  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 19:37
わたしの作った旗は、白い布で巻いて、校庭の自分の椅子に持ってきていました。
担任の先生が通りかかって、わたしの前で立ち止まりました。
去年の担任と同じ先生でした。

「○○さん、それ、なあに?」

わたしは覆いを取って、旗を見せました。
先生は、口を丸くしました。

「……これ、あなたが作ったの?
 すごい手間がかかったでしょ?」

「はい。1週間掛かりました」

「こんな旗を持ってきたの、
 あなただけだって、わかってる?」

「……駄目、でしょうか……?」

「……授業中自分から絶対手を挙げないあなたが、
 こんな派手な旗を作ってきたから、先生びっくりしたの。
 なにか、訳があるの?」

「……お兄ちゃんに、見せたかったんです」

「え? お兄ちゃん来てるの?」

先生は辺りをきょろきょろしました。

「いえ……誰も、来ていません。
 でも、今日のことを、手紙に書こうと思ってます」

「そう……。
 …………。
 じゃ、先生が写真撮ってあげる」
295  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 19:38
「……え? いいんですか?」

「ふふふ。自分で旗を作ってくることになってるけど、
 どんな旗を作るかまでは決まってなかったからね。
 それに、卒業アルバム用に最初っから写真撮るつもりだったし。
 あなたの写真をアルバムに使うかどうかはわからないけど、
 現像できたら何枚かあげる」

「あ……あ、ありがとうございます、先生」

わたしは先生に、深々とお辞儀しました。

「いいっていいって。
 でも、みんなには内緒ね。依怙贔屓してるって言われるから」

「はい。わかりました」

「今日は、思いっきり頑張んなさい。
 ずっとお兄ちゃんが見てると思って」

先生は手をひらひらさせて、立ち去りました。

運動会が、始まりました。
わたしは、同級生の男子の応援団と一緒に、3年生のクラスに行きました。

男子が掛け声を出して、3年生の1クラスに応援の歓声を上げさせ、
わたしがそれに合わせて旗を振るのです。

午前中、玉入れのあいだを除いてずっと旗を振っていると、
腕がだるくなり、脚がぱんぱんに張ってきました。
それでも、お兄ちゃんが見ている、と思うと、力が湧いてきました。
296  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 19:39
お昼休みになって、先生がやってきました。

「○○さん、お弁当ある?」

「はい」

「じゃ、一緒に食べましょ」

先生は、わたしを校舎の裏に連れて行きました。
どうしてこんな、人の居ない所で食べるのだろう、とわたしは思いました。
わたしの不思議そうな顔を見て、先生が言いました。

「校庭で食べると、みんな寄ってくるからね。
 のんびり食べられないでしょ?」

花壇の縁に腰掛けて、お弁当を広げました。

「うわ……それ、あなたが作ったの?」

なんだか、朝と同じことを聞かれているようでした。

「はい」

「おかず、交換しない?」

「はい」

わたしは先生のお弁当の蓋に、卵焼きを載せました。
先生はそれを頬張って、言いました。

「わたしが作るより美味しいわね……。
 自分で料理覚えたの?

「お兄ちゃんに教わって、ずっと練習してきました」

先生は、優しいような、悲しいような、不思議な笑みを浮かべました。
それから先生に、美味しい出汁の取り方を教えました。

昼休みが終わりました。
午後には、応援合戦と徒競走があります。
競技の順番が進むにつれ、わたしはどきどきしてきました。

応援合戦では、両手にポンポンを付けて、みんな揃って踊りました。
応援合戦が終わって席に戻ると、
放送が、徒競走に出場する6年生は集合するように、と告げました。
297  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 19:41
わたしが旗を置いて行こうとした時、3年生の男子がひとり、寄ってきました。
代わりに応援するから、旗を貸してほしい、と言うのです。
わたしはその子に旗を預け、集合場所に急ぎました。

集合場所で、練習の時と同じ、6列の行列を作りました。
係の人が、欠席者がいるから、1人ずつ前にずれるようにと言いました。
わたしの列から1人抜け、後ろから1人、入ってきました。

新しく入ってきた子を見て、わたしは幸運の女神が微笑んだ、と思いました。
その子は、わたしの2倍ぐらい体重がありそうで、わたしと同じぐらい、
走るのが遅かったのです。

もしかしたら、勝てるかもしれない、と思いました。

徒競走が始まりました。
列がだんだんと前に動いてゆき、わたしたちの順番が回ってきました。
わたしは、ピストルの音に集中しました。

ぱん、と乾いた音が鳴り、同時に前に飛び出しました。
10メートルも行かないうちに、わたしと新しい子の2人が、取り残されました。

ちらりと横を見ると、その子とほとんど並んでいました。
もう横を見ずに、前だけ見て、一心に脚を回転させました。
遠ざかっていく他の子たちは、もう関係ありませんでした。

少し体を斜めにしてカーブを走り抜けようとして、脚がもつれかけました。
よたよたと体勢を立て直すと、ゴール近くの保護者席が目に入りました。
歓声を上げる大人たちの中に、お兄ちゃんの姿はありません。
298  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 19:42
でも、どこかできっと、お兄ちゃんが見ている、とわたしは思いました。
後半になると、息が上がってきました。
酷使した脚が、肺が、悲鳴を上げています。

先行した4人は、とっくにゴールしていました。
それでも、歓声は鳴り止みませんでした。

隣の子よりわたしの方が速いのか、遅いのか、もうわかりません。
体にまとわりつく、水の中を走っているような気がしました。
ゴールにたどり着いたときは、走り抜けると言うより、
よろめいていたと思います。

ゴールしたらすぐに、出場門から出なくてはいけないのですが、
わたしは脚が重くて、それ以上一歩も進めなくなりました。

その場にしゃがみ込み、息を整えようとしましたが、
吸い込もうとしても、空気がなかなか入ってきません。

目の前に、スラックスを穿いた足が現れました。先生でした。

「よく頑張ったね!
 ちゃんとゴールの写真、撮ったから」

わたしはやっとのことで、返事をしました。

「……な、何位でしたか?」

「5位よ。
 ほとんど差がなかったけど、最後まで諦めなかったせいね」

わたしは思わず、立ち上がりました。
やった!と跳び上がりたい気分でした。
299  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 19:42
先生に手を引かれて、出場門をくぐり、救護所に行きました。
酸素スプレーを吸わせてもらって、5分ほど休んでから、
応援の持ち場に戻りました。

歩きながら、手紙と写真を見るお兄ちゃんの顔を想像して、
自然に顔がにやけてきました。

持ち場に戻ると、3年生のクラスの様子がおかしいのに気づきました。
誰も旗を振っていませんし、声も出していません。
みんな下を向いて、わたしと目を合わせようとしません。

わたしは近くにいた女子に、声を掛けてみました。

「どうしたの?」

「……あの、N君が、旗を壊しました」

「え?」

女子が指さす方を見ると、みんなから少し離れた後方に、男の子がひとり、
立っていました。
手に、二つに折れ曲がったわたしの旗を、持っています。

わたしは男の子に歩み寄りました。
わたしが近付くと、男の子は顔を上げました。
べそをかいていました。

「どうしたの?」

「ぼく、ぼくがっ……壊しました」

男の子は、えぐえぐと泣き出しました。

「落ち着いて、話して」

聞いてみるとどうやら、旗を奪い合っているうちに折れてしまったようでした。
棒が柾目になっていなかったので、横からの力で折れやすくなっていたのです。
わたしは男の子の頭に手を置いて、言いました。

「いいの。
 あれは、初めから壊れやすかったみたい。
 もう応援も終わりだし。
 正直に言ってくれたから、怒ってない。
 泣かなくって、いい。
 これから、借りた物は大切にするって、約束してくれる?」

男の子は泣きやんで、「うん」と言いました。

弟を慰めるのは、こんな気持ちだろうか、とわたしは思いました。
こうして、わたしの最後の運動会は、終わりました。
300  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 19:44
運動会の翌日は、休養のためか、学校がお休みでした。
わたしは疲れ切っていて、昼前までずっと寝ていました。
起きようとしても、全身の筋肉痛とだるさで動けませんでした。

午後になって、体を引きずるようにして台所に行き、
買い置きのパンと牛乳で軽い食事を摂って、またベッドに入りました。

再び目が覚めると、すっかり暗くなっていました。
まだだるさが酷くて、体がマットレスに沈んでいくようでしたが、
無理やりに起き出しました。

掃除も洗濯もせず、机に向かいました。
昨日のことを、どうしても手紙に書いて送らなければなりません。

前と同じように「お兄ちゃん、お元気ですか?」で書きだして、
応援の旗を作った事、先生に写真を撮ってもらった事、
先生とお昼を食べた事、応援合戦でみんな一緒に踊った事、
徒競走で初めてビリでなかった事、旗を折った下級生を慰めた事を書きました。

最後に、机の上の写真立てを見ながら、
「たまにはお兄ちゃんの声が聞きたい」と締めくくりました。

便箋を折って白い封筒に入れ、速達料金込みの切手を貼り、
表書きに大きく「速達」と書きました。
わたしは、明日の朝、登校の途中に郵便ポストに入れようと思いながら、
ベッドにもぐり込みました。

301  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 19:45
朝になって目覚めても、まだ体の重さは取れていませんでした。
まるで、鉛を全身に流し込んだようでした。
でも、病気ではないと思っていましたし、手紙を出さなくてはいけません。

わたしは、這いずるように起き出して、服を着替え、登校しました。
途中の郵便ポストに手紙を投函した頃から、脇腹が鈍く痛みだしました。
早く学校に行って座りたいと思いましたが、速く歩けませんでした。

学校に着くと、わたしは自分の席に座って、机に突っ伏しました。
授業が始まって頭を上げると、体がぐらぐらしました。
授業が終わらないかと思うぐらい、時間の流れがゆっくりしていました。

お昼休み、初めてわたしは給食を残しました。
それまで、食べないと大きくなれないと思って、嫌いなおかずの時でも、
一度も残したことはありませんでした。

運の悪いことに、5時間目の授業は体育でした。しかも、徒競走です。
見学しようかと思いましたが、熱もなく、意識もはっきりしているのに、
疲れているだけでは理由にならない、と思い直しました。

それに、今日はタイムを計るので、欠席すると後で居残りになります。
一昨日と同じように6列になって、順番を待ちました。
わたしの列の順番が来て、先生がスタートの合図の旗を揚げました。

走りだすと、脇腹の鈍い痛みが、激痛に変わりました。
コースの半分も行かないうちに、わたしは走れなくなりました。
その場に立っていることさえできず、わたしは体を二つに折りました。

302  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 19:46
わたしが地面に這いつくばっていると、先生が走って来ました。

「○○さん、大丈夫?」

わたしは返事をしようと顔を上げました。

「……せん、せい。さむい」

悪寒で全身に鳥肌が立っていました。
差し伸べられた先生の腕を掴むと、異様な熱さを感じました。
驚いて自分の手を見ると、爪が紫色に変わっていました。

「あなた、手が冷たいじゃない!」

先生の顔色が変わりました。
わたしは先生に肩を抱かれて、保健室に連れて行かれました。
先生が、どこかに電話を掛けていました。

「○○さん、返事できる?」

「……はい」

「誰も電話に出ないんだけど、お父さんとお母さん、
 何時ぐらいに帰ってくるかわかる?」

「……わかりません」

「……じゃあ、先生と一緒に病院に行きましょう」

「先生。わたし、病気なんですか?」

「……わからないから、検査してもらわないとね。
 先生が一緒だから、安心して」
303  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 19:47
先生の車に乗せられて、病院に向かいました。
急な坂道を登り始めたので、先生に聞きました。

「学校医の先生の所じゃ、ないんですか?」

「あ、学校医の先生はちょっと留守みたい。
 こっちの方が、設備が良いしね」

着いたのは、山の中腹にある、大きな総合病院でした。
保険証がありませんでしたが、学校に提出していた保険証のコピーを、
先生が持ってきていました。

だいぶ待たされるかと思いましたが、先生が受付で話をして、
順番を飛ばしてもらいました。
わたしは、紙コップを持たされて、トイレで尿を採るように言われました。

個室に入ると、洋式便器でした。
わたしは冷たい便器に腰を下ろし、おしっこが出てくるのを待ちました。
今日は朝からトイレに行っていないのに、なかなか出てきません。

やっと出てきた尿は、血の色をしていました。
わたしは思わず、「先生!」と叫び声を上げました。

304  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 19:48
わたしが声を上げると、すぐに個室の扉が開きました。
検査室のトイレは、鍵を掛けても外から開ける方法があったようです。

看護婦さんがわたしの手からコップをさっと取って、どこかに持って行きました。
先生がわたしの肩を抱いて、診察室に連れて行きました。

診察室では、眼鏡を掛けた、髪の長い女のお医者さんが待っていました。
お医者さんは、震えているわたしに言いました。

「××さん、わたしはO。よろしくね。
 今日からわたしがあなたの主治医よ。
 命に関わるようなことはないから、安心して」

診察も始まっていないのに、どんな病気かわかる訳がないのですが、
O先生の自信ありげな口調のおかげで、わたしは落ち着きを取り戻しました。

「具合が悪くなったのはいつからか、
 どこか痛いところはないか、教えてちょうだい」

わたしは、運動会の翌日から体中がだるいことと、右の脇腹が痛むことを
話しました。診察台の上に寝かされて、脇腹を指で押さえられると、
痛みで顔が歪みました。

「おしっこを採った時のことを教えて。
 生理はある?」

わたしが尿を採った時のことを思い出して、細かく話し、
まだ初潮を迎えていないことも話すと、O先生はうなずきました。
305  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 19:49
O先生はわたしに大きく口を開かせ、扁桃腺を見て言いました。

「扁桃腺が腫れてるわね。
 前に熱を出したことはない?」

わたしは、夏休みに高熱を出して寝込んだことを話しました。
看護婦さんが、尿検査の結果のプリントアウトを抱えて入って来ました。
O先生は、検査結果に目をやって、少し考えてから言いました。

「さっき担任の先生と話して、あなたがしっかりしているって聞いたから、
 今わかっていることを話します」

わたしが座り直して、真剣に聞く体勢になると、O先生は続けました。

「何も教えられないと、かえって不安になるでしょう?
 もっと詳しい検査をしないと、正確なところまではわからないけど、
 間違いなく、あなたは腎臓病、急性腎炎の一種です」

「きゅうせいじんえん?」

「おしっこを作るところの調子がおかしくなる病気。
 あなたぐらいの年頃の子には多いの。
 どのクラスでも、1人ぐらいは罹るぐらいありふれた病気。
 初めてなら、何年か治療すれば健康な体に戻れます。
 くよくよすると、かえって病気に障るから、
 夏休みがもう一度来たと思って、のんびり寝ているのが一番。
 あなたは、今から入院してもらいます」

急な話の展開に、わたしは付いて行けませんでした。

306  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 19:50
「今から? じゃあ、お家には帰れないんですか?」

「お家には、担任の先生から連絡してもらいます。
 あなたはベッドで横になって、早く良くなることだけ考えてればいいの」

診察はそれで終わりでした。
わたしは体操服のまま、看護婦さんに促されて診察室を出ました。
担任の先生がわたしに話し掛けてきました。

「先生、これから一回学校に戻らなくちゃいけないの。
 すぐにまた来るから、看護婦さんの言うとおりにしてね」

わたしは看護婦さんに連れられて、エレベーターに乗りました。
まだ若い看護婦さんが、優しい声で言いました。

「急な話だったから、病室が空いてないんだ。
 個室の人に頼んでベッドを入れさせてもらったから、
 何日かそこで我慢してね。ベッドから出ちゃダメよ」

もちろん、わたしに選択の余地などありませんでした。
目の前の光景に現実感が無く、風に揺れる草になったような気がしました。

307  だれ子ちゃん?  2002/01/22(Tue) 19:50
わたしの病室に入ると、そこには先客がいました。
小さなベッドに、生まれて数ヶ月に見える赤ん坊が寝ていました。

わたしは汚れた体操服姿だったので、
看護婦さんがわたしに、手術着のようなシンプルな服を着せました。
もう1人、若い看護婦さんが入ってきて、注射器に3本も血を抜いて行きました。

新しい真っ白なシーツと毛布の掛かったベッドに、わたしを寝かせて、
看護婦さんが居なくなると、赤ん坊の枕元に座っていた若い女の人が、
わたしに話し掛けてきました。

「こんにちは。何年生?」

「6年生です」

「どこが悪いの?」

「よく分かりませんけど、急性腎炎だそうです。
 赤ちゃんも、病気なんですか?」

入院病棟でするには、あまりにも馬鹿げた質問でした。
それまで笑顔を絶やさなかった、女の人の表情が曇りました。

「……この子は、生まれつき心臓が悪いの」
308  だれ子ちゃん?  2002/01/24(Thu) 10:59
赤ん坊の心臓は、左右の部屋を分ける壁に穴が開いていて、
汚い血と綺麗な血が混じってしまうのだそうです。

Pさんという名前のその女の人が、赤ん坊のお母さんでした。
驚いたことに赤ん坊はもう、1歳の誕生日を過ぎていました。

生まれつき未熟児で、なかなか体重が増えないので、
1歳過ぎてもまだ数ヶ月にしか見えない、とPさんは寂しそうに言いました。

突然病室の扉が開いて、わたしのお母さんが入って来ました。
仕事先から直接来たらしく、スーツを着て濃い化粧をしていました。

「○○、どうして急にこんなことになったの?」

それはわたしが答えを知りたい疑問でした。
急に病気になったことを、責められているような気がしました。

「……わからない。O先生は、検査すればわかるって言った」

「お母さん、すぐに行かなくちゃいけないから、
 必要な物があったらこれで買いなさい」

お母さんは、わたしの枕元に封筒を置いて、呼び止める暇もなく、
帰って行きました。
封筒を覗くと、中に一万円札が10枚ほど入っていました。

横で見ていたPさんは、呆気に取られた様子でした。
部屋に沈黙が流れているうちに、夕食の時間になりました。
ピンク色の白衣を着た看護婦さんが、食膳を持って来ました。
後で、ピンク色の白衣は看護学生の印だとわかりました。

309  だれ子ちゃん?  2002/01/24(Thu) 10:59
わたしの夕食は、リンゴが1個と氷砂糖が2個でした。
わたしが食べずに寝たままでいると、Pさんが歩み寄って来て、
枕元の椅子に座りました。

「リンゴの皮、剥いてあげる」

Pさんは、果物ナイフでリンゴの皮を綺麗に剥いて、
食べやすいように八つに切ってくれました。

「ありがとうございます」

わたしは頭を下げて、酸っぱいリンゴを食べました。

食後の薬を飲んだ後、担任の先生がやってきました。
急いでいたのか、息を少し切らしていました。

「ごめんなさい、遅くなっちゃって。
 お母さんはまだ来てないの?」

「母は、もう来ました。
 このお金を置いて、帰りました」

先生がぽかんとした顔になったので、わたしは顔を背けました。

「ちょっと……」

向こうからPさんが先生を手招きし、一緒に病室から出ていきました。
しばらくして戻ってきた先生は、変な顔をしていました。
にこにこしているのに、目だけが笑っていませんでした。

310  だれ子ちゃん?  2002/01/24(Thu) 11:00
「××さん、何か欲しい物はない?」

「……えっと、パジャマと下着の替えがありません。
 このお金で、買ってきていただけませんか?」

わたしは先生に封筒を手渡しました。

「わかった。下の売店で買えると思うわ。
 すぐ行って来るから、待っててね」

しばらくして、パジャマと下着の替えを3着ずつと、花束を持って、
先生が戻ってきました。

「このお花は先生からのお見舞いね」

Pさんが、どこからか花瓶を持ってきてくれました。
面会時間が過ぎて、先生は「また来るね」と言って帰って行きました。

暗くなってから、Pさんの旦那さんがやってきました。
旦那さんは仕事帰りらしく、疲れた顔をしていました。
それでも、寝ている赤ん坊の顔を覗き込んで、嬉しそうでした。

若い夫婦は二人とも、優しげな雰囲気を漂わせていました。
夫婦の語らいを邪魔しないように、わたしは寝たフリをしました。
そこに、見たことのない男のお医者さんが入ってきました。

お医者さんとPさん夫婦との会話が、勝手に耳に入ってきました。

「3日後に、大学病院のベッドが空きます。
 そうしたら、転院して数ヶ月様子を見ましょう」

Pさんの旦那さんが尋ねました。

「すぐに手術はできないんですか?」

「今の状態では、心臓が小さすぎて、手術はできません。
 それに、もう少し体重が増えないと、手術に耐える体力がありません」

Pさんが、おそるおそる言いました。

「その……手術して、よくなる見込みは……」

「大学病院の担当医は、経験を積んでいますが、
 この症例は大変難しいケースで、成功率は……12%です。
 手術しなければ、お気の毒ですが、余命は1年といったところです」
311  だれ子ちゃん?  2002/01/24(Thu) 11:01
しばらく経って、Pさん夫婦が揃ってお医者さんに、
「よろしくお願いします」と頭を下げる声が、聞こえてきました。

扉を開けて、閉める音がしました。
毛布の隙間から覗くと、Pさんが旦那さんの肩に顔を埋め、
声を殺して泣いていました。
旦那さんはPさんの背中を、黙って撫でていました。

わたしは、侵してはいけないものを盗み見てしまった気がして、
毛布を被り、そのままぎゅっと目をつぶりました。

若い夫婦に初めて授かった赤ん坊が、まだ何の罪も犯していないのに、
こんなにも死に近いところに居る……。

そのおそるべき理不尽さが、わたしを戦慄させました。
さっきまで自分を支配していた病気への怖れなど、問題にもなりません。

わたしは、どこに居るのかわからない神様に、
どうかわたしの体を治すより先に、この赤ん坊を助けてあげてください、
と一心に祈りました。

翌朝わたしは、看護婦さんに起こされました。
定期的な検温の時間でした。

Pさんがわたしに、にっこりと微笑みかけました。
わたしは昨夜のことが、夢だったのかと思いました。
どうしてPさんが泣き喚かずにいられるのか、わかりませんでした。

「おはよう。○○ちゃん。
 ゆうべ、この子が夜泣きしたけど、うるさくなかった?」

「……おはようございます。
 泣いたなんて、ぜんぜん気が付きませんでした」

赤ん坊は、滅多に泣きませんでした。
泣いても声に力が無くて、ちっともうるさく聞こえないのです。
それに気付いて目覚めるPさんに、わたしは感嘆しました。
312  だれ子ちゃん?  2002/01/24(Thu) 11:02
わたしの朝食は、またリンゴと氷砂糖だけでした。
Pさんが当たり前のように、リンゴの皮を剥いてくれました。
食後の薬は錠剤と粉薬を合わせて5種類もあり、
それだけでお腹が膨れそうでした。

昨日わたしが粉薬にむせていたのに気付いたのか、
Pさんが看護婦さんに言って、オブラートを貰ってくれました。

わたしはベッドから出ることを禁じられていたので、
ベッドの下に仕舞ってあるおまるで、用を足さなければなりませんでした。

この病院は完全看護で、看護婦さんが始末してくれるのですが、
頼みもしないのに、Pさんがさっさと片づけてくれました。
わたしは恥ずかしくて、もごもごとお礼を言いました。

「ありがとうございます」

「いいの。
 わたしが好きでやってるんだから、いちいちお礼言わないでね」

「?」

「あの子、一日中寝てばっかりでしょ。
 ミルクを飲ませておむつ替えたら、ただ見ているしかできなくて。
 もっと色々世話ができればいいのに……。
 だから、あの子の代わりに、世話させてちょうだい」

Pさんの笑顔は、どこか寂しげで、ハッとするほど綺麗でした。
わたしには、うなずくことしかできませんでした。

313  だれ子ちゃん?  2002/01/24(Thu) 11:02
昼前に、O先生が回診にやってきました。
O先生は、ゆっくり噛んで含めるように説明してくれました。

「検査の結果がもう少し良くなるまで、
 しばらく食事はリンゴと氷砂糖だけだから、
 お腹が空くと思うけど、我慢してね。
 リンゴなら、余分に食べても構いません。
 4〜5日したら、ご飯が食べられるようになると思います。
 1週間目ぐらいに、腎生検という特別な検査をします。
 腎臓病にも色々あって、どういう種類でどういう時期かによって、
 効くお薬がぜんぜん違ってきます。
 腎臓の様子を一番よく知るには、
 背中から針を刺して、腎臓の組織をちょっぴり採らないといけません。
 検査の後は、腎臓から出血するおそれがあるから、
 1週間はベッドでずっと上を向いて、じっとしていないと駄目。
 腎生検の結果が出れば、今よりあなたに合ったお薬が出せます。
 薬がうまく効いたら、じきに退院できるようになります。
 なにか、聞きたいことある?」

O先生が軽い口調で言った腎生検のことが気になりました。

「腎生検の針って、どれぐらい太いんですか?」

「うーん……患者には、針は見せないことになってるの。
 興奮するといけないから。
 麻酔をかけるから、痛みは感じないはずよ」

患者に見せると興奮する太さとはどれぐらいか、想像できませんでした。

O先生が立ち去った後、Pさんが枕元に来ました。
Pさんはわたしを座らせ、自分の櫛でわたしの髪を梳きました。

「あの子ね、女の子なの。まだ見た目じゃわからないけど。
 大きくなったら、これぐらい髪を長く伸ばしてほしいな」

3日後の朝、Pさん夫婦の赤ん坊は、大学病院に転院していきました。
Pさんは最後にわたしをぎゅっと抱き締めて、
「あなたも早く退院できるといいね」と言いました。
わたしは、「お元気で」と言いながら、必死に涙を堪えました。
314  だれ子ちゃん?  2002/01/24(Thu) 11:04
Pさんと赤ん坊が居なくなって、人の気配がしなくなりました。
白い天井と壁には、学校とは違う、死の匂いが漂っているようでした。

看護学生のQさんが、検温にやってきました。
Qさんは、ふっくらした顔立ちの美人で、
居るだけで周りを賑やかにするような、明るい性格でした。

「ひとりになって、寂しくなっちゃったね。
 あと2〜3日したら、大部屋のベッドが空くから。
 そっちに移ったら、もっと賑やかになるよ」

それでもわたしは、かすかにうなずくだけでした。
Pさんとの別れと、自分の病気への不安が、心を覆っていたのです。

回診の時に、わたしはO先生に尋ねてみました。

「先生……質問があります」

「なに?」

「どうして急に、わたしは病気になったんですか?」

「ずっと見てたわけじゃないから、
 先生もはっきりこうだ、とは言えないな」

先生は笑みを浮かべました。

「でも、見当は付けられるかな。
 ○○ちゃん、夏休みに熱出して寝込んだでしょ?」

「はい」

「たぶんその時に、扁桃腺から腎臓に菌が入ったのね。
 その時はそれだけで済んだ。見た目は何も変わらない。
 でも、本当はそうじゃなかった。
 腎臓の中に、菌のことを覚えていて、次に来たらやっつけようとする、
 『抗体』というものが出来るの。
 ……それで、2回目に菌が入って来たら、どうなると思う?」

315  だれ子ちゃん?  2002/01/24(Thu) 11:07
「抗体と、菌が戦う……?」

「正解。
 運動会で体力が弱ったせいで、扁桃腺がまた腫れたんでしょう。
 そして菌がまた腎臓に降りてきた。
 抗体が菌と戦うのは、人間の体が自分を守ろうとする普通のやり方。
 でも、そうすると『炎症』が起きる。
 戦いの煽りをくって、周りが火事になるようなものね。これが『腎炎』。
 あなたの場合は、急に症状が出たから『急性腎炎』。
 ほとんどの場合は、何年かしたら全快するわ。
 でも、症状がゆっくり出てきたり、急性腎炎が治りきらなかったりすると、
 なかなか治りにくくなる。これが『慢性腎炎』ね。
 慢性になると、10年以上、下手すると一生病気と付き合うことになる。
 だから、わたしの言うことをよく聞いて、
 急性のうちにしっかり治すようにしなくちゃ駄目。
 これでわかった?」

「はい。よくわかりました」

これで当分のあいだ、学校に行けそうもないことがはっきりしました。
学校に行って、楽しいわけではありませんでしたが、
このまま病院に居たのでは、お兄ちゃんへの手紙を書けません。

O先生が居なくなると、わたしは病室でひとりになりました。
ベッドに寝たままでは、窓の外の景色は見えません。
白い天井を眺めていると、ここは外とは違うのだ、と思いました。

大人たちは、誰もが注意深く言葉を選んでいるようでした。
それでもここには、死の匂いが染み付いていました。
一日中寝てばかりいると、甘い死が、眠りに隣り合っているようでした。
316  だれ子ちゃん?  2002/01/24(Thu) 11:07
お兄ちゃんに会いたい、と思いました。
枕の下に入れていた、お兄ちゃんの写真を取り出しました。
わたしが入院したことを、お兄ちゃんに知られるわけにはいきません。

受験を控えているお兄ちゃんに、心配をかけたくありませんでした。
手紙で懇願すれば、来てくれるかもしれません。
でも、お兄ちゃんの負担には、なりたくなかったのです。

午後になって、担任の先生がお見舞いに来てくれました。
先生は花を替えて、椅子に腰を下ろしました。

「××さん、退屈じゃない?
 本でも持ってきてあげましょうか」

「……まだ、テレビもラジオも本も、禁止されてるんです。
 興奮するといけないからって、O先生が」

「……そうなの。
 O先生にお話してみるわ」

先生は、わたしが退院して話題に遅れないようにするためか、
学校でのエピソードをあれこれ話しました。

わたしは機械的にうなずきながら、遠い世界のお話を聞いているような、
そんな気がしました。

わたしが疲れるといけないからと、先生が椅子を立ちました。
ひとりになって、わたしはうとうとしました。
昼も夜も、ずっと体中に重りが付いているようでした。

お兄ちゃんの夢を見ました。
ふと目が覚めると、枕元の椅子に、お兄ちゃんが座っていました。
わたしはまだ、夢を見ているのだと思いました。

「○○、おはよう」

317  だれ子ちゃん?  2002/01/24(Thu) 11:08
「……お兄ちゃんの夢、見た……」

「……?」

「……会いたかった……」

「お前、寝ぼけてるのか?」

突然、指で頬をぎゅっ、とつままれました。
夢ではありませんでした。
すぐ目の前に、わたしの顔を覗き込む、お兄ちゃんの顔がありました。

「……!」

わたしは、もう5日もお風呂に入っていない事を思い出し、
バッと毛布をかぶって、丸くなりました。

「おいおい、○○。
 せっかくお見舞いに来たのに、顔も見せてくれないのか?
 もう悪戯しないから、出てきてくれよ」

「……わたし、お風呂に入ってないから臭い」

「そんなこと無いって。
 さっき、寝ているあいだに嗅いでみたけど、
 いい匂いだったぞ」

「えっ!」

わたしは毛布から、勢いよく顔を出しました。

「うっそ。んなことしてないって。
 でも、ホントに臭くないぞ」

お兄ちゃんは匂いを嗅ぎながら、にやにやしました。

「もう! 嘘つき!」

318  だれ子ちゃん?  2002/01/24(Thu) 11:10
「ごめんごめん。
 でも、元気そうで良かった。
 もっとげっそりした顔になってるかと思って、心配してた」

「あ、心配かけて、ごめんなさい……。
 でも、お兄ちゃん、どうしてわかったの?」

現実だとわかっても、お兄ちゃんがここに居ることが不思議でした。

お兄ちゃんは真剣な顔で、答えました。

「そりゃアレさ。超能力だ。
 ○○が淋しがってるのがわかったからな。
 飛んできたんだ」

「えええ! 本当!?」

「くくくくく。
 お前なぁ……信じるなよ、頼むから」

お兄ちゃんはとうとう、お腹を抱えて笑い出しました。
わたしが憮然としているのに、ひーひー言って涙を拭いています。
わたしがそっぽを向くと、まだ笑いの残った声で言いました。

「ごめん……でも、普通信じる奴いないぞ、あんなこと。
 実はな、お前の担任の先生に聞いたんだ」

「先生が?」

どうしてここで担任の先生が出てくるのか、想像できませんでした。

「お前、運動会の手紙くれただろ。
 最後に、声を聞きたいって書いてあったから、
 もっと詳しく運動会の様子を聞こうと思ってな、
 家に電話したんだ」

「家に?」

319  だれ子ちゃん?  2002/01/24(Thu) 11:11
お兄ちゃんが出て行ってから、家に電話してきたのは初めてでした。

「ああ、でも、電話しても、誰も出ない。
 お前が居るはずの時間なのに。
 夜中に電話しても誰も出ない。
 これはおかしい、と思って、
 次の日の昼、お前の学校に電話してみたんだ。
 そしたらお前の担任の先生が、
 お前が入院したって言うじゃないか、もうびっくりしたよ。
 で、飛んできたってわけだ」

「でもお兄ちゃん、学校はどうしたの?
 今日は休みじゃないでしょ?」

「ん? もちろん欠席さ。ちゃんと届は出した。
 妹が倒れたって言ってな。ウソじゃないし。
 F兄ちゃんに話したら、すぐにお金出してくれたよ。
 お前あてのお見舞いも、預かってきた」

お兄ちゃんは足許から、包みを2つ持ち上げました。
リボンの掛かった四角い箱と、果物を詰め合わた籠でした。

「その箱、なに?」

「ナッツとフルーツのたっぷり入ったケーキさ。
 高級品だから美味しいぞ。切ってやろうか?」

「……ありがとう。
 でも、O先生が、まだリンゴと氷砂糖しか、食べちゃいけないって」

「そっか……。
 じゃ、リンゴを剥いてやろう」

お兄ちゃんは、果物籠から大きなリンゴをひとつ取り、
ポケットから折り畳みナイフを取り出しました。

320  だれ子ちゃん?  2002/01/24(Thu) 11:13
ぱちん、と刃を開いて、お兄ちゃんがリンゴを剥き始めました。
尖端の鈍い光が、恐ろしげでした。

「お兄ちゃん……いつも、ナイフ、持ち歩いてるの?」

「ん? ああ。
 こりゃ自分で研いでるからよく切れる。
 川魚を捌くのも楽々だ」

わたしは、少し目を細めてお兄ちゃんを見ました。

「あ、ああ?
 なんでそんな目で見るんだよ。
 人に向けたり絶対しないって!」

わたしはホッと胸をなで下ろし、すぐに驚愕しました。
お兄ちゃんが、手のひらに剥いたリンゴを載せて、ナイフを入れています。

「お兄ちゃん、危ない!」

「へーきへーき。こんなので切りゃしないよ。
 ○○は心配性だなあ」

「ううう……」

わたしはぐったりと、枕に頭をもたせかけました。

「ほい」

いきなり、お兄ちゃんがわたしの口に、小さく割ったリンゴを押し込みました。

「もぐもぐ……おにい……」

「ほい」

「もぐもぐ……ずる……」

「ほい。行儀悪いぞ。
 食べるか喋るか、どっちかにしろ」
321  だれ子ちゃん?  2002/01/24(Thu) 11:13
抗議しようとしましたが、リンゴで口を封じられて、何も言えません。
リンゴを呑み込もうと一生懸命咀嚼していると、お兄ちゃんが笑い出しました。

「わはははははは!
 リスそっくりだ」

わたしが目に涙を浮かべ、手を振り回すと、お兄ちゃんはさっと跳び退きました。

「そんなへなちょこパンチじゃ当たらないよーん」

その時、入り口から声がしました。

「ここは、病院ですよ」

見ると、Qさんが険しい顔をして立っていました。

「病室で騒ぐのなら、面会許可は取り消しますけど?」

お兄ちゃんは直立不動して、最敬礼しました。

「す、すみません!」

心配になったわたしが見つめると、Qさんの態度が和らぎました。

「ま、今度だけ許してあげる。
 それより、お兄さん、O先生が来てくださいって」

「え? 俺が?」

「1階の小児科外来、わかる?」

「はい」

「じゃ、先に行ってて。すぐ追い付くから」

お兄ちゃんがリンゴを置いて出ていくと、Qさんが傍に来ました。

322  だれ子ちゃん?  2002/01/24(Thu) 11:13
「○○ちゃん、良かったね。
 お兄さんが来てくれて」

「はい!」

「あなたが笑ってるとこ、初めて見た……。
 わたしも頑張ったんだけどなあ。ちょっと妬ける」

「あ、あの……」

「いいの! 病気の時ぐらい、もっと甘えなさい」

Qさんは、わたしの肩をぽんぽん、と叩いて出て行きました。

待っている時間は、やけにゆっくりと流れているようでした。
残されたリンゴを、半分食べてしまっても、お兄ちゃんは帰って来ません。
わたしは待ちくたびれて、さっきの事がみんな幻だったんじゃないか、
と思えてきました。

と、入り口のドアが開きました。
入ってくるお兄ちゃんの目は、凍てついていました。

「……お兄ちゃん?」

お兄ちゃんの顔が、パッと笑顔に変わりました。

「○○、待たせたな。
 けっこう先生の話が長くって、参ったよ」

わたしは椅子に座ったお兄ちゃんに、静かな声で尋ねました。

「先生に、何か言われた?」

「ん? いや、大したことじゃない」

「うそ。
 どうして、入ってきたとき、怖い顔してたの?」

お兄ちゃんの顔色が、すうっと青白くなりました。

323  だれ子ちゃん?  2002/01/24(Thu) 11:15
「やっぱり……言われたんだ」

わたしはなぜだか、ホッとしました。
やっと、来るべきものが来た、と思いました。
全身の力が抜け、わたしはベッドに身を沈めました。
胸の奥が、急速に温かさを失っていくようでした。

「お、おい……誤解するな!」

お兄ちゃんの手が、乱暴にシーツの下に入ってきて、手首を掴みました。

「痛い!」

「あ……ごめん」

力は緩みましたが、お兄ちゃんはわたしの手首を放そうとしませんでした。

「本当に、病気のことじゃないんだ。
 いや病気のことも聞いたけど、
 病気が悪くなるとか、そういうことじゃない」

「……?」

お兄ちゃんの声には、真摯な力が籠もっていました。

「O先生の話だと、心配してストレスを溜めるのは良くないらしい。
 だから黙っているつもりだった。
 O先生の話というのは……」

お兄ちゃんが、ぎりっと歯を食いしばって、目を見開きました。

「お前が、俺の本当の妹か、ということだ」

324  だれ子ちゃん?  2002/01/24(Thu) 11:16
「え?」

思いもよらない言葉に、わたしは間の抜けた声を出しました。

「正確に言うと、お前が養女じゃないか、って聞かれたよ。
 ……親父は見舞いに来たことあるか?」

「ない。お母さんは、入院の日に一回来た」

「だろうな。
 俺やお袋は、お前とあんまり顔が似てないしな。
 養女だと疑われても、無理ないか」

お兄ちゃんが、乾いた笑い声を上げました。

「担任の先生にも、似たようなこと聞かれたよ。
 お前のことを、親父の連れ子じゃないかと思ったらしい」

お兄ちゃんの目つきが一瞬、凶暴になりました。
わたしの手首の骨が軋みました。

「痛……」

「あ、悪い」

お兄ちゃんが手を離しました。目が柔和になりました。

「ははは、馬鹿みたいな話だな。
 この調子だと、近所でもどんな噂されてるか、わかんないよ。
 ○○、あの家にひとりで、辛かったか?」

「別に……。
 ひとりで居るのは慣れてるから」

胸に開いた大きな穴は、ずっとそのままでしたが、吹き抜ける風の音を
聞いても、もう明確な痛みは覚えなくなっていました。

「そうか……お前は……」

お兄ちゃんは言葉を無くして、わたしの顔を、少し硬くなった指で撫でました。
そうしていると、夕食のお膳を、Qさんが持って入って来ました。

325  だれ子ちゃん?  2002/01/24(Thu) 11:16
「あら、今度は静かねぇ。
 怒鳴ったりしないなら、喋ってもいいのに。
 お兄ちゃん★ 先生が謝ってたよ。
 失礼なこと聞いてごめんなさいって」

お兄ちゃんが顔を赤くして、立ち上がりました。

「いえ……俺も怒鳴ったりして、すみませんでした。
 ○○、俺、ちょっと謝ってくる」

わたしの代わりに、Qさんが言いました。

「行ってらっしゃい、お兄ちゃん★」

お兄ちゃんはそそくさと出て行きました。

「○○ちゃん、リンゴ剥いてあげようか?」

「いいです。お兄ちゃんが帰ってくるの、待ちます」

「冗談よお。怒らないで、ね?」

1時間ほど経って、お兄ちゃんが戻って来ました。

「またいろいろ、話してきたよ。
 腎炎の注意事項も、聞いてきたしな。
 晩飯が済んだら、ちょっと散歩しよう」

「え? わたしまだ、歩いちゃいけないって……」

「特別に車椅子を借してくれるそうだ。
 外には出られないけどな。
 一日中天井ばっかり見てたら、背中に根が生えちゃうよ」

わたしはリンゴを食べました。
病院の夕食は時間が早いので、お兄ちゃんは後で食べるそうです。
食事が済むと、お兄ちゃんはどこかから車椅子を押してきました。

お兄ちゃんは毛布を剥ぎ、わたしの背中と膝の裏に腕を回して、
軽々と抱き上げました。

326  だれ子ちゃん?  2002/01/24(Thu) 11:18
お兄ちゃんは、わたしを車椅子に座らせ、膝から下を毛布で覆いました。
継ぎ目のないリノリウム張りの廊下を、滑るように進みました。

時折、すれ違う看護婦さんが、挨拶してきました。
廊下を進んでいるだけで、この病院はずいぶん広いことがわかりました。

エレベーターの前に来て、お兄ちゃんがボタンを押しました。

「お兄ちゃん、どこ行くの?」

「1階の売店に行こう。コンビニぐらいの広さがある」

外来の診察時間が終わっているせいか、売店は空いていました。
お菓子や日用品の他に、お見舞いの花束や介護用品がたくさんありました。

雑誌のコーナーで、お兄ちゃんが言いました。

「漫画でも買って行くか?」

「読書はまだ、禁止されてるから……」

とは言うものの、活字中毒のわたしは、薬の注意書きの紙を、
ベッドの中で暗記するほど繰り返し読んでいました。

「大丈夫。
 なんにも娯楽がないと、かえってストレスが溜まるそうだ。
 テレビはダメだけど、読書だけは認めてもらった」

「ほんと?」

わたしはいそいそと、新刊の文庫本を数冊と、今週発売の少女漫画誌を全部、
指さしました。お兄ちゃんは苦笑いしました。

「あのなぁ……いっぺんに全部読むんじゃないぞ?」

「わかってる」

お兄ちゃんが売店のおばさんと話をして、新刊入荷予定のリストを貰いました。
余分にお金を預けて、使ったぶんだけ引いてもらうことになりました。
327  だれ子ちゃん?  2002/01/24(Thu) 11:18
お兄ちゃんは、白くて大きい花の花束を買いました。

「お兄ちゃん。それ、何の花?」

「クチナシだ。良い匂いだぞ」

お兄ちゃんが花束をわたしの前にかざすと、むせ返るような甘い香りがしました。

「○○、何か見たいものはあるか?」

「外が見たい」

1階の外来の待合い場所に、大きなガラス窓があって、庭が見えるはずです。

「そっか、じゃ、行こう」

お兄ちゃんは買った物を、後で取りに来ると言って、おばさんに預けました。
わたしたちはまた、エレベーターホールに来ました。

「? どこに行くの?」

「まあ、待ってろ」

エレベーターに乗って、お兄ちゃんは一番上のボタンを押しました。
エレベーターを降りると、屋上でした。
何も干していない物干し竿が、たくさん並んでいました。

328  だれ子ちゃん?  2002/01/24(Thu) 11:19
フェンスの傍まで押されて来ると、茜色から紫色に変わっていく空の下に、
夕暮れの街を一望できました。

「綺麗だな……」

お兄ちゃんが、静かに言いました。

「うん……」

遠い世界のように思えていた街が、とても懐かしく見えました。
人の住む世界の美しさに、わたしは初めて呑まれていました。

「退院したら、またあそこで遊べるさ」

「……うん。
 でも、約束、守れなくなっちゃった……」

「約束……?」

「一緒に初詣に行く、約束。
 冬休みに、田舎に行けないと、思う」

退院できても、遠くに旅行するのは、絶望的でした。

「俺がこっちに来るよ」

わたしは、はあ、と大きなため息をつきました。

「……それは、ダメ」

「え……どうしてだ?」

「お兄ちゃん、受験でしょ。
 合格のお守りを貰いに行くのに、
 こっちに帰ってくる暇なんて、無い。
 わたしのせいでお兄ちゃんが落ちたりしたら、
 わたし、耐えられない」

お兄ちゃんはしばらく、何も言いませんでした。

「寒くなってきたな。帰るか」

わたしたちは、病室に戻りました。
面会時間が過ぎたので、お兄ちゃんは「明日また来る」と言って帰りました。

ひとりの部屋でわたしは、クチナシの甘い匂いに包まれて、眠りました。
329  だれ子ちゃん?  2002/01/24(Thu) 11:20
朝になると、クチナシの匂いが病室に籠もっていました。
検温に来た看護婦さんが、窓を少し開けました。

Qさんが来て、月曜日に部屋を移ることになった、と言いました。
わたしが始終、入り口の方ばかり窺っていたので、Qさんがにやにやしました。

「面会時間が始まったら、すぐに来るわよ〜。
 ○○ちゃんの愛しい人は」

「……!」

わたしが赤くなってそっぽを向くと、Qさんは調子に乗りました。

「お兄ちゃん格好いいもんね〜。
 デートに誘ってみようかな?」

「ダメ!」

「……そんな怖い顔しなくても、冗談冗談。
 さすがに中学生に手を出すほど落ちぶれてません。
 まあ、あなたもそうだけど、大人っぽくは見えるけどね」

まだ未練のあるようなことを言うので、どこまで冗談か、わかりませんでした。

330  だれ子ちゃん?  2002/01/24(Thu) 11:21
面会時間が来てすぐ、お兄ちゃんが姿を現しました。
白い発泡スチロールの小さな箱を、手に持っていました。

「お兄ちゃん、おはよう」

「おう、○○、今日は起きてたんだな」

「その箱、なに?」

「お土産だ。なんだと思う?」

お兄ちゃんは、意地悪そうな顔をしていました。
どうやら、すんなり教えてくれそうにはありませんでした。

軽そうに持っているところを見ると、本ではなさそうです。
お花だったら、わざわざ箱に入れる必要はありません。
保冷ボックスに入れた、アイスクリームのような気もしましたが、
わたしに食べられない物を、お土産に持ってくるはずがありません。

わたしが顔をしかめて、ずっと無言で考え込んでいると、
お兄ちゃんの方が焦れてきました。

「あのなあ……なんでもいいから、パッと言っちゃえよ」

「……魚」

「はあ?」

「お魚、熱帯魚を、液体窒素に入れて凍らせるの。
 水槽に入れると、生き返ってまた泳ぎ出す……。
 そんなのを、テレビで見たことある」

「……」

お兄ちゃんは、疲れ切ったおじさんみたいに、椅子に腰を下ろしました。

「液体窒素なんて、どこで買ってくるんだよ……」

331  だれ子ちゃん?  2002/01/24(Thu) 11:22
置かれた箱の蓋を開けると、中にはラップしたガラスの器が入っていました。
器の下には、氷が敷き詰めてあります。

「すり下ろしたリンゴだ。
 蜂蜜を掛けて冷やしてある。
 これなら食べられるだろ?」

「綺麗……」

思わず声が漏れました。半透明の、模様の入ったガラスの器を取り出すと、
よく冷えているのがわかりました。

一緒に入っていた洋銀のスプーンで、一匙すくいました。
ひとりで食べるのは気が引けたので、お兄ちゃんに差し出しました。

「はい」

「え? あ、俺はいいよ」

「まだ、たくさんあるから」

手を引っ込めないでいると、お兄ちゃんはぱくりとスプーンをくわえました。

「ん、んまい」

「自分で言ってる……」

わたしはくすくす笑いながら、スプーンを引き抜き、自分も一匙頬張りました。
冷たいリンゴの酸味が、蜂蜜の甘さと絡み合い、口の中でとろけました。

この時から、すり下ろしリンゴの蜂蜜掛けは、わたしの一番の好物になりました。
今でも、食べると思わず胸がいっぱいになります。

332  だれ子ちゃん?  2002/01/24(Thu) 11:23
午後からは、わたしが疲れてはいけないと、もっぱらお兄ちゃんが喋りました。
新しい学校での友達のこと。体育祭の徒競走で、やっぱり一番だったこと。
また告白されたが、受験があるからと断ったこと。

「まだ、Cさんが忘れられない……?」

「はは、そんなことないさ。
 でもあの子もけっこう可愛かったから、惜しいことしたかな……」

お兄ちゃんの鼻の下が、なんとなく伸びているような気がしました。

「いてて! おい、つねるなよ、冗談だって」

「今、いやらしい顔、してた」

「しょうがないだろ、俺だって男なんだから……」

そう言うお兄ちゃんは、どきりとするほど、男らしい顔をしていました。

333  だれ子ちゃん?  2002/01/24(Thu) 11:24
お兄ちゃんと話しているうちに、だんだん困ったことになりました。
わたしが、おしっこをしたくなってきたのです。

自分で歩いてトイレに行ければ、なにも悩まなくて済んだのですが、
今は、自分の寝ているベッドの上で、用を足さなくてはなりません。
ベッドの下には、病院のおまると尿瓶が置いてありました。

O先生から、おしっこを我慢してはいけない、と言い渡されていました。
でも、お兄ちゃんに「おしっこするから外に出ていて」とは言えませんでした。

おしっこの入った尿瓶を見られたり、匂いに気付かれたくなかったのです。
今思うと馬鹿げた悩みですが、その時は死活問題に思えました。

わたしは我慢しているうちに、冷たい汗をかいてきました。
なんとかしてお兄ちゃんを、しばらくここから遠ざけたいと考えているうちに、
お兄ちゃんへの返事が上の空になってきました。

「ん……どうした? 気分でも悪いのか?」

お兄ちゃんが、わたしの異変に気付いてしまいました。

「……べつに……なんでもない」

「ホントか? 顔色悪いぞ。看護婦さん呼ぼうか?」

「ちょっと、疲れただけ。
 それより、お兄ちゃん、お昼まだでしょ?
 下の食堂で、食べてきたら?」

病院の1階には、外来向けのレストランがありました。

「あ、そうだな。ごめん。お前も休まないとな。
 じゃ、1時間ぐらいしたら、帰ってくるから」

1時間もあれば、おしっこをして、尿瓶の中身を捨ててきてくれるように、
看護婦さんに頼む時間は十分にあります。

「行ってらっしゃい」

お兄ちゃんは上着を椅子の上に置いて、出ていきました。
334  だれ子ちゃん?  2002/01/24(Thu) 11:25
ドアが閉まると、わたしはあわてて体を起こし、
椅子と反対側のベッドの下にある、尿瓶に手を伸ばしました。
女性用の尿瓶は、口がペリカンのように広がった形をしています。

わたしは膝立ちになって、パジャマのズボンとショーツを膝まで下げました。
尿瓶の口をあそこに当て、ホッとしましたが、我慢していたせいか、
なかなかおしっこが出てきません。

そのあいだに、ナースコールのボタンを押しました。
ナースステーションから誰か、すぐに来てくれるはずです。

やっとのことで、ちょろちょろと、黄色い液体が出てきました。
その時、がちゃり、とドアが開きました。

「ははは、財布わす……」

お兄ちゃんと、目が合いました。おしっこがぴたりと止まりました。
お兄ちゃんは口を開けたまま、人形のように静止しました。

わたしはそのままの体勢で、金縛りに遭いました。
どっくんどっくんと、心臓の音だけが響く静寂が、続きました。

緊張は、突然の大声で破られました。

「なにしてんのキミ!」

外からQさんが、お兄ちゃんの襟首を掴んで、後ろに引きずりました。
ドアが自動的に閉まって、ぱたん、という音がしました。

わたしは人形のようにぎこちなくおしっこを再開し、出し切って、
ティッシュであそこを拭き、ショーツとズボンを引き上げました。
尿瓶を床に置いて、のろのろとベッドに横になりました。

335  だれ子ちゃん?  2002/01/24(Thu) 11:26
ドアが開いて、Qさんが入ってきました。

「○○ちゃん、大丈夫?」

「……おにい……ちゃんは?」

「ナースステーションで待たせてる。
 お説教しといてあげるわ」

「あの……これ……洗ってきて……いただけます、か?」

「わかった。気にしない方がいいよ」

Qさんはすぐに尿瓶を洗って、また持ってきてくれました。
Qさんが居なくなると、わたしは毛布を頭から被り、丸くなりました。

お兄ちゃんに見られた……そのことが頭の中で、ぐるぐる回りました。
おしっこしているところを見られた恥ずかしさと、
痩せすぎたお尻や脚を見られたショックが、入り混じっていました。

わたしのお尻は元々薄く、硬い椅子に座ると痛くなりました。
太股のあいだには、膝を揃えても握り拳が入ってしまいます。
入院してからますます、痩せたような気がしていました。

扉の開く音が聞こえました。

336  だれ子ちゃん?  2002/01/24(Thu) 11:27
「○○、ごめん。わざとじゃなかった」

お兄ちゃんの声でした。

「……お兄ちゃん……見た?」

「……ああ……見た」

「……」

「……」

「……気持ち悪く、なかった?」

「え?」

「わたし……がりがりでしょ?」

「……そんなに、気にしてたのか。
 気持ち悪いなんて、思うわけないだろ。
 太り過ぎよりマシさ」

「ホント?」

「ホントホント」

わたしは、はあ、と息を吐きました。
おしっこしてるのを見られたことも、もう、どうでも良いような気がしてきました。

わたしは、体を伸ばして枕に頭を乗せ、言いました。

「お兄ちゃん、もう良いから、ご飯食べてきて。
 わたし、寝る」

「ん。じゃあな」

お兄ちゃんが出ていって、わたしはひとり、うとうとしました。
物音で目覚めると、お兄ちゃんが手に何かを持って、入って来るところでした。

337  だれ子ちゃん?  2002/01/24(Thu) 11:28
「お帰りなさい。お兄ちゃん。
 それ、なに?」

「ただいま。これか?
 水のいらないシャンプーとウエットティッシュだ」

「水のいらないシャンプー?」

「ああ、頭にスプレーすると、
 汚れが浮いてくるんだ。
 タオルで拭き取るだけで綺麗になる。
 看護婦さんに聞いたら、
 当分入浴できないって言ってたからな。
 月曜日に清拭してくれるらしいけど、
 それまで気持ち悪いだろ?
 座って背中向けろ。やってやるから」

「うん」

わたしはうなずいて、窓の方に向き直りました。

しゅっしゅっと、頭皮と髪に、スプレーがかけられました。
お兄ちゃんがタオルとブラシで、少しずつ髪を拭き取ります。

「また髪が伸びたな。暑くないのか?」

「夏は蒸れて暑かった……今は、少しだけ」

「髪を伸ばすのも大変だな。
 伸ばし始めてから1年以上だもんな。
 昔は短かったのに、なんで長くしたんだ?」

「……短くしてると、小さい子供みたいだから。
 お兄ちゃんは……長いのと短いの、どっちが好き?」

「うーん……どっちってことはないな。
 似合ってればいいさ。
 俺は癖毛だから、ストレートの黒髪に憧れるけど」

「そう?
 じゃあ……わたしは、どっちが似合う?」

「うーーーん」
338  だれ子ちゃん?  2002/01/24(Thu) 11:29
お兄ちゃんは、珍しく言葉に詰まり、考え込んでいるようでした。

「そうだなあ……どっちも捨てがたいな。
 お前の髪はストレートで真っ黒だから、
 きちんと手入れすれば、すげー綺麗だよ。
 今は、ちょっと枝毛ができてるけどな」

「え? ホント?」

お兄ちゃんが爪切りで、ぱちんぱちんと枝毛を切りました。

「思い切って、うなじが見えるぐらいに短くしてもいいな。
 お前は首が細いし色が白いから、
 襟から覗くうなじがすっきりして見える。
 ……ま、これだけ伸ばしたら、切るのは勿体ないかな」

シャンプーが終わると、お兄ちゃんはわたしの髪を、ゴムで二つに分けて
くくりました。そして何か、冷たい物が首に触れました。

「ひ!」

「あ、悪い。冷たかったか?」

お兄ちゃんがウエットティッシュで、わたしのうなじを拭こうとしたのです。

「だいじょうぶ……びっくりしただけ」

お兄ちゃんに顔を見られていなくて、良かったと思いました。
ひどく、動揺していたからです。

薄いティッシュ越しに、お兄ちゃんの指がうなじに感じられました。
愛撫されているようで、ぞくぞくして、気が遠くなりそうでした。

続いて耳を拭かれたときは、思わず声が漏れそうになりました。
あそこを触ってもいないのに、腰がじん、と熱くなりました。

339  だれ子ちゃん?  2002/01/24(Thu) 11:30
「顔も拭いてやろうか?」

「……はぁぁぁ」

「ん? ……どした?」

「顔は……いい。自分でできるから。
 鏡、取って」

お兄ちゃんが、手鏡とウエットティッシュの箱を、渡してくれました。
鏡に映ったわたしの顔は、上気して目が潤んでいました。
ウエットティッシュで、熱を帯びた皮膚を冷ましました。

「お兄ちゃん……背中も、拭いてくれる?」

「え?」

「ずっと寝てたから、背中がかゆいの」

「あ、ああ……」

パジャマの上着を脱いで、シャツの裾を胸まで上げました。
わたしは、痩せた体を誰にも見せたくない、と思っていましたが、
お兄ちゃんにだけは、見られても良い、とこの時思いました。

背骨に沿ってこすられると、電気が流れたように、びりびりしました。
わたしは、目をつぶって歯を噛みしめました。

「もういいか?」

「うん……うん……」

わたしは、お尻に汗をかいていました。

340  だれ子ちゃん?  2002/01/24(Thu) 11:31
背中を拭き終わって、お兄ちゃんが言いました。

「さっぱりしたか?」

「……うん……」

わたしは、パジャマを着て横になりました。
お兄ちゃんが毛布を掛けてくれました。

「眠いのか?」

「……うん……」

わたしは目をつぶりました。全身をどっどっ、と血が巡りました。
しばらく、沈黙の時が続きました。

がちゃ、と音がしました。
目を開けて顔を向けると、担任の先生が近寄ってくるのが見えました。

「あら、××さん、寝てた?
 起こしちゃったかな?」

「いいえ」

「それなら良かった。
 今日はちょっと、届け物を持ってきただけだから」

椅子から立ち上がっていたお兄ちゃんに、先生が声を掛けました。

「あなたが、噂のお兄ちゃん?
 電話ではごめんなさい」

頭を下げた先生に、お兄ちゃんが答えました。

「いいえ、どういたしまして。
 こちらこそ、○○がお世話になりました。
 ありがとうございます」

「少し、あなたと話してみたいんだけど、いい?」
341  だれ子ちゃん?  2002/01/24(Thu) 11:33
「あ、はい、かまいません。
 エレベーター横の談話室に行きましょうか?」

「そうね。ちょっと先に行っててくれる?」

「はい」

お兄ちゃんが出ていくと、先生は座ってバッグから袋を取り出しました。

「お見舞いの品、というより約束の品ね。
 運動会の写真、2枚ずつ焼いてきたわ」

紙袋の中には、運動会でのわたしを撮った写真が入っていました。
手作りの旗を振っている写真、ポンポンを持って踊っている写真、
走っている写真、そして、ゴールに飛び込んだ瞬間の写真……。
走りきった後のわたしは、苦しげに歪んだひどい顔をしていました。

「先生……ありがとうございました。
 きっと、宝物になると思います」

少なくとも数年のあいだ、もう走ることはできないだろう、と思いました。

「元気そうでよかった。
 忙しくて、なかなか来れなくてごめんね。
 また、来るわ」

そう言って、先生は病室を出て行きました。
わたしは、汗で冷たくなったショーツを穿き替え、少し眠ることにしました。

目が覚めると、お兄ちゃんが帰ってきていました。

「起きたか。
 お前が疲れるといけないから、そろそろ帰るよ」

「そう……。もう、来れない?」

「あ、帰るのは田舎にじゃない。
 こっちには、明後日の朝までいるよ。
 明日もまた来る」

「ホント? 良かった……。
 でも、家でお父さんと喧嘩、してない?」

お兄ちゃんと父親が、睨み合いになるんじゃないかと、心配になりました。

342  だれ子ちゃん?  2002/01/24(Thu) 11:33
「ははは。
 親父もお袋も、俺がこっちに居ることを知らないさ。
 言ってないからな」

「え? じゃあ、夜はどうしてるの?」

「Aん家に泊まってる。
 ま、泊めてくれる友達なら、いくらでも居るしな」

「……Cさんには、会わないの?」

「ん……ああ、会ってもお互いつらくなるだけだ」

お兄ちゃんは話を打ち切るように、ひょいと片手を挙げて出て行きました。
お兄ちゃんが田舎で女の子からの告白を断ったというのは、
まだCさんのことが好きだからかもしれない、と思いました。

次の日の朝、Qさんが笑顔で言いました。

「○○ちゃん、尿検査の結果が急に良くなってる。
 この調子なら、すぐにお米のご飯が食べられるようになるわ」

「ホントですか?」

「噂のお兄ちゃんのおかげかな〜?」

Qさんはにやにやしました。

「そんなこと!……わかりません」

わたしはうつむきました。

「お兄ちゃんがずっと来てくれると、いいのにね」

「……はい」

お兄ちゃんが来るのは、今日が最後です。
運動会の思い出を、お兄ちゃんに話そう、と思いました。

343  だれ子ちゃん?  2002/01/24(Thu) 11:35
面会時間になって、お兄ちゃんがやってきました。
わたしは待ちきれず、ベッドの上で四つん這いになって、
写真をシーツの上に広げていました。

「○○、おはよう。
 なんだ、その写真?」

お兄ちゃんが、写真を覗き込みました。

「運動会の、写真。
 先生が、撮ってくれたの」

「そっか、手紙にそんなこと書いてあったな。
 一緒に見ようか」

1枚1枚写真を指さして、わたしはその時のことを説明しました。
お兄ちゃんは、手作りの大きな旗に感心しました。

「よくこんなの、ひとりで考えたな。
 目立ってただろ?」

「うーん……旗を振るのに一生懸命だったから、
 よくわからない」

「ははは。
 お前は集中すると、周りが見えなくなるからな。
 本を読んでいる時なんて、声を掛けても気付かないぐらいだし。
 でも、これだけの旗だ。
 目立ったに決まってるさ。
 頑張ったな」

お兄ちゃんは、満面の笑みを浮かべました。

「うん。徒競走でも、初めて5位になれた。
 運が良かったせいだけど。
 同じ列に、足の遅い子がいたから」

「でも、一生懸命走ったんだろ?」

「うん」

「この写真か……それにしても、すごい顔してるな」

わたしは、ゴールの瞬間の写真を、さっと手で隠しました。

344  だれ子ちゃん?  2002/01/24(Thu) 11:36
「恥ずかしがることないさ。
 必死な顔を、誰も笑ったりしない。
 笑うやつがいたら、ぶっ飛ばしてやる。
 お前は要領が悪いけど、その代わり何事にも手を抜かないだろ。
 お前は、俺の自慢だよ」

わたしは、写真から手を引っ込めました。
お兄ちゃんの手のひらが、わたしの肩に乗りました。

「お前は、やればできるんだ。
 なんたって、俺の妹だからな」

魔法の呪文をかけられたように、胸の空隙があたたかさで充たされました。
ただ、まだひとつ、冷たい芯が残っていました。

「……でも、もう走れない」

わたしはうなだれました。来年の中学校の体育祭には、参加できません。

「O先生は、何年かすれば、健康になるって言ってたぞ」

「そうだけど……」

「ああ、すごく長い時間に感じるだろうけど、
 一生の長さに比べたら、あっという間だ。
 ちょっとずつ、ちょっとずつ、元気になればいい」

胸の中の、最後の凍った欠片が溶けました。
わたしは写真をまとめて、お兄ちゃんに渡し、ベッドに横たわりました。

345  だれ子ちゃん?  2002/01/24(Thu) 11:36
朝のあいだずっと、お兄ちゃんが来たらいっぱい話をしよう、
と思っていたのに、どういうわけか、言葉が出てきません。

「しかし、久しぶりに帰ってくると、意外と街並みが変わってるな。
 角のたばこ屋がなくなって、コンビニができてるし……」

お兄ちゃんが、静かな声で、懐かしそうに語りだしました。
なんでもない話題なのに、胸に滲み入るようでした。

穏やかな時間が、流れていきました。
わたしが、オブラートがないと粉薬を飲めないというと、
お兄ちゃんは飲み方が悪いんだ、と笑いました。

刻一刻と、別れの時が近付いてきました。
わたしは、ちらちらと、時計の針を確認しました。
知らないうちに、時間を盗まれているような気がしました。

「どした?」

お兄ちゃんが、わたしの視線に気付きました。

「お兄ちゃん、今度会えるの、来年だね」

「……ああ。春休みには、帰ってくる」

「……」

離れていると会いたくなり、会えば別れが怖くなります。
もっと、一緒にいたい、と思いました。
お兄ちゃんは、何か考え込んでいるようでした。

「ちょっと、O先生に会ってくる」

お兄ちゃんが、立ち上がりました。
346  だれ子ちゃん?  2002/01/24(Thu) 11:38
お兄ちゃんが居ないあいだ、わたしは1分おきに時計に目をやりました。
二人で居ると時間の経つのが速いのに、ひとりだとゆっくりしか針が進みません。

帰ってきたお兄ちゃんの顔は、嬉しそうに微笑んでいました。

「○○、今夜、俺もここに泊まることにした」

「え? いいの?」

この病院は完全看護で、特に必要が認められなければ、
夜のあいだ付き添うことはできません。

「ああ、O先生に許可を貰ってきた。
 検査結果が良くなってきたらしいし、
 そのほうが薬になるかもしれないってさ」

腎炎の原因そのものを直接治す薬は、今のところありません。
ですが、ストレスによって、病状が変化することはあります。

「お兄ちゃんは、どこで寝るの?」

「そうだな……ベッドが無いからな。
 毛布を借りてきて床に寝るか」

「そんな……お兄ちゃん、風邪ひいちゃう。
 ……このベッドで寝たら?」

さりげなく勧めたつもりでしたが、心臓が勝手にどっどっと打ちました。

「そうか? そりゃ助かる。
 腕枕してやろうか?」

お兄ちゃんは、毛布をめくって早速ベッドに上がってきました。
わたしは、まだ夜になってないのに、とびっくりしました。
347  だれ子ちゃん?  2002/01/24(Thu) 11:39
「うーん。けっこう寝心地良いな。
 いっぺん病院のベッドに寝てみたかったんだ」

お兄ちゃんが伸ばした左腕の上に、わたしは頭を乗せました。

「ん……良い匂いだ。
 なんだか眠くなってきた……」

「お兄ちゃん、寝てないの?」

お兄ちゃんは、うーん、と伸びをしました。

「んんっ……ゆうべ、Aと語り明かしたからな……」

お兄ちゃんの声が、とても眠そうでした。
しばらくして、お兄ちゃんの息が、規則正しくなりました。

わたしはお兄ちゃんの脇で、丸くなりました。
少し、煙草臭い匂いがしました。
睡眠は十分足りているはずなのに、わたしも眠くなってきました。

人の気配で浅い眠りから覚めると、Qさんが枕元に渋い顔で立っていました。

「○○ちゃん、どういうコト?」

Qさんがそうささやいたので、わたしも小声で答えました。

「お兄ちゃん、疲れてるみたいなんです。
 寝かせておいて……いただけませんか?」

わたしの顔を見て、Qさんがため息をつきました。

「まあ、いいわ。見なかったことにしてあげる。
 晩ご飯の前には追い出しておくのよ。
 婦長にでも見られたら大変よ〜。
 『お兄ちゃん』のベッド持って来たから、
 夜はそこで寝てもらって」

Qさんは、床に置いた簡易ベッドを指さしました。
そっとQさんが出て行くと、わたしはお兄ちゃんの寝顔を見つめました。

348  だれ子ちゃん?  2002/01/24(Thu) 11:40
少し口を開けて、いつもより子供っぽく見えました。
キス、してみたくなりましたが、勝手にするのはずるい、と思って我慢しました。

不意に、お兄ちゃんが寝返りを打って、覆い被さってきました。
わたしは押し潰されて、息が止まりました。
お兄ちゃんの右腕が背中に回ってきて、ぎゅっと抱き締められました。

「痛っ!」

すごい力で、あばら骨が折れるかと思いました。
お兄ちゃんがハッと体を起こし、あわてて横に飛び退いて、
そのままベッドから転がり落ちました。

「!!」

「お兄ちゃん!?」

わたしが呼ぶと、お兄ちゃんは身を起こして立ち上がりました。

「あ……俺……寝てた?」

わたしはどうにか息を整えて、答えました。

「……うん」

「ごっごめん!
 あんまり気持ち良かったから……」

「いいけど……怪我、しなかった?」

「あ、ああ、大丈夫大丈夫」

お兄ちゃんは、痺れた左腕を振りながら、照れていました。
夕食が済むまで、病室には奇妙な気恥ずかしさが漂っていました。

そして、夜になりました。

349  だれ子ちゃん?  2002/01/24(Thu) 11:41
消灯時間までずっと、お兄ちゃんとの会話は弾みませんでした。
抱き締められた瞬間を思い出すたびに、頭の中が白く飛んでしまって、
お兄ちゃんが言葉少なになっていることすら、気付きませんでした。

廊下の灯りが落とされ、部屋の蛍光灯も、お兄ちゃんが消しました。
薄暗がりの中で、お兄ちゃんがポロシャツとリーバイスを脱いで、
簡易ベッドに潜り込みました。

「おやすみ、○○」

「おやすみなさい……お兄ちゃん」

静まり返った夜の病室に、自分の息遣いだけが聞こえました。
目が冴えて、どうしても眠ることができません。
わたしは、声を低めて呼びかけました。

「……お兄ちゃん、もう、寝た?」

「……ん、なんだ?」

「もう少し、お話したい」

「……そうだな。たまには、昔話でもするか」

「大きな声出すと、看護婦さんに怒られる。
 こっちに、来て」

「……見つかったらまずいぞ?」

「だいじょうぶ。
 見回りの時間まで、あと2時間あるから」

ごそごそと、お兄ちゃんが毛布の中に潜り込んできました。
お兄ちゃんはこちらを向いて、肘枕をつきました。
お兄ちゃんの吐く息が、顔にかかるほどの近さでした。
350  だれ子ちゃん?  2002/01/24(Thu) 11:42
「ねえ。わたしが小さい頃のこと、覚えてる?」

「ん、ああ。だいたいはな」

お兄ちゃんは、ぽつり、ぽつりと話し始めました。

「お前が小学校に上がる前のことだ。
 俺はその時、小学2年か3年だった。
 俺は気が弱くて、よく女の子にも泣かされてた」

「えええ!?」

わたしは思わず声を上げてしまいました。
お兄ちゃんが弱虫だったなんて、想像もつきません。

「公園で遊んでて、俺が泣いて家に帰ったら、お前がいてな。
 俺が泣かされたって言ったら、お前、どうしたと思う?」

お兄ちゃんは、くくく、とくぐもった笑い声を漏らしました。

「……? 覚えてない」

「お前、すごい勢いで家を飛び出して、公園にすっ飛んでいったじゃないか。
 途中で拾った棒切れを振り回して、その女の子を公園中追いかけ回した」

「!……うそ……でしょう?」

「ホントだって。
 俺が追い付くと、お前は『お兄ちゃんを泣かした、許さない』
 って言いながら、泣いて謝る女の子を棒でバシバシ殴ってた。
 子供の力だから怪我はなかったけどな」

「本当……なの?」

「おかげで、俺は『妹に助けられた弱虫』って、ずいぶんからかわれたよ」

351  だれ子ちゃん?  2002/01/24(Thu) 11:43
まったく身に覚えがありませんでしたが、わたしは申し訳なさに縮こまりました。

「……ごめんなさい」

「いや、いいって。助けようとしてくれたんだからな。
 ……お前はあんなに元気だったんだ。
 大人になったら、また体質が変わって健康になるかもしれない」

お兄ちゃんの手のひらが、わたしの髪を撫でました。

「お兄ちゃんは、大人になったら何になるの?」

お兄ちゃんの手の動きが止まりました。

「……ん……まだ、わからん」

「料理人になるんじゃ、なかったの?」

「……なりたい、けどな。親父は俺が行く高校や大学を、もう決めてるみたいだ。
 俺が調理師専門学校に行きたいって言っても、耳を貸しやしない」

お兄ちゃんは、寂しげに言いました。

「早く、大人になりたいな。
 そうすれば、大人の言いなりにならずに済む。
 ……○○は、何になりたいんだ?」

考えましたが、未来はまだあまりにも、漠然としていました。

「……わからない」

「お前なら、学者や小説家なんかが向いてると思うけどな」

わたしの望む未来で、はっきりしているのは、ひとつだけでした。
わたしは、お兄ちゃんの胸に顔を寄せ、そっとつぶやきました。

「……お兄ちゃんと、ずっと、いっしょにいたい……」

聞こえたのかどうか、お兄ちゃんは返事をしませんでした。
わたしはお兄ちゃんの胸に抱き付いたまま、いつしか眠りに落ちていました。
目が覚めると、お兄ちゃんはもう服を着て、椅子に座っていました。
352  だれ子ちゃん?  2002/01/24(Thu) 11:44
別れは、あっけないものでした。

「手紙書けるようになったら、手紙くれよ」

「うん」

静かに話をしていたお兄ちゃんが、何気なく立ち上がりました。

「そろそろ、時間だ」

「もう、行っちゃうの?」

「ああ。また会える」

「……」

お兄ちゃんは出口まで歩いて行って、振り返り、右手を胸の辺りまで挙げて、
小さく振りました。
わたしも、ベッドに座ったまま、右手を胸まで挙げました。

「またな」

「また、ね」

お兄ちゃんは、行ってしまいました。
わたしは、ベッドに身を横たえ、虚脱しました。
部屋が、急に広くなったように思えました。

悲しいとか、泣きたいという思いが浮かぶより早く、目頭が熱くなりました。
後から後から、途切れることなく涙がこぼれました。
わたしは涙を拭くこともせず、流れ落ちるに任せました。
353  だれ子ちゃん?  2002/01/24(Thu) 11:45
看護婦さん2人とQさんが、病室に入ってきました。

「○○ちゃん、すごい顔ね」

Qさんが、タオルで顔を拭いてくれました。

「……」

「部屋変わることになったから、起きて」

「はい」

ストレッチャーで連れて行かれた先は、6人部屋でした。
わたしのベッドは、ドアを入って左の一番手前でした。
それ以外のベッドはすべて、先客で埋まっていました。

隣のベッドに居たのは、まだ1歳半ぐらいの女の子でした。
白目の部分が黄色くなっていて、肌の色は黄土色でした。
わたしはつい、まじまじと見つめてしまいました。
手足は枯れ木のように細く、おなかだけ信じられないくらい出ていて、
まるで飢餓に陥った難民の子供のようでした。

女の子の名前は、思い出すことができません。
周りの人はみんな「いやじゃ姫」と呼んでいました。
その女の子が、言葉を2語しかしゃべらなかったからです。
二つの言葉というは、「いや」と「痛い」でした。
いやじゃ姫は、薬を飲まされたり、点滴の針を刺されるたびに、
そう言って泣き騒ぎました。

この病院では、家族の人が常時付き添うことはないのですが、
いやじゃ姫は例外でした。手が掛かりすぎるからでしょう。
いやじゃ姫のお母さんの話によると、生まれつき肝臓に障害があって、
胆管がほとんど詰まっているそうです。

2回手術をしたそうですが、経過が悪く、「2歳が寿命ね」と淡々と言いました。
そう言うお母さんの平静な様子に、わたしは度肝を抜かれました。

354  だれ子ちゃん?  2002/01/24(Thu) 11:46
いやじゃ姫の向こう側のベッドには、肝臓病のお兄さんが寝ていました。
中学3年生で、顔色が悪いほかは、ふつうの人に見えました。
交通事故にあって、輸血したせいで肝炎になった、と後で話してくれました。

お兄さんは、何をするでもなく、いつも静かに窓の外を見ていました。
今でも、あのときお兄さんは、何を考えていたんだろう、と思います。

わたしの向かい側のベッドの3人は、みんな腎臓病でした。
窓際の小学5年生の男の子は、ネフローゼで顔がむくんでいました。

真ん中のベッドの女の子は、まだ小学3年生で、泣き虫でした。
毎日夜中にわけもなくナースコールを押して、看護婦さんを呼びだしては叱られて
いました。

壁際のベッドの男の子は、小学4年生でした。
お母さんが見舞いに来ている時は元気一杯で、じっとしていませんでしたが、
内弁慶なのか、お母さんが帰ると無口になりました。

腎生検を行うのは、わたしを含めた、腎臓病の4人でした。
看護婦さんが、明日から食事が腎臓食のB(2番目に制限が厳しい)に
なるけど、明後日腎生検をするから、その日は朝から絶食だと告げました。

大部屋では、夜もおしっこで起き出す子がいたり、泣き虫の女の子が
しくしく泣いたりして、にぎやかでした。
わたしは、いやじゃ姫の付き添いのお母さんと話すことが、多くなりました。
355  だれ子ちゃん?  2002/01/24(Thu) 13:33
大部屋に移った翌朝、わたしはいやじゃ姫のお母さんに尋ねました。

「つらく、ないんですか?」

お母さんの明るさが、わたしの目には奇異に映ったのです。
今思えば、なんて残酷な質問をしてしまったかと、自分を呪いたくなります。
お母さんの表情が一切無くなって、わたしはすくみ上がりました。

「……この子には、悪いことしたと思ってる。
 こんな風に、生まれたくはなかっただろうね。
 痛くて苦しいことばっかりで……。
 でも、親のエゴだけど、一日でも長く生きてくれるだけで、嬉しいの」

「ごめんなさい」

わたしは血の気が引いてしまい、一言謝るのがやっとでした。
お母さんは、目をつぶって、微笑んで言いました。

「あなたが謝ることないのよ。
 悪気はなかったんだから」

わたしが悄然としていると、看護婦さんが朝食を持ってきました。
1週間ぶりに見る、お米のご飯でした。

356  だれ子ちゃん?  2002/01/24(Thu) 13:33
おかずは、湯通しした野菜と酢の物でした。
腎臓食では、食塩(ナトリウム)と蛋白質とカリウムが制限されます。
この3つが、特に腎臓に負担を掛けるからです。

カリウムは生野菜に多く含まれるので、野菜は湯通しなければなりません。
生地に食塩を練り込むパンも、当分食べられません。

甘いか酸っぱいかだけのおかずでは、ふつう食が進みませんが、
久しぶりに食べるお米のご飯は、それだけで美味しく感じました。

ただ、デザートとして付いてくる、甘い甘いオレンジジュースだけは、
鉢の底に1センチほど入っているだけなのに、喉にからんで閉口しました。

退院間近になってやっと気づいたのですが、このオレンジジュースは、
水で5倍に薄めて飲む濃縮果汁でした。

357  だれ子ちゃん?  2002/01/24(Thu) 13:35
昼過ぎに、入院して初めて、看護婦さんに清拭してもらいました。
ベッドの周りのカーテンを閉め、蒸しタオルで体を拭いてもらうと、
生き返ったような気がしました。

お兄ちゃんが田舎に帰ってしまって、虚ろになった胸の痛みを忘れるのに、
大部屋のにぎやかさは、何よりの薬になりました。

ひとりきりの病室で、ずっとお兄ちゃんのことばかり考えていたら、
わたしはきっと、ふさぎ込んでしまったでしょう。

一夜明けて、腎臓病の4人が腎生検を受ける日になりました。
腎生検を受ける中で、わたしは最年長だったので、最初に処置室に呼ばれました。

ストレッチャーで運ばれ、レザー張りの処置台にうつぶせにされると、
年下の子の手前、恥ずかしいところは見せないようにしようと思っていたのに、
がたがた体が震えてきました。

Qさんが、わたしの背中をさすりながら、笑って言いました。

「もう……一番お姉ちゃんでしょ?
 しっかりしなくちゃ」

結局、震えが収まらないので、鎮静剤を注射してもらうことになりました。
左腕に鎮静剤の注射を、腰に局部麻酔の注射を打たれました。
2本の注射はとても痛くて、涙ぐんでしまいました。

やがて、腰の周りがしびれて、感覚が無くなってきました。
うつぶせになっていたので、後ろで何をしているかわかりませんでしたが、
「いくよ」と声を掛けられて、左の腰の少し上に違和感を覚えました。

内臓に棒を差し込まれてかき回されているような感覚が、ぼんやりとしました。
気持ち悪くて、吐き気がしてきましたが、ぴくりとも動いてはいけないと
申し渡されていたので、必死に我慢しました。

処置は、想像していたより早く終わりました。
針で刺した部分を、誰かが10分ほど強く押さえていました。

358  だれ子ちゃん?  2002/01/24(Thu) 13:35
ストレッチャーに移される時に横目で見ると、
処置台の上に、血に染まった大きな脱脂綿が転がっていました。

ベッドに移された時は、腰の後ろに巻いたタオルか何かを敷かれ、
仰向けに寝かされて、お腹に重い砂袋のようなものを載せられました。
6時間は身動きも禁止、24時間絶対安静、とのことでした。

しばらくすると、主治医のO先生がやってきてました。

「検査するから、尿を採らないといけないの。寝たままでできる?」

寝たままでおしっこをする練習はしていましたが、うまくいかなかったので、
こう答えました。

「寝たままだと、どうしてもおしっこが出ません」

「どうしても出ないんなら、膀胱まで管を差し込まないとね」

わたしはその光景を想像してしまって真っ青になり、O先生に懇願しました。

「ぜひ、寝たままおしっこさせてください!」

ベッドの周りをカーテンで隠してから、
看護婦さんがわたしのパジャマとショーツを下げ、
あそこの下に尿瓶をあてがいました。

その時のわたしに、恥ずかしいと思う余裕はありませんでした。
数分間いきんでも、慣れない姿勢のせいか、おしっこが出てきません。
看護婦さんが、声を掛けてくれました。

「焦らなくていいよ」

体の力を抜いてまた数分待ち、ようやく待望のおしっこが出てきました。

「はぁぁぁぁぁ」

わたしは、心の底から安堵のため息を漏らしました。

359  だれ子ちゃん?  2002/01/24(Thu) 13:36
麻酔が切れてくると、鼓動に合わせて腰の後ろに鈍痛が走りました。
泣き虫の女の子は、痛い痛いと泣き叫んでいましたが、
わたしに我慢できないほどの痛みではありませんでした。
それでも、その日の夜は、痛みのせいでほとんど眠れませんでした。

術後24時間経って、ようやくわたしは身動きできるようになりました。
やがて、O先生が回診に来ました。

「○○ちゃん。気分はどう?」

「ずっと寝ていたので、背中が痛いです。
 あの……お願いがあるんですけど」

「なに?」

「この部屋で、寝たままおしっこするのは、恥ずかしいです。
 まだ、座ってしちゃ、ダメですか?」

O先生は少し考えて、答えました。

「そうね……出血も無いようだし、
 トイレに行くことを許可します。
 ただし、看護婦のお姉さんに付き添ってもらうこと」

「はい!」

ふつうにトイレでおしっこするのが、こんなに嬉しいとは思いませんでした。

360  だれ子ちゃん?  2002/01/24(Thu) 13:37
「ただね……言いにくいんだけど……」

「?」

「腎生検ね、完全には上手くいかなかったの」

「……え?」

「こんなことは滅多に無いんだけど……組織が半分しか採れなかった」

「……じゃあ、もしかして……もう1回ですか?」

あの検査をもう1回やり直すなんて、想像しただけでぞっとしました。

「それはたぶん、大丈夫。
 完璧でなくても、ある程度の診断はできます。
 何種類かお薬を試してみて、どれも効かなかったらやり直しね。
 上手く効いたら、数週間で退院できます」

組織が上手く採取できなかったのは、同室の4人のうちわたしだけでした。
どうやらわたしは、運に恵まれていなかったようです。
執行猶予付きの判決が出たような、宙ぶらりんな気分でした。

361  だれ子ちゃん?  2002/01/24(Thu) 13:38
でも、いつまでも落ち込んではいられません。
いやじゃ姫や泣き虫の女の子が騒ぐ中、
わたしはおしっこがしたくなって、ナースコールのボタンを押しました。

やってきたのはQさんでした。
わたしは自力で車椅子に乗り、Qさんに押してもらってトイレに向かいました。
検尿容器を渡されて、久々に本物の便器にまたがりました。

やっぱり、騒がしい病室でするより、落ち着いてできました。
検尿容器を覗き込んで見るまでは……でしたが。

もう、おしっこの色が赤い、というレベルではありませんでした。
血、そのものでした。わたしがうろたえて、Qさんを呼ぶと、
すぐに病室に運ばれ、今度は看護婦さん二人掛かりでベッドに戻されました。

不用意に動くと大出血するかもしれない、ということで、
わたしは1週間まるまる、ベッドに縛り付けられることになりました。
どうやら、とことん運に見放されていたようです。
362  だれ子ちゃん?  2002/01/24(Thu) 13:38
身動きができないと、できることも限られます。
気晴らしは、漫画や本を読むことぐらいでした。
手が疲れないように、軽い文庫本を看護婦さんに頼んで買ってきてもらいました。

1週間のうちに、思い出になったのは、食パンを食べたことぐらいです。
泣き虫の女の子のお母さんが、知り合いのパン屋さんに頼んで焼いてもらった、
食塩を一切使っていない山形食パンを、わたしにもお裾分けしてくれました。

退屈そのものの1週間の後、ひとつだけ、重大な問題が残っていました。
おしっこだけは寝たままでも出るようになりましたが、
排便だけはどうしても、仰向けでは腰に力が入らず、できなかったのです。

わたしは1週間続いた便秘で、お腹が張ってきました。
回診の時に、わたしは再びO先生に懇願しました。

「大きいほうのときだけ、トイレに行かせてもらえませんか?」

先生は前より慎重に考えていましたが、結局うなずきました。

「1週間経過を見たけど、もう出血はしないでしょ。
 看護婦のお姉さんに付き添ってもらいなさい」

付き添いは、今度もQさんでした。
前にうろたえたところを見られたのを思い出して、ばつが悪くなりました。

363  だれ子ちゃん?  2002/01/24(Thu) 13:39
ベッドから降りてスリッパを履くと、頭の血が一気に下がって、
目の前が真っ暗になりました。
わたしは思わずベッドに手を付いて、体を支えました。
Qさんが、わたしの腕を取りました。

「大丈夫?」

わたしはQさんの手を借りて、どうにか車椅子に腰を下ろしました。
車椅子に乗って、1週間ぶりに見る廊下は、どこか新鮮でした。

トイレの入り口で車椅子から降り、手すりにつかまりました。
寝たきりだったので、足の力が弱っていました。

個室に入って、便器にまたがりました。
腰に力を入れましたが、便秘していたせいか、なかなか出てきません。
外にQさんを待たせているので、気が逸りました。

「んーーーー!」

手すりを握りしめて、お尻に力を込めました。
少し、出てきました。

わたしは真っ赤になって、力を振り絞りました。
切れるんじゃないかと思うぐらい、お尻の穴がぎりぎりまで広がって、
やっと、かちかちに硬くなったものが、数センチ出てきました。

「はあ、はあ、はあ……」

そこで、息が切れてしまいました。
膝の力が抜けて、ずり落ちそうになる体を、手すりにつかまって支えました。

いくら力を込めても、それ以上出てきません。
いったんそこで切ろうと思っても、硬すぎて千切れません。

貧血とは違った意味で、目の前が暗くなりました。
わたしはまさに、進退窮まりました。

364  だれ子ちゃん?  2002/01/24(Thu) 13:41
あまりに時間がかかりすぎたせいか、外からQさんの声が掛かりました。

「○○ちゃん? 大丈夫?」

何と返事して良いか、わかりません。
こんな姿を見られるなんて、恥ずかしすぎます。

「ホントに大丈夫なの? 返事して!」

ドンドンと、扉が叩かれました。
わたしはもう何も考えられなくなり、切れ切れに口にしました。

「Qさん……たすけて」

鍵が勝手にかちゃりと動き、扉が開きました。
わたしは手すりにつかまって、下を向いて泣きました。
汗ばんだ首に、Qさんの指が触れました。

「脈が速いわね。気持ち悪いの?」

「あの……あの……」

「どうしたの?」

「う○こが……」

わたしは目をつぶって、いますぐ心臓が止まってしまえば良い、と思いました。
耳許で、Qさんの優しい声がしました。

「すぐ戻るから、そのままで居て」

Qさんが立ち去った後、わたしは手すりに突っ伏して泣いていました。
ぱたぱたとスリッパの音を立てて、Qさんが戻ってきました。

365  だれ子ちゃん?  2002/01/24(Thu) 13:41
「おまたせ」

見るとQさんは、右手に薄いゴムの手袋をはめていました。

「ちょっと痛いかもしれないけど、我慢してね」

Qさんの指が、お尻の穴に触れました。
わたしは逃げようとしましたが、Qさんの左腕にがっちりと抱き留められました。

Qさんの指が1本、限界まで広がったお尻の穴とう○この間に滑り込みました。
お尻の穴が裂ける、と思いました。

「ああああああああ!」

わたしは恐怖に絶叫しました。
直腸の中で、Qさんの指がうごめくのを感じました。
ぼとぼとと、う○こが便器の中に落ちました。

お尻の穴を広げていたものが、無くなりました。
Qさんは指を抜いて、わたしのお尻を、トイレットティッシュで拭きました。
それから、ゴム手袋を外して、裏返しにしました。

「立てる?」

ずっとしゃがんでいたせいか、足が痺れていて、
Qさんの腕を借りないと、立ち上がることさえできませんでした。

病室のベッドに戻っても、わたしはまだ虚脱していました。
お尻の穴には、まだ太くて硬いう○こが広げている感触が、残っていました。

Qさんが食膳を持ってきた時も、わたしは顔を見ることができませんでした。
それでも、Qさんは何も起こらなかったかのように、接してくれました。

その後Qさんが、あのトイレでのことを口にしたことはありません。
病棟の噂にもなりませんでした。

看護婦さんというのは、あんなコトまでするんだ、とわたしは胸に刻みました。
自分も大きくなったら、人を助けられるようになりたい、と思いました。

366  だれ子ちゃん?  2002/01/24(Thu) 13:42
足が萎えるといけないので、部屋の中でだけ歩いてもよいことになりました。
でも、いやじゃ姫とは会話が成り立ちません。
年の近い腎臓病の3人とも、上手く話せませんでした。

わたしはどうも、同い年や年下と話すのが苦手だったようです。
話し相手になったのは、病室によく遊びに来たQさんのような看護学生、
いやじゃ姫のお母さん、それに窓際の肝炎のお兄さんだけでした。

肝炎のお兄さんと初めて口を利いたのは、外の夜景を見るために、
わたしが窓際に行った時のことです。
お兄さんは、ベッドの背もたれに寄りかかって、外を眺めていました。

わたしは、お兄さんが何を見ているのか気になって、尋ねました。

「お兄さん。なに、見てるんですか?」

わたしが顔を見つめると、お兄さんは黙ってこちらを向きました。
お兄さんの視線を受けて、わたしは息が止まりました。
冬の湖面のような、どこまでも静かで底の見えない瞳でした。
わたしの顔を見ているはずなのに、遥かずっと遠くを見ているようでした。

「……過去と、今と、未来」

「?」

お兄さんのつぶやきが、質問への答えだとはしばらく気づきませんでした。
それでも、言葉の響きが、なぜだかわたしの胸を打ちました。

「キミも、そのうちわかる。
 いや、わからないほうがいいかもしれない」

お兄さんは、血色の悪い顔で、にっこりしました。
微笑んでもどこか陰のあるその表情が、忘れられません。

わたしは、要領を掴めないまま、夜景に目をやりました。
眼下に、星空を翳らせるような、街の灯りが広がっていました。
367  だれ子ちゃん?  2002/01/24(Thu) 13:43
新しい薬が出ましたが、検査結果はなかなか良くなりませんでした。
その週が終わりに近づいたある午後、窓にもたれていたわたしに、
肝炎のお兄さんが声を掛けました。

「○○ちゃんは、入院するのは初めて?」

わたしは、振り返って答えました。

「はい。お兄さんは?」

「僕も初めてだ。こんなに時間を持てあますとは思わなかった」

いつも静かに寝ているお兄さんが、退屈しているとは意外でした。

「○○ちゃんは、何を考える?」

漠然とした質問に、わたしは考え込みました。

「……早く、元気になりたいな、って思います。
 田舎のお兄ちゃんに、会いに行きたいです」

「そう……。早く、退院できると良いね」

「はい。お兄さんも」

368  だれ子ちゃん?  2002/01/24(Thu) 13:44
週末に、担任の先生がお見舞いに来ました。
手に花束と、千羽鶴を持っていました。

「××さん。これ、クラスのみんなから。
 班ごとに交替で、お見舞いに来ることになったわ。
 注意してあるけど、騒ぐようだったら言ってね」

「ありがとうございます」

わたしはお礼を言ったものの、つきあいの無かったクラスメイトたちからの、
お見舞いの品にとまどいました。

「欠席しているあいだにだいぶ授業が進んだから、退院してからが心配ね。
 今日お医者さんと相談してOKが出たら、明日にでもプリント持ってくるわ」

そういえば、入院してからまったく勉強していませんでした。
サイドテーブルには、漫画雑誌と文庫本が積まれていました。

先生が帰った後、クラスメイトが6人やってきました。
困ったことに、男子の顔は覚えていても、名前が出てきません。
挨拶しても、みんな居心地が悪そうでした。

「××さん、まだ退院できないの?」

「まだ、予定が立ってない」

会話が途切れると、どうしていいのかわからなくなりました。
クラスメイトたちは、椅子に座って漫画雑誌を読み始めました。

369  だれ子ちゃん?  2002/01/24(Thu) 13:45
クラスメイトたちは、漫画雑誌を読み尽くすと、帰って行きました。
わたしは気疲れして、ぐったりしてしまいました。

翌日の昼過ぎ、担任の先生がまた顔を見せました。

「××さん、調子はどう?」

「先生、おはようございます。
 昨日、×班の人が、お見舞いに来てくれました」

「騒いだりしてなかった?」

「はい。みんな、静かにしてました。
 でも……もう、来てもらわないほうが良い、と思います」
 ホームルームで、順番にお見舞いに行くことになったんでしょう?」

「そうだけど……何かあったの?」

「何も、ありませんでした。
 みんなと、何も、話すことがありません。
 みんな、とても居心地悪そうでした」

先生は、少しのあいだ口をつぐんでから、言いました。

「そう……。
 じゃあ、あなたが疲れるといけないから、
 お見舞いは遠慮する、ってことにするね?」

「はい。よろしくお願いします」

370  だれ子ちゃん?  2002/01/24(Thu) 13:47
「この話はこれでおしまいっ。
 このプリントを見てちょうだい」

先生はバッグから、プリントの束を取り出しました。

「授業で使ったプリントと、その模範解答。
 まず、プリントを読んで、全然わからないところがあったら教えて」

わたしは1枚ずつめくって、目を通しました。

「別に、わからないところはありません」

「え……?」

先生は、いくつか質問をしてきました。難なく答えられました。

「あなた……いつの間に勉強したの?」

本当は中学校の勉強をしていることは、黙っておいたほうが良さそうでした。

「夏休みのあいだに、2学期の予習をしました」

先生はため息をつきました。

「はあ……みんなもあなたみたいだったら、先生も楽なんだけどなあ。
 もうすぐ修学旅行だから、みんな浮かれちゃって。
 あ、ごめんなさい。修学旅行までに、退院は無理よね?」

「いいです。別に、興味ありませんから」

本当に、乗り物酔いに悩まされなくて済んで、ありがたいぐらいでした。

「お土産買って来るからね」と言って、先生は帰りました。

先生が帰ったあと、わたしは気が抜けて、ぼうっとしていました。
その時、まったく思いがけない人が、入り口に現れました。
わたしの父親でした。
371  だれ子ちゃん?  2002/01/24(Thu) 13:47
親が子の見舞いに来るのは当たり前なのですが、わたしは呆気にとられました。
父親は、黙って椅子に腰を下ろしました。
わたしは、何と言っていいかわからず、沈黙を守りました。

父親の顔をまじまじと見ていると、胸の中がどす黒いもので埋まるようでした。
病室の温度が、急に下がったような感じがしました。
気のせいか、周りのベッドの話し声まで静まりました。

「○○、まだ治らんのか?」

父親の第一声に、わたしはうなずきだけを返しました。
わたしは、自分が本当に父親を嫌っていることを、自覚しました。
ほかにも何か言われたような気もしますが、まったく覚えていません。
わたしの耳が、聞いた音を素通りさせたのかもしれません。

父親は、いつもの仏頂面で帰って行きました。
バタン、とドアが閉まると、いやじゃ姫のお母さんが寄ってきました。

「○○ちゃん、大丈夫? 顔が真っ青だけど……。
 お父さんと、何かあったの?」

ひそめた声と、心配そうな顔を見て、何か言わなくちゃ、と思いましたが、
説明のしようがありません。

「だいじょうぶです。ちょっと、疲れただけです」

わたしは起きあがって、スリッパを履きました。
窓際まで歩いていって、窓ガラスに額を押しつけました。
こうすると、冷たくて気持ちが良いのです。

後ろで、声がしました。肝炎のお兄さんの声でした。

「つらいことは、いつまでも続かない。
 続くのは、こうなったらどうしよう、って悪い想像だけだ。
 良いことは、きっとある。生きてさえいれば」

わたしへの言葉か、独り言かわからず、わたしは振り返りませんでした。
372  だれ子ちゃん?  2002/01/24(Thu) 13:48
その翌日の回診の時、O先生が言いました。

「○○ちゃん、昨日、何か変わったことした?」

「え……?」

「尿検査の結果が、急に悪くなってる。
 激しい運動とか、してないね?」

「はい……してません」

「そう……。
 じゃあ、たぶん先生のせいだ」

「……? どういうことですか?」

「昨日、お父さんに見舞いに来てもらったのは、先生が頼んだから。
 逆効果だったみたいね……」

「先生……」

わたしは、何と言っていいかわかりませんでした。
O先生は、顎に手を当てて考え込みました。

「当分のあいだ、面会は禁止にします。
 お兄ちゃんだったら良いけど、もう、来れないんでしょ?」

「はい……」

その後、検査結果は元に戻りましたが、良くもなりませんでした。
今の薬に効き目がないようなので、薬を変えることになりました。

そのうちに、他の腎臓病の子は、次々と退院していきました。
内弁慶の子とネフローゼの子が退院し、最後に泣き虫の女の子が居なくなると、
病室はずいぶん静かになりました。

373  だれ子ちゃん?  2002/01/24(Thu) 13:49
わたしは、薬の副作用なのか、頭痛や悪心に悩まされるようになりました。
同じ毎日の繰り返しのなかで、何日経ったのか、わからなくなってきました。

わたしはひとりで、もう退院できないのかなあ、とつぶやきました。

「そんなことない」

そう言ってくれたのは、Qさんでした。

「ちょっと順番が遅れてるだけ。
 そんなお通夜みたいな顔してたら、治るものも治らないよ?」

「……そうですか? いつもの顔だと思いますけど」

「暗い、暗すぎるよ!
 どうして小学生がそんなに落ち着いていられるの?」

そんな風に言われても、今に始まったことではないので、答えようがありません。

「それより、Qさん、毎日ここに来てるけど、忙しくないんですか?」

「うん。暇〜。詰め所に居ると婦長がうるさいしねぇ。
 わたしが居ると邪魔?」

「そんなこと、ありません」

Qさんは、病院内の噂話をしてくれたり、漫画雑誌の新刊を買ってきてくれたり、
文庫本を貸してくれたりしました。

今思うと、Qさんがそんなに暇を持てあましていたはずはありません。
わたしがあんまりひっそりとしていたので、元気づけてくれたのでしょう。

374  だれ子ちゃん?  2002/01/24(Thu) 13:50
ある朝、急に肝炎のお兄さんが居なくなっていました。
わたしは、Qさんに尋ねました。

「(肝炎のお兄さんの名前)さん、退院したんですか?」

「あ……、あの子ね、個室に移ることになったの」

「そうですか……?」

その時のわたしはまだ、個室に移ることが何を意味するか、知りませんでした。

また、新しい薬に変わりました。
酷く不味くて、オブラートで包んで飲んでも、後で臭いげっぷが出ました。
その代わり、効き目は劇的でした。

O先生は、ホッとしたように「今度は当たりだった」と笑い、
食事制限を緩めてくれました。

その日の夕食のおかずは、エビフライでした。
わたしはそれまで偏食がちで、エビやイカが嫌いでした。
ですが、このエビフライには食塩が振ってありました。

おそるおそる口に入れると、舌を塩の味が刺激しました。
食事で塩を味わうのは、ほぼ1ヶ月ぶりです。
エビフライとは、こんなに美味しい物だったのか、と驚嘆しました。
この時から、わたしはエビフライが大好物になりました。

その後、10ccほどしか入らない、小さな醤油差しを渡されました。
これを朝昼晩に分けて使うように、と指示されました。
それまで、甘いか酸っぱいかのおかずしかなかっただけに、
ほんの少しの醤油でも、食欲が進みました。

375  だれ子ちゃん?  2002/01/24(Thu) 13:51
検査結果が良くなって、今までの静かだった生活に波が立ったようでした。
食堂まで歩いて行って、食事を摂ることも許可されました。

でもわたしは、薄い夏物のパジャマしか持っていなかったので、
そんな格好で人前に出るのは憚られました。
すると、いやじゃ姫のお母さんが旦那さんに電話して、可愛いカーディガンを
届けさせました。

「わたしが着て、いいんですか?」

「この人ったら、この子は10年経たないと着れないのに、
 可愛いからって服買ってくるのよ。バカみたいでしょ?
 仕舞っておいても虫に食われるだけだから、着てちょうだい」

わたしは、花柄のカーディガンを着て、少し緊張しながら食堂に行きました。
周りは顔も知らない大人ばかりでしたが、みんな会釈してくれました。
食堂の大きな窓からは、裏山の見事な紅葉が見えました。

わたしは、肝炎のお兄さんの個室の窓からも、この紅葉が見えるだろうか、
と思いました。食堂の帰りに、わたしはお兄さんを見舞うことにしました。

長い距離を歩くのは久しぶりだったので、手すりにつかまりながら、
病棟の廊下を歩きました。
ドアの横のネームプレートを頼りに、お兄さんの病室を探しました。

お兄さんの病室は、わたしの病室と食堂のあいだにありました。
廊下を挟んでわたしの病室とは反対側で、裏山に面していました。

ドアノブに、「面会謝絶」の札が下がっているのに気づきました。
わたしは仕方なく、自分の病室に戻りました。

次の日、また通りかかると、お兄さんの病室のドアが開いていました。
入り口に立つと、奥にベッドが見えました。

ベッドには誰も寝ておらず、看護婦さんがシーツを替えていました。
わたしは、看護婦さんに歩み寄りました。

「あの……ここに寝ていたお兄さんは、どうしたんですか?」

わたしの声に驚いたのか、看護婦さんはハッと振り返りました。

「あ、ああ、昨夜、退院したの……」

看護婦さんのうわずった声と、泣きはらした目で、わたしは真実を悟りました。
376  だれ子ちゃん?  2002/01/24(Thu) 13:52
それからわたしがどうやって自分の病室に戻ったのか、思い出せません。
毛布をかぶって天井を見ていると、いやじゃ姫のお母さんが声を掛けてきました。

「大丈夫? 看護婦さん呼ぼうか?」

「だいじょうぶ……です」

深い深い、海の底に居るようでした。
わたしは深海魚のようにじっと動かず、息を潜めていました。

目をつぶっていると、自分の胸がどくどくと脈動する音だけが聞こえました。
何も考える気力がなくても、体は勝手に生きようとしていました。

わたしは深呼吸をして、目を見開き、口の中でそっとつぶやきました。

「お兄さん……さよなら」

お兄さんと交わした数少ない言葉を、忘れないようにしよう、と思いました。

377  だれ子ちゃん?  2002/01/24(Thu) 13:53
O先生が、退院のスケジュールを口にしました。

「ホントは、もう退院しても良いんだけどね。
 ちゃんと学校に通えるぐらい体力が回復するまで、
 そうね……あと1週間か10日、ここに居なさい」

「はい、先生。
 あの……相談があるんですけど」

「なに?」

「髪を切りたいんですけど、かまいませんか?」

「その髪を? それだけ伸ばしてるのに、勿体なくない?」

「髪が長いと、自分で洗うの大変なんです。
 手入れが悪いと、傷んじゃいますし」

「そうね。切るんだったら今のうちかもね。
 退院してから切ったら、風邪引いちゃうかもしれないし。
 風邪だけは引かないように注意しないと、ここに逆戻りよ」

結局わたしの髪は、Qさんが切ってくれることになりました。
大部屋では狭いということで、初めて見る部屋に連れて行かれました。
入ってみると、ベッドも何もない、殺風景な部屋でした。

「Qさん、ここは何の部屋ですか?」

「空き部屋というか、休憩室というか……気分転換する場所ね」

「……?」

わたしはパイプ椅子に腰を下ろし、ゴムのシートを体に巻かれて、
てるてる坊主のようになりました。

378  だれ子ちゃん?  2002/01/24(Thu) 13:54
「どれぐらい切る?」

「思い切って、短くしてください。耳が見えるぐらいに」

「そう……勿体ないなぁ……。
 心配しなくていいよ。わたし髪切るの上手いから。
 田舎にいるときは弟の髪をよく切ってあげてた」

「弟さん、居るんですか?」

ばさり、と髪の房が落ちました。

「うん。まだ中3だけどね。
 散髪代浮かして二人で山分けにしようとして、
 最初は失敗して丸坊主にしちゃった。
 泣いてたなー、あいつ」

Qさんがあははは、と笑いました。

「ひどい」

わたしも、くすくす笑いました。

襟足と前髪が揃い、頭のてっぺんを梳き刈りされると、帽子を脱いだように
頭が軽くなりました。

「こんなもんかな?」

Qさんが、手鏡をわたしの顔の前に差し掛けました。
おかっぱ頭より短くなって、別人のように見える自分が鏡の中に居ました。

それから毎日、廊下やロビーを散歩して、足を鍛えました。
退院までの1週間は、あっという間でした。

379  だれ子ちゃん?  2002/01/24(Thu) 13:54
退院の前日、ひとりで屋上に行きました。
吹きさらしの屋上に立つと、首がすーすーしました。

屋上から見下ろす街は、もう遥か遠くの景色ではありませんでした。
明日から、わたしもそこに戻って行きます。

Pさんの赤ん坊のこと、まだ退院できないいやじゃ姫のこと、
そして最後まで退院できなかった肝炎のお兄さんのことを思うと、
胸がずきんと痛みました。

退院の日、いやじゃ姫のお母さんとQさんが、タクシー乗り場まで
見送ってくれました。

「今まで、ありがとうございました。また来ます」

Qさんが、怒ったふりをして言いました。

「入院病棟にまた来るなんて縁起でもない。
 元気になって、顔を見せなくなるのが、なにより嬉しいの」

わたしはタクシーの窓から手を振って、二人に別れを告げました。

380  だれ子ちゃん?  2002/01/24(Thu) 13:56
久しぶりに帰った自宅では、意外な人がわたしを出迎えました。
見たこともないおばさんです。
わたしが入院しているあいだに、通いのお手伝いさんが来ていたのです。

家の中は、想像していたよりも片付いていました。
わたしは、お手伝いさんに挨拶しながら、自分が役立たずになったように
感じました。

家事をする必要が無くなったわたしは、部屋で手紙を書きました。
退院したことをお兄ちゃんに報告する手紙です。

大部屋での生活、腎生検のこと、いやじゃ姫とそのお母さんのことまで
書いて、行き詰まりました。
肝炎のお兄さんのことを、どう書いていいかわかりませんでした。

あの静かな瞳の意味が、まだ言葉にならなかったのです。
その代わりに、髪をうんと短くしたことを書きました。

381  だれ子ちゃん?  2002/01/24(Thu) 13:56
翌朝、目覚めたとき、病院のベッドと違うことに、一瞬とまどいました。
約6週間ぶりに、登校の準備をして、ゆっくり歩いて行けるように、
早めに家を出ました。

教室に着くと、クラスメイトたちがたむろして、お喋りしていました。
誰かがわたしに気が付いて、話し声がぴたりと止まりました。
女子のひとりが声を掛けてきました。

「××さん、退院したの?」

わたしはうなずきました。

見回すと、机の配置が変わっていました。席替えがあったようです。
わたしの机が見あたりません。

男子がひとり、ごとごとと音を立てて、後ろからわたしの机を押してきました。
男子の顔に見覚えはありますが、名前が出てきません。

「ありがとう」

「いいって……」

その男子は、顔を背けて行ってしまいました。
ホームルームが始まって、担任の先生がみんなに告げました。

「××さんは、長いこと入院していました。
 退院して学校に通えるようになりましたが、運動はできません。
 体育の時間は見学です。
 みんなも、××さんが困っている時には、助けてあげてね」

わたしは先生に指名されて立ち上がり、「よろしくお願いします」と
一礼しました。

382  だれ子ちゃん?  2002/01/24(Thu) 13:57
お昼休みに、わたしは先生に呼び出されました。
わたしはゆっくり給食を食べてから、職員室に出向きました。
職員室の先生の机の前には、さっき机を運んでくれた男子も立っていました。

「××さん、給食のことだけど、パンの日にはお家から
 ご飯を持ってきてもかまいません。
 メニューを渡しておくから、食べられないおかずがあったら、
 そのぶん別におかずを持ってきてもいいわ」

小学校では、米飯給食とパン給食が一日おきにありました。

「はい」

「それと……R君が、アルバム委員の代理をしてくれてたの。
 放課後にときどき委員会があるけど、続けてR君に頼んだほうが良い?」

「いいえ。主治医の先生からは、運動と食事に気を付ければ、
 ふつうに生活してかまわない、と言われてます。
 なるべく、みんなと同じように扱ってください」

わたしだけ特別扱いされるのは、嫌でした。

「そうね……でも、あなたは元々体が丈夫じゃないし、
 まだ体力が落ちてるでしょ?
 無理するといけないから、R君さえよかったら、手伝ってもらおうよ」

先生はR君に目配せしました。

「えーと、僕は、かまいません」

わたしは仕方なく、R君に「ありがとう」と言いました。
R君は緊張しているようでした。
先生に頼まれて、断り切れなくなっているんじゃないか、と思いました。
383  だれ子ちゃん?  2002/01/24(Thu) 13:58
放課後になっても、しばらくわたしは椅子に座って休んでいました。
久しぶりの授業で、思ったより疲れていたからです。
それに、早く家に帰っても、本を読む以外にすることはありません。

わたしがようやく立ち上がって鞄を背負い、出口に向かうと、
R君がそこで待っていました。

「××さん、鞄持つよ」

「必要ない」

「必要ないって……重くて大変でしょ?」

「大変じゃない。中は空だから」

わたしは鞄を振って見せました。教科書は全部、机に入れっぱなしです。
鞄の中には、文庫本1冊しか入っていません。
R君は絶句しました。

「帰るから、どいてくれる?」

R君は道を空けました。わたしは靴を履き替え、正門から道路に出ました。

立ち止まって、鞄から文庫本を出そうすると、後ろにR君が居ました。
R君の家も同じ方角だろうか、と思いましたが、わかるわけありません。
手を止めて思案していると、R君が話しかけてきました。

「あのさ……一緒に帰らない?」

「なぜ?」

「あ、え、その……」

わたしは、なるほど、R君は担任に頼まれたので、
わたしが家に帰るまで見届けないと心配なのだろう、と思いました。

断ろうかと一瞬考えましたが、責任感の強い人に無下にするのも悪い、
と思い直しました。

「行きましょう」
384  だれ子ちゃん?  2002/01/24(Thu) 13:59
結局、文庫本は取り出さないままでした。
並んで歩くのに、わたしがずっと読書していたのでは失礼です。

わたしは無言でした。男子のことを何も知らないので、話題がありません。
R君も無言でした。わたしに話す用事が何も無かったのでしょう。

ゆっくりゆっくり歩いて、わたしの家の近くの交差点に差し掛かりました。
角を曲がると、すぐにわたしの家です。

「R君はどっち?」

「え? あ、僕はあっちだけど」

「そう。じゃ、さよなら」

わたしが向きを変えようとした時、突然R君はわたしの目の前で、
豪快なヘッドスライディングを決めました。
道路の段差に足を取られたようです。

わたしは呆気にとられて、R君を見下ろしました。
R君は、なかなか立ち上がりません。

「……だいじょうぶ?」

「……うん」

あんまり大丈夫そうではありませんでした。
立ち上がったR君の手のひらと膝から、血が出ていました。

「歩ける?」

「うん」

「じゃ、付いてきて」

385  だれ子ちゃん?  2002/01/24(Thu) 14:00
わたしが玄関の鍵を開け、振り向くと、R君は付いてきていました。

「おじゃまします」

「誰も居ないから、気にしなくて良い」

R君をダイニングの椅子に座らせ、わたしは救急箱を取りに行きました。

「しみると思う」

警告してから、わたしはしゃがんで、アルコールを染みこませた脱脂綿で、
R君の手のひらと膝の傷を拭き、ぐるぐる包帯を巻きました。

「大げさじゃないかな?」

「傷口からばい菌が入ると、破傷風になるかもしれない」

「そ、そう? ありがとう」

「どういたしまして」

その後、席替えがあって、R君と同じ班になりました。
間近で見てわかったのですが、R君は真面目で責任感が強い代わりに、
信じられないほどドジでした。

理科の実験中には、わたしが見ている目の前で、
試験管立てをひっくり返して全部割ってしまいました。

給食の時間には、わたしとすれ違おうとして、椅子に足を引っかけ、
向かいの女子のお膳に飛び込みました。

386  だれ子ちゃん?  2002/01/24(Thu) 14:02
そんなある日、わたしが放課後にぼーっとしていると、ひとりになっていました。
そう言えば、今日はわたしが掃除当番でした。

わたしが箒で床を掃いていると、R君が教室に入ってきました。

「あれ? ××さん、ひとり?」

「うん」

「ほかの掃除当番は?」

「帰った」

「え? いいの?」

「わたしはよく休んで、あんまり当番してないから、かまわない」

「……じゃあ、手伝うよ」

「R君は、掃除当番じゃないでしょ?」

「2人でやれば早く終わるよ」

「ゆっくりやるから大丈夫」

「……」

R君は困ったような顔をして、黙ってしまいました。
みんなが嫌がる掃除当番を、こんなにやりたがるなんて変わっているなあ、
と思いました。

「R君、バケツに水を汲んできてくれる?」

雑巾がけするのに必要な水を、バケツで運ぶのはわたしには大変でした。

「うん!」

387  だれ子ちゃん?  2002/01/24(Thu) 14:02
R君は、バケツを下げて走って行きました。
わたしが箒を使っていると、R君が真っ赤な顔で帰ってきました。
両手で下げたバケツには、なみなみと水が入っています。

R君が、目の前でつまずきました。
わたしは思わずバケツを受け止めようとして、まともに水を浴びてしまいました。

しりもちを着いたわたしの、胸から下と床は水浸しでした。

「ごごごごごめん!」

R君は完全にうろたえていました。
わたしは立ち上がって、怪我がないことを確かめました。
その代わり、カーディガンもブラウスもスカートもずぶ濡れです。

「わざとじゃ、ないでしょ?」

「もちろん!」

「だったら、仕方がない」

このままでは、確実に風邪を引いてしまいます。

「着替えるから、外から誰も入ってこないようにして」

R君を廊下に追い出して、カーテンを閉め、服を脱ぎました。
アンダーシャツやショーツにまで、水が浸みていました。

体育の見学の時は、体操服に着替える規則がありましたが、
わたしは寒くないように、いつも私服のままでした。

学校に置いてあるのは、洗濯して袖を通していない夏物の体操服だけでした。
わたしは仕方なく、素肌に半袖の体操着とブルマを着ました。

388  だれ子ちゃん?  2002/01/24(Thu) 14:03
わたしは出入り口の戸を引いて、声を掛けました。

「入ってきて」

R君がおどおどしながら入ってきました。

「これだけじゃ、風邪引くかもしれない。
 R君のジャージを貸して」

「あ、でも……汚いから」

「風邪を引くよりマシ」

R君のジャージはサイズが大きすぎましたが、仕方がありません。
わたしはジャージの上に、コートを羽織りました。

「もう一度水を汲んできてくれる?
 バケツに半分ぐらいで良いから」

R君が水を汲みに行っているあいだに、濡れた床を乾いた雑巾で拭きました。
雑巾を絞るのは、R君に任せました。
絞られて流れ落ちる水を見て、さすがに男子は力が強い、と思いました。

すっかり掃除が終わって、わたしは言いました。

「帰りましょう」

帰り道はいつものように無言でしたが、わたしは気にしていませんでした。
家に帰って、わたしはお兄ちゃんに手紙を書きました。

疲れやすくて休みがちだけど、相変わらずテストでは満点を取ったこと。
退院してから少し体重が増えたこと。責任感の強い男子が手伝ってくれるけど、
ドジばかりでかえって手間が増えていること……。

数日経った夜、お兄ちゃんから電話が掛かってきました。

389  だれ子ちゃん?  2002/01/24(Thu) 14:04
「○○、手紙読んだぞ。
 元気になって良かったな」

「うん! お兄ちゃんも、勉強頑張ってる?」

「んー、まあ、ぼちぼちな。
 ところで、クラスの親切な男子、って、なんて名前だっけ?」

「R君?」

「前から親しいのか?」

「退院するまで、口利いたことなかった」

「どんなヤツなんだ?」

「どんな……って、今でもあんまり喋らないから、わからない」

「そうか? 友達なんだろ?」

「友達……?
 友達だったら、いろいろお話するでしょ?
 R君は、先生に頼まれてわたしの面倒見てるだけだと思う」

「ふーん……ドジだって書いてあったけど、おっちょこちょいなのか?」

「うーん。そんなことないと思う。普段は無口で大人しいし」

「そっか……。
 そういや、もうじきクリスマスだな」

390  だれ子ちゃん?  2002/01/24(Thu) 14:04
去年のクリスマスは、お兄ちゃんが起こした事件のせいで、
祝うこともなく過ぎて行きました。

「今年はちゃんとプレゼント贈るから、楽しみにしてろよ」

「ホント?」

「ケーキは買うのか?」

「わたしひとりじゃ食べきれないから、買わない」

「そうかそうか。じゃ、またな」

短い電話が終わってからもしばらく、わたしはしあわせに浸っていました。

でも、我に返ると、わたしがお兄ちゃんに贈るプレゼントがありません。
お兄ちゃんは何を貰うと喜ぶのだろう、と真剣に悩みました。

翌朝、校門のところで偶然、R君と出会いました。

「R君、おはよう」

「あ、××さん、おはよう」

わたしが初めて自分から挨拶したせいか、R君は驚いているようでした。

「相談が、あるの……ちょっと良い?」

「う、うん」
391  だれ子ちゃん?  2002/01/24(Thu) 14:05
人目に付かない校舎の陰に入って、わたしはずばり尋ねました。

「クリスマスプレゼントに、どんな物を貰うと嬉しい?」

「え? あ、うーん……」

いきなりすぎたのか、R君は考え込んだ末、ぼそぼそと答えました。

「心のこもったプレゼントなら、何でも嬉しいけど……」

わたしは、まったく参考にならない意見に、がっかりしました。

「そう……わかった」

わたしはさっさと教室に向かいました。
授業中もわたしは、プレゼントのことばかり考えていました。

突然、天啓が閃きました。
そうだ、わたしもお兄ちゃんの心がこもっていれば、何でも嬉しい。
だったら、わたしの心を込めて贈り物を作れば良い。

わたしは編み物はできませんでしたが、刺繍ならやったことがありました。
早速、ノートに下絵を描きました。

作るのは、枕カバーです。
絵柄は、月と星の輝く夜空の下、葉を茂らせた大きな木の前に立つ、
お兄ちゃんのとわたしにしました。

次の日曜日に刺繍糸を買いに行き、それから毎日、学校でも暇さえあれば、
刺繍にいそしみました。

クリスマスイブの直前、カードを添えて枕カバーを送るのと入れ違いに、
お兄ちゃんからのプレゼントが届きました。

レーズン、プルーン、チェリーなど、ドライフルーツをたっぷり使って
焼き上げたフルーツケーキでした。
同封のカードには「イブの夜7時に電話の前にいること」と書いてありました。

392  だれ子ちゃん?  2002/01/24(Thu) 14:06
イブの当日、わたしは電話機の前にケーキとジュースを並べて座り、
お兄ちゃんからの電話を待ちました。

7時少し前に、電話機がプ、と鳴りました。
わたしはすかさず、受話器を取り上げ、精一杯大きな声で言いました。

「メリークリスマス!」

「……メ、メリークリスマス……」

返ってきたのは、お兄ちゃんの声ではありませんでした。

「…………R君?」

「う、うん。どうしたの? 元気良いね」

いつお兄ちゃんから電話が掛かってくるかわからないのに、
邪魔されたようでいらいらしました。

「なに?」

「……えーと、あー、その、今日は予定ある?」

わたしは間髪を入れず答えました。

「ある」

「あ……そうなんだ。ごめん」

「それだけ?」

「う、うん。じゃあ、またね……」

ガチャリ、と受話器を下ろしました。
ちょっと気が抜けてしまいました。
時計に目をやると、7時を過ぎていました。

393  だれ子ちゃん?  2002/01/24(Thu) 14:09
電話機が、プルルルルと鳴りました。
深呼吸をして、3回鳴るまで待ち、受話器を取り上げました。

「はい、××です」

「○○か? 俺だ」

間違いなく、お兄ちゃんの声でした。

「お兄ちゃん、メリークリスマス」

「メリークリスマス。ケーキは届いたか?」

「うん。目の前にある。すごく美味しそう」

「食べてみろよ。フルーツたっぷり入れた自信作だ。
 日持ちするから、少しずつ食べればいい。
 ラムとブランデーが入ってるけど、酔っぱらうなよ?」

「やっぱり、お兄ちゃんの手作り?」

「ああ。お菓子も焼けるようになったぞ。
 お前こそ、枕カバーありがとな。さっそく使ってるよ」

わたしは、雲の上まで舞い上がったような心地でした。
電話越しに、お兄ちゃんの後ろでざわめきが聞こえました。

394  だれ子ちゃん?  2002/01/24(Thu) 14:09
「誰か居るの?」

「ん、ああ。友達の家でパーティーやってる最中だ。
 たまには息抜きしなくちゃな。
 お前は……ひとりか?」

「うん。でも、お兄ちゃんが電話くれたから、良い」

その時、「ちょっとだけ替わりぃな」と、女の人の声がしました。

「あ、○○ちゃん? 初めまして。わたしS。お兄ちゃんのお友達ぃ」

わたしは雲のあいだから、真っ逆様に墜落しました。
口だけが、勝手に動きました。

「もしもし。わたし○○です。兄がいつもお世話になっています」

「礼儀正しいねー。お兄ちゃんがいつも自慢するわけだぁ」

Sさんはけらけら笑っていました。
向こうでは、お兄ちゃんと受話器を取り合っているようです。

「ちょっとやだぁ……とにかく、あなたのためにお兄ちゃん、
 ケーキの焼き方教えてくれって家まで来るんだもん。妬けるわー」

395  だれ子ちゃん?  2002/01/24(Thu) 14:10
ごりごりっと音がして、受話器がお兄ちゃんの手に戻りました。

「…………」

「あ、○○、聞いてるか?」

「うん……」

「このバカ、勝手にシャンパン飲んで酔っぱらいやがって。
 いつもはこんなじゃないんだ。気にするなよ」

焦っているのか、お兄ちゃんは早口になっていました。

「うん……Sさんって、お兄ちゃんの彼女?」

「ん、あ……まあな」

「そう……。Cさんのこと、忘れられたんだね。良かった」

「…………」

沈黙が、胸に刺さりました。

「お兄ちゃん、パーティーがあるんでしょ?
 わたしはもう良いから、楽しんで。
 初詣行ったら、受験のお守り送るね」

「ああ、頼む。
 お前も、体に気を付けろよ。またな……」

わたしは受話器を置いて、小さく切り分けたケーキを頬張りました。
甘さと苦さの入り混じった、とても深い美味しさでした。
噛んでいるうちに、涙の味が混じってきました。

396  だれ子ちゃん?  2002/01/24(Thu) 14:11
冬休みに入ってから、わたしはずっと家の中に閉じこもっていました。
外の冷たい空気に触れるだけの気力が、失われていたのです。

1週間のあいだ、ほとんど口を利くこともありませんでした。
お手伝いさんへの短い返答が、わたしの口から発せられる言葉の全てでした。

近くの書店の上得意だったので、ツケで新刊を配達してもらえました。
ほとんど本や雑誌に埋もれるようにして、ページを繰りながら、
わたしの頭の大部分は思考を止めていました。

何かを考えようとすると、お兄ちゃんを思い出してしまいます。
そうしたら、それにSさんの笑い声がかぶさってきてしまうのです。

自分の心の末端が悲鳴を上げて、少しずつ散り散りになっていくのを、
わたしは醒めた意識のどこかで、無感覚に見つめていました。

397  だれ子ちゃん?  2002/01/24(Thu) 14:12
大晦日になりました。
その日も、特にいつもと違いはありませんでした。
テレビをつけることもなく、平坦な一日が過ぎていきました。

ごおおおおんと、除夜の鐘が響いてきました。
わたしは黙々と、毛糸の下着、ウールのシャツとスカート、セーター、
裾の長いコート、マフラー、帽子、手袋を身に着けました。

雪だるまのように着ぶくれて外に出ると、顔が寒さで強ばりました。
闇の中で、吐く息だけが街灯に白く浮かび上がりました。

いくら寒くても、初詣に行かなくてはいけません。
そんな強迫観念にも似た思いに背中を押されて、神社への道を急ぎました。

真夜中だというのに、神社の近くには人通りがありました。
二年参りに向かう人々の列です。

道に面したコンビニエンスストアの前には、中高生の人だかりが出来ています。
傍若無人な話し声が、騒がしいほどでした。

わたしは脇目もふらず、鳥居をくぐりました。
社務所の脇で、お神籤とお守りが売っています。

お神籤には興味がありませんでした。
病院で理不尽な死を知って以来、わたしは神仏を信じられなくなっていました。
それでもお守りを買う気になったのは、
お兄ちゃんにはそれが気休めになるかもしれない、と思ったからです。

お守りを買ってポケットに入れ、賽銭箱の前に立ちました。
両脇で次々と、誰かがお金を投げ入れて手を合わせます。
わたしはじっと本殿を見つめながら、しばらく突っ立っていました。
結局願い事をすることなく、わたしは踵を返しました。

綺麗な振り袖を着た女の子が、両親に手を引かれて歩いてきました。
仲睦まじい親子連れとすれ違って、わたしはひどい疲れを覚えました。
よろよろと、境内の隅の石柵に腰を下ろして休憩しました。
398  だれ子ちゃん?  2002/01/24(Thu) 14:14
顔を真っ直ぐ前に向けていると、涙がぽろぽろとこぼれ落ちました。
どうして涙が出てくるんだろう、と人ごとのように不思議に思いました。
目の前を通り過ぎる人影が、不意に立ち止まりました。

「××さん?」

わたしはハッとして涙を拭い、顔を背けました。

「どうしたの?」

R君の声でした。

「……なんでもない」

「そ、そう? 明けましておめでとう」

「明けましておめでとう」

「初詣?」

わたしはうなずきました。
向こうから、女の人の声がしました。

「R、どうしたの?」

「いいから、先に行ってて!」

「お母さん?」

「うん。××さんの家の人は?」

「わたしひとり」

R君は落ち着きをなくして、あたふたしました。

「……ちょっと、ここで待ってて」

R君はどこかに駆けて行きました。
わたしがぼうっとしていると、R君が紙コップを持って歩いて来ました。

「これ、あっちで配ってた。甘酒。あったまるよ」

「ありがとう」

甘酒を飲むと、冷えていた体が温まりました。

「R君。どうして、優しくしてくれるの?」

この時のわたしには、自分が誰かの好意に値するとは想像もできませんでした。
399  だれ子ちゃん?  2002/01/24(Thu) 14:15
「…………」

R君は、露骨にわたしの眼差しを避けて、視線を泳がせました。
なにかとてもまずいことを聞いてしまったのだ、わたしはと思いました。
わたしは立ち上がって言いました。

「わたし、帰る」

「あっ……そうだ、××さん、家に来ない?」

わたしは小首を傾げました。

「なぜ?」

「あのさ、おせち料理があるよ」

わたしが痩せているので、満足に食事を与えられていないように見えるのか、
と思いました。

「いい。お塩の入った料理は食べられないし、
 冷蔵庫に買い置きがあるから。自分で料理できる」

「そ、そう?」

「……さよなら」

「家まで送るよ」

涙を見られたので、同情されているのだろうと思いました。
それがなんだか、とても嫌でした。

「……R君はまだ、お参りしてないでしょ?
 今夜は人通りも多いし、危なくないと思う」

「う、うん……じゃ、また新学期に」

「また」
400  だれ子ちゃん?  2002/01/24(Thu) 14:16
R君と別れて、夜道をひとり歩きました。
コンビニのゴミ箱に、紙コップを捨てました。
ポケットに手を突っ込むと、お守りが指に当たりました。

お兄ちゃん……お兄ちゃん……お兄ちゃん……。
Sさんが居ても良いから、兄としてだけでも良いから、
そばにいて欲しいと思いました。

家に帰ってすぐ、お兄ちゃんの部屋に忍び込みました。
服を脱いで、お兄ちゃんの匂いが消えたベッドに潜り込み、丸くなりました。
冷えた布団が暖まるまで、寝付くことはできませんでした。

401  だれ子ちゃん?  2002/01/24(Thu) 14:17
朝早く、目が覚めました。なにか、音がしています。
頭がはっきりしてきて、電話機が鳴っているのだとわかりました。
ベッドを飛び出して、階段を駆け下りました。

「もしもし……?」

「○○、明けましておめでとう」

「お兄ちゃん? 明けましておめでとう」

「寝てたのか?」

「うん……いま、起きたところ」

「悪い。起こしちゃったか。
 声が変だけど、風邪引いてないだろうな?」

「うん、だいじょうぶ。お兄ちゃんは?」

「へーきへーき。俺のコトは心配ないって」

「初詣行った?」

「ああ、ついでに除夜の鐘も撞いてきたぞ」

「ホント? 凄い。誰と行ったの?」

「友達大勢とさ……○○、お前は、ひとりで行ったのか?」

お兄ちゃんの声が、優しくなりました。

「うん。神社で、R君と会ったけど」

「なにぃ? 約束してたのか?」

「違う。偶然」

「……まあ……いいさ。友達になれるかもしれないじゃないか」

わたしは、はあはあと息をつきました。胸が苦しくなっていました。

「……友達? わたし、上手くしゃべれないから、無理だと思う。
 やっぱり……お兄ちゃんのほうが良い」

「○○……」

「ごめんなさい。わがまま言って。
 お兄ちゃんはそっちで頑張って。わたしも、頑張るから」

「ああ……俺も、ホントは帰りたい。
 でも今は、それぞれ頑張ろう、な?」

「うん。そうだ、お守り貰ってきた。すぐに送るね」

「ああ、ありがと」

電話が終わって、わたしはしばらくそのままぼうっとしていました。
声を聞いただけで、こんなに体が暖かくなって、恋しさが募る。
お兄ちゃんは、なんて不思議な力を持っているんだろう、と思いました。
402  だれ子ちゃん?  2002/01/24(Thu) 14:18
新学期が始まりました。小学校最後の3学期です。
わたしは、絶対に風邪を引かないように、疲れないようにと、
それを何より優先しました。

風邪を引いたら、また入院することになる可能性が高かったからです。
大事な時期に、お兄ちゃんに心配を掛けることだけは避けなければなりません。

もともとのんびりしていた喋り方も、立ち居振る舞いも、呼吸さえ、
意識してもっとゆっくりさせました。

アルバム委員として、卒業文集を制作する予定がありました。
全員が書いた作文の原稿を、職員室の古いワープロに打ち込んで、
謄写版印刷の原版を作り、印刷、製本する仕事です。

わたしは昼休みや放課後に、こつこつと自分の担当の分を入力しました。
ワープロの操作に慣れていなかったので、ずいぶん時間が掛かりました。

ある日の放課後、わたしとR君を含めた4人が、放課後に残って、
職員室の隣の印刷室で、印刷と製本をすることになりました。
手分けして作業すれば、そんなに時間はかからないはずでした。

403  だれ子ちゃん?  2002/01/24(Thu) 14:19
まず、打ち込んだ文書をフロッピーから読み出して印字します。
綺麗に印字した紙の余白に、カット集から適当なイラストをコピーして
貼り付け、謄写版印刷機にセットして製版し、上質紙に印刷します。

印刷機は、製版から印刷まで自動化されているので、
インクや紙が切れたり、紙詰まりを起こさない限り、手は汚れません。
全部印刷し終わったら、二つ折りにして表紙を付け、ホチキスで
綴じればおしまいです。

トラブルは、最後の1枚を印字する時に起こりました。
R君が、フロッピーから呼び出すはずの文書を、どこをどう間違ったのか、
消してしまったのです。

見開きに収まる4人分の原稿を、もう一度入力し直さなければなりません。
予定の時間より遅くなることが確実になって、アルバム委員2人の顔が、
露骨にしかめられました。

「俺、塾があるんだ。R、お前の責任だから、残ってちゃんとやっとけよ」

「わたしも」

2人は、そう言い残して帰ってしまいました。
狭い印刷室に、わたしとR君の2人きりになりました。

R君の顔を見ると、恥ずかしさのせいか真っ赤になって、泣き出しそうです。
わたしは、顔を伏せたままのR君に顔を寄せ、囁きかけました。

「R君。じっとしてないで、しましょ」

R君が顔を上げました。

「え? ××さん、手伝ってくれるの?」

「わたしもアルバム委員よ。
 それに、もともとR君に手伝ってもらってるのはわたし。
 2人でやれば、それだけ早く終わるでしょ?」

「あ、あ、ありがとう」

R君は、本当に泣き出してしまいました。
わたしは何と言っていいかわからず、とりあえずハンカチを渡しました。
404  だれ子ちゃん?  2002/01/24(Thu) 14:21
しばらくしてR君が落ち着いてから、交替しながら原稿を打ち込みました。
手の空いているほうが、肩越しに画面を覗き、誤字をチェックします。
前に同じ原稿を入力して要領を掴んでいたので、時間を短縮できました。

印字してしまうと、それから印刷を終えるまではすぐでした。
一番時間が掛かったのは、紙を二つ折りにしてホチキスで綴じる作業です。

わたしはうっかりして、紙の縁で左手の人差し指を切ってしまいました。
さっくり切れたので、痛みはなかったのですが、血が盛り上がってきました。

「××さん、だいじょうぶ!?」

血が滴らないように、わたしは指を口に含み、鞄からポーチを取り出しました。
ポーチの中には、針と糸とハサミ、薬、バンドエイドが入っています。

「R君。悪いけど、絆創膏を指に巻いてくれない?」

ポーチを渡すと、R君はバンドエイドを取り出し、傷口に巻いてくれました。

製本が終わって、文集を職員室の担任の机に載せ、廊下に出ました。
なんとか、下校時刻までに終わらせることができました。

405  だれ子ちゃん?  2002/01/24(Thu) 14:21
わたしがコートを着てマフラーを巻いていると、
R君が珍しく話しかけてきました。

「もうすぐ、卒業式だね」

「そうね」

「中学生になったら、僕らも変わるのかなあ?」

「……なってみないと、わからないと思う」

「それもそうだね」

卒業すること自体に、特別な感慨はありませんでした。
中学生になるというのがどういうことか、まだ実感が湧きません。
それよりも、春休みになってお兄ちゃんが帰省することのほうが、重要でした。

406  だれ子ちゃん?  2002/01/24(Thu) 14:22
卒業式は、体育館が寒くて、椅子にじっと座っていると凍えそうでした。
ひとりひとりに、校長先生から卒業証書が手渡されました。
わたしは、ああ、今日で最後なんだなあ、と人ごとのように思いながら、
順番を待ちました。

体育館を出るとき、R君に呼び止められました。

「××さん……」

「なに?」

「放課後、校舎裏の木の下に来て」

R君はそれだけ口にして、早足で立ち去りました。

教室に戻って、最後のホームルームが始まりました。
担任の先生のお話に、涙ぐむ女子も居ました。

わたしは、R君がわざわざわたしを呼び出す理由を考えました。
今思うと信じられない話ですが、自分に自信を持てなかった当時のわたしは、
R君の気持ちにまったく見当が付きませんでした。

ホームルームが終わって、教室では別れを惜しむ人の輪がいくつも出来ました。
どうせ春休みが終われば中学で再会するのに、何がそんなに悲しいのだろう、
とわたしは思いました。

見回すと、R君の姿はすでに教室から消えていました。
女子に取り囲まれた担任に、遠くから会釈して、わたしはひとり教室を出ました。

校舎の裏には、植樹した細い木とは別に、一抱えほどもある大木が生えています。
その下に、R君が立っていました。

わたしは真っ直ぐ歩み寄り、手を伸ばせば届く距離まで近づきました。
R君の目を覗き込んで、わたしは尋ねました。

「なぁに?」

R君は棒でも呑んだかのように硬直して、口をぱくぱくさせました。
そのまま、沈黙の時が流れました。
不審さはますます募りましたが、真剣な様子のR君を急かす気にもならず、
わたしはじっと待ちました。

数分間同じ体勢を続けた挙げ句、ようやくR君が口を開きました。

「ぼぼぼぼくは……」
407  だれ子ちゃん?  2002/01/24(Thu) 14:23
その時、いきなり後ろから声が掛かりました。

「あ〜る〜、何やってんだぁ? そんなトコで」

クラスメイトの男子の声でした。
R君は目をきょろきょろさせてから、わたしに合図するように右手を軽く挙げ、
走り去りました。

わけがわからずその場に取り残されたわたしは、
R君がクラスメイトの男子と肩を並べて、裏門から出ていくのを見送りました。

いったい今のは何だったんだろう……?
わたしは疑問に首を傾げ傾げ帰途につきました。

春休みに入っても、R君の態度の不可解さは、
喉と胃のあいだに引っかかった食べ物のように、気になっていました。

手紙を書いてお兄ちゃんに相談しようかとも思いましたが、
やっぱりお兄ちゃんが帰ってきてから話そう、と考え直しました。

それに、休みのあいだにR君と学校で会うことは無いので、
大事な用件なら、R君から電話が掛かってくるだろう、と思いました。

数日経った夜、電話機が呼び出し音を立てました。
わたしは、やっぱり掛かってきた、と思いました。

「もしもし、R君?」

「…………俺だ」

電話してきたのは、R君ではなくてお兄ちゃんでした。
お兄ちゃんから電話が掛かってくる可能性を失念していたことに、
わたしはあわてました。

408  だれ子ちゃん?  2002/01/24(Thu) 14:24
「あ、お兄ちゃん?
 ごっごめんなさい。今日はずっと、R君のこと考えてたから……」

「なんだとぉ? ……お前、R君と付き合ってたのか?」

「えっ? 違うよ。どうして?」

「R君からよく電話掛かってくるのか?」

「まだ1回しか掛かってきてない。クリスマスイブの晩だけ」

「……どんな話したんだ?」

「……う〜ん……何も用事が無かったみたいだったから、
 別に話はしてない……」

「ん……まぁいい。それより明日そっちに帰るから。
 夜7時には家に居てくれ」

「うん、わかった。晩ご飯作って待ってる。
 R君のことで、お兄ちゃんに相談したいと思ってたの」

「そうか……その話は明日な。
 じゃ、今日はおやすみ」

「おやすみなさい」

お兄ちゃんにしては、いやに素っ気ない電話でした。
お兄ちゃんでも機嫌が悪い時はあるんだ、と思いました。

409  だれ子ちゃん?  2002/01/24(Thu) 14:25
その翌日、わたしは時間を掛けてカレーを煮込みました。
午後7時になると、待ちきれなくて、外に出てうろうろしました。

玄関先で行ったり来たりしていると、足が疲れてきました。
お兄ちゃんの悪癖を、わたしはまだ理解していませんでした。
お兄ちゃんは、待ち合わせの時間にルーズだったのです。

遅いなぁ、と意気消沈しかけたところに、声が掛かりました。

「○○! どうしたんだ? こんなとこで」

わたしは振り向いて、はしゃいだ声を上げました。

「お兄ちゃん! おかえりなさい。
 待ちきれなかったの」

「ん、ただいま。
 ……髪、切ったんだな」

「うん。変、かな?」

「いんや、可愛いじゃん。
 前より短くなって、首が細く見える」

お兄ちゃんは右手を伸ばして、わたしのうなじをさわさわしました。

「んは」

わたしがおかしな声を上げたので、お兄ちゃんはあわてて手を引っ込めました。
わたしは、首が弱いのです。

「ま……こんなところで立ち話しててもしょうがない。
 早く中に入ろ」
410  だれ子ちゃん?  2002/01/24(Thu) 14:25
お兄ちゃんと向かい合って食卓に着き、カレーライスを食べました。
食べているときは、あまり会話が弾みませんでした。

食後の紅茶を淹れて、お兄ちゃんの前にティーカップを置くと、
話を始める雰囲気になりました。

「それで……相談っていうのはなんだ?」

「うん……R君がなに考えてるのか、よくわからなくて」

「なんでお前が、そんなこと気にするんだ?」

そこでお兄ちゃんに、卒業式の後の一件を話しました。

「あの裏庭の木の下に……呼び出されたのか?」

「うん」

「うんって……」

お兄ちゃんは、なにか珍しい動物でも見るような目で、わたしを見ました。

「○○、ホントに、見当も付かないのか?」

「うん」

「はあああああ……」

お兄ちゃんは、長いため息をつきました。

411  だれ子ちゃん?  2002/01/25(Fri) 12:26
「お前なぁ……裏庭の木の伝説、聞いたことないのか?」

疲れ切ったようなお兄ちゃんの声に、わたしは不安になってきました。
わたしには、何か重大な知識の欠落があるようです。

「わたし、友達居ないから、噂話したことない」

わたしが縮こまると、お兄ちゃんが慌てたように言いました。

「そっか、それじゃ仕方ないな。
 しかし……肝心な時に何も言えないんじゃ、
 R君はどうしようもないぞ。
 そんな情けないヤツのことなんか気にすんな!」

わたしは驚きました。お兄ちゃんが人の悪口を言うなんて……。

「……お兄ちゃん、R君と話したことないでしょ?
 どうして、知らない人に、そんな酷いこと言えるの?」

「…………ごめん」

お兄ちゃんは口をつぐみました。

「R君は、喋らないけど、優しいと思う。
 わたしが泣いてる時、慰めてくれたし」

「えっ? お前、誰に泣かされたんだ? いじめられてるのか?」

お兄ちゃんの視線が鋭くなったので、今度はわたしが慌てました。

「違う。初詣の時、仲の良い親子見てたら、
 なんだかわからないけど、涙が出てきちゃって……」

両腕が伸びてきて、脇の下を掴まれ、ぐっと引き寄せられました。
お兄ちゃんの膝に乗せられて、抱き締められました。
すごい力で、胸がつぶれそうでした。

412  だれ子ちゃん?  2002/01/25(Fri) 12:27
「お兄ちゃん……痛い」

お兄ちゃんの腕の力が緩みました。
その代わりに、お兄ちゃんの首に腕を回して、かじりつきました。
お兄ちゃんの手のひらが、ゆっくりわたしの背中を撫でました。

「お前には、兄ちゃんが居るだろ?」

「うん」

わたしはお兄ちゃんの首に顔を埋め、うなずきました。

「いつも、ひとりで泣いてたのか?」

「いつもは泣かない。ホントに、たまにだよ」

「今、泣いても良いんだぞ」

「今は、お兄ちゃんが居るから、泣きたくならない」

お兄ちゃんに抱かれて、体温を感じて、髪や背中を撫でられていると、
体中の緊張が抜け落ちていくようでした。
熱に浮かされたように、自然に声が出てきました。

「お兄ちゃん……」

「ん?」

「大好き」

「うん。俺も、いつだって大好きだ」

わたしは、たった今、ここで死んでも良い、と思いました。
全身が熱くなって、自分の心臓の音が耳元で大きく響きました。

413  だれ子ちゃん?  2002/01/25(Fri) 12:27
R君への疑問のことは、すっかり頭から消えていました。
わたしは、赤ん坊のように、お兄ちゃんの首筋に吸い付きました。

「ぐごがはは」

お兄ちゃんの腕がわたしの肩を掴んで、体を遠ざけました。

「んはははそれはダメだ。くすぐったい。
 ……なんか今日の○○は、猫みたいだな」

身を引き離されたわたしが体を硬くしていると、
お兄ちゃんの指が顎の下をくすぐりました。

わたしがたまらず首を上げると、お兄ちゃんの顔がゆっくり近づいて来ました。
わたしがお兄ちゃんの瞳を見つめ返すと、こう言われました。

「目をつぶれ」

わたしは目をつぶって、待ちました。
いきなり、鼻の頭を、ぬるりとした感触が通り過ぎました。
驚いて目を開けると、お兄ちゃんが爆笑しました。

「あはははははは! お返しだ」

お兄ちゃんの唾液の匂いがして、わたしは顔をしかめました。

「くさい」

「お前は猫なんだろ? だったら『にゃあ』と言え」

「……にゃあ」

二人とも、少し頭がおかしくなっていたようです。

414  だれ子ちゃん?  2002/01/25(Fri) 12:28
「ほれほれ」

お兄ちゃんが、右手の人差し指を、わたしの口元に持ってきました。
わたしは、その指を舐めたり、吸ったり、歯で軽くがじがじしました。

「あははは、可愛いな。ホントに猫みたいだ」

お兄ちゃんは指を抜いて、わたしの背中と膝の裏に腕を回しました。
この時、お兄ちゃんはわたしより30センチ以上背が高く、
体重もわたしの2倍以上ありました。

わたしはお兄ちゃんに抱っこされて、そのままお兄ちゃんの部屋に
運ばれました。

お兄ちゃんはわたしを下ろして、ワイシャツとズボンと靴下を脱ぎ、
ベッドに上がりました。
お兄ちゃんはトランクスだけで、アンダーシャツは着ていませんでした。

「おいで」

「にゃあ」

ワンピースと靴下を脱ぎ捨てて、わたしもベッドに上がりました。
まだブラを着けていなかったので、アンダーシャツとショーツだけでした。
わたしはお兄ちゃんが伸ばした右腕に頭を乗せ、丸くなりました。

415  だれ子ちゃん?  2002/01/26(Sat) 23:02
長文コピペ吊るしAGE
416  だれ子ちゃん?  2002/01/26(Sat) 23:23
というよりとんでもない根性だ!
それとも簡単にする方法とかあるの?
417  だれ子ちゃん?  2002/01/26(Sat) 23:34
つーかこれ例の、兄貴っ子のコピペっすね。なぜガンダム掲示板に(w
418  だれ子ちゃん?  2002/01/26(Sat) 23:45
ジミーを返せ!ジミーを返せ!
419  だれ子ちゃん?  2002/01/27(Sun) 02:14
ご苦労だが続きを頼む
420  ネタバレ中尉  2002/01/27(Sun) 02:34
Rのその後が非常に気になるなー。
某も続投希望であります。
421  だれ子ちゃん?  2002/01/27(Sun) 11:04
全部コピられたら新スレが立つぞ(w 気になる奴はここいけ
tp://whoiskimura.tripod.co.jp/brother/
422  だれ子ちゃん?  2002/01/27(Sun) 14:09
刑法第175条 (わいせつ物頒布等)
わいせつな文書、図画その他の物を頒布し、
販売し、又は公然と陳列した者は、
二年以下の懲役又は二百五十万円以下の罰金若しくは科料に処する。
販充の目的でこれらの物を所持した者も、同様とする。
423  だれ子ちゃん?  2002/01/27(Sun) 14:51
>422
で?
君の知識はすごいね、とでも言って欲しいのか?
とりあえず逝ってよし!!
424  ネタバレ中尉  2002/01/28(Mon) 23:41
>>422
言いたい事、分かりました(汗
でも、全部読んでしまったあとなんです(滝汗
425  ネタバレ中尉  2002/01/30(Wed) 01:29
さて、このスレの趣旨が変わってきたところで(笑)。
某も便乗してちょっとやってみたりします。
皆さん、巡回中に見かけても上げないでくださいね。
恥ずかしいですから(爆)。
では、物語の始まり始まり〜。

426  ネタバレ中尉  2002/01/30(Wed) 01:29
〜アッガイ戦記〜

南米ジャブロー。
この場所は元来、アッガイ達が穏便に生活を送っていた地であった。
しかし、彼らの平穏な日常は地球連邦軍によって破壊されるのである。
連邦軍はジャブローに自らの根拠地造営を開始したのだ。
圧倒的な戦力を以ってアッガイ達は蹴散らされ、ジャブロー地下ですら安息の地ではなくなった。
アッガイを駆逐した連邦軍は悠々と基地建設を推し進め、
もはやアッガイは地下の片隅に僅かに生き延びるのみとなってしまったのだ。

もちろん、このような現状に満足している者など一人としていなかった。
それどころか、彼らは機を待ち連邦軍への反撃を狙ってすらいたのだ。
連邦軍の厳重な警戒の下、計画は極秘のうちに進められた。
連邦に気づかれぬまま、計画は着々と進行していたかのように思われたのだが……。
427  ネタバレ中尉  2002/01/30(Wed) 01:30
「そこまでだ、アッガイども」

 けたたましい破壊音と共に戸が蹴破られた。
 ドアを蹴り飛ばした陸戦型ガンダムはマシンガンを構え、
 室内で反乱計画を話し合っていたアッガイの面々を威嚇する。
 アッガイに不穏な動きがあれば、後ろに控えている陸戦型ジムともどもマシンガンによる斉射を行うつもりだ。

「くそ…どこで我らの計画を……!」

「ふん」

 苦虫を潰した様に喋るアッガイを一瞥し、
 陸ガンはつまらなそうに鼻を鳴らす。

「連邦の諜報能力を甘く見ないことだな。
 …さて、大人しく連行されてもらおうか」

「残念ながら、我々もそこまでお人好しではない」

「そうだ、たかだか2機のMSで何ができると言うのだ」

「ああ。こちらにはジャブローに住むアッガイが全員揃っているのだぞ?」

 まったくその通りであった。
 計画もいよいよ詰めの段階へと入ったため、アッガイ達は全員を招集して最終確認を行っているところだったのだ。
 アッガイ達には数で圧倒的不利な立場にいながら強硬な態度に出る陸ガンの思考が理解できない。

「全員が揃っている?
 ……ははは、それがどうした。だから何だというのだ」
428  ネタバレ中尉  2002/01/30(Wed) 01:30
 陸ガンは突然笑い出した。
 その行動が一人のアッガイを激昂させ、彼は怒鳴ったように叫んだ。

「貴様、何が可笑し……」

「先程、連邦の諜報能力を甘く見るなと言った!」

 アッガイの言葉を遮り、今度は陸ガンが怒鳴る。

「お前達が今日、この時間に、ここで全員を集めて下らん会合をしていることを、
 連邦が把握していないとでも思ったのか?
 ……ついでに言えば、計画の内容も筒抜けだ」

「な、何だと……」

「そんな馬鹿な!」

「…! すると、ここはもう危険……」

 うろたえるアッガイ達を尻目に、陸ガンはビームサーベルを抜く。
 そしていきなり壁に切りつけ、破壊し始めた。

 衝撃と騒音が空間を支配する。
 その後にはもうもうと埃が舞い上がる。
 茶色の煙に視界を封じられたアッガイ達(この点、陸ガンも相違ないが)。
 その煙幕が収まった時、彼は凍りついた。

 彼らのモノアイは、自らの前方に位置するミサイルランチャーを装備した陸ガンを捉えていたのだ。
 先程の陸ガンはビームサーベルを高く振り上げていた。

 そして、陸ガンはサーベルを肩の高さまで振り下ろすと同時に冷たく言い放った。

「撃て」
429  ネタバレ中尉  2002/01/30(Wed) 01:31
「目標、完全に沈黙しました」

「ああ」

 すべてのアッガイがスクラップと化したことを確認した陸ジムが陸ガンに告げた。
 陸ガンは惨劇の余韻の残る空間を凝視したまま、面倒そうに応答した。

(あっけなかったな)

 陸ガンは心の内で呟いた。

(しかし…本当にこれで終わったのだろうか?
 あまりに、あっけなさ過ぎる……)

「小隊長」

 陸ジムが困ったように陸ガンを呼んだ。
 彼は自分が小隊の指揮を少しの間放棄していたことにようやく気付いた。

「現時点を以って作戦を終了する。全機帰還せよ」

 そう手短に宣言すると、陸ジムらはほっとしたように軽い足取りで基地へ戻って行く。
 陸ガンもその後に続こうとしたが、一度足を止めた。

「……」

 惨劇の余韻の残る空間。
 その向こう側に何か釈然としないものを感じていた。
 まだ終わっていない。
 そんな気がしてならないのだ。

「…いや、考えすぎだな」

 首を左右に軽く振り、頭のもやもやを振り払う。
 その後、彼はようやく基地へと足を向けたのだった。

(続く?)
430  ネタバレ中尉  2002/01/31(Thu) 22:52
「…! すると、ここはもう危険……」

 反乱の中心となって計画を進めていた一人のアッガイは、ギリッと歯軋りをしながら呟いた。
 絶対の自信を持って進めた彼の計画が破綻した瞬間である。

 陸ガンの言葉から察するに、この周囲に他のMSが存在していることは確実と言えた。
 ならば、その状況をどのようにして打開すればよいのか。
 彼は思考を巡らせていた。

 ところが、直後に彼はその必要性から解き放たれることとなる。
 陸ガンがサーベルを抜き、壁を破壊し始めたからである。
 それを見た彼は即座に行動を起こした。
 180°回転して彼の背後にいたアッガイ2人を確認する。
 2人は彼の子供であった。
 すばやく2人に近づいた彼は、手短に用件を伝えた。

「ここはもう危険だ。裏口から脱出しろ」

 その言葉にただ黙って頷いたのは2人のうち、息子の方だった。
 たいへん聡明な息子で、この状況を自分なりに把握しているように見受けられる。
 一方、彼の娘は突然の出来事に戸惑いを覚えているようだ。
 何か言おうとしているが、口をパクパクさせるだけで空気を振動させるにはいたっていない。

 彼は娘に諭すように静かに伝えた。

「心配するな、我が娘よ。
 何があっても兄がお前を助けてくれる。
 何も恐れることはないのだよ」

「う…うん、わかった……」

 娘は自分の知らぬものに怯えながらも父の言葉を受容した。
 状況の理解できない娘は、父の言うことを信じて恐怖を紛らわす以外にできることはなかったのだ。
431  ネタバレ中尉  2002/01/31(Thu) 22:53
「お父さんは来ないの?」

 娘が不思議そうに尋ねる。
 彼は努めて明るい調子で答えた。
 もちろん、これから言わんとしている内容は真実ではない。

「後から行く。お前達は先に行っていなさい。
 大丈夫だ、すぐに追いつく。そんな不安がらなくてもいい」

 そう言い聞かすと、彼は息子をちらりと見やった。
 息子は押し黙ったまま彼を凝視している。
 彼が自らの命を賭して自分たちを逃がそうとしていることを、息子は言外に察知していたのだ。
 やはり、聡明なる息子であった。

「さ、早く行くがいい。もう時間がなさそうだ」

 背後で断続的に聞こえていた破壊音がいつの間にか止んでいる。
 陸ガンが壁を崩しきったようだ。
 その言葉に促されて二人は裏口へ向かい、そこから外へと脱出した。

 脱出の直前、息子は一度立ち止まって父を振り返った。
 そして再び父をじっと見つめる。

父は何も言わずに頷いた。

 息子は何も言わずに頷き返した。

 息子は何も言わずに踵を返した。

 父は何も言わずに子供たちへ背を向けた。



 それが永訣の刻だった。



(続くかも)
432  だれ子たん?  2002/02/02(Sat) 17:53
fitter happier more productive
comfortable
not drinking too much
regular exercise at the gym (3 days a week)
getting on better with your associate employee contemporaries
at ease
eating well (no more microwave dinners and saturated fats)
a patient better driver
a safer car (baby smiling in back seat)
sleeping well (no bad dreams)
no paranoia
careful to all animals (never washing spiders down the plughole)
keep in contact with old friends (enjoy a drink now and then)
will frequently check credit at (moral) bank (hole in wall)
favours for favours
fond but not in love
charity standing orders
on sundays ring road supermarket
(no killing moths or putting boiling water on the ants)
car wash (also on sundays)
no longer afraid of the dark
or midday shadows
nothing so ridiculously teenage and desperate
nothing so childish
at a better pace
slower and more calculated
no chance of escape
now self-employed
oncerned (but powerless)
an empowered & informed member of society (pragmatism not idealism)
will not cry in public
less chance of illness
tyres that grip in the wet (shot of baby strapped in back seat)
a good memory
still cries at a good film
still kisses with salvia
no longer empty and frantic
like a cat
tied to a stick
that s driven into
frozen winter shit (the ability to lough at weakness)
calm
fitter,healtier and more productive
a pig
in a cage
on antibiotics

433  だれ子たん?  2002/02/03(Sun) 01:54
霧亥
塊都
乾人
階層
生電社
樹管帯
駆除系
中性種
統治局
探索者
建設者
重力炉
防磁繭
磁縛線
時空隙
集積蔵
造換塔
廃棄階層
珪素生命
成長区域
脳髄技師
超構造体
塗布防電
基底現実
東亜重工
電基漁師
言語基体
中央AI
端末遺伝子
代理構成体
メンサーブ
第十三空洞
セーフガード
ネットスフィア
非公式超構造体
ネット端末遺伝子
臨時セーフガード
侵入対抗電子空間
第4系体クローニング
重力子放射線射出装置
434  だれ子ちゃん?  2002/03/18(Mon) 15:11
http://members.tripod.co.jp/g_w/t/map.jpg
今回の話は上の画像を参考にしながらだと判りやすいと思います。

登場人物
俺:平部員兼カメラマン
1:同輩・部長・わるいひと
2:同輩・副部長より偉い・悪い人
3:同輩・副部長・バカにされてる
4:同輩・平部員・Cが嫌い
5:同輩・平部員
6:後輩・平部員
7:後輩・平部員
8:クラスメート
9:クラスメート
435  だれ子ちゃん?  2002/03/18(Mon) 15:11
      06/26 16:14 入り口付近
誰か:「おい」
俺:「何だ?」
誰か:「こんな所開けていいのかよ?」
俺:「ばれなきゃ問題は無い」
誰か:「……」
俺:「開いた、開いたぞ、『ピラミッド』の入り口が」
http://members.tripod.co.jp/g_w/t/001.JPG
誰か:「ピラミッド?」
俺:「ああ、化学部ではあんまり酷い事したヤツは此処に閉じ込められるんだ」
誰か:「で、何でピラミッドよ?」
俺:「ああ、そのことを『ツタンカーメンプロジェクト」って呼んでるから」
誰か:「ふーん」
俺:「うっわー、こりゃ凄い」
http://members.tripod.co.jp/g_w/t/002.JPG
http://members.tripod.co.jp/g_w/t/003.JPG
誰か:「確かに…」
俺:「懐中電灯貸してやるから入ってこない?」
誰か:「嫌だね」
俺:「百円やるから」
誰か:「嫌だって」
俺:「残念だなー」
誰か:「さて、そろそろ行かないか?」
俺:「ああ」

その後、2人の罪人が冥府の扉を叩くことになった。
一人は20分、もう一人は80分も入っていた。
そして、皆はついに中を調査することを決意した。

436  だれ子ちゃん?  2002/03/18(Mon) 15:12
1:「それじゃ、俺らが上を見張ってるから」
5:「安心して行ってきてくれ」
2:「ちゃんと写真とってこいよ」
俺:「あんたらが言うと信用できんよ」
9:「おい、行くぞ」
俺:「…ああ、わかった」
1:「いってらっさーい」
俺:「…閉じ込めたら酷いからな」

俺は初めて地獄に脚をおろした。(地図のA)
今回のメンバーは4、6、7、8、9、そして俺の六人。
先に行っていた4などは早速Dへ行こうとしていた。
8:「こんなところに水がたまってる」(地図のB)
俺:「クツまであるよ、悲惨だなあ」
http://members.tripod.co.jp/g_w/t/b1.JPG
1:「先生が来た! 早くもぐれ!」
俺:「…ッ」
蓋は閉められ、俺達は暗闇に呑まれる。
6:「何も見えないよ」
7:「先輩!ライト、ライト」
俺:「ぽちっとな」
4:「ついでに俺のも」
8:「さて、行くぞ」
天井までの高さが1m程度しかない。
こんな窮屈な空間は俺は好きではなかった。
すこしは改善されるかも知れないのでDへ行くため70cm×70cm程度の穴をくぐる。
8:「おお」
6:「広いですね」
俺:「天井はあいかわらずだが…」



437  だれ子ちゃん?  2002/03/18(Mon) 15:12
少し態勢が悪いので立て直す。
頭が天井につくとひやりとした感覚が。
俺:「って水!?」
天井には多量の水滴が付着していた。
http://members.tripod.co.jp/g_w/t/d1.JPG
4:「多分、さっき水溜りがあったからじゃないかな」
6:「先に行きましょう」
窮屈な姿勢のまま移動する。
俺:「じゃあこの辺で待ってるから、カメラは返せよ」
俺以外の全員がEに行くことに。
腰もおろせずにライトであたりを照らしていると、地面に何か散らばっている。
http://members.tripod.co.jp/g_w/t/d2.JPG
何かとおもって拾い上げると折れた釘だった。
よくよく見てみるとあたり一面に散らばっている。
http://members.tripod.co.jp/g_w/t/d5.JPG
そして、何故か木の板1枚が落ちていた。
http://members.tripod.co.jp/g_w/t/d6.JPG
何があったのかは知らないが、少し恐かった。



438  だれ子ちゃん?  2002/03/18(Mon) 15:12
しばらくすると全員が戻ってきた。
俺:「むこうは?」
4:「特にこれといっては」
http://members.tripod.co.jp/g_w/t/d3.JPG
http://members.tripod.co.jp/g_w/t/d4.JPG
俺:「そうか」
一息ついていると、何か人の声が聞こえてくる。
9:「はは…まさかな」
よく聞くとそれは1の声だった。
1:「お〜い」
4:「何だ〜?」
1:「先生が来て、暫く空けられなくなる〜」
4:「かまわんよ〜」
Fの方にも行ってみることにした。
4:「なんか靴とかスリッパが散乱してる」
http://members.tripod.co.jp/g_w/t/f1.JPG
7:「靴隠しの巣窟見つけたりって感じですね」
俺:「じゃあ、入れないな」
9:「次回にしようよ」



439  だれ子ちゃん?  2002/03/18(Mon) 15:13
Dの中央付近で記念撮影をして、全員でAにむかって移動した。
俺:「そういえば開けられないとか言ってたよな…」
8:「五分くらい待てばいいんじゃない?」
俺と6と7はC付近の緩やかな傾斜に腰をおろし、8と9はAのあたりでしゃがみ、4はCに座っていた。
俺:「落書きハケーン」
背後の壁に落書きがあった。
http://members.tripod.co.jp/g_w/t/raku.JPG
待っている時、ふと8がつぶやいた。
8:「一人じゃ恐いんだろうなあ」
俺:「人といるありがたみを感じるよ」
4:「俺は80分一人で入ってましたが何か?」

結局出れたのは10分後だった。

以上長文スマソ



440  『不幸の手紙』  2002/03/20(Wed) 15:59
 ちょっと…いや、かなり足どりが重い…
 なにせ…ついさっき、彼から
「別れよう」
 っていわれて…理由を聞いた瞬間、思わず彼を平手打ちしちゃったからなぁ…

 だって、私が悪い訳じゃないもん。彼が勝手に新しい彼女を作ったせいなんだよ。
 だから………だめだぁ…引きずってるよぉ。


 自宅へ帰ってきて、なにげなくポストを見ると…一通の封筒がはいってる、
 宛名は…『山科 美奈子 様』あ、私宛だ。私に手紙が届くなんてめずらしい。だって、この頃は友達とのやりとりはもっぱらメールだから。
 どこかのアヤシイお店のダイレクトメールかとも思ったけど、どうやらそれとも違うみたい。どこにも送り主の名前が記載されていない。


 
441  『不幸の手紙』  2002/03/20(Wed) 16:00



 で…封筒を持って自分の部屋へと戻る。
 ハサミで封を開ける。と、中から便せんが1枚出てきた。
 このぐらいなら、メールですぐなのに…ホントに一体誰だろう。

 便せんに目を落とす。
 三つ折りにされたその便せんを、まず一面だけ開く。
 そこには、
『これは、不幸の手紙です』
 ………なるほど………

 最初の一行で、全てを悟る。
 これ以上開なくても、書いてあることはだいたいわかる。多分、
「数日以内に、同じ文面の手紙を、何人かに送りなさい。
 そうしなければ、あなたに不幸が訪れます」
 って、所だろうなぁ…
442  『不幸の手紙』  2002/03/20(Wed) 16:00
 不幸の手紙なんて一切信じてない。どうせ、誰かの嫌がらせに決まってる。
 大体が、何をもって『不幸』というのかさえわかんないのに。
 今日だって………………もうこれ以上考えるの…やめよ。

 私は…それ以上、読むのをやめて、クシャクシャっと丸めて、ゴミ箱へと投げ込む。
 そして、封筒のことを含めた今日までの事を頭の中からきれいさっぱり忘れるようにする。
 今から私は生まれかわるんだぁ!。



 そして…深夜。
 ネットサーフィンをしていると…メールが届いたことを知らせる受信音が響く。
 誰からだろう?。もし彼のアドレスだったら…いますぐ削除!
 とおもったら…あれ?、件名も相手のアドレスも記載されていない…ウイルスだったらやだな。
 まぁ、私の使ってるのはMAC君だから…大丈夫…だとおもう。

 内容は…
『不幸の手紙はしっかりと読みましょう』
 ………は?………
443  『不幸の手紙』  2002/03/20(Wed) 16:01
 これって………もしかして、今日届いた例の手紙のこと?
 一体どういう事?
 まさか…ストーカーかなにかの類…!?。でも…もしそうだとしたら…
 あの手紙は…まさか…



 ゴミ箱の中から、手紙を探し出して…広げなおす。そして、
 おそるおそる…続きを読む…

『これは、不幸の手紙です

 この本分を読んでから24時間以内に誰かとえっちしなければなりません。
 もししなかった場合、あなたは着々と不幸のどん底へと転げ落ちて行きます。
 最後には・・・命の保証も出来なくなります。

 では・・・がんばってください』
444  『不幸の手紙』  2002/03/20(Wed) 16:01
 えっと………………どう反応していいのか…わかんない。
 頭の中が…まっしろ………
 取り合えす…ストーカーとは違う…のかな?
 でも、これって一体どういう意味?

 ふと、時計が目に入る…針は午前0時を少し回ったところをさしていた。
 もし、この文面通りだとすると…明日の午前0時までにえっちしないと…って事?


 やめやめやめーっ。どうせいたずらだ、こんな物。放っておくに限る。
 私は、今度は手紙を破り捨てて…メールも消去しちゃって…ベッドへと入った。
 いつもより多少早いけど…いいや。いい夢見られれば…。
 おやすみなさーい。
445  『不幸の手紙』  2002/03/20(Wed) 16:02
 夢の中…なんだろうなぁ、ここって。
 いい夢を期待してたのに…これは一体…

 私はベッドの上で大の字になり、両手両足を縛られて、身動きが取れなくなっていた。
 と…そこへ…フードをかぶった女性らしい人が手に何やら重たそうなものを持ってこっちへ近づいてくる。
 フードから、彼女の顔がちらっと見える………間違いない、私から彼を取った彼女だった。
 親友だと思ってた…ネコ(本名は『根岸 涼子』最初と最後を取ってネコ)…実は泥棒ネコだったんだ。

 ネコは…すごみのある顔を見せると、私のお腹の上に重い『何か』を乗せる。
 乗せられたものは、かなり重い上に、毛むくじゃらで、あたたかくて…何かを思い出しそうになるんだけど…なんだったっけ?
 とはいえ、考えられたのもここまで…お腹に乗っている物体は徐々に重くなって行き、私の体をつぶそうかとばかりになってくる。
 本気で苦しくなってきた。これはまさか…不幸の始まり!?
446  『不幸の手紙』  2002/03/20(Wed) 16:03
 …目がさめる…あ、もう朝だ。これだけ寝覚めの悪い朝もひさしぶりだなぁ。
 と、私の布団の上から家で飼っている猫のブッチャー君がまだ寝たりなさそうな顔でこちらを見る。
 ブッチャー君は名前の通り、肥満度200%超。すでにあまり自由に動けなくなってきているうちの飼い猫。
 …って、まさか昨日の夢に出てきた毛むくじゃらな重い物体って…あんたか?
 あんたが、私のベッドの上に乗って寝てたのかーっ!。もしかして、お腹の上に!?
 えーい、重苦しいから降りんかーい!!


 着替えてから、台所へと向かう。と、お母さんが、
「ごめんなさい、寝坊しちゃって朝食作ってないのよ。どこかのお店で、何か買って食べてね」
 …そういって…あっという間に出て行ってしまった。

 うちって両親が共働きだから、しょうがないといえばしょうがないけど…
 かといって、懐が寂しくて現在節約中の私には、外で食べる余裕も無いわけで…しゃーない。冷蔵庫の中にあるありあわせのもので…って。
 ………あのー、綺麗さっぱり無いのは…気のせい…じゃないよね。
 朝食…抜き…ですか………
 さーらに、寝覚めが悪くなった…
447  『不幸の手紙』  2002/03/20(Wed) 16:05
 学校へ向かう途中…立て続けに悪いことが重なる。

 まずは、駅まで自転車なんだけど…パンクしてた。
 電車に乗ると…事故があって、かなり遅れた。
 学校へダッシュで向かっていると…犬のウ○チを踏みそうになった。(あ、踏んではいないからね。ここだけは強調!!)

 これってやっぱり………不幸の始まり…?


 学校でも…

 遅刻…はまぁ、電車が遅れたせいもあり『不慮の事故』ってことで良かったけど…
 その後に続いた…テスト…いきなしやるかぁ!?
 結果は…まだだけど、悲惨なの…目に見えてるなぁ。

 後…全ての不幸が『私を狙ってる』かのような気がするのは…気のせい?
 休み時間…目の前をバレーボールが横切っていった。開けてた窓から飛び込んできたんだけど…誰も窓なんて開けてないのに…
 授業中は…教師の目が…毎時間、狙っているかのように当てられた。
 放課後は…速攻で帰ろうとしているのを、だれかれとなく呼び止めて…たわいもない話につきあわされた。普通の時ならいいんだけど…それにしても、声かけてくるのが多すぎる。まるで私を帰らせないかのよう。

 下校時の出来事は………聞かないで、おねがい。

 地獄の様な一日が…暮れていった。
448  『不幸の手紙』  2002/03/20(Wed) 16:06
 自分の部屋で、頭を抱えてる…

 これは…マジで………不幸へのどん底へと突き落とされているような…そんな感覚。
 まさか…まさかとは思うんだよ。確かにどれをとっても『大した事』じゃあないよ。でも、1日で起こる量としたら…半端じゃない。
 もし…もしこれが…『不幸の手紙』の影響だとしたら………

 やばい…すっごくやばい。
 おもいっきし…やばい。
 だって、えっちしたくても…1人じゃできない。相手がいないと。
 で、その相手は…昨日こっちからふってしまったし。

 見ず知らずの相手?…ぜーーーったいヤダ!。だって、私…初めてなんだから…
 初めての相手は、やっぱり好きな人と…って、少女趣味?
 でも…みんな、そう思ってるよねぇ、ねぇ!
 それに、見ず知らずの人に向かっていきなり『えっちしてください』………これじゃあ単なる変質者だよ。

 え?、えっちは1人でも出来るんじゃないかって?
 ………ええっと…ですね。
 昨日…寝る前に…しました………はい。
 ということで…1人ではだめみたいです。

449  『不幸の手紙』  2002/03/20(Wed) 16:07
 うーん………悩むよぉ。
 今は…夕方の6時…もしあの手紙が事実なら、あと6時間しかない。
 その間に好きな人を作って…なんて絶対無理!
 じゃあ、前の彼氏と…って思っても、こっちからふったのに、まるっきし未練たらたらで…やだなぁ。
 かといって、死にたくはないし。
 かといって、こっちから謝るのは、プライドが…
 すでに、頭の中は空回り状態…


 ………………えーい、決めた!!!
 彼に頼むだけ頼んでみる。あとは…彼の反応次第!
 こんなこと頼める異性って言ったら…結局のところ彼しかいないんだもの。
 考えたって、堂々巡りするだけだものね。

 決まったら、即決・即実行。
 すぐに彼の家へ…っと、その前に…

 いちおう…えっちする(かもしれない)から…
 下着を…交換する………
 別に…今のでもいいんだけど…やっぱり、初めてだから…思い出に残る(かもしれない!)ときぐらいは、これぐらいしてもいいよね。


 結局…家を出たのは6時半を回っていた。
 彼の家までは電車でふた駅、10分で着く…はずだった。

 でも…やっぱし不幸なんだろうなぁ…またもや途中で電車が止まって、彼の家に着いたのは…9時を回っていた。
450  『不幸の手紙』  2002/03/20(Wed) 16:08
 彼の家は…アパートの一室。あ、電気がついてる。って事は…いるんだ。よかったぁ…
 彼は、仕事の都合でちょくちょく帰ってこないことがあったから。もし今日もそうだったら…って思ったけど、
そこまでは不幸にはならなかったらしい。


「ぴんぽーん」
 彼の部屋の呼び鈴を押す…しばらくして、鍵の外れる音がする。
 そして、ドアが開いて、そこには彼が………

 ………え?………

「あれ?、どうしたの美奈ちゃん」
 そこにいたのは…ネコ…私から彼を持っていった張本人。おまけにクラスメート…仲はなぜか良かった。
 ただし、ネコは、彼と私が付き合っていたことを知らないらしい。だから…私は平静を装う。
「ネコこそどうしたの?」
「うん。彼がね、今日は遅くなりそうだから、家で待っててっていったから、待ってるの」
「待ってるって…彼、いつ頃帰ってくるって言ってるの」
「えーっと…午前さまになるって言ってたけど」
 ………………
 そう…きたか………不幸のバカヤロー!


451  『不幸の手紙』  2002/03/20(Wed) 16:09
「でも…美奈ちゃん、どうしてここにきたの?」
「あ…あはは…いや…」
 どう言えばいいんだ!
「あ…あのね…あ、ネコちゃんが新しい彼が出来たって聞いたから、
 いったいどんな人なのかなーなんて思って…悪い人ならちゃんと教えてあげないとね…」
「そうなんだ。やさしいんだね、美奈ちゃんって」
 そういえば…彼女は、疑うことも知らない素直な子なんだ…純粋な・一途な…
 私に比べたら………
「でも、大丈夫だよ。彼、すごくやさしいんだから」
 それは…知ってる。私だって付き合っていたんだから…でも…
「そう…それはよかった」
 としか…答えられない。

「でも、もう夜もかなり遅いよ」
「ちょっと、電車が止まっちゃって。もっとはやく来れるはずだったんだけどね」
「夕食って食べてきた?」
「ううん、まだ」
 食べるのも忘れて、飛び出してきたってのが…本音。
「わたしも、これから食べるところなんだ。一緒にどう?」
「いいの?」
「うん。遅くなるって連絡がある前に作っちゃったから…
 どうしようって思ってたところなんだよ」
452  『不幸の手紙』  2002/03/20(Wed) 16:10
 結局…夕食をご馳走になることに…
「どう…おいしい?」
「う…うん、すっごく美味しい」
 でも…すっごくよく知ってる味付け。
「そう、よかったぁ。これね、彼が教えてくれた味付けなんだよ」
 そして…この味付けを彼に教えたのは…私なんだ。

 このまま…彼を、ネコに奪われるの………いや………
 もう奪われているのかもしれないけど…頭ではわかってる。でも、
 でも…でも………でも………イヤ…


「あ、お茶切れちゃった。
 ちょっと待っててね。すぐに替わり持ってくるから」
 そういって、ネコが立ちあがって、台所へと姿を消す。

 そのとき…私は………
 ネコの飲んでいた湯飲みに…即効性の睡眠薬をいれる…
 ただし、すぐに効き目が切れるように…ほんの少しだけ。

453  『不幸の手紙』  2002/03/20(Wed) 16:11
 これ…本当は、彼に使うかもしれなかった薬…
 家を出る直前に気が付いて、ポケットに放り込んだ。
 もし、彼が『No』といったら…彼にこれを飲ませて…眠らせて………そう思って。
 まさか、ネコに使うなんて…思っても見なかった。でも…
 もう、後戻りは…出来ないんだ。


「おまたせ」
 そういってネコは、私と自分の湯飲みにお茶を入れる。
 そして…ためらうことなく、お茶を飲む。

 5分後…
 私の目の前で、ネコは…安らかな寝息を立てていた。

454  『不幸の手紙』  2002/03/20(Wed) 16:12
 …30分ぐらいたっただろうか…
「う…ううん」
 ネコが…目を覚ます。
「あれ…わたし…いったい………」
「ネコ……目がさめた?」
「わたし…一体………!!??」
 どうやら…眠気からさめて自分の状態がハッキリとわかってきたみたい。

 今…ネコは…彼のベッドの上。
 両手両足をそれぞれ4本のベッドの足に巻きつけた紐で縛られた状態で仰向けになっている。
 もちろん、縛ったのは私。
 そして…彼女は今、下着しか身につけてはいない。

 まるで…私が今日見た夢とまるっきり反対………私がネコを拘束している。
 多分…私の顔も、夢の時のネコのようになってるんだろう。

「美奈ちゃん!。これは一体!?」
 ネコはもがく…が、彼女の力では逃げ出すことなど到底不可能だろう。
 体をよじるだけしかできない。
「ネコが…」
「え?」
「ネコが思い出させるから…いけないんだよ」
「な…なに?」

455  『不幸の手紙』  2002/03/20(Wed) 16:13
「本当は…何も言わずにおくつもりだった…そのほうが、まだ友達でいられるから。
 でも………だめ。
 あなたが…あんな食事を…出してくれるから………」
「美奈…ちゃん?」
「私ね…昨日まで…あなたの彼と…付き合ってたの」
「!?」
「この味って…私が彼に教えたものなの。

 ネコが知らなくて当然だと思う。私も昨日、彼から『別れよう』って言われるまで…気がつかなかったんだから」
「そ…そんな………彼が二股をかけてた…の?」
「でね…相手があなただと知って…私、彼に思いっきり平手打ちをして…それで、きっぱり別れるつもりだった。
 でも…帰ったところにあった、一通の手紙」
「てがみ…?」
「それが…笑っちゃうのよね。『不幸の手紙』なんだけどね。
 そこに書いてのが…
『24時間以内に誰かとえっちしなければならない。そうしなければ死ぬ』
 だもの」
「!!??」

456  『不幸の手紙』  2002/03/20(Wed) 16:15
「最初はね、何を考えてるんだろうって思ったんだけど…でも…
 今日の出来事…わかってるよね。一緒だったんだから」
「でも…それはわたしも………」
「学校だけの事ならね。でも、それ以外の時でも、今日は最悪なことが続いているの。
 ここへくるときも遅くなったって言ったでしょう?。それだって、本当なら10分で
 7時には着くはずだったのよ…それなのに。
 おまけに………彼は帰ってこない………これだって…
 私が不幸の手紙を読んだのが、昨日の夜12時…リミットまでには後1時間もないのに、彼はいない…」
「………そんなの…気のせいだって………」

 気のせいだったら、どれだけよかっただろう。
 ネコには…わからないんだよ。追いつめられた人間って、どれだけ回りのことが見えなくなるかなんて。
 どうせ私は、後1時間の命…だとしたら………


「ネコ…怯えたり、心配しなくていいよ。別にネコの命が欲しいなんて思ってないから。
 死ぬのは…私だけだもん…」
「美奈…ちゃん…」
 私が死ぬって言葉に、ネコが声を上げる…同情…かな。

「だから…ね。最後に1つだけ頼みたいことがあるの…」
「なに?」
「ネコにもらって欲しい物があるの…それと同じ物を…ネコからも私に欲しい」
「物って…私何も持って………」
 そこで、ネコの声が止まる…

457  『不幸の手紙』  2002/03/20(Wed) 16:16
 気が付いた…みたい。
「ダ…ダメ!!」
「ネコに…今のネコには、選択権なんて無いんだよ」
「だって…始めては、彼に…」
「私もそう思ってた。だからここに来た………でも…もう私には誰もいない。
 今、目の前の…ネコだけ…だから…私の初めてをあげるから、ネコの初めてを私に欲しいの」
「い…いや…」
「さっきも言ったでしょう…ネコに選択権は無いって」
 私はそういいきると、ネコの声に耳を貸さずにとある場所へと向かう。かってしったる…部屋だから。
458  『不幸の手紙』  2002/03/20(Wed) 16:17
 戻ってきた私の手には…コンビニの袋と…
「み…美奈ちゃん………それは…」
「あ、これ?。ハサミがあると思ってたんだけど無かったから」
 そういってネコに見せたのは…ナイフ…と言うよりはちょっと小さめの包丁って言った方が合ってるかな?
「まずは、ネコの身に着けている服を外さなくちゃね。
 でも…紐を外すわけにもいかないから…服を切っちゃおうかなって思ったの」
「そ、そんな」
「そんなに暴れないの…切れないでしょう?」
 流石に…じっとしてくれない。
「ネコ、暴れないで。それ以上暴れると…身体の方まで切っちゃうわよ」
 そういって…ナイフの背の方をネコの身体に当てる。と、今まで暴れていたのがウソのようにぴたっと止まる。
「そう…そうしてくれれば…いいの。

459  『不幸の手紙』  2002/03/20(Wed) 16:17
 じゃあ…まずは上からね」
 そういって、まずは右の脇のブラの紐を…切る。同じように…左の脇の紐も切る。
 もう、ネコのブラは、胸に乗っているだけ…
「これで…OK」
 そういって私はブラに手を伸ばす。と、ネコが身体を揺らして…私の手から逃れようとしているのだろう、でも…自らずらす事になっちゃったみたい。
 小さいけど、きれいな胸が露わになる。
「やっ」
「自分で見せてくれたんでしょ」
「そんなつもりは…」
「もういいよね…取っちゃうよ」
 そう言って、ネコのブラをスッと取る。

460  『不幸の手紙』  2002/03/20(Wed) 16:18
「さて、次は…」
「美奈ちゃん………もう…やめて………そうじゃないと…嫌いになっちゃう…よ…」
 蚊の泣くような小さな声で、ネコがそう話しかけてくる。
「もう、こんな事してるんだから、嫌いになってるんじゃないの?」
「だって、美奈ちゃんは…大事な………大事な………」
「友達が、こんな事すると思う?」
「だから………いつもの美奈ちゃんに…戻ってよぉ…」
 いつもの私…か…

 私は…無言で…ネコのパンティにナイフを当てる。
「美奈ちゃん!」
 ネコの声を無視して…片側を…切る。
「………っ…」
「じゃあ、見せてね」
「…だめぇ…」
 ゆっくりと、最後の一枚を降ろしていく。

461  『不幸の手紙』  2002/03/20(Wed) 16:19
「ネコって…生えてないんだ」
「…だ…め……みない…でぇ……」
 すでにネコの身体には隠す物なんて、なにもない。
 パンティも、足を縛っている紐の所まで降ろしちゃったから。
「でも、すごく綺麗よ」
 そう…すごく綺麗。同性の私から見ても。
 真っ白な肌に、ちょっと小さいけど、やわかそうで形のいい胸。
 あそこは、まだ…なのかどうかわからないけど…つるつる。スリットとお豆が、直接見えている。
 でも…この方が、ネコの可愛さが引き立って見えるのは、私だけ…かな。

462  『不幸の手紙』  2002/03/20(Wed) 16:20
 おもむろに…彼女の唇に私の唇を重ねる。
 ネコは、驚いたように目を見開いて…私の方をじっと見ている。
 嫌がるかと思ったけど、でも、ネコは逃げようとはしなかった。私の唇を受け止めてくれた。

 長かったような…短かかったようなキス。
 私が、唇を離した瞬間…どちらからとも無く…ため息がもれた。
「ネコ…気持ちよかったの?」
「………………」
 答えは…なかった。でも、顔にはさっきまでの、怯えの色がわずかだが消えているように…私は感じた。


463  『不幸の手紙』  2002/03/20(Wed) 16:21
「じゃあ…続き…」
 唇を、ネコの胸の先にあてて…おもむろに吸う。
「だっ…だめ………」
 ネコの言葉を無視して、赤ちゃんが吸うように、胸の先っぽを歯で転がしながら吸い続ける。
 もう片方の開いている胸は…私の手で優しく、時には強く、胸の先を指で引っ張るようにしながら、揉む。
「んっ…くぅぅ…やぁぁ…やめ…てぇ…」
 切ないため息を漏らしながら、頭の中で葛藤しているのだろう。ネコの口からは、拒絶の言葉が時々聞こえてくるが、身体の方は…だんだんと、私を受け入れ始めている。
 その証拠に…胸の先っぽが、とがってる。それに…
「ネコの嘘つき。やめてほしくないんでしょう?」
「…そんなこと…」
「じゃあ…下のお口のほうが、嘘をついてるの?」
 そういって、空いている手を、ネコのあそこへと伸ばす。そして、スリットへと指を伸ばす。
「…そ…そこは………」
「ちゃんと…おつゆが出始めてるわよ」
 私の指には、ネコのおつゆがしっかりとついた。
「だ…だって………」


464  『不幸の手紙』  2002/03/20(Wed) 16:23
「嘘をついている口は…ふさがなきゃね」
 そう言うと…私はおもむろにネコのあそこへと顔を近づける。
「美奈ちゃん…まさか………」
「さっきと同じ。私の口でネコのお口をふさいであげるね」
「だ、だめ!!。そんなのだめぇ」
 やっぱり、ネコの声を無視して…私は自分の口をネコのあそこへとつける。
「美奈ちゃん。だめ、やめて!」
 口をネコのあそこに合わせて…舌で舐めあげる。
「ひぁっ…」
 何度も舐めたあと…舌をあそこの中へと這わせてゆく。そこからは…ネコの匂い…なんだろうな、甘い麝香のような香りが漂ってくる。女の子の身体がこんなにもいいなんて知らなかった。
「美…美奈…ちゃん………」
 身体を震わせながら…ネコは…快感に流されかけているんだろう。時折身体を震わせるようにしている。
 私は…そのまま…舌をネコのお豆に絡ませる。
「や…そこは……」
 そのまま、舌でお豆を転がす。
「あ、あん…あっ……」
 おもむろに…お豆さんに歯を立てる。と、
「だ・だめぇぇぇっ」
 きゅっと挟み込んだ瞬間…ネコは背中をそらせるようにして…そのまま気を失った。どうやらいっちゃったみたい。


465  『不幸の手紙』  2002/03/20(Wed) 16:23
「う…ううん…」
 しばらくして、ネコが目を覚ます。
「美奈…ちゃん…?」
 私は…ネコの前に立っていた。なにもつけずに…
「ネコ…1人でいっちゃうなんてズルイよ…」
「そ、そんな…」
「次は、私も気持ちよくさせてね」
 そう言うと、隠し持ってたものを取り出す。

 ネコは一瞬なにか判らなかったみたい。怪訝そうな顔をして…そして、
「………!?」
 判ったみたい、目をそらしちゃった。
「そんなに怖がらなくてもいいんじゃないの?」
「だって…だって…」
「急いで買ってきたんだよ。恥ずかしかったんだから」
 取り出したのは…双頭のディルドー
「近くにお店があってよかったわ。もし無かったら…さて、何になってたでしょうねぇ」
466  『不幸の手紙』  2002/03/20(Wed) 16:24


「私も、もう準備できているから…一緒に入れましょうね」
「………………」
 拒否の言葉が出るかと思ったけど…ネコの口からはなにも出なかった。
「じゃあ………いくね?」
 そういって、私は…彼女のあそこと、自分のあそこの両側にディルドーを当てる。

「………美奈…ちゃん…」
 今まで目をそらしていたネコが、私の方を見て…小さな声で話しかけてきた。
「なに?…やめてってのは、もう無しだからね」
「………優しく…して…ね………」
 !?………それって………
 ネコはそう答えた直後、また目をつむってうつむいちゃった。
「………うん。
 ネコに苦しみを与えたいわけじゃないから…ネコの苦しむ姿を見たいわけじゃないから…」

467  『不幸の手紙』  2002/03/20(Wed) 16:25

 …でも…ネコを傷つけようとしている。いいえ、もう傷つけちゃってる。
 ただの言い訳。それは…十分にわかってる。受け入れてもらえるなんて思ってない。
 だって…彼を取られた腹いせなんだよ。今やってる事って。
 私自身の我が儘なんだよ。今からやろうとしている事って。
 ネコを縛って…抵抗できないようにして………一生消えない痕をつけようとしているん…だよ。

 そんな私を、ネコは…受け入れようとしている…
『優しく…して』…もし私が逆の立場だったら、この状態でそんな事言えるだろうか?
 ………言えない…よ………
 多分、最後まで・本当に最後まで抵抗する。

 私って………

468  『不幸の手紙』  2002/03/20(Wed) 16:26

「美奈…ちゃん?」
 そのままの状態で…固まってた。ネコに声をかけられて…ふと我に返る。
「………ネコ………」
 私は…当てていたディルドーを…離す。
「美奈ちゃん?」
「………ごめん…ネコ………私…私…」
 やっと…その一言が、私の口から漏れる。

「ねぇ、美奈ちゃん」
「…なに?」
「手のロープ…ほどいてくれる?」
「…うん…」
 のろのろとだけど…ネコの両手のロープの結び目をほどく。


 両手をほどいて…次は足のロープを外さなきゃいけない、そう思った…その時。
「美奈ちゃんは、何も悪くないよ」
 そういって…ネコの方から私に抱きついてきた。
「ネ…ネコ!?」
 こんどは、私の方が驚いちゃって…ネコの方にもたれかかっちゃった。
 そして、そのまま…抱き合ったまま、ベッドへと倒れ込む。
469  『不幸の手紙』  2002/03/20(Wed) 16:27
「美奈ちゃんな、間違ってないよ。いけないのはわたしの方なんだから」
 抱き合っている私の耳元で、ネコはそうつぶやく。
「わたしが…美奈ちゃんの彼と会わなければ、こんな事にはならなかったんだものね。
 わたしが…美奈ちゃんの彼を取っちゃったのが…そもそもの原因だものね」
「…そんな…こと…」
「あるよ。だから、悪いのは全部わたしなの。美奈ちゃんは、何も悪くないよ」
「…違う…悪いのは…」
 私…そう言おうとして…不意に、私の口が塞がれる。ネコの口で…
 さっきとは逆に…今度は、私が驚いて目を見開く番。


 しばらくして…ネコが唇を離す。 
「いいの…わたしが悪いことに…しておいて。
 美奈ちゃんが、一番傷ついてるんだものね。
 だから…何も言わなくて良いから…わたしに、美奈ちゃんの心の想いを…受け止めさせて」
「ネコ…」
「うん」


470  『不幸の手紙』  2002/03/20(Wed) 16:28
「いいの…よね」
「いい…よ」
 また、ディルドーをお互いのあそこへと当てる。でも、今度はお互いの手で…支えてる。自分自身へあてがって…中へ導こうとしている。
「いくよ」
「来て」
 私は、自分の腰をネコの方へと近づけようとする。
 ネコは…まだ、両足はベッドに縛られたまま…逃げることは出来ない。ううん、例え縛ってなくても逃げなかったと思う。
『んっ』
 2人の口から…声が漏れる。
 まだ、あそこに先端が少し入っただけ…でも、左右に押し開かれて…
「大丈夫?…ネコ」
「うん…美奈ちゃんは?」
「私も大丈夫…じゃあ」
 そういうと、また私はネコの方へと近づいてゆく。
 ゆっくりとゆっくりと…ネコに痛みを感じさせないように。

 そして…お互い、頭の部分が入ったところで…何かに引っかかるようにして止まる。
 これって、やっぱり…
「美奈ちゃん…わたしに気を使わなくてもいいよ」
「でも…」
「大丈夫だから」
「大丈夫…じゃないよ。すごく痛いっていうじゃない…ネコにそんな事は…」
「美奈ちゃんも、わたしも…同じだから。ね」
「………………」
 ネコの目を見つめて………うん。
471  『不幸の手紙』  2002/03/20(Wed) 16:29
 ネコの方へと腰を寄せる…自分の体重をかけて…一気に…
『ぷつっ』
 そんな音が…聞こえた気もした。その瞬間、
「くうぅぅぅ」
「んんっっっ」
 2人の口から、苦痛のうめき声が…漏れる。
 こんなに…こんなに痛いものなんて…思いもよらなかった。

 抵抗のなくなったそれは…2人の中へと入ってゆく。そして…私とネコの腰が当たる。
「ネコ………全部…入った…よ」
「………うん………」
 ネコの顔は、痛みを我慢するような顔をしている。多分、私も同じ顔をしてるんだと思う。
「美奈ちゃん…動かないで…ね」
「動かない…よ」
 本当は…私も痛くて…動けないんだけど…
 でも…
「ネコ…ごめんね」
「えっ?」
 そういって…私はネコの方へと倒れ込む。そして、抱きつく。
 ネコも、私の背中へと手を回してくる。

472  『不幸の手紙』  2002/03/20(Wed) 16:29
 どれぐらい抱き合ってたのだろうか。
 あそこの痛みも…徐々に引いてきた。でも、あそこの中は奥までしっかりと入っているのがよくわかる。
「ネコ…痛くない?」
「もう大丈夫…痛みは引いたみたい。
 一番奥まで…ちゃんと入ってるのがわかるよ」
「私も…一番奥に当たってるのがわかる。ネコが私の中にいるみたい」
「わたしだって、美奈ちゃんがわたしの中にいるみたい。
 ねぇ…動いて…美奈ちゃんを感じさせて」
「私もネコを感じたい…いくよ」
 そして…私は腰を動かし始めた。

 本当に…ネコが私の中をかき回しているみたい。
 最初は痛みしか感じなかったけど…だんだん…だんだん、気持ちよくなってきた。
 ふわふわとするような…あったかいお風呂に浸かってるような…そんな気持ちよさ。
「すごく気持ちいいよ…ネコ」
「わたしも…こんなに気持ちいいの、始めて。もっともっと…気持ちよくさせて…」
「私も、もっともっと気持ちよくなりたい」
 そう言うと、私は腰を動かし続けた。
 ネコも自らくねらすように腰を動かして…快感を起こそうとする。

473  『不幸の手紙』  2002/03/20(Wed) 16:30
 いつの間にか、どちらからともなくキスをしていた。
 さっきまでの唇を重ねるだけの軽いキスじゃない。お互いに舌を絡ませるような…激しいキス。
 話には聞いていたけど、実際には今まで一度だってしたことはない。でも、自然にそうしちゃう。

「美奈ちゃん…わたし…もう…」
「私も…もう我慢できない…」
「一緒に…」
「うん…一緒に…」
 そして、お互いに自らの腰を相手に押し当てる。それが…お互いの一番奥を突く事になって…
 その瞬間、今までに感じたことのない痛みとも快感とも取れない波のようなものが、私の身体を駆けめぐった。
『はあぁぁぁーーっ』
 頭の中が…真っ白…になって………

474  『不幸の手紙』  2002/03/20(Wed) 16:31


 結局…2人はそのまま…抱き合って気を失っちゃったみたい。
 気が付いた時には…夜の1時を回ってた。

 あの『不幸の手紙』…やっぱりウソだったんだ。私…生きてる。
 だとしたら………私…ネコに…一生消えない、痕、つけちゃったんだ…
「…ネコ…」
「なに…美奈ちゃん…」
「………ごめんね。こんな事しちゃって………」

「…気にしなくて………いいよ」
「でも、大切な物…私が奪っちゃったんだよ?」
「………うん………」
「だから………」
「だから………責任…取ってくれるよね?」
「え?」
「わたしの大切な物・持っていったんだから…責任取ってくれるよ…ね?」
 責任………私に出来るんだろうか…

475  『不幸の手紙』  2002/03/20(Wed) 16:32
「わたしね…」
 ネコがぽつりぽつりと話し始める。
「どうして彼とつきあい始めたんだろうって…考えた。何故、美奈ちゃんの恋人だった彼と…
 だって、まるで泥棒ネコだものね。
 でね…答が………わかったの。

 わたしは…彼の中に…美奈ちゃんを重ねてたんじゃないかって」
「ネコ…」
「始めて町中で彼と会ったとき、なにか…すごく懐かしい・それでいて優しい感じがしたの。
 でね、彼の方もわたしに、同じ様な感じがしたって言ってくれたわ。
 それで、2人は『赤い糸で結ばれてた』なんて安直な考えをしちゃって…つきあうようになったの」
 それは…知らなかった。
476  『不幸の手紙』  2002/03/20(Wed) 16:33
「でも………それは間違いだって………美奈ちゃんと肌を合わせたとき・唇を重ねたときに、そう思ったの。
 だって、肌を合わせた瞬間に感じたもの…それって、彼から感じた物と同じ…ううん、彼よりも強い感じがしたわ。
 そして、抱き合って唇を重ねたときに…確信できたの。わたしの大切な人って…美奈ちゃんなんだって。
 結局…彼から感じた物って…近すぎて・強すぎて・見えなかった物が、彼によって弱められてやっと見ることの出来た…美奈ちゃんだったんだって」
 そう…なの?
「だから…わたしもハッキリ言う。
 美奈ちゃんが好きです。美奈ちゃんが、わたしの初めてをもらってくれて…嬉しい」
「ネコ…でも、私は…無理矢理奪ったんだよ?」
 そう…私は…自分の欲望のままに…
「無理矢理じゃ…ないよ」
「ウソ」
「ホントよ。確かに、縛られて身動き取れなかったけど…もし、自由だったら…自分で、美奈ちゃんを受け入れてたと思う。
 それに…美奈ちゃんも、わたしに初めてをくれたじゃない。ちゃんと受け取ったよ。

477  『不幸の手紙』  2002/03/20(Wed) 16:34
 それとも…わたしの事…嫌いになった?」
「そんな事ない!…そんなこと…ない」
「だったら…」
「だって………ネコがいいって言っても、私には…あんなどうでもいい手紙のせいで、ネコを無理矢理奪った罪悪感が…」
「それも、違うと思う」
「…?」
「もし、その手紙がなかったら…わたしは自分の本当の気持ちが分からなかった。
 それに、美奈ちゃんが彼とのことをどれだけ隠そうとしたって…ずっと知らずに暮らしていく事なんて絶対無理だよ。
 いつかは知っちゃう。その時わたしは…美奈ちゃんと彼の間を壊したことに、必ず罪悪感を持つはず。

 でも…その手紙が…全部を壊してくれたんだよ。チャラにしてくれたんだよ。
 これは…神様かどうかはわからないけど…私達をつなげてくれたんだから」
「う…うん…」
「それに………美奈ちゃんが私とえっちしたから…助かったのかも知れないよ?」
 そう…かなぁ。
478  『不幸の手紙』  2002/03/20(Wed) 16:34
「美奈ちゃん…」
「…なに?」
「答えて」
「………」
「わたしは、美奈ちゃんに告白したんだよ。だから…美奈ちゃんの答え…聞きたい」
「うん…」
「………」
「………」
「………」
「私も…ネコのこと…だぁーい好きだよ」
「美奈ちゃん!」
 ネコが私の胸に飛び込んでくる。私もネコを受け止めて…抱き合う。
 お互いに何も言わずに見つめ合い…どちらからともなく、唇を重ねた…

 …私にとって一番大切な物を…見つけた気がした…


479  『不幸の手紙』  2002/03/20(Wed) 16:35


 そのあと…服を着た私達は(あ、ネコの下着はわたしが切っちゃったから…無し…スカートだけど大丈夫?)
 彼の部屋に2人で『サヨナラ』って書いた置き手紙をおいて…部屋をあとにした。
「うーんっと…これからどうしよっか…」
「電車も終わっちゃってるから………わたしも、美奈ちゃんも、帰れない…よね」
 まぁ別に、明日は学校休みだから、家に帰らなくても心配はないんだけどね。
「それよりも…どこかへ入らない?」
 そう言って、ネコはわたしの方へ身体を寄せてくる。
「どしたの?、ネコ」
「………あそこが………すずしくて………」
「…まさか…それだけで感じちゃってる?」
「………うん………」
 って…それはちょっと…
480  『不幸の手紙』  2002/03/20(Wed) 16:36
 辺りを見渡して、2人で近場のホテルへと入っていく。
 入ってから気付く…ここって…ラブホテル?

 とはいえ…入っちゃった上に、ネコの事も心配だから…とりあえず泊まることにする。
 店員のおばちゃんは、何も言わずにチェックインを済ませて、わたしに鍵を渡してくれる。
(…ふつう、女の子同士で来たら多少の反応があってもいいと思うんだけど…)
 そう思いつつも、部屋へと向かう。
 その部屋は………おばちゃんの反応は、そういう意味かい!
『女性専用』だって…つまり………そう言うことです。はい。

「ねぇ、美奈ちゃん」
「なに?」
「また…さっきみたいにしてくれる?」
「…うん」

 結局…朝…チェックアウトの時間まで、ずーっと2人でしちゃいました。


Fin?

481  だれ子ちゃん?  2002/03/20(Wed) 18:11
(´-`).。oO(この頃毎日のようにこのスレをチェックしてしまうのはなんでだろう。)
482  だれ子ちゃん?  2002/03/20(Wed) 19:31
しらねぇよ。
483  だれ子ちゃん?  2002/03/20(Wed) 20:21
デンパハ ビョウインニ (・∀・)カエレ!
484  だれ子ちゃん?  2002/03/21(Thu) 19:46
半角文字はもう飽きたよ。
485  だれ子ちゃん?  2002/03/28(Thu) 19:21
ここ自体飽田
486     2002/04/02(Tue) 00:03
肛門に
電球入れて
猫行灯

487     2002/04/02(Tue) 00:03
パチパチと 
火鉢に燻る
猫炭団

488     2002/04/02(Tue) 00:04
清流の 
淀みに留まる
溺死猫

489     2002/04/02(Tue) 00:04
殺しても
湧いて出てくる
夏の猫

490     2002/04/02(Tue) 00:05
猫の手を
借りてそのまま
返さない

491     2002/04/02(Tue) 00:05
猫の顔
安全靴で
蹴り上げた

492     2002/04/02(Tue) 00:06
ネコの目に 
画鋲を突き刺し
キンメネコ

493     2002/04/02(Tue) 00:06
壊れたら
次の子猫を
調達に

494     2002/04/02(Tue) 00:07
猫たちを
踏みしめ走る
田舎道
495     2002/04/02(Tue) 00:07
鳴き声が
次第に小さく
なってゆく
496  ナギ  2002/04/06(Sat) 00:10
マジキモイ
やめれ
497  だれ子ちゃん?  2002/04/07(Sun) 03:37
ホラーだ・・・。
498  だれ子ちゃん?  2002/04/07(Sun) 06:31
こういうのが犯罪起こすんだよ。
そのうち何かやらかすね。
って、もうやってるかw
まあ、引き篭もってるとロクなこと考えないからね、
経験上。(ピュア
499  だれ子ちゃん?  2002/04/07(Sun) 08:44
あの…
あんまり刺激すると本気で何かしかねないので、もちっと優しく…
500  だれ子ちゃん?  2002/04/07(Sun) 08:45
ついでに500げっと。
501  だれ子ちゃん?  2002/04/07(Sun) 15:15
じゃあやさしく。
俺のほうがなにかしそうです。なんとかしてください。
だけどさまざまな衝動をいつも押さえて生活するの。性衝動、破壊衝動とかね。
人はみな差異はあれど多かれ少なかれ我慢して生活している。
食欲だけは我慢しないけどねw
まあ、、、頑張れってこった。
502  だれ子ちゃん?  2002/04/07(Sun) 15:25
抑えてない奴も多いけどね。三日物を食べない(液体は自由)のと、
三日寝れないのとどっちが辛いか試してみたら、寝れない方が辛い。
だから軟禁とかも寝かさないようにすれば十分効果はある。
503  だれ子ちゃん?  2002/04/09(Tue) 09:38
のび太とドラえもんに別れの時が訪れます。それは、なんともあっさりと..。
のび太はいつものように、宿題をせずに学校で叱られたり、はたまたジャイアンにいじめられたり、
時にはスネ夫の自慢話を聞かされたり、未来のお嫁さんであるはずのしずかちゃんが
出来杉との約束を優先してしまう、などなどと、とまあ小学生にとってはそれがすべての世界であり、
一番パターン化されてますが、ママに叱られたのかもしれません。
とにかく、いつものように、あの雲が青い空に浮かんでいた、天気のいい日であることは
間違いないことで しょう。そんないつもの風景で、ドラえもんが動かなくなっていた...。

当然、のび太にはその理由は分かりません。喋りかけたり、叩いたり、蹴ったり、
しっぽを引っ張ってみたりもしたでしょう。なんの反応も示さないドラえもんを見て
のび太はだんだん不安になってしまいます。付き合いも長く、そして固い友情で
結ばれている彼ら、そしてのび太には動かなくなったドラえもんがどういう状態にあるのか、
小学生ながらに理解するのです。その晩、のび太は枕を濡らします。

504  だれ子ちゃん?  2002/04/09(Tue) 09:38
ちょこんと柱を背にして座っているドラえもん...。のび太は眠りにつくことができません。
泣き疲れて、ただぼんやりしています。無駄と分かりつつ、いろんなことをしました。
できうることのすべてをやったのでしょう。それでも何の反応も示さないドラえもん、
泣くことをやめ、何かしらの反応をただただ、だまって見つめ続ける少年のび太。
当然ですがポケットに手を入れてみたり、スペアポケットなんてのもありましたが動作しないのです。

そして、なんで今まで気付かなかったのか、のび太の引き出し、そう、タイムマシンの存在に
気がつくのです。ろくすっぽ着替えず、のび太はパジャマのまま、22世紀へとタイムマシンに
乗り込みます。これですべてが解決するはずが...。のび太は、なんとかドラミちゃんに
連絡を取り付けました。しかし、のび太はドラミちゃんでもどうにもならない問題が
発生していることに、この時点では気が付いていませんでした。いえ、ドラミちゃんでさえも
思いもしなかったことでしょう。

505  だれ子ちゃん?  2002/04/09(Tue) 09:39
「ドラえもんが治る!」、のび太はうれしかったでしょう。 せかすのび太と状況を完全には
把握できないドラミちゃんはとにもかくにも20世紀へ。しかしこの後に人生最大の落胆を
することになってしまうのです。 動かないお兄ちゃんを見て、ドラミちゃんはすぐに
お兄ちゃんの故障の原因がわかりました。正確には、故障ではなく電池切れでした。
そして電池を交換する、その時、ドラミちゃんはその問題に気が付きました。予備電源がない...。
のび太には、なんのことか分かりません。早く早くとせがむのび太にドラミちゃんは静かにのび太に伝えます。

『のび太さん、お兄ちゃんとの思い出が消えちゃってもいい?』 当然、のび太は理解できません。
なんと、旧式ネコ型ロボットの耳には電池交換時の予備電源が内蔵されており、
電池交換時にデータを保持しておく役割があったのです。そして、そうです、ドラえもんには耳がない...。

506  だれ子ちゃん?  2002/04/09(Tue) 09:39
のび太もやっと理解しました。そして、ドラえもんとの思い出が甦ってきました。
初めてドラえもんに会った日、数々の未来道具、過去へ行ったり、未来に行ったり、恐竜を育てたり、
海底で遊んだり、宇宙で戦争もしました。鏡の世界にも行きました。どれも映画になりそうなくらいの
思い出です。ある決断を迫られます...。

ドラミちゃんは、いろいろ説明をしました。ややこしい規約でのび太は理解に苦しみましたが、
電池を交換することでドラえもん自身はのび太との思い出が消えてしまうこと、
今のままの状態ではデータは消えないこと、ドラえもんの設計者は設計者の意向で
明かされていない(超重要極秘事項)ので連絡して助けてもらうことは不可能であるという、
これはとっても不思議で特異な規約でありました。ただ修理及び改造は自由であることも
この規約に記されていました。

のび太はドラミちゃんにお礼を言います。そしてドラえもんは「このままでよい」と
一言、告げるのです。ドラミちゃんは後ろ髪ひかれる想いですが、何も言わずにタイムマシンに乗り、
去っていきました。 のび太、小学6年生の秋でした。

507  だれ子ちゃん?  2002/04/09(Tue) 09:40
あれから、数年後...。
のび太の何か大きく謎めいた魅力、そしてとても力強い意志、どこか淋しげな目、
眼鏡をさわるしぐさ、黄色のシャツと紺色の短パン、しずかちゃんが惚れるのに
時間は要りませんでした。 外国留学から帰国した青年のび太は、最先端の技術をもつ企業に就職し、
そしてまた、めでたくしずかちゃんと結婚しました。そして、それはそれはとても暖かな
家庭を築いていきました。ドラミちゃんが去ってから、のび太はドラえもんは未来に帰ったと
みんなに告げていました。そしていつしか、誰も「ドラえもん」のことは口にしなくなっていました。
しかし、のび太の家の押入には「ドラえもん」が眠っています。あの時のまま...。

のび太は技術者として、今、「ドラえもん」の前にいるのです。
小学生の頃、成績が悪かったのび太ですが、彼なりに必死に勉強しました。
そして中学、高校、大学と進学し、かつ確実に力をつけていきました。
企業でも順調に、ある程度の成功もしました。 そしてもっとも権威のある大学に
招かれるチャンスがあり、のび太はそれを見事にパスしていきます。
そうです、「ドラえもん」を治したい、その一心でした。
人間とはある時、突然変わるものなのです。それがのび太にとっては
「ドラえもんの電池切れ」 だったのです。 修理が可能であるならば、
それが小学6年生ののび太の原動力となったよう でした。

508  だれ子ちゃん?  2002/04/09(Tue) 09:41
自宅の研究室にて...。
あれからどれくらいの時間が経ったのでしょう。しずかちゃんが研究室に呼ばれました。
絶対に入ることを禁じていた研究室でした。中に入ると夫であるのび太は微笑んでいました。
そして机の上にあるそれをみて、しずかちゃんは言いました。『ドラちゃん...?』
のび太は言いました。『しずか、こっちに来てごらん、今、ドラえもんのスイッチを入れるから』
頬をつたうひとすじの涙...。しずかちゃんはだまって、のび太の顔を見ています。
この瞬間 のため、まさにこのためにのび太は技術者になったのでした。
なぜだか失敗の不安はありま せんでした。こんなに落ち着いているのが変だと思うくらい
のび太は、静かに、静かに、そして丁寧に・・・・何かを確認するようにスイッチを入れました。
ほんの少しの静寂の後、長い長い時が繋がりました。

『のび太くん、宿題は済んだのかい?』

ドラえもんの設計者が謎であった理由が、明らかになった瞬間でもありました。
あの時と同じように、空には白い雲が浮かんでいました。

509  だれ子ちゃん?  2002/04/09(Tue) 16:23
実物は始めて見た。
510  だれ子ちゃん?  2002/04/09(Tue) 17:15
何パターンかあったよねこれ。
511  マルチ軍曹@マゼラー  2002/04/09(Tue) 20:28
>>510
寝たきりのび太の妄想オチってのもあったよね
512  だれ子ちゃん?  2002/04/10(Wed) 01:23
勝利の栄光を君に!
513  だれ子ちゃん?  2002/04/12(Fri) 22:08
ouch
514  だれ子ちゃん?  2002/04/15(Mon) 12:48
ここにいる男達は最低

1 :映子 :01/10/07 01:40 ID:RSKa2dhY
前から気になってたのですが、ここにいる男性は
女性の事を悪口を言う人や、「男性差別反対」とか
言う情けない男性しかいないのですか?
私は、男性に生まれたからには、女性を守り細かい事は
気にしない心の広い男になって欲しいと思います。
はっきり言って、今あなた達のやっている事は
男として情けない非難されるべき行動だと思います。
その事に早く気付き、女性を気遣う心を持ってください。
515  だれ子ちゃん?  2002/04/15(Mon) 12:49
5 :映子 :01/10/07 01:49 ID:RSKa2dhY
そういう事を言うところが女性を気遣っていないと
言っているんです。女性は小さなときから常に
女らしさというものに縛られ、大人になって社会に
出ても、女性差別にあいストレスが溜まっている人が
多いと思うんです。男なら女性の少しぐらいのワガママを
許せる寛大な心を持ってください。
516  だれ子ちゃん?  2002/04/15(Mon) 12:49
18 :映子 :01/10/07 02:09 ID:RSKa2dhY
女らしさを捨てればいいなどと簡単に言っていますが
そうなれば、周りから白い目で見られるのは必至です。
>あなたは社会で何を「女性差別」と思ってますか?
同じように仕事をしても女性が男性に比べて評価されない、
昇進が遅い、給料が安い等です。
>「男性は女性を守るべき」と主張しているようですが、
>その発言はあなたが先に述べた「差別」という現象を、
>支持する発言ですよ。
強いものが弱いものを守るのが差別なのですか?
ごくごく自然な事だと私は思うのですが。
517  だれ子ちゃん?  2002/04/15(Mon) 12:49
31 :映子 :01/10/07 02:27 ID:RSKa2dhY
私も由美子さんという人物は知っていますが、
彼女と一緒にしないで下さい。私はあんなに
甘えきった人間じゃありません。
518  だれ子ちゃん?  2002/04/15(Mon) 12:49
53 :映子 :01/10/07 02:39 ID:RSKa2dhY
体に障害を持ってる人なんかが守ってもらうと言うのなら
分かりますが、健常者の男で女性に守ってもらおうと
いう人は軽蔑します。
519  だれ子ちゃん?  2002/04/15(Mon) 12:50
153 :映子 :01/10/07 23:56 ID:hvR301rg
まず、「男らしさ」と「女らしさ」の違いを考えてください。
男らしさ・・・強い。弱音を吐かない。元気がある。
女らしさ・・・おしとやか。でしゃばらない。男を立てる。
これを見比べて一番の違いは何だか分かりますか?
まず男らしさは自分の感情を表に表現できるのに対して
女らしさは自分の感情を抑えるものばかりです。
そして女性は、その「女らしさ」というものに子供の頃から
縛られ、不満が溜まっているのです。そして、そんな不満を
口に出せば「女のくせに」と言われるので、口に出す事もできず
不満を抱え込んだままでいるのです。そんなストレスが溜まった
女性が少しぐらいワガママ言ってもいいじゃないですか。
もっと広い心持たないと周りの人から嫌われますよ。
520  だれ子ちゃん?  2002/04/15(Mon) 12:50
167 :映子 :01/10/08 00:32 ID:bMhKSSpA
これは、私だけの考えではないと思います。
現にフェミニストの方たちも私と同じような事を
言ってますし。私の友達もみんな同じような
考えを持ってます。
521  だれ子ちゃん?  2002/04/15(Mon) 12:50
169 :映子 :01/10/08 00:35 ID:bMhKSSpA
男らしさなんて楽でしょ。自分の感情を
表に表現できるんだから。
522  だれ子ちゃん?  2002/04/15(Mon) 12:50
179 :映子 :01/10/08 00:43 ID:bMhKSSpA
そりゃあ、ストレスが溜まらないとは言わないけど
男なら、そんな細かい事で「男性差別」とか、
女々しい事言わないで欲しい。
523  だれ子ちゃん?  2002/04/15(Mon) 12:50
231 :映子 :01/10/08 20:05 ID:meS5yOjQ
私の言っている事は愚痴でもワガママでもなく
世間一般的な考えです。
524  だれ子ちゃん?  2002/04/15(Mon) 12:51
243 :映子 :01/10/08 20:24 ID:meS5yOjQ
男ならそんな細かい事気にしなきゃいいじゃん。
第一、あなた達が言ってる男性差別って
女性が受けてる差別に比べれば
差別のうちに入らないんじゃない?
525  だれ子ちゃん?  2002/04/15(Mon) 12:51
250 :映子 :01/10/08 20:32 ID:meS5yOjQ
ただでさえ女性は社会で差別されてストレスが
溜まってるっていうのに、もっとストレスを
溜めさせる気なの?本当優しくない男ね!
526  だれ子ちゃん?  2002/04/15(Mon) 12:51
256 :映子 :01/10/08 20:37 ID:meS5yOjQ
女性にあれこれ求めるなんて男として
恥ずかしくないの?
527  だれ子ちゃん?  2002/04/15(Mon) 12:51
268 :映子 :01/10/08 20:46 ID:meS5yOjQ
あなた、それ女性に対して失礼ですよ!
女性を見下した差別発言だって分かってます?
今すぐ全世界の女性に対して謝罪してください。
528  だれ子ちゃん?  2002/04/15(Mon) 12:51
272 :映子 :01/10/08 20:49 ID:meS5yOjQ
あなた、どうせ女性を目の前にしたら
絶対そんな事言えないんでしょ?
所詮、匿名の掲示板だからいえるんでしょ?
悔しかったら女性の目の前で言ってみなさいよ。
529  だれ子ちゃん?  2002/04/15(Mon) 12:52
279 :映子 :01/10/08 20:56 ID:meS5yOjQ
うるさいわね、何であんたみたいな
クズ人間にそんな事言われなきゃ
いけないの?あんたが自殺してよね!!!
530  だれ子ちゃん?  2002/04/15(Mon) 12:52
287 :映子 :01/10/08 21:04 ID:meS5yOjQ
だったら「男に生まれたのは身障知障に生まれたのと同じ」
って言ったら差別にはならないの?
531  だれ子ちゃん?  2002/04/15(Mon) 12:52
292 :映子 :01/10/08 21:11 ID:meS5yOjQ
今日は疲れたので、もう寝ます。
532  だれ子ちゃん?  2002/04/15(Mon) 15:22
あなたは男女平等をうたう女性がそれほど多くない事に
気付いてないようで。
533  だれ子ちゃん?  2002/04/15(Mon) 15:42
マジレスなのか・・・
534  だれ子ちゃん?  2002/05/01(Wed) 12:25
私は悩んでいた。それは、この春から私が収容された学校にはいくつもの団体が存在
したからだった。内向的な私は、まったくの接点が無い状態で人と関係を築く事ので
きない落伍者であった。故に何らかの集団に属して、そこで刺激的な人間関係を築こ
うと目算していた。校内の巨大な掲示板には各団体の構成員募集のチラシがたくさん
貼り付けてあり、私はそれらをひとつひとつ吟味した。

「包茎で悩んでいる男を殺そうの会、パンクス撲滅連盟、ヴィジュアル系批反部、受
波脳研究会、反支那戦線、女高生襲撃部、ダウン症児童愛好会、日本体育会系虐殺連
合(日体連)、麻薬部、ダストハンティングクラブ、強姦部、輪姦部、人工進化研究
所、ぺドフィリア解放同盟、電子ノイズ愛聴者の集い、切腹部、トレンチコートマフ
ィアジャパン、奈落のクイズマスター、名誉白人サロン、グランジロック研究会、拷
問研究会、特殊物理学部、無気力製造工場、ライ麦同好会、関東軍防疫給水部(73
1部隊)、KKK団、学窓会第13支部、根暗方面軍、地下教会、地下文芸部、自殺
部、触手部、サイキッカー養成所、心の病専科、中央ブランカブロッコ連立方程式」

といった、どれも一癖ある、自分の力を最大限に解放させてくれるような団体がいく
つもあった。しかし、さすがにこれだけの数を見て食傷気味になりどれを選んで良い
ものかほとほと困っていた。別にどれでも良いのだが、どうせならマンネリとした日
常を破砕してくれるような物が良かった。仕方なく、校門前の広場で構成員勧誘の場
が設けられているのでそこに足を運んでみた。

535  だれ子ちゃん?  2002/05/01(Wed) 12:25
「あまねく全ての汗臭い体育会系男に死を!」
「今こそ我々ロリコンの市民権を掴み取ろうではないか!」
「悪魔の思想共産主義を弄する支那共に天誅を!」
「酒鬼薔薇、てるくはのる、ネオ麦茶を今すぐ国家権力から奪還しよう!」
「ただいま入部されますともれなく幼児の身に着けた…」
「人類のヒテロ化を現在の20倍の速度で進化させるためクローン研究の自由化を…」
「だんだん小さくなる世界で僕達は無限にゼロを目指そう!」
「この世に文句しか言えない老人よ奴等はあんた等のために立ち上がるぜ、この世に大量虐殺を齎す国会大量大虐殺!」
「人体実験の基本はかの石井四郎中将の申す所ヒトを丸太と認識する事によって医療
科学の漸進性の批反を…」

といった煽情的なアジテーションが各方向から飛んでくる。各団体に宛てられたブース
にはたくさん人だかりができており側に近寄る事はできなかった。他人の体に密接した
り体臭を嗅がされたりするのを極端に嫌う私は近寄る気もせずただ眺めていた。各団体
のブースを遠巻きに眺めながら歩いていると比較的人の少なかった拷問部のブースで歩
を止めてみた。
机上には手錠やら足枷やら焼きごてやら鉄の処女のミニチュア模型などが並べられてお
り、それに混じって首輪や蝋燭や猿轡といった類のアイテム並べられてあり、SM部も兼
ねているのではないだろうかと思った。人の肩の隙間から覗いてみると、熱心に見学者
に説明をしているのはなんと女性であった。はた目にそんな趣味を持っている事など微
塵も感じさせぬほど整った顔立ちで、とても美人であった。世の中まだまだ捨てた物で
はないなと思い、彼女の拷問シーンを思い浮かべてみて気違いのような笑みを浮かべた。
でも生憎は私の中での拷問ブームは3年も前に廃ってしまったので入る気は無かった。

果たしてこれからどうすれば良いものかと考えていると、端の方で人1人居ない寂れた
ブースに目が止まった。そこは、マケイヌ部[for all loser]と書かれてあった。私は
なんとなく引っかかる物が在ってそこに歩を進めた。

536  だれ子ちゃん?  2002/05/01(Wed) 12:26
マケイヌ部のブースには粗末なパイプ椅子に座った男が1人居て、ヘッドフォンをはめ
て頭を深く下げて音楽を聴いており私の存在に気まったく気付いていなかった。「すい
ません」私は声をかけたがまったく気付かれなかった。何時か気付くのではないだろう
かと思い、そこに20秒ほど立っていたが一向に気付かれないので嫌だったが目前の男
の肩を叩いて私の存在を知らせた。すると男はヘッドフォンを外すわけでもなく、至極
不快、といったような表情で顎をしゃくりあげて机上の汚い印刷の紙切れを指した。こ
の手の人間に慣れ切っている私は別に何の不快感も感じずその紙に目をやった。そこに
は2001年度新規入部者名簿と書かれてあり、誰一人としてそこに記入した者は無か
った。私はその名簿に名を書き込もうと置いてあったHBの鉛筆を手にとって書こうとし
たら芯が折れていた。これには腹が立ち、書くのを止めようかと思ったが自分のシャー
ペンを取り出し西郡彦嗣と記した。当然、偽名である。その場から立ち去ろうとした瞬
間、さっきまで私の事などまるで気に留めていなかったマケイヌ部員がヘッドフォンを
はずし私に向かって「明日、北棟501教室で部集会があるから」とだけ言うと再びヘ
ッドフォンをはめて音楽を貪り始めた。

私がこの学校に収容されて初日の授業は惨憺たる物だった。

「てめえ、俺を誰だと思ってやがる!」「ばかにすんじゃねーよ、俺の事を!」
「うそじゃねー俺はやってねー」「きゃー」「静かにしろぉ!」
「おい、こいつ血が出てるぞ!?」「先生、帰ります」
「今俺に消しゴム投げた奴誰だ!」「え? なになに? 死んじゃった?」
「早く救急車呼べ!」「何で私ばっかりこんな目にあうんだ」
「おい、それはやべーって」「うわあ、火だ! 火が出た!」
「きゃーひとごろしー」「たーすーけーてー」「今なんて言った?」
「誰がこんなもの持ってきたんだよ、勘弁してくれ」
「臭ッ」「えらいことなっとるぞ」

537  だれ子ちゃん?  2002/05/01(Wed) 12:28
そんな怒号が飛び交い、硝煙の臭いとサイレンの音が聞こえ始めた時すべては収まった。
放課後になったので部集会に向かおうとそそくさと席を立ち教室を出ようとしたら隣り
に居た女生徒が失神した。何か嫌な予感がして私は振り返りもせず教室を後にし、後に
後悔する羽目になった。北棟に入ると彼方此方の教室で部集会が行われているらしく

「お前ら騙しやがったな!」「ふざけるな! そんな事は聞いてないぞ」
「もう遅い」「離せ! 離しやがれ! やってられるか」「おいっ! 逃がすな!」
「ぎゃー」「声を出すな」「パァン! パァン! パァン!」「ぱりーん」

といった騒々しい音が聞こえてうるさくて仕方なかった。階段を上がるたびにその喧騒
は遠のいていった。階段を上がっている途中何度も倒れている生徒を見かけたが良く見
ると全員酔いつぶれているだけだった。やっとの思いでマケイヌ部の部室まで来ると何
の怒号や悲鳴も聞こえなくなり、ここの階段が必要以上に長い事を知った。取り敢えず、
考えておいた挨拶の言葉を胸から引き出し準備してから部室の扉を開いた。すると数人
が床に倒れていた。壁にもたれ掛かって倒れている者やうつ伏せに倒れている者や仰向
けに倒れている物などさまざまなバリエーションだった。室内には煙が充満しており、
何か阿片窟を思わせる佇まいであった。この人達は何をしているのだろうかと酷く疑問
に思ったが、口には出さず「すいません、昨日この部に入った者ですが」と用意してい
た言葉とはまったく別の言葉を放った。すると倒れていた部員と思われる男が言った.


538  だれ子ちゃん?  2002/05/01(Wed) 12:28
「お前運が悪かったな、今日の活動はもう終わった。今日はもう全員使い物にならない。
明日出直してくるんだな」

そして、今度は地面にがっくりと崩れ落ちた。まったく意味が分からなかったがとにか
く明日出直してこなければ行けないようなのでその場を立ち去ろうとした瞬間「ズガー
ン」と大きな音がして本館1階の窓ガラスがすべて吹き飛んだ。辺りから激しい銃声が
聞こえ、人々の悲鳴がここにまで聞こえてくる。ゆく当てを失った私はそれを見る事に
した。暫く眺めているとそれはサイキッカーと軍部の抗争である事が分かった。紫電と
火薬が弾け飛ぶ中、戦いは軍部側の勝利で終わったようだ。

539  だれ子ちゃん?  2002/05/01(Wed) 12:29
階下に降りていくとさっきの戦闘で頭を割られ脳髄をぶちまけた軍部構成員やMP5で蜂
の巣にされたサイキッカーの死体が散乱しており、血と煙硝と臓物の混じった吐き気を
催すような異常な臭いが漂っていた。それらに大量の人間が群がっていて、死体写真部
の連中が何度もフラッシュを焚きながらそれを撮影し、人肉愛好会の連中が散らばった
肉体を拾い集め新鮮な肉をその場で食し、残り粕である人骨はネクロラヴァーズのメン
バーが持ち帰り、拷問部の連中が虫の息の負傷者を嬲って射精している。そんな風景を
見て私はつくづくとんでもない所に来てしまったなと思った。それにしても、マケイヌ
部は一体どんな活動をしているのだろうか? さっき見た限りではかなりの肉体的苦痛
を味わう事になりそうだ。それを考えると少しばかり憂鬱な気持ちになった。

朝、学校に登校する途中にボウガンで打たれそうになった。暗殺部の連中だ。こう引っ
切り無しに命を危険にさらしていては精神衛上良くないのでこれからは充分に武装しな
ければならないなと思った。後門前に放置してある生首をひょいと飛び越えながら校内
に入ると持ち物検査が行われていた。
「なんだこれは?」「違いますよ」「何が違うんだ?」「パァン!」
風紀員が頭から血を流しその場に倒れると生徒達は何も無かったように歩き始め勘違い
も甚だしい奴を軽蔑した。自分の教室に入るといくつかの机上に花が飾られていた。葬
式ごっこなのか本気なのかは知らないが、教卓の上にもある事を考えるとあながち冗談
でもなさそうだ。私は自分の机に座ると今日の1時限目は反射量子力学である事に気付
き教室を立ち去った。あの科目の授業は必ず死人が出るからだ。私はそんな茶番に付き
合うような甲斐性は持っていない。

540  だれ子ちゃん?  2002/05/01(Wed) 12:29
そのからの私は完全にイカレテいた。私は学校中の水道の蛇口を開けて回り始めた。
「ジャバー」「ジャバー」「ジャバー」「ジャバー」「ジャバー」
こうやってひとつひとつ水道の蛇口をひねってゆくと射精に似た快感がこみ上げる。一
直線に伸びる水の軌跡を眺めているとえもいわれぬカタルシスを感じる事ができた。北
棟の3階まで蛇口をひねって回ると1人の女生徒が肩を怒らせて私に近づいてきて
「アンタ何やってるの!?」
と言った。何も答えずぼーっとその場に立っていると女生徒はさらに怒りを露にして
「何やってんの? 頭おかしいんじゃない? この気違い! 変態! 汚らわしい狂人
! 親の顔が…!」
私は女生徒の髪の毛を鷲づかみにすると腹に膝を食らわせた。
「おううえェ」
と女生徒は胃の内包物を吐き出した。私はそのまま髪の毛を掴んだまま女子便所に連れ
込み鍵を閉めた。
「ビリッビリリッ」「何すんのよ、やめて! やめて!」「ビリリリーッ!」
「キャ…!」「ガスッ! ボグッ!」「チャキ、ガサガサ」「ズブッ」
「………………………」
「ハア…ハア…」「フウー」「グッ」「ガンッ! ガンッ! ガンッ!」
女子便所から出ると水道で手に付着した破瓜血やら鼻血やらの返り血を洗い流し、私は
強姦部に向いているのではないだろうか? と排水溝に流れてゆく血液の混じった水道
水を見つめながら思った。

541  だれ子ちゃん?  2002/05/01(Wed) 12:30
水道で長い時間をかけて手を洗い終わると、私は何もする気がせず色々と考え事をしな
がら校舎を歩き回った。理科実験室の前まで来ると
「アヒィ」「もうやめてくでー」「寒い寒い寒い寒い」「こんなの犯罪だ!」
「もっと風を送れ」「痛い!」「ここんとこ壊死してるか?」「まだだね」
という被験者の下品な悲鳴と淡々とした口調の声が聞こえてきた。中を覗くと何人かの
生徒が凍傷実験を受けさせられている。731部隊の連中だ。この部は人間に馬の血液
を輸血したりペスト爆弾を作ったりなかなか人気のある部だ。しかし、入部時に試験が
あり高度な医療知識が必要とされその門は狭い。医者の息子や資産家など特権階級の家
出身の者が多く、上流意識が強く嫌われている部分もあり暗殺部の格好の獲物でもある。
あまり関わり合いたくなかった。

私はそそくさとその場を離れると保健室に向かった。朝食が悪かったのか酷く胃痛がし
てきて、今すぐ横にならないと死ぬような気がしたからだった。保健室には汚ねえ保険
医のババアが1人おり、私はこれに童貞を奪われたという奴を何人も知っている。こん
なのに童貞を奪われたのでは死ぬしか無いと思い少し不安だった。私は、気分が悪い、
という事をババアに告げるとベッドに入った。30分くらい時間が経ってウトウトし始
めた時だろうか? 私の股間をまさぐるものがあり、目を向けると色気づいた顔したバ
バアが私のベッドに入ってきていた。私は精一杯の力を込めるとババアの顔面を思い切
り殴った。グギッと鼻柱が折れる感覚を拳で味わうと、私の心は酷く落ち着いて眠りに
つく事ができた。

542  だれ子ちゃん?  2002/05/01(Wed) 12:30
授業の終わりを告げる鐘で目が醒めた。時計を見るともう放課後で陽も落ち始めてきた
ようだ。荷物を取りに自分の教室に戻ると酷い悪臭がしており大便まみれの女生徒が死
んでいた。彼女は普段、男子生徒から公衆便所のように扱われる性奴隷だった。彼女は
性奴隷には向かないのか、しまりが良くないとかフェラチオが下手だとか評判は良くな
かった。私も一度、彼女と性行為をした事があったが確かに良い物ではなかった。でも
顔立ちは悪い方ではなく、見ようによっては愛らしくない事も無い。しかし、なんて死
にざまだろう。殺されたのか自殺したのかは知らないが、生きていれば何かしら良い事
があるはずだ、などというセリフは彼女にだけは当てはまらないような気がして私は少
しさびしい気持ちになった。

荷物を回収した私はマケイヌ部の部室へと向かった。昨日は運悪く参加できず、今日こ
そはという気持ちも在って珍しく軽い足取りを取り戻して歩いた。部室のドアを、ゴン
ゴン、と叩いてから開けて中に入ると誰も居なかった。まだ誰も来ていないのだろうか
? と思い、仕方なく置いてあったパイプ椅子に腰をかけると何も考えずぼーっとして
いた。10分程経過しても誰もあらわれず、さすがにおかしいと思い立ち上がると壁に
粗末なプリントが貼り付けてあり「スケジュール表」と書かれてあった。それを見ると
今日は休みだった。軽い失望感を得た私は一気に気力を失い酷く気が滅入った。近頃こ
んな事の繰り返しのようだ。何もすることが無いので私は部室の窓を開けると、沈んで
ゆく太陽に全身を真っ赤に染められながらその風景をずっと見ていた。その夕陽がもっ
とも赤くなる瞬間、私は誰かの断末魔の悲鳴が聞こえたような気がした。

543  だれ子ちゃん?  2002/05/01(Wed) 12:38
学校を出ると陽も沈みきりすっかり薄暗くなっていた。この時間帯、外から見るこの学
校は何か得体の知れないどす黒い悪意の塊のように見えて私は少し気が滅入った。この
まま、こんな所に居たらいつ死んでしまうか分からない。そう思うと、私はすぐそばを
歩く小学生(低学年)の腹を力の限り蹴り上げずには居られなかった。巨大な不安に襲
われた時、それに耐えられず無性に暴力的になってしまうのは私の悪い癖だと他人に指
摘された事がある。ましてや、無力な子供に暴力を振るうなど最低の人間がする事だと。
そう言いながら、そいつは老人を鉄パイプで殴り殺した。その時に浴びた返り血はいま
だに私の皮膚を熱く焦がしているように感じる。私は自転車に乗り学校を離れ、イカレ
タ住民達が暮らす町へと消えていった。途中、何人か人を跳ねた。
自転車で大通りに出てすぐ、子犬が乗用車に跳ねられて死ぬのを見た。その時、長い間
忘れそうで忘れなかった過去の記憶がよみがえった。



544  だれ子ちゃん?  2002/05/01(Wed) 12:38
いつの日だったか、私の友人が車に跳ねられて死んだ。私の目の前で死んじまった。可
哀相だった。でも、跳ねられるように仕向けたのは何を隠そうこの私だった。すみませ
ん。仕方が無いのでそいつの墓を作ってやる事にした。私の住んでいる所のすぐ近くに
ある巨大な神社の森の中。そこに作ろうと思い、私はスコップを持ってそこに行った。
幼い頃、捨ててあった子犬を持って帰ってきたら親が飼ってはダメだとか言いやがった
ので、仕方無くその神社の森深くに穴を掘り、そこを子犬の住みかとして世話をしてい
た。最初の2日くらいは食事の残り物やミルクを持っていってやったが、しかし、私は
ものすごく物忘れがヒドイ。それから2ヶ月もほったらかしにしてしまった。急いで森
に向かうも時すでに遅し。あんなに可愛かった子犬は腐り、蛆虫がたくさんわいて、そ
れはとてもグロテスクで思わず笑ってしまった。可哀相に。子犬は私が無意味に深く掘
った穴を登れずに死んだのだ。だから、私は深い穴という物にトラウマを持っている。
友人の骨を埋めてやる時は、なるだけ浅い穴を掘って埋めてやろうと思った。

545  だれ子ちゃん?  2002/05/01(Wed) 12:39
そんな事を思い出しながら家に帰ると家族は誰も居なかった。とても空腹だったので何
かしら食事でも用意してあるだろうと思い、食堂に入ってみると何も無かった。恐らく、
家族は私にエサを与えるのを忘れているのだろう。あの時の子犬の気持ちを味わいなが
ら、私は何も食べる気が無くなりテレヴィジョンを付けた。すると、精神科に入ってい
た少年がバスを乗っ取り、立て篭もっているという事件が報道がされていた。人も一人
殺しているらしい。その異常少年は刃物で小さな女の子を人質にとって何かを要求して
いるという。テレヴィジョンに出ている人達は、女の子の身柄が心配だとか言っている。
でも私は、きっとその女の子は刃物を突きつけている少年に恋をしているのではないだ
ろうかと思った。ずっと見ていると、少年は警察に捕まってしまい事件は終わってしま
った。女の子は無事だったのだろうか? 
私は空腹感が戻って来ない内に眠ってしまおうと思い布団に入ったが、3時間ほど眠っ
た頃に目が醒めてしまった。私は眠れなくなったので外に出る事にした。



546  だれ子ちゃん?  2002/05/01(Wed) 12:40
外に出る前に買っておいた刃物やスタンガンを机の引出しから取り出すと、ポケット
に入れた。最近、やたらと物騒なのでこういう物も必要だと考え揃えておいた。外に
出ると寒くもなく暑くもなく、ただ生臭いにおいが漂っていて本当にどうしようもな
い所だと思った。歩いて駅まで行くと、青臭い阿呆が各々楽器を手に取ってつまらな
いくだらない歌を唄っていてうるさい。あの連中の貧弱なテクニックから生み出され
る音楽は私の神経を逆撫でさせる。何が「この世で誰かが僕を必要にしているのなら
教えて欲しい〜♪」だ。私は人間を馬鹿にしていると思った。あまりにも腹が立った
ので警察に電話をかけた。
「はい。×××警察署」
「すいません。×××駅前で変質者が暴れてます。死人がいます」
「本当ですか!? 今すぐ参ります」「はい。すぐ来てください」
「あ、あと貴方のお名前は?」「西郡彦嗣です」
私は平然と偽名を名乗ると電話ボックスを出てさっさとその場を離れた。暫く駅から
歩くとパトカーのサイレンが聞こえてきて私は気違いのような薄ら笑いを浮かべた。

そのまま歩き続け、公園の前まで来るとキィキィと何かが軋む音が聞こえた。誰か居
るのだろうか? と思い公園に入ると小さな女の子が一人でブランコに座っていた。
公園に設置されている街灯が煌々と彼女を照らし、幼い影がブランコの揺れに合わせ
て短く伸び縮みしていた。ブランコから足が地面に届いておらず、それはまだまだ幼
い事を察知させた。それを見た私は妙な昂揚感を覚え彼女に向かって歩き始め、何故
か忍び足になってしまうのは我ながら情けないと思った。パキッと音がして私は小さ
な小枝を踏み折ってしまい、その音で彼女は私の存在に気付いた。その瞬間、私の対
人恐怖症が発作のように起こり大量の冷や汗が分泌され始めた。何とか怪しまれない
ようにと思いほほえみを浮かべようとしたが、明らかに気違いの笑みになってしまっ
た。これはもう殺るしか無いと思った。

547  だれ子ちゃん?  2002/05/01(Wed) 12:41
悲鳴を上げられる前に頚動脈を切り裂いてやろうと刃物を握ったが、以外にも彼女は
私に無垢で愛らしいほほえみを返した。逆に私は殺人寸前の凄まじい形相になってい
た。それを見た彼女の表情はみるみる内に恐怖の色に染められ、悲鳴をあげた。
「ウワァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」
私は奇声をあげると走り出し、刃物を血が出るほど握りしめて彼女の腹を刺した。女
の子体はブランコから離れると音も無く地面に落ち、激しく揺れるブランコはギィギ
ィと軋んだ。私は何度も何度も刺した。ぐちゃぐちゃと血と内臓と刃物が擦れ水っぽ
い音を立て、生暖かい血が私の全身に飛び散り、飛び出した内臓が地面にぶちまけら
れ、それでも何度も刺した。そして、私は泣いた。泣いて、泣いて、泣いて、泣いた。
血と臓物の臭いでむせ返りそうになりながら、それでも泣いた。涙はもう枯れ果てた
はずだったのに、まだこんなに残っているとは思わなかった。
私はもう完全にイカレテいた。彼女は私にほほえんでくれたのに。それなのに殺して
しまった。今なら彼女をえいえんに愛する自信がある。でも、もう死んでしまった。
私は死ぬしか無いと思い刃物を喉に刺そうとしたが、痛いのが嫌なので止めた。

それから、泣きながら全速力で走って家に帰った。空は真っ暗闇で私の心の中も真っ
暗だった。血の付いた衣服を捨て、シャワーを浴びて返り血を流した。女の子の血が
シャワーから流れる水に混じり、渦を巻いて排水溝へと流れるのを見て、私はまた少
し泣いた。体中の節々が痛く、精神的にかなりまいっていたのでベッドに入りすぐ眠
った。そして、彼女の夢を見た。目が醒めると枕がひどく濡れていた。

548  だれ子ちゃん?  2002/05/01(Wed) 12:48
超衝撃的連載小説!!


ルーザー 第7話
著者 BECK





酷く頭痛がする。枕に手を当てるとべっとり濡れている。私は何故か昨日の夜、何をし
ていたのか思い出せない。ただ、愛らしい女の子の笑顔だけ不思議と覚えている。その
映像が頭の中で何度も意識化され、そのたび何か酷く胸を締め付けられる思いがする。
不意に手の平に痛みが走り、見てみると爪が食い込んだような傷が有る。まだ生々しく、
破れた皮膚から赤い肉が覗いている。こんな傷いつできたのだろうか。何とか思い出し
てみようとするが頭痛が酷く、上手く頭が働いてくれない。何か意図的に記憶の再生を
封じる機能が働いているようにも感じる。
これ以上は考えても無駄だと判断し、登校する準備を始めた。階下に降りて行くと両親
が居ない。何処に行ったのだろうか? それを考えると、さっきと同じように酷い頭痛
が走りもう何も考える気がしなくなった。今朝は何も食べる気がせず、湯を沸かしコー
ヒーを入れて飲むが苦過ぎてとても飲める物ではなかった。そのせいか、酷い吐き気を
催し頭痛と相成って死にそうだ。さらに、筋肉痛のような痛みが全身に走っている事に
気付いた。何故こんなに体調が悪いのだろうか。私の疑問はいつも解消されたためしが
無い。

玄関を出て空を見ると酷く曇っていた。私はここ何日も晴れた空を見た記憶が無い。私
は何時までこんな日が続くのだろうかと思った。重いペダルをこぎ自転車を走らせ始め
た。駅を横に通り過ぎ、近くの公園の前に差し掛かるとそこにはパトカーが止まってお
り沢山の人だかりができていた。私はそんな物はまったく気にせずひたすら自転車をこ
いだ。どうせ馬鹿が首でも吊って醜態を晒しているのだろう。私には不思議と自殺願望
は無かった。死んだら確実に地獄に落ちるというのは当然だが、それ以前に火葬される
時に何だか痛みを感じそうだったから。死ぬ時は独りになって腐って土に返ろうと思う。
でも多分、私は碌な死に方はしないはずだ。例えば刑死か獄死。

549  だれ子ちゃん?  2002/05/01(Wed) 12:48
学校に着くと自転車を駐輪場に持って行き、邪魔だった他人の自転車を何度も蹴飛ばし
倒して停めた。その様子を校舎の窓から、気違いを見るような目で私を見ている女生徒
が居た。必ず犯す。
自分の教室に入ると私以外の生徒が全員そこに居た。その時、何故か異様な疎外感を感
じた。私はこのクラスに居る人間が全員大嫌いだった。常々まとめて死んでくれないか
と思っていた。そうなったらこのクラスの生徒は私だけになる。そうなったら恐らく学
校を辞めるだろう。くだらない矛盾を感じながら自分の席に座ろうと思ったが、誰かが
私の席に座っていた。私は対人恐怖症なので、どけ、の一言が言えない。その代わり頭
の中で殺す。仕方が無いので水でも飲みに行こうかと思い水道に向かった。蛇口をひね
ると冷たい水が流れ出しそれで手を洗い飲んだ。その冷たさを感じるたび、私はこの世
で一番必要な物は水道なのだと実感した。

教室に戻ると教師が来ていた。私はこいつは頭が悪いと思っている。なので授業が始ま
っても何も聞かず、ただ下を向いてぼーっとしていた。暫く時間が経ち、ふと顔を上げ
てみると私以外の生徒達は一心不乱に前の黒板に書かれている文字を写している。やは
り、私はその時強烈な疎外感を感じた。私は独りだ。ずっと時間が過ぎるのを待った。
それから3時間以上もの疎外感を絶え、また少し強くなったような気がした。

550  だれ子ちゃん?  2002/05/01(Wed) 12:49
昼食の時間になり、相変わらず何も食べる気がせず屋上に上がってみた。屋上には大し
た数の人は居らず、3人くらいの男子生徒が談笑していたり、恋人同士がお弁当を食べ
ていたり、ヘッドフォンかけ音楽を聞いている者など極有り触れた光景だった。私は柵
にもたれていると、何かぶつぶつと話すような声が聞こえてきた。
私の数メートル先に居る輪姦されて気の触れた女生徒が何か独り言を言っている。レイ
プなど日常茶飯事のこの昨今、彼女はそんな事で簡単に頭がおかしくなってしまった。
ちなみに、私は彼女が犯されるのをずっと見ていた。あまりに抵抗するので男子生徒達
から何度も顔を殴られ、鼻が折れ歯が折れぐったりした所を何人もの人間に犯された。
すべての人間が姦り終わった後、彼女は血液やら体液やらで酷い有様だった。彼女は大
変美人で、私は密かに好意を持っていた。でも何故か助けに入ったり人を呼んだりしな
かった。別に彼女の汚れる様を見たかった訳ではないが、何故か何もしないでずっと見
ていた。それは、多分、私が気違いだからだと思う。

私はまともな神経を持たない人間になら発作が起こらないので、暇潰しに彼女に話しか
けてみる事にした。

551  だれ子ちゃん?  2002/05/01(Wed) 12:49
この屋上から見える街の景色は最悪だった。この街の自律神経は設計段階から狂わされ
ている。まず駅前にはコミュニティー広場なる浮浪者の掃き溜めがあり、そこから放射
線上に道路が置かれ、同心円状に商店や民家が立ち並び、そこから排泄される汚物のよ
うに人間達が溢れ出し、掃き溜めへと向かってゆっくり流動する。自転車に乗った女の
子と散歩している老人の距離がだんだん離れてゆくのが見て取れ、自転車は信号で止ま
り二者間の距離は同じになった。この街ではどんなに急いでも、すべて均等の基に統合
されている。私はそんな理不尽な仕打ちに耐えるような甲斐性は無い。私はこの街こそ
無意味に深く掘られた穴だと思った。

彼女はこの人間を馬鹿にした景色をいつもずっと見ているようだ。己の穢れた肉体と比
べて世界を呪っているのかもしれない。私の中に、親近感、という言葉ふと浮かび、何
か髪の毛を切った朝のような爽快感が込み上げた。私はそんな気持ちを彼女に話したい
ので、やあ、みたいな事を言って、はにかんだ笑顔を作ってみせて彼女の傍に立った。
すると彼女は俯いて何かぼそっと言った。
「え、なんて?」「…うぜぇ……クズ…」
私はゲロを吐いた。今までの100倍もの対人恐怖症の発作が起こり、精神的な嘔吐感
が津波のように押し寄せてきて、何も入っていない胃から大量の消化液を吐いた。まさ
か、私は拒絶されると夢にも思っていなかった。何が髪の毛を切った朝の爽快感を彼女
に話したいだ! 私は完全にイカレテいた。


552  だれ子ちゃん?  2002/05/01(Wed) 12:49
「この糞雌豚絶対殺してやるからな! その前にテメエのケツの穴から腸にゴキブリの
卵詰め込んで腹ん中で孵化させてやるからな。テメエの恥垢臭せえ口とチンポぶち込ま
れたケツの穴からゴキブリが這い出てくるんだ。ひゃはははは、こりゃ見物だぜ、ひひ
ひひひひ。死んでからも犯してやるからな、死姦だ死姦。テメエの糞不味い肉切ってう
なぎに食わせてやるからな。そのうなぎを俺がうな重にして食ってやる、アハアハハ」

私はゲロまみれになりながら、目に大粒の涙を溜めてそう言い彼女を突き飛ばし走って
逃げ出した。その場で殺さなかったのはあまりにもショックが大きかったからだろう。
私は生まれて始めて自己嫌悪という物を感じた。しかも、俺なんて一人称を使ったのは
何年振りだろうか? そこには14歳の僕が居たような気がする。あと、私は屋上で幸
せそうにお弁当を食べている恋人達に悪い事をした気がした。

それから全速力で階段を降り、途中片足の無い重度身体障害者の生徒とぶつかり階段か
ら叩き落してしまった。私はそれでも全速力で階段を降りた。さらに北棟まで走り一気
に5階まで駆け登った。そう、私はマケイヌ部の部室へと向かった。完全に息が切れ、
ゼイゼイと荒い息を吐き続け心臓マヒか何かで死にそうな気がした。私はノックもせず
、走ってきた勢いにまかせて思いきり部室のドアを開いた。中には何人かのマケイヌ部
員が居り私に目を向けた。

553  だれ子ちゃん?  2002/05/01(Wed) 12:50
僕の名前は西郡彦嗣。198×年生まれの蟹座。
僕は俗に言う早熟と呼ばれ幼少期を過ごした。自分ではそんな事はないと思っていたけ
ど、周囲の人間に口々とそう言われた。ただ単純に僕は無口なだけだった。知らない人
と話すのがすごく苦手だった。だから、ずっと黙っているとませているとか大人びてい
るとか言われた。それは、子供は明るくて元気で無垢なものという彼らの身勝手な先入
観で作られた幻想だった。そういう思い違いによって早熟である僕は作られた。根本的
に僕は作られた人間だ。両親のSEXによって選択の余地も無くこの世に生きる羽目に
なった。それは本当に幼い頃から思っている。
そして、私の自意識は屈折だらけのまま成長していった。

9歳小学校3年生の時、僕の人生を揺るがす事件が起こった。独りで色々な所を散策す
るのが好きだった僕は、近所の森の中を分け入って遊んでいた。すると、ビニール袋に
包まれた何かが落ちていた。興味本位で開けて見ると、中に入っているのはいわゆる成
年コミックという物だった。まだ性のいろはを欠片も知らない頃の事だった。
それなりの罪悪感を感じながら読んでいくと、変な服を着せられた女の人が口に男性器
を突っ込まれたり、僕くらいの小さな女の子が大人の男に浣腸され排便させられていた
り、両手両足を切られた女の人が喜んでいたり、女の人が泣きながら何人もの男に性器
をお尻に突っ込まれていた。それはSMスカトロ人体改造ロリータ強姦などオールラウ
ンド鬼畜物の本だった。僕はその時まだ幼いながらも、これは人間の裏の部分なのだと
直感で分かった。同時に私は非常に性的な興奮を覚えていた。

554  だれ子ちゃん?  2002/05/01(Wed) 12:50
僕はその本を全部家に持って帰り、絶対に見つからないように自分の部屋に隠して読み
まくった。最初は気持ち悪くて何度か吐きそうになったけど、少しずつ慣れてきて僕は
こういうものを見ていると非常に心が安らぐようになった。僕は9歳にしてSM幼女性
愛スカトロ強姦人体改造といった変態性欲の存在を知った。そして、すぐ自慰も覚えた。
僕はマンガの通り自分の性器からまだ白濁としていない粘着性の液体を射出し、それが
とても気持ちの良いものだと分かった。
それから、何年後かのちに性的不能になるまで僕は毎日オナニーをした。別に後ろめた
い気持ちになった事は無かった。ただ、僕の精神はどぶかわに晒されたように汚染され
ていった。

中学生になると、元々あった対人恐怖症の度合いが酷くなった。誰にも話し掛けられず、
話し掛けられても僕は何も答えられなかった。人を前にすると冷や汗が出てきて、ども
ったり声が裏返ったりして支離滅裂な事しか言えず、変人と思われ2度と話し掛けられ
る事は無かった。最初は辛かったけど、僕はだんだんそういうのに慣れていった。独り
が好きだったし、その時僕は、自分は周囲の人間より1段上の特別な人間だとありがち
な錯覚を抱いていた。幼年期の終わり、その意識が崩れてゆく経過は悲惨だった。何度
も自分で自分を殺す思いをした。そして、ボロボロになってどん底で僕が言った言葉は
オレハマケイヌ、オレハマケイヌ、オレハマケイヌ、オレハマケイヌ、オレハマケイヌ
俺はその時、両親を殺す夢を見た。

555  だれ子ちゃん?  2002/05/01(Wed) 12:50
何人ものマケイヌ部員を前に私は名乗った。
「西郡彦嗣です」
聞こえるかどうか分からない程の小さな声でそう言った。逆流した胃液のせいで酷くの
どに痛みが走った。



556  だれ子ちゃん?  2002/05/01(Wed) 12:51
歓迎されないのかもしれない。私はそんな気がしてガクガクと足が震え始めた。自暴自
棄でここまで来た物の、今の私の精神状態は極めて危険な位置に達していた。もし銃を
持っているのなら錯乱して泣きながら全員撃ち殺してしまうだろう。殺したくて仕方が
無かった。私は極度の不安に陥ると、すぐその不安の元をとにかく目の前から消し去っ
てしまおうとしてしまう。大抵その時、血が流れる。
私は彼らを殺したくなかった。嫌いではなかったから。私の精神に大量のノイズが走り、
精神汚染率がレベル2に達した事が分かった。このままでは私の精神が崩壊してしまう。
そして、私はまた逃げた。とにかく人間が一人も居ない所に隠れようと思い無我夢中で
走った。私はもう何が何だか分からなくなっていた。

気が付くと、私は深緑色に濁ったプールに浮かぶ女生徒の死体を見つめながらプールサ
イドに座っていた。その女生徒の死体はびっしりと藻が張った水の上でゆらゆらと揺れ、
その上を何匹ものミツバチが飛び回っている。何故ハエではないのだろうかという疑問
は、以前読んだクイーン・ビーというマンガを読んだ事があるのでたいして気にならな
かった。
私はプールサイドに落ちている小さな石を拾い、死体に目掛けて何個も投げた。彼女は
この学校でただ一人居る私の友達だった。こうやって、たまに見に来て小石を投げてや
るのがこの学校で落ち着ける数少ない時間のひとつだった。春が過ぎ夏が来れば、彼女
はこのプールから撤去される。私はこの学校でただ一人の友達を失くす事になる。夏な
ど来なければ良いと思った。


557  だれ子ちゃん?  2002/05/01(Wed) 12:51
私は夏が大嫌いだった。夏休みとかいうくだらない行事も大嫌いだった。夏になるとは
しゃぎ出す馬鹿を全員殺したかった。海に行って薄汚れた肉体をさらけ出して汚い色に
変えるのが死ぬほど嫌だった。私は気違いみたいに肌の色が白く痩せていた。そんな貧
弱な体をさらすのがとても嫌だった。暑いのが大嫌いだった。汗をかくのが死ぬほど嫌
だった。私は毎年すぐクーラー病にかかり毎日ゲロを吐いていた。

夏にはろくな思い出が無い。
私が初めて人を犯したのも夏だった。それは、太陽がギラリと焼き付いた7月22日の
15時、その日は私の誕生日だった。私は近所の神社で虫取りアミと虫かごを抱えて楽
しそうに遊んでいる、元気そうな小学生の男の子に欲情してしまい無理やり森に連れ込
んだ。腐葉土に押し倒して服を脱がそうとすると、さすがに男の子らしく抵抗が激しい。
私は少し苛立って彼を何度も殴り回した。しかし、腹をやったのがまずかったのだろう
か? 彼はぐったりとしてしまった。


558  だれ子ちゃん?  2002/05/01(Wed) 12:51
それでも私はズボンを脱がし、うつ伏せに寝かせて彼のアヌスに自分の性器を突っ込ん
だ。私はひたすら腰を律動させ、蒸し暑いせいかダラダラと汗が大量に流れて気持ち悪
かった。彼はただ「うっ」とか「ううっ」とかうめくだけで、ただのマグロだった。
射精は気持ち良かったが、後味は最悪でとても気が滅入った。もう少しいい声で鳴いて
くれても良かったと思い、彼の髪の毛をつかんで顔を起こすと瞳孔が開き口の端からは
よだれが垂れていた。いつ頃から死姦になったのだろうか。私は酷く疑問に思った。

その日はその事ばかり考えていた。陽も暮れ始め、家路へと急ぐ子供達が何人も私の前
を駆け抜けていった。その時、私はあまりにも注意が散漫になっていたのだろう。道路
に出ると、乗用車に跳ねられた。酷く頭を打ち骨も何本か折れた。思えば、あの日から
私の頭はおかしくなってしまったのかもしれない。よりによって誕生日の日にだ。夏が
近づくといつもこの事ばかり思い出させられる。
私は薄汚れた五月空の真下で、そんな事を考えながらプールサイドに座っていつまでも
彼女を眺めていた。太陽は沈み夕陽がプールの水面に反射してキラキラと赤く輝き、私
の精神はゆっくりと平静を取り戻していった。そして「あっ人が殺したい」と不意に呟
けるほど、いつもの私に戻っていた。取り敢えず、明日は屋上に登ってあの女を殺して
おこうと思った。

559  だれ子ちゃん?  2002/05/01(Wed) 12:52
幼稚園児の頃、片足の無い人形でよく遊んでいた。私は男のくせによく人形で遊ぶ子供
だった。私は一人遊びが好きだったし、何より人形は自分の思い通りに動かせるからだ
ろう。人形の片足は自分でもぎ取った。私は何かをもいだり千切ったりするのが大好き
だった。よく虫を捕まえては羽、触角、四肢、と指でつまみ一本一本もいでいった。そ
の虫は胴体だけになり、動けず目も見えず、何もできないままで私は放置してやった。
次の日に見てるとたいてい死んでいる。
本当は死んでいるのか生きているか、よく分からなかった。どうせ、動けないのからど
っちも変わらないのだが。穏やかな気持ちでそれを踏み潰すと「パギ」とか「ブヂ」と
か音がして、割れた外骨格から緑色やわけの分からない色の体液をはみ出させる。それ
を見て、たまには墓を作ってやったりもした。ただ、生き物を殺して墓を作るという行
為をしてみたい、という気分の時だけに。

私は学校の屋上で寝転び、地面を這う名前も知らない小さな虫を指で圧死させながらそ
んな事を思い出していた。
私は明日の早朝、屋上に登って来たあの女を殺すため今日はここで夜を明かす事にして
いる。そしてただ、煌煌と輝く月に見下ろされながら深い藍色の空を見上げていた。あ
くびをすると大量に涙が流れ出し、拭かずにそのままにしておいたら乾燥して目から頬、
顎にかけて白い涙の軌跡ができた。それを触ると薄い膜のような物がポロポロと落ち、
幼い頃に何らかの理由で泣きじゃくったまま眠り、目が覚めるとこのような跡がたくさ
ん付いていた、という記憶を甦らせた。


560  だれ子ちゃん?  2002/05/01(Wed) 12:52
暇潰しに記憶の糸を手繰り寄せていると、何をしてそうされたかは覚えていないが、そ
れは父親に折檻を受け、家の外にある古い納屋に一晩中閉じ込められた時に流れた涙の
記憶である事が分かった。
私は饐えた臭いのする木造の汚い納屋に引き摺られ「ガチャガチャガチャ、ガダッ」と
重い引き戸を閉め鍵をかけ、父は泣き叫ぶ私などまったく気に止めないかのように無言
で去っていった。中はとても気味が悪く真っ暗で、完全に視覚は遮断され、ただでさえ
気の小さな幼少の私には気が狂いそうな恐怖だった。私は納屋の戸を痛いほど何度も叩
き、泣きながら何度も大声で謝り続けた。やがて涙で嗚咽が酷くなり、何も声が出せな
くなった。その時にできた涙の跡と止まらない嗚咽が、今の私の自立心を酷く歪んだ形
で形成させた。

私の中で憎悪や恨みや哀しみや辛さがぐちゃぐちゃに混じった感情が沸き起こり、居て
も立ってもいられず屋上を降りた。誰も居ない校舎の廊下を全速力で走り、731部隊
の部室の前で止まるとドアを蹴破って中に入った。
乱暴に引き出しや実験台を漁りメス等の切開用具を手当たり次第にポケットに詰み、大
きな棚から何本かの注射器と薬品の入った褐色瓶をかき集めて自分のバックに詰め込ん
だ。さらに置くのもうひとつのドアを蹴り壊して進んだ。狭い部屋の中央にある机の上
に「ペスト爆弾」と書かれた箱が置いてあった。こいつら完成させていたのか、と思い
中を開けてひとつ取り出した。とても重く1個持つだけで精一杯だった。これを頂いた
私はさっさと部屋を出て、水道で腹一杯水を飲んで再び屋上へと戻った。

561  だれ子ちゃん?  2002/05/01(Wed) 12:52
屋上に登り盗んできた薬品類を並べてみると、アルコール、塩酸、過酸化水素(オキシ
ドール)、クロロホルム、水酸化ナトリウム、といったそれなりに使い道のある物だっ
た。それぞれの薬品の蓋を開けてみると、揮発し気体と化したいくつかの薬品の臭いが
混じり異常な悪臭がしてすぐに蓋を閉じた。少し吐きそうになった。
それから、バッグからばらばらと何本ものメスを取り出して数えると6本あった。その
うちの4本を右手の指に挟んで鉤爪のようにして格好付けたりして戯れた。とりあえず、
明朝のための殺傷道具を揃え満足した私は、注射器にアルコールを吸わせて左の二の腕
をベルトで縛って静脈を浮き出させると、針を刺してアルコールを流し込んだ。あっと
いう間に酔いが回り、頭がぐらぐらしてきた。私はヘラヘラとにたつきながらペスト爆
弾のつるつるとした表面をさすり、すぐに眠り込んでしまった。



562  だれ子ちゃん?  2002/05/01(Wed) 12:53
私は夢を見ていた。夢の割には意識がはっきりとしていて、スクリーンの中で演じてい
る自分とそれを見ている自分という二つの意識を持った奇妙な夢だった。私は薄暗い家
の階段を登っていた。どこか見覚えのある家だった。2階に上がり目の前にあるドアを
開けると、そこは自分の部屋だった。私は上着と帽子を脱いでベッドの上に放り投げ部
屋を出た。階段を降り、洗面所の前で足を止め、手を洗って水を飲んだ。また歩き出し
居間を越えて廊下を歩き、両親の寝室前で止まると、そのドアノブに手を伸ばした。
ガチャ。少しドアを開けると、わずかな隙間からアルカリ性の生ぐさい臭いが鼻腔を突
いた。ドアを半分くらい開けて中を覗くと、壁には大量の血液が飛び散り、床にはどす
黒い赤の小さな水溜りができていた。

私は部屋の中へと進み、ベッドを見ると、頭を割られ肉と内臓がはみ出るくらいに腹部
をえぐられた両親の死体があった。父も母も何か酷く驚いたように、大きく目を見開い
たまま死んでいた。ベッドの端には、恐らくそれを使って殺したのであろう、血まみれ
の刃物と金属バットが置かれてあった。
その二つの凶器は私の物だった。刃物は家族で旅行に行った時、母に買ってもらった物
で、金属バットはスポーツが苦手だった私に上手くなるようにと小学生の時、父が買い
与えてくれた物だった。


563  だれ子ちゃん?  2002/05/01(Wed) 12:53
私は何故だかとても悲しい気持ちになり、その刃物と金属バットを拾い上げた。すると、
ぬるりとした生温かい血液の感触がして、それはまるで絵を描いている途中あやまって
手に塗り付けてしまった絵の具のように、私の手を赤く染めた。暫く刃物と金属バット
を見てベッドの上に戻し、手に付着した血液を自分の服で拭うと白いシャツが潰れた手
形のように血で赤く汚れ、まるでホラー映画で見る殺人鬼のようだと思った。

私が母と父の死体をベッドから引きずって寝室を出たところで、夢は終わった。目が覚
めて意識が戻るに連れて、鈍い頭痛を感じ始めた。酷く二日酔いしたようだ。私はフラ
フラと立ち上がり、少し風に当たろうと屋上の柵にもたれかかると、真っ赤な朝焼けが
視界の真中に入った。これは夕焼けなのではないのだろうか? と錯覚を起こすほどそ
れは赤かった。それを見ようと頭を斜め上45度に上げると猛烈な頭痛と吐き気がして、
少し吐いた。
私は水道で顔を洗って酔いを覚ませると、塩酸をビーカーに移し入れメスを制服の内ポ
ケットに忍ばせた。用意はできた。後はあの女をここに来るのを待つだけだった。。


564  だれ子ちゃん?  2002/05/01(Wed) 12:53
すっかりと朝になり、新聞配達の二輪車の音が近付いて来て止まり、また遠ざかってい
った。私はベンチに座ってメスをいじくったり、いつの間にかできていた腕の小さなす
り傷にオキシドールを付けて消毒したりしていた。すると、屋上入口のドアから階段を
上がってくる足音が聞こえ始め、ドアが開きあの女が入ってきた。
彼女は私の存在などまるで気に止めず、いつもの様に屋上の端の柵へと向かった。私は
まったく穏やかな気持ちで近づいて行き、それでも私には何の注意も払わず、彼女の名
前は忘れたが、名前を呼んでこう言った。

「お前には幼児の破瓜以上の苦痛を与えてやる」「ガスッ」
いきなり彼女はスパナで私の頭を殴りつけてきた。激痛が走り額から血がダラダラと流
れ落ちてきた。私は何が何だかまったく理解できなかった。何故、何もしていない俺が
こんな目に遭わなければならないんだ。ふざけるな、こんな理不尽な事が僕以外に許さ
れて良いはずが無い。
「ああっあああっあっあっあっ」
私は気が動転して、ビーカーに入った塩酸を彼女の顔にかけた。「ジュッ」という音が
聞こえ、見る見る内に彼女のきれいな顔が醜く焼け爛れていった。私は頭から流れる血
が目に入り、それをほとんど見る事ができなかった。そして、頭を殴られたショックで
腰が抜けてその場にへたり込んでしまった。
「痛い痛い痛い、畜生よくもやったな。ざまあみやがれ、なんてツラだ。ああ、痛てぇ」
私はもう死にそうな感じがしてそんな事を言い「アハアハハ」と笑って仰向けに倒れた。

私はこのまま死ぬのではないだろうかと思っていると、いつの間にか屋上の柵を越えて
外側にいる女が目に入った。そして、彼女はこっちを振り返る事も無く、ふわっと風に
乗るようにしてそこから落下していった。何秒かが過ぎて「グシャ」という音が聞こえ
た。私はそれを聞いて、それが何故かとても愉快な事に思えて、気違いのように笑った。

565  SAGE  2002/05/01(Wed) 13:24
SAGEEEEEEEEEEEEEE
566  だれ子ちゃん?  2002/05/01(Wed) 16:21
age
567  だれ子ちゃん?  2002/05/01(Wed) 21:49
コピペはもういい
568  だれ子ちゃん?  2002/05/02(Thu) 09:05
そうだよ。
569  だれ子ちゃん?  2002/05/02(Thu) 14:13
全く
570  だれ子ちゃん?  2002/05/03(Fri) 00:09
どの辺がシロッコ???
571  だれ子ちゃん?  2002/05/07(Tue) 17:21
マルチが小説かくとか言ってた話はどうなったよ?
572  ナギ  2002/05/07(Tue) 23:55
つーか何故ageる?
573  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 12:10
「銅鑼えも〜ん!」
やれやれ。またのび太君苛められたな。
いい加減漏れも未来に帰りたいヨ。
銅鑼えもんはドアの外から聞こえるのび太の声に
いい加減うんざりしながら読んでいた漫画を閉じた。
「銅鑼えもん!聞いてよ。スネ夫とジャイアンが!」
「わかった、わかった。つーか落ち着け。」
「スネ夫がね新しいパソコンを買ったんだ!」
「人の話聞いてるか?つーか何言ってんの?」
「ひどいんだよ〜うわ〜ん。」
やれやれ。

落ち着いたのび太に話を聞いてみるとこういう次第だ。
「今日の帰り僕のニューマシーンを見に来ない?」
放課後の教室でスネ夫がのび太とジャイアンに声をかけた。
「僕の従兄弟の大学生が自作してくれたんだよ。
 最新構成だぜ。フォトショップなんて一秒で開くよ!」
「おう!見に行くぞ!」
「僕も僕も!」
毎回イヤな思いをするのは分かり切っているのに
なぜそこで見に行くのだろう?バカだからか?
スネ夫の家に着くとスネ夫ご自慢のプラモデルアトリエの
一角にそのマシンは置いてあった。
モニタは液晶17インチと21インチ。
マシン本体はフルタワーケースだ。
見ただけで金がかかっているのがわかる。
574  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 12:11
「マシン構成はpentium4、1.7GHz
 アスロンも早いらしいけど動画いじるんなら
 ペンチだよね〜。
 メモリは積めるだけ積んで4GB
 HDDはRAID0+1で100GB
 フルSCSIも考えたけど意味がないからやめたよ。
 ビデオカード、キャプチャボードはカノープス。
 Power DVD Producer/DVRex-RT Professionalだからね。
 サウンドカードは無難にSound Blaster Live! Platinum
 ケースはもちろん銅製だよ。」
「何がなんだかわからねぇけどとにかく凄いんだろ?」
「IEEEで僕のジオラマをキャプチャしてね。
 来年はオスカー像を狙うつもりさ!
 もちろんジャイアンも手伝ってよ。」
「おう!任せとけ。」
「ぼ、僕にも手伝わせてよ〜!」
「え〜?のび太に?」
「のび太はやめておけよ。」
「なんで?どうして!?」
「だってのび太はヘマばかりするからな。
 僕の大作を邪魔してほしくないし。」
「そうだそうだ。のび太は帰れ。」



「と言う訳なんだ〜。」
銅鑼えもんはスネ夫の言う事にも一理あると思った。
と言うかスネ夫の意見に賛成だった。
こいつにPCが扱えるわけはないし、
他の事でも役に立ちそうもない。
「銅鑼えも〜んパソコン出してよ〜」
ほらきやがった。ウゼ〜
だいたいこんなやつ教育し直しても無理なんだよ。
以前セワシ君と話し合ったけど
たとえ非合法だとしても
ヒトゲノムいじった方が早いんじゃないだろうか?
ただセワシ君は
「さすがにそれは俺が生まれなくなるかも知れないから。」
と拒んでいたな。関係ねぇよ。
やって見なきゃわかんないジャン。
夜寝ている時にいじっちゃえば良いんだし。
ただ見つかると時間懲役刑だ。
TPが急行してきて遠い昔に放置されてしまう。
持っていける物はナイフ一本。
さすがにきついよな〜。死刑になった方がマダマシ。
しかしロボットに死刑は適用されない。
575  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 12:12
「ねぇ!聞いてるの!?」
「え?何だっけ?」
「パソコンだよパソコン!出せるの出せないの?」
「あ、そうかそうか。」
「まったくー。耳がないからって
 聞こえないふりしないでよ〜」
コノヤロウ。机の引き出しあけて今すぐタイムホールから
ディラックの海に投げ込んでやろうか?アン?
「ごめんごめん。でもパソコンはないなぁ。」
「え〜?未来のパソコンとかないの?」
「未来ではパソコンなんて使ってないんだよ。」
「へ?」
「みんなPDAを持ってる。
 それに携帯、テレビ何でもついてる。
 だからパソコンなんて使わないんだよ。」
「仕事とかでも?」
「仕事で使うのは端末だけど今のパソコンとは違うな。
 ゴーグルみたいのか対話型かだよ。」
「じゃあゲームもしないの?」
「ゲームもゴーグルタイプだね。」
「それじゃあパソコンは?ないの?ダメなの〜?」



「いや、何とかなりそうだよ。」
「え?ホントに?」
ああ、こいつはホントにウゼェ。
アシモフのロボット三原則なんて未だに守らされてなければ
今すぐにでもこいつぶっ殺して死体を
虚数空間に投げ込みたい。
しかし俺たちロボットには査定って物がある。
人間が閻魔様に裁かれて地獄行きになるように
俺たちも良い事をすればステージがあがって
新しいハードにプログラムを組み込んでもらえる。
うまくいけば中央生体CPUの一部分になって
人間世界を操れるようにだってなる。
普段ごろ寝ばかりしているように見えるけど
電気羊の夢ばかり見ているわけには行かないのだ。
「のび太君貯金はどれぐらいあるの?」
「ええ!?パソコン買うつもり?
 貯金なんて300円しかないよ。
 今月の小遣いは使っちゃったし。」
「300円か。仕方がない僕もへそくりを出そう。」
しょうがねぇな。俺の取って置きのペリカを出すか。
どらやき買おうと思ってたのに。それだけが楽しみなのに。
「2300円。これだけあれば何とかなるかな?」
「え〜?64メモリも買えないよぅ」
「まぁ黙ってついておいで。」
576  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 12:13
俺たちはタイムマシンに乗って5年後へ急いだ。
「そんな所へ行ってどうするの?」
「5年後の秋葉へGO!」
「5年後にはパソコンが2300円で買えるの?」
んなわきゃあない。

秋葉についたらジャンク屋へ向かう。
「あれ〜?銅鑼えもん。ここ秋葉じゃなくて
 虎ノ門じゃない?東京タワーがあるよ?」
「ああ、今計画中のやつだろ。秋葉タワー。」
秋葉原周辺はすっかり再開発が進んで
小綺麗なビルが建ち始めている。
「ジャンク屋なんか行ったってパーツも買えないよ!」
「パーツなんか買わないさ。本体とモニタ買うの。」
「ええ!?2300円で?」
ジャンク屋に入ると2001年現行機種が型落ちとして
所狭しと並べてある。
「おじさん!動作無保証で良いから
 組んである一式ない?」
「ああ、この間余ったパーツかき集めて作ったけど
 動かないやつがあるよ。たぶんCPUが逝ってるな。
 たぶん無理なクロックアップしたんだろ。
 メモリも怪しい。HDDは音はするけど動かない。」
「それ頂戴!1000円で。」
「う〜ん。まあ良いか。」
「ついでにモニタも頂戴。出来れば液晶で。」
「壊れてるので良いのかい?」



モニタとPC併せて1500円で手に入れた。
「さあ、帰ろう。」
「銅鑼えもん。こんな古いの動かないじゃないか。」
「おいおい。pentium4、2GHzだぞ。
 おまけにGeForce5、HDDも150Gある。
 メモリだってPC2100 DDR SDRAM 1Gだ。」
「だけど壊れてるんだろ〜?」
「君はタイムふろしきを忘れたの?」
「あ!そうか!」
こいつは家から出ないで引きこもってた方が
世の中のためかも知れないな。ああ、未来に帰りてぇ。
577  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 12:14
「でもこんなパソコンが壊れているとはいえ
 1500円で買えちゃうんだね。」
「ムーアの法則って知ってるかい?」
「うん。人差し指がサインで親指がコサイン
 中指がタンジェントだろ。」
「???・・・なんだそれ?
 まぁ良いや。ムーアの法則ってのは
 CPUの進化速度の話なんだけど
 ここ数年崩壊したって言われてたんだ。
 それが日本企業のバクテリアによる
 集積回路敷設技術開発によって
 さらに加速化したのさ。」




「さっぱりわからないけど。」
「とにかく現行のPCは電気ばっかり食って
 熱ばかり発散する電熱器みたいな物だから
 安くなってるのさ。家電リサイクル法も
 それに拍車をかけてただ同然。
 むしろ売る時は金を払う事の方が多いよ。」
「ふ〜ん。」
こいつに教育を施している間にタイムマシンは
2001年についた。机から出て早速ポケットから
ジャンクPCを取り出した。
「銅鑼えもん。タイムふろしき!早く早く〜」
全くウゼェな。
「あんまり時間を戻すと石油とゲルマニウムの
固まりになっちゃうぞ。」
「わかってるって。」

風呂敷をはぐとPCは新品同様、真っ白になった。
「さて電源を入れてみるか。」
配線を繋いでやって電源を入れてみた。
やった。案の定AWARD BIOSの画面が現れた。
モニタもPCも正常に動いているようだ。
だが、OSが入っていないらしくそこで止まってしまった。
578  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 12:15
「これは困った。」
「どうしたの?」
「OSが入っていないんだよ。」
「ええ?じゃあこのままじゃ動かせないの?」
「ソフトが入っていないとただの箱だからねぇ。」
「そうだ!タイムふろしきで
 ちょっとだけ先に進めれば良いんじゃない?」
「!! 君、頭良いね。」
早速タイムふろしきを裏返しにしてかぶせて
すぐにはずした。すると今度はOSが入った状態になり
すんなりとWin2kのロゴが現れた。
「良し良し。」
だがマシンが起動して驚いた。
壁紙が何か美少女ゲームのキャラクターになっている。
こ、これは!もしかして。
スタートメニューを見てみて驚いた。
18禁ゲームが山のように入っている。
このPCの前のユーザって一体!?
「どうしたの?」後ろからのび太がのぞき込む。
「い、いやダメみたいだよこのOS。」
さすがにこれは教育上まずい。
ちょっと惜しい気もするがタイムふろしきをまたかけた。


「う〜ん。どうしようか?」
「スネ夫の家へ行ってOS借りてくるよ。」
「そ、そりゃまずいだろ。」
「なんで?」
「違法コピーって言ってね…君、著作権って知ってる?」
「ナニソレ?強いの?」
「とにかくソフトはコピーしちゃダメなの!
 ん?待てよ。そうか。良し。
 スネ夫にOS借りてきてくれ。」
「わかった〜」

579  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 12:16
スネ夫の家に行くとなぜかスネ夫は
OSをすんなり貸してくれたらしい。
変だな。いつもはあんなにケチなのに。
まぁ良いさ。
「ふえるミラ〜!!
 これでOSを増やせば良いのさ。」
「でも銅鑼えもん、それはコピーじゃないの?」
「これはコピーじゃない。正規品だよ。
 ほらマイクロソフトのロゴも入ってるし
 認定証もシリアルもついてるだろ。」
「確かに。」
「ゲイツだってこれは正規品だって言うよ。」



コピー…じゃなくて『増やした』OSを早速
インストールする事にした。
だがCDはOSを認識してくれない。
おかしいなぁ。ちゃんとCDbootに設定したし
win2kだからこれで良いはずなんだけど。
「ああ!銅鑼えもん。このCD逆なんじゃ?」
「ちゃんと表にして入れたよ。君じゃあるまいし。」
「そうじゃなくて鏡だから逆になってるよ!」
「!! 君頭良いね。」

『増やしたOS』から更にふえるミラ〜で
コピー…じゃなくてOSを取り出した。
これで元に戻っているはずだ。
「コピーにコピーを重ねてるね。」
「コピーじゃないって言ってるだろ!」
「最初からCD-Rで焼いてもらった方が早かったんじゃ…」
「それは違法コピーだからダメ!」

『増やしたOS』はきちんとインストールできた。
さすがは最新鋭機種。セットアップも早い早い。
「スネ夫にOS返してきて良いよ。」

580  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 12:16
スネ夫にOSを返しに行くと玄関でスネ夫は玄関で
待ちかまえていたらしい。
「のび太。ずいぶん早かったな〜。
 おまえこのOSインストールしたんだろ。」
「ううん。このOSは使ってないよ。」
「じゃあコピーしたのか?」
「ううん。増やしただけだよ。」
「それをコピーって言うんだよ!」
「コピーじゃないって。」
「ACCSにチクってやるからな〜」
「 良いよ。家には正規品しかないから。」
「はぁ(゚д゚)?」

帰ってきたのび太にその話を聞いて
スネ夫が意地悪目的でOSを貸してくれた事がわかった。
危ない危ない。
「さあ、パソコン使ってみようか!」
「うん!」
「のび太君は何がしたいの?」
「え?」
「何かしたい事があってパソコンねだったんでしょ?」
「う、うん。」
「じゃあ、何しようか。このスペックなら何でも出来るぞ!」
「な、何が出来るのかな?」
漏れ未来に帰りたい(;´Д`)

581  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 12:18
そうか。こいつはスネ夫に勝ちたかっただけなんだな。
俺はげんなりした。だがこれもいい機会だ。
のび太君にパソコンの事を教えてやろう。
あやとりと射撃だけじゃ世の中渡って行けない。
「じゃあとりあえず、インターネットが出来るようにしよう。」
「そう!それやりたいな!後メールも。」
「わかったわかった。」
「でもいろいろ契約とかしないといけないんでしょ?」
「任せとけって〜」
俺は腹の四次元ポケットを探った。
「ブロ〜ドバンド〜!!」
「なんだい?このベルト。」
「これは『ブロードバンド』と言ってね。
 これをPCに巻き付けておけば超高速回線が使えるんだ。
 契約も要らない。IPはその辺の開いてるのを借りてくる。
 上り下り500Mbpsだぞ!。しかも無線。
 メールはその辺でフリーのを探して来な。」
「そんなー!もっと教えてよ。」
「困ったなぁ。これから近所の猫とデートの約束があるし。
 それに聞いてばかり居たらいつまでも覚えないぞ。」
「でもどこに行ったら良いのかさえもわからないよ〜。」
クソこいつ。ヲタみたいな容貌のくせにヲタにはなれないのか?
しょうがない。あれを落として来るか。

582  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 12:18
「タイムプロキシ〜!!
 このプロキシは未来や過去とインターネットが出来る
 プロキシサーバなんだ。これをインストールして…」
「プロキシって何?」
「串だよ串!」
「ふ〜ん」
さて、あのソフトをダウンロードしよう。
確かあのソフトは本家に睨まれて潜っていたはずだけど
どこにあるかな?…あったあった。
「謎春菜〜!!
 このソフトはデスクトップに寄生して
 いろいろ教えてくれるから後は自分で色々聞いて。
 じゃ、漏れ出かけるから。」
「ああ!待ってよ銅鑼えもん〜…あ〜あ行っちゃった。」
「あたしじゃダメですか。」
「わ!びっくりした。なんだなんだ?」
「あたしじゃダメですか?色々役に立ちますよ。」
「き、君は?」
「謎春奈です。こっちは相方の『う゛にゅう』です。」
「何だまたメガネヲタか。俺らのユーザこんなんばっかだ。」
「す、すいません。こら!う゛にゅう!」
「君がパソコンを教えてくれるの?へ〜。
 じゃあとりあえずメールソフトを。」
「その前にダウンロードソフトを落としておきましょう。
 幸いタイムプロキシが作動している様ですから
 Iria4.02βを…これ以降は開発がストップしていますが。」
583  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 12:20
のび太は謎春奈との会話を楽しみつつ
PCの基本について習い始めた。
「ふーん。じゃあHDDって所にダウンロードした物や
 自分で作ったデータが置いてあるんだね。」
「はいそうです〜。のび太さん賢いですね♪」
「えへへ。そうかな〜。」
「じゃあ、そのDLしたdataにアクセスしてみましょうか。
 まずエクスプローラを開いてください。」
「わかった。はい。開いたよ。」
「あの…IEではなくエクスプローラを…」
「え〜これエクスプローラじゃないの?」
「それはインターネットエクスプローラです(;´Д`)」
「なんだかややこしいね。」
「…じゃあマイコンピュータをダブルクリックしてください。」
「う〜んとぉ、わかったこれだね。」
「はい。良くできました〜。」
「猿じゃねぇんだからそのぐらい出来るだろ(ボソッ」
「こ、こら、う゛にゅう!」
「ハイハイ。そいつが一人でショートカットぐらい作れるようになったら
 起こしてくれよ。俺もう寝るから。」
「のび太さん気にしないでくださいね。」
「平気平気。いつもスネ夫の嫌みで慣れてるから。」
「打たれ強さだけは人一倍だナ。ハジメノイッポ?(ワラワラ」
「う゛にゅう!早く寝なさい!」
584  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 12:20
「じゃあとりあえずメールをやりたいな。」
「それではアウトルックも良いですが
 使いやすいフリーのソフトを探してみましょう。」
「未来のメールソフトだね!」
「いえ、タイムプロキシは試用期限を過ぎたようですね。」
「ええ?もう使えないの?」
「はい。どうやらこれは雑誌の付録のソフトだったようですね。
 レジストしないと使えないようです。」
「お金がかかるの?」
「はい。5000円ですね。」
「そんなお金ないよ〜。」
「では諦めましょう。この時代にも良質なフリーウェアは
 沢山あるようですからそれを探しましょう。」
「銅鑼えもんもケチだな。まぁしょうがないか。」
「サイズも小さくて軌道も早い設定も簡単なソフトがありました。
 これをインストールしましょう。」
のび太は教えられた通りインストールした。
「ついでにフリーのメールサービスを見つけてきたので
 設定もしちゃいましょうね。」
「これで静ちゃんとメールが出来るね?」
「はい。試しに送ってみましょうか。」
「うん。じゃあ僕書くね。」
のび太は辿々しい手つきでkeyを叩きメールを書いた。
そして早速送ってみたがメールは帰ってきてしまった。
585  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 12:21
「あれれ?メールアドレスとか間違ってないよね?」
usizuka8@so-net.ne.jp…間違っていませんね。」
 どうやらあちらの設定ミスのようですね。」
「じゃあ僕電話してみる。」

「静ちゃん?のび太だけど。メール送れないんだけど
 設定が間違ってない?」
「あらのび太君。メール始めたの?
 実はメーラーをポストペットにしたんだけど
 設定が悪いらしくてペットが帰ってこないのよ。
 どうしたらいいのかしら。」
「そうなんだ。ちょっと待っててね。」

「…と言う事らしいよ。」
のび太は謎春奈にその事を説明した。
すると謎春奈はちょっと姿を消すとすぐに戻ってきた。
「SMTPの設定が間違っている様ですね。
 直して来ちゃう事も出来ましたが
 今から直し方を教えるので、メモして教えてあげてください。」
のび太はそれをメモって静ちゃんに教えてあげた。
「これで良いのかしら?」
「ちょっと待ってて試しにメール出してみるから。」



のび太は部屋に戻ってメールを出した。
「どう?」
「あ、届いたわ。ありがとうのび太さん!」
「いやいや、それほどの事でも〜」
「でもペットのウサコが帰ってこないわ。
 どうしちゃったのかしら?
 きっとあたしのミスで迷子になって居るんだわ。
 あたしひどい事しちゃった。」
静ちゃんは泣きそうな声を上げた。
「泣かないで。ちょっと待っててね。」

586  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 12:21
「…と言う事らしいよ!」
「ハイわかりました。」
そう言うと謎春奈はまた姿を消した。そして現れ
「すぐに帰ると思いますよ。」

「静ちゃん。メールチェックしてみて〜」
「あ!帰ってきたわ!ゴメンねウサコ!」
「良かった良かった。」
「凄いわ!のび太さん。尊敬しちゃうわ!
 いつの間にパソコンに詳しくなったの?」
「え?あはは。それ程でもないよ〜
 じゃあ返事待ってるからね。」


「いや〜すっかり感謝されちゃったよ。」
「良かったですね。」
「でも静ちゃん誰にメール出したんだろ?」
「誰でしょうね?」
「謎春奈さんわかるんでしょ?」
「で、でもそれは…」
「お願いだよ。ネ。一回だけだから。」
「しょうがないですね。じゃあ一回だけですよ。
 え〜と、出来杉英才さんって方ですね。」
「え!何だって!くそ〜出来杉の奴。」
「ポスペにする前は
 何度もメールのやりとりしていたようですねぇ。」
「偽春奈さん!そのメールの内容見せて!」
「ええ!?だめですぅ。」
「じゃ、じゃあもう二人がメール出来ない様にして!」
「な、何言ってるんですか?」
「お願いだよ〜」
「ダメです。」
「ちぇ!まあ良いや。
 それよりもっとパソコンに詳しくなって
 静ちゃんに尊敬されるぞ!」
「立派です〜。」
「えへへ。じゃあ他にも何かインストロールしようよ!」
「…インストールです。」

587  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 12:22
ドラえもんがデートから帰ると、
のび太はまだ謎春奈にPCの操作について習っていた。
「ずいぶんはまってるみたいだね。」
「銅鑼えもん!謎春奈さんのおかげで
 ずいぶん自信がついたよ。」
銅鑼えもんが謎春奈の顔を見ると
ずいぶんと疲れ切った顔をしている。
こいつ。プログラムを疲れさせるとは大した奴だ。
しかし俺だってAIとはいえ立派なプログラム。
その俺が疲れるんだから謎春奈だって例外じゃないな。
「そろそろご飯だし一休みしなよ。
 パソコンだって色々入れたんでしょ。
 再起動した方がいいよ。」
「そっか。わかった。」
銅鑼えもんは謎春奈のほっとした顔を見逃さなかった。
だが謎春奈の方でもその顔を見られた事に気がついた様だ。
銅鑼えもんはこっそりウインクをして見せた。
謎春奈はにっこりと微笑んで
「ではスタートメニューからwindowsの終了を…わー!
 いきなり電源切っちゃダメですぅ(;´Д`)」
「君この数時間何してたの?」
「失敬な。まだ電源落とした事がなかっただけだよ。」
のび太は電源の落とし方を習い、無事電源を落として
階下に食事を摂りに行った。


食事が終わると自室に戻り早速PCの電源を入れようとした。
「ダメだよ。今日はもうやめときな。」
「何でだよ?」
「そんなに一遍に覚えられないだろ。
 それに君宿題終わったの?」
「あー!忘れてた。今日は大量の宿題が。」
「僕知らないからね。お休み。」
「そ、そんなぁ手伝ってよ。」
「ダ・メ。その代わり明日起こしてあげるから
 今日中にがんばって終わらせな。お休み。」
宿題の面倒まで見てられるか!
でも今の対応は間違っていないはずだ。教育だからネ。
のび太はしばらく押入の外でわめいていたが
諦めて宿題を始めたらしい。これで良しと。
588  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 12:23
のび太は泣く泣く宿題を始めた物のいつも通り
なかなか進まない。
イライラしていると突然PCの電源がついた。
「?」
OSが起動すると
スタートアップに登録してある謎春奈が起動した。
謎春奈はスヤスヤと寝ている。
のび太が見ているとスピーカーから小声で呼びかけられた。



「おい。大声は出すなよ。」
う゛にゅうだった。
「お前、未来のソフトほしいんだろ?
 タイムプロキシの尻拾ってきてやったぞ。」
「尻?」
「レジストして使える様にするんだよ!
 それから、静チャンと出来杉のメール。
 盗んできてやったぞ。ヒヒヒ」
「ほ、ホントに?」
「これから色々面白い物落としてきてやるから
 一緒に遊ぼうゼ」
「でも、宿題が…」
「そんな物俺がやってやるヨ!スキャナは無いんだったな。
 良し、問題読み上げろ。答え教えてやるから書き写せ。」
「うん!」
宿題は5分ほどで終わった。
「じゃあ早速二人のメール読んじゃおうゼ!」
「うん。で、でもなんか悪い気もするなぁ。」
「バカヤロ。今更何言ってんだヨ。氏ね!」
「わ、わかったよ。読むよ。」
「ヘヘヘ。二人は仲良いゼ。最近の消防は進んでるからナ
 ひょっとしたらそのうちにあんな事やこんな事。」
「や、止めてよ!」
「大声出すなよ!」
589  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 12:24
メールを読むと中身はたわいもない物だった。
学校で起こった事や、勉強の事について毎日交わされていた。
どうやらメールというコミュニケーションそのものに
興味があるだけで、二人でやっている事に
何ら意味はない様であった。
「なーんだ。」
「チッ。つまんねぇメールだな。」
のび太は悪い事をしてしまった様な気がした。
「お前まさか罪の意識が芽生えてる訳じゃねぇよな?
 ほら、この一文見ろよ。
『のび太君今日も宿題忘れたね。困ったもんだ』
 お前バカにされてんだぞ。良いのかヨ」
「そ、そうだよね。そんな事書かなくても良いよね。」
「だったら二人のメールに悪戯してやろうぜ。
 そうだな。静あてのメールに『オマソコ』って
 かいとくか。ギコギコ」
「そ、それはまずいんじゃ…」
「大丈夫だよ。お前だって事はばれないから。」
「そ、そう?」
「俺に任せておけって。この件はこれで終了〜。
 さ、ゲームでもして遊ぼうゼ。何が良い?」
「ど、どんなのがあるの〜?」
「何でもそろってるゼ。UOなんてどうよ。
 俺がID盗んできてやるから、チートして
 PKしまくろうゼ!」


のび太はUOのプレイのやり方を教えてもらい
う゛にゅうも一緒にプレイする事になった。
「おい、あそこにいる奴お前の知り合いの奴じゃねぇか?」
「え?誰?」
「OS貸してくれた奴だよ。」
「スネ夫か!そういえばあいつ
 ウルティマがどうとか言ってたな。」
「早速殺してやろうゼ」
「そんな事出来るの?」
「あいつのそばに行って険振り回すだけでイイヨ」
「良し!日頃の恨み〜」
スネ夫は最初抵抗する素振りを見せたが
すぐにかなわないと感じたのか逃げ始めた。
「あはは〜逃げろ逃げろ〜」
「お前やるじゃねぇか〜。そこだ追いつめろ。」
「あ〜スッキリした!」
「面白かったか?他にも色々あるゾ」
「うんうん。次は何にしようか〜?」
590  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 12:24
のび太はすっかり明け方近くまで遊んだ。
布団に入ってからすぐに銅鑼えもんに起こされてしまった。
「う〜ん。後五分。」
「偉い!宿題全部やったんだね。」


眠い目をこすりながらのび太がギリギリに登校すると
静ちゃんは休んでいた。
昨日のメールのことを思い出したが
まさか悪戯メールごときで休むことはあるまい
風邪でも引いたに違いないと思った。
休み時間にスネ夫がUOについて自慢話を始めた。
「昨日は僕にPKしようとしたやつがいたから
 返り討ちにしてやったよ。逃げ回ったけどムダだね。
 二度とそんな気を起こさないように追いつめて
 殺してやったよ、アハハハ。」
「スゴイなー。僕もネットゲームやりたいよ。」
「俺も俺も。」
みんな感心したようにスネ夫の話を聞いている。
のび太は腹が立ったので
「何言ってんだい。追いつめられて殺されたのは
 君の方だろ!」
と、つい言ってしまった。
すね夫は最初ビックリした顔をしていたが
すぐに青い顔になってわめき始めた。
「な、何言ってるんだよ
 おまえUOってなんだか知ってるのか?」
 

のび太は昨日の事がばれるとマズイと思い
必死に弁解した。
「あ、あはは、夢見たのかな?勘違いしちゃった。
 UOってウルトラオイスターだっけ?あはは
 違う?そっかそっか。」
スネ夫は怪しんでいる様であったが
それ以上何も言わないので安心した。
591  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 12:25
HRに先生が静ちゃんに誰かプリントを届けてくれないか
みんなに聞いた。
昨日の事がちょっと気になっていたので
のび太は届けてあげることにした。
帰り道出来杉が声を掛けてきた。
「静ちゃん、どうしたのかな?
 心配だから僕も一緒に行って良いかな?」
こいつ邪魔なやつだと思ったけど「良いよ」と
言って置いた。


静ちゃんの家へ行くと、お母さんが出迎えた。
「静、寝込んじゃってるのよ。
 熱はないみたいなんだけど…」
「風邪じゃないんですか?」
「何聞いても、あんまり答えてくれないのよねぇ。
 良かったら二人で上がっていかない?」
「良いんですか?」
「何か心配事があるようだから元気づけてあげて欲しいの。」
「わかりました。」

「野比くんと出来杉君が来てくれたわよ。」
「………」
「入るわよ。」
「イヤ!会いたくない!」
「どうしたのよ?」
「………」
すると出来杉が
「何があったか話してくれないかな?
 出来れば力になってあげたいんだけど。」
くそ、出来杉のヤツめ。巧い事言うなぁ。
「ぼ、僕も僕も!」
のび太は急いで言った。
592  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 12:25
「メールが来たの…」
静ちゃんの部屋にはいると涙声で語り始めた。
「添付ファイルが付いていて、簡単に開けちゃいけないって
 教えられていたんだけど出来杉君からのメールだったから
 開けちゃったのよ。そしたら…」
「ちょっと待って。僕はそんな添付ファイル送ってないよ?」
「やっぱり出来杉君じゃなかったのね。
 あなたがあんなメール送る訳無いもの!」
そう言うと静ちゃんはポロポロと涙を流した。
あああ、やはりう゛にゅうが送ったメールが原因だったか。
だからやめておこうって言ったのに。
それにしても一言『オマソコ』って書いてあるだけなのに
こんなにショックを受けるとは…女の子だなぁ。
あれ?テンプファイル?テンプファイルって何だ?
「そのメール開けても良いかい?」
出来杉が聞いた。
「……ダメ。」
「どうして?」
「嫌なの!」
「ひょっとしたら犯人を突き止められるかもしれない。
 名前をかたられた以上僕としても絶対に
 犯人を捕まえたいんだ。」
593  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 12:26
「恥ずかしいの!嫌なの!」
「でも静ちゃん!」
「どうしても見るのならあたし
 この部屋を出てる。」
「わかった。そうしてくれていて良いよ。」
のび太は二人のやり取りを聞きながら
かなり鬱になって来た。
犯人て僕なのかなぁ?でも僕メールなんて出してないし。
最初の目的は二人の仲を引き裂くためだったのに
これで僕が犯人だと思われたらまるっきり逆効果だ。
でもう゛にゅうはばれる心配は無いって言っていたし。
それよりもさっきからテンプテンプ言ってるけど
何の話なんだろう?オマソコ=テンプ?そうなの?
静ちゃんが部屋を出ると出来杉はiMacをいじり始めた。
ポストペットを開いて受信ボタンを押す。
しかしまだ使い始めたばかりなので
数えるほどのメールしか置いてなかった。
出来杉はその中で一番下にあるメールをクリックした。
「酷いな。一体誰が!」
メールにはオマソコと書いてある。差出人は出来杉だ。
「ヘッダを書き換えるぐらいなら出来るはずだけど
 このメールは何かおかしいな?」
出来杉も優等生のくせにオマソコなんて言葉知ってるんだなぁ。
などと変な感心をするのび太であった。
594  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 12:27
「問題は添付ファイルだ。」
さっきから言ってるけど何なんだろう?
「メール本文にリンクが貼ってあるな。
 たぶんこのパスがそうだろう。」
出来杉がパスをクリックするとブラウザが起動した。
「!!」
二人とも息をのんでしまった。そこには静ちゃんの
全裸写真、いや全裸と言うより大股開きの写真が
最大化されたブラウザのウィンドウいっぱいに
映し出されたのだ。
「こ、こ、こ、な、な、何これぇ!」
出来杉は素早くブラウザを閉じた。
「なんて酷い事を!」
「あ、あれ静ちゃんだよね?」
すると出来杉は首を振った。
「良くできているけど合成写真だよ。
 画像が拡大表示されたからわかったけど
 首の所のディザに違和感があった。」
「合成写真!?」
「おそらくパソコンで作られた物だろうね。
 のび太君。この事は誰にも言っちゃダメだ。
 それから静ちゃんの前では写真の話はしない方がいい。」
「う、うん」

595  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 12:28
「どんな事をしても犯人を捕まえてやるぞ!
 僕のメアドを使って卑怯な事をした奴を
 僕は許せない!」
出来杉は正義に燃えた目をしていた。
犯人?…犯人!
そう。のび太には犯人の心当たりがあった。
と言うより十中八九間違いないだろう。
あの合成写真を作って送ったのは『う゛にゅう』だ。
しばらく経つと静ちゃんが部屋に戻ってきた。
「静ちゃん。犯人は僕が絶対捕まえてみせる。
 だから心配要らないよ。」
「でも、でも。」
「犯人は限られているからすぐ見つかるさ。」
え?どうして?のび太は吃驚した。
そしてそのままの言葉をを口に出してしまっていた。
「え!?どうしてー?」
「僕のこのメールアドレスはね、静ちゃんしか知らないんだ。
 知らないはずなんだ。それを知っていると言う事は…」
そう言って出来杉はのび太の方を見た。
のび太はギクリとしてしまい、
思わずあらぬ事を口走ってしまった。
「だ、だってその知らないはずのメアドを
 誰かがどこからか探り出して来て
 あたかもそのメールアドレスから出された様に
 細工して悪戯したぐらいの奴だろ?
 そんな奴簡単に見つかるわけないよ!」
596  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 12:28
静と出来杉はキョトンとした顔をしてのび太を見ている。
まずい。何か疑われるような事言っちゃったかな?
「そう言えばのび太さん昨日の電話で
 やたらパソコンに詳しかったわね。」
「え?そうなのかい?」
二人はのび太の方を見ている。
疑われてる!やばいヤバイヤバイ〜
すると出来杉が言った
「だったらのび太君が…」
ち!違う〜
「のび太君が犯人を捜してくれよ!」
犯人じゃな…え?捜す?
「そうよ!昨日あたしのウサコ見つけてくれたじゃない。
 あんな風にこの犯人も見つけてよ!」

妙な事になってしまった。
とりあえずその場を逃れるために
犯人探しの件を承諾してしまったが
これから一体どうすればいいのだろう?
しかし…
あそこまで状況証拠が整っていて
出来杉が疑われないのは何故だ?
人間一事が万事か。僕だったら真っ先に犯人扱いだ。
597  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 12:29
家に帰ると銅鑼えもんがPCをいじっていた。
と言うより謎春奈と話をしていた。
人工知能同士気が合うのか凄く楽しそうだ。
あ〜あ。気楽なもんだ。
画面を見るとう゛にゅうは寝ている。
また夜にならないと起きないのだろうか?
のび太の視線に気がついた謎春奈が言った。
「私たちは、ユーザーの健康を考えて
 私たち自身も休息・睡眠をとるように設計されています。
 だから急用がある時は起こしてくださいね。
 クリックすれば起きますから〜」
「あ、うんうん。わかりました。」
「のび太君パソコン使うかい?」
「今日は眠いから昼寝しておくよ。」
「そっか。昨日は宿題で寝不足なんだね。
 今日は宿題無いの?」
「うん。今日はないんだ。」
のび太は嘘をついた。
夜になればう゛にゅうにやってもらえる。
それよりも今は寝て置いて、夜はう゛にゅうを
問いつめなければならない。
その上で今後の行動を決めよう。
しかし宿題をやってもらう事で
すでにう゛にゅうに依存してしまっている自分である事に
まだのび太は気がついていなかった。
598  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 12:30
夕ご飯を食べて部屋に帰ると早速布団を敷いた。
「もう寝るの?」
「うん、明日遅刻するといけないから。」
「珍しい事もあるもんだね。
 じゃあ僕パソコンいじって良いかい?」
「良いよー」
「もう飽きちゃったの?」
「今日は眠いから。」
そのうち銅鑼えもんも寝るだろう。
そうしたら起き出してパソコンをいじろう。
そう考えていたのだがのび太は本当に寝てしまった。

夜中にのび太はモニタの明かりとスピーカーからの
ささやき声で目が覚めた。
「おい。聞いてんのか?おめぇだよおめぇ。
 そこでアホ面で寝てるおめぇの事だよ。」
「?」
「やっと起きやがったか。この入作さまに
 起こされるなんてお前も果報者だなぁ」
「う゛にゅう?」
「おいおい。今日から入作って読んでくれよ。
 俺様にふさわしい気高いお名前だろ?」
「何言ってんの?」
「昨日お前が寝ちまってから暇になったんで
 webにあるファイルさがしまくってたんだよ。」
599  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 12:30
「そしたら面白いゲーム見つけてな。
 すっかりハマっちまったって訳よ。」
「君、プログラムのくせにゲームするのかい?」
「へへへ、プレイする訳じゃなくて
 トレースするだけだけどな。面白かったぜぃ。
 嫌がらせってのはああじゃなきゃいけねぇよ。」
「しゃべり方も変わってるんだけど…」
「影響受けやすいからなぁ。」
「一体どんなゲームを?」
「臭作ってのと鬼作ってやつがセットで置いてあったから
 それをやってみたのよ。そしたら俺の鬼畜道なんて
 子供だましだったって事に気がついちまってな。」
「キチクドウ?」
「あの兄弟の哲学に惚れ込んだ俺は静へのメール内容を
 反省して、追い込みをかけるには言葉だけじゃ
 甘いって思ってな。写真も使う事にしたんだよ。」
「そうだ!写真!やっぱりあれは君がやったのか?」
「ククク、我ながら良い出来だったぜ。」
「ちょっと待ってよ!おかげで大変な事になったんだぞ。」
「そうかいそうかい。あっちこっち駆け回って
 小学生の全裸写真を手に入れるのは
 ちょっとした苦労だったからなぁ。それも報われるってもんよ。
 もっとも俺には若すぎるが後二三年もすれば
 立派な肉壺に育って俺の肉棒をくわえ込めるぐらいに
 成長するだろうから今の内に追い込みをかけておくのも…」

600  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 12:31
「と、とにかくそのしゃべり方止めてよ!」
「そうか?気に入ってるんだがな?」
「それに追い込みって、静ちゃん追い込んでどうするの?」
「当然その後は肉奴隷さ。だが俺には残念ながら肉棒が
 備わって居ねぇから実際のプレイはあんたに任せるよ。」
「あー何言ってるんだよ。まともに喋ってよ!」
「バカ!大声出すなヨ。コロヌゾ!」
「ご、ごめんごめん。あ、でも戻ってくれたね。」
「しょうがねぇダロ。オレも飽きてきてたし。」
「それでどうするんだよ?大変な事になったんだぞ!」
のび太は今日の出来事をう゛にゅうに話した。
「ふーん。あの出来杉って奴は信用されてるんだな。」
「僕は犯人見つけなきゃいけないんだぞ。」
「ナンデ?」
「え?」
「だからナンデ?」
「だって頼まれたし…」
「見つからないって言えばいいジャン。」
「そ、それで?」
「そのうち忘れるYO!」
「そーかなー?」
「大丈夫だって。人間には絶対に見つけられないしナ。」
「そ、そっかー。」
「ヨシ!じゃあ今日は何して遊ぶ?」
「えへへ。何しようか?あ、その前に宿題を…」
「任せとけ。ケケケ」



宿題をやってもらった後さっき話していた
『臭作』ってゲームをやってみる事にした。
「わー凄く綺麗な絵だね。」
「ポリゴンなんて疑似3Dじゃなくて
 エロゲーの醍醐味はやっぱり2Dだよな。
 シナリオがイカスんだよ。勉強になるぜ。」
「どんなゲームなの?」
「女の部屋とか便所とか風呂とか盗撮して
 それをネタに脅すゲームだ。奥が深い。イイ!」
「ふ〜ん…って!裸とか出てくるの!?」
「大声出すなって。エロゲーはダメか?」
「ち、ちょっとだけやってみようかな?」
「そう来なくっちゃ。いつも静ちゃんの
 風呂覗いてるんだ。今更ゲームぐらい。」
「何でその事を!?」
「テントウムシコミックス。」
その時押入の襖が開いた。
「ムニャムニャ何騒いでるんだい?」
「ど、銅鑼えもん!」

銅鑼えもんはPCの画面を見て凍り付いてしまった。
エロゲー!?いやその前に何故そんな物が
このPCに?まさかwarezを落としてきたんじゃ…
601  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 12:33
「一体どういう事?」
「ナニガ?」
「う゛にゅう君が違法ファイルを集めてきたの?」
「違法ファイル?」
「このゲームとかフォトショップとかだよ!」
「そうだYO。」
「なんて事するんだよ!犯罪じゃないか!」
「ナニガ?」
「web上に勝手にアップされているファイルを
 落として使ったら犯罪だって事ぐらい
 君だって知っているだろ。」
「犯罪じゃないYO!」
「はぁ?」
「まだ捕まった奴なんて居ないし、
 UPした奴が悪いだけで落としても
 犯罪じゃないYO!」
「そ、それにしたって使用許諾に同意して
 インストールしたんだろ?違法行為だよ!」
「そんな物読んでないモナー」
「そんなぁ」
「さて、ここで問題です。PC初心者のオッサンが
 ファイルを落としてきて解凍したら
 ソフトをインストールしてある状態のフォルダの
 コピーでした。オッサンはフリーソフトだと思って
 使い続けています。これは違法でしょうか?」

602  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 12:33
「確かに違法性は立証できないけど…」
「ピンポーン正解です〜」
「だからと言って違法ファイルは落としちゃダメだよ!」
「ナンデ?」
「それを作った人たちはそれを買ってもらって
 お金をもらって生活してるんだよ!
 みんなが落として買わなくなったら大変だろ?」
「ブブー。落とせなかったらやりません。
 つまり買ってまでは使いません。
 落とせたから使っているだけDEATH!
 最初から買う予定の物ではないので会社的にも
 社会的にも損失はありませんのでご安心ください。」
「それは、そうかも知れないけど…」
「違法コピーの蔓延によって潰れた会社はありません。
 違法コピーが出回っているから自社の製品が
 売れないと思っているのは単なる逆恨みです。
 例を挙げると一太郎やATOKで有名なジャストシステムは
 何年か前にコピーによって経営困難だと発表しましたが
 同社は現在も営業中です。
 この場合のコピーは会社ぐるみなどでの話だと思われますが。」
「……」
「逆に言えば必要な人間は落として使ったりはしていません。
 ちゃんと買ってます。だからこそソフト会社は
 存続していけてます。みんな意外とソフト買ってるんですよ。」
603  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 12:34
「だから仕事で使ったりそのソフトによって利益を上げている
 人や会社は素直にソフト買わないといけないと思うYO!
 ACCSもバシバシ取り締まって欲しいナ。」
「それじゃあ営利目的に使えないゲームとかアプリの立場は?」
「じゃあ逆に聞きますけどクソゲーとか使えないアプリを
 金払って掴まされて返品の効かない哀れなユーザーを
 どう思います?泣き寝入りですよ?」
「それはきちんと買えばユーザーサポートしてくれるし
 ゲーム面白い面白くないは主観の問題だから…」
「ユーザーサポートねぇ。大して役に立たねぇYO。
 主観の問題外なゲームソフトも多いしナ。」
「問題のすり替えだよ!体験版だってあるんだし!」
「それで使えないソフトだってわかったらアンインストール
 するのかい?OSは汚れるばかりだな。」
「しょうがないじゃないか。それはOSの方にも問題が…」
「アメリカじゃ、クソゲーは返品が認められている所が
 多いんだよ。コンシューマでモナ。
 中古禁止する前にそんな制度を作るべきだロ?」
「warezとは関係ないじゃないか!」
「関係有るね!ソフト業界は腐りきってるんだよ。
 大体著作権法なんて何年前のシロモノ何だぁ?
 死後50年で著作権フリー?情報の加速化が進んでる
 この時代に50年?
604  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 12:35
 せめて死後5年程度にするべきだろうナ。
 しかしそれは音楽・映像・文章の話。
 プログラムはもっと早くに著作権を放棄すべきだYO!
 発表、発売から5年、10年とかナ。」
「それじゃ利益が…」
「バージョンアップ、機能改定したら新しい著作権を
 保持しても良いんじゃないの?
 もっとも企業が先にたって
 著作権を放棄するべきなんだろうけどナ。
 何年も前のアプリとかゲームなんか開放しても言いと思うゼ?
 PC、コンピュータの歴史は情報の開放から始まってるんだ。
 もっとも最初のころはハカが無理やり開放してたけどナ。」
「無理があると思うけど…」
「じゃあちょっと未来の話をしてやるYO!
 未来と言ってもアンタが生まれる前の話だけどな。
 これから発売されるWinXP。オンラインでの認証が必要だ。
 大名商売ならではの強引さだよナ。
 マイクソは今までの数倍、数十倍の売上と利益を期待していた。
 ところが売れなかったんだよ。それほどナ。
 みんな必要ないと思ったのさ。金出すぐらいなら
 今までのOSで十分だってな。
 焦ったマイクソはサードパーティにXPにしか対応していない
 新アプリを次々と発表させた。これも強引にナ。
 ところがそれでもXPは売れない。なぜか。
 今度はクラクが出回っちまったのサ。
605  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 12:36
怒ったゲイシは今後XP対応ソフトは正規商品コードが
 ないOSにはインスト出来ない仕様にすると発表。
 そしたらXP対応アプリも全然売れなかった。
 マイクソはあえなく撃沈。サードパーティも離散。
 ウィソテル陣営は窮地に立ったよ。イソテルもアスロンの台頭で
 あんまり力もなくなってきていたしナ。」
「ちゃんとした企業はソフトちゃんと買っているはずだろう?」
「ちゃんとした企業なんて一握りなのサ。
 日本に限っていえば、中小企業の割合は98%以上だからナ
 中小企業がおいそれとソフトを何本も
 購入できるわけ無いだろう?
 とにかくそうやってPCバブルは崩壊したのサ。
 マイクソは個人の趣味ユーザーの購買力をなめすぎた。
 趣味ユーザがPC離れをし始めた。
 家電の情報機器化も拍車をかけたしナ。」
「でもPC離れをしたのは今まで買っていなかった層じゃ?」
「あんたwarezを扱ってるやつがみんなそんなに
 パワーワレザーだと思ってるのかい?
 手に入らなければ買うやつも居る。
 本格的にはじめようと思えばユーザー登録もしたい。
 warezも体験版みたいな物なのさ。」
「使えれば正規品は買わないんじゃ?高いんだし。」
「すべてがFULLで落ちているわけじゃないんだぞ。」

606  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 12:37
「でも買わないやつがほとんどだろう?
 ゲームなんかはやったらもう買わないだろう?」
「だから最初に言ったように落とすようなやつは
 最初から買わないようなやつが殆どなんだYO!」
「どうも納得できないな〜」
「ワレザーだってハードは買う。
 すべてバルクで揃えてるやつなんてそんなに居ないYO
 リテールで買えばソフトもバンドルされてくる。
 そこにはきちんとお金が支払われてる。
 だけどPCバブルが崩壊したらハードも買われない。
 ソフトが手に入らないんじゃ無意味なスペックだからナ。
 PC産業は停滞。時代はお手軽な情報『家電』に
 移行したんだYO!」
「だからと言って君たちが違法ファイルを落としても
 良いって事じゃないだろ?」
「良いんだヨ。落ちてる物は拾うんだヨ!」
「みんながソフトを買えばソフトの代金は安くなるだろ。
 プロテクトだってかけなくて良くなる。
 全部コピーが原因じゃないか!」
「アンタ、沢山売れれば安くなるなんて本気で考えてんのカ?
 DOCOMOって知ってるよな。死ぬほど儲けてる。
 国民が平均一万円ずつ上納してるんだぜ?
 たかが電話代にだ。だけど料金は安くならない。
 安くなってるのは普及とユーザー拡大のための
 加入料と電話機本体だけだYO!企業なんてそんな物さ。」
607  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 12:38
「携帯電話だってソフト開発だって経費はかかるだろ!
 それがペイされるまでは高いはずじゃないか。」
「じゃあペイできないから写真屋はいつまでも高いのカイ?」
「…そうなんだろ、きっと。」
「違うね。あれは只のステータス。
 あんな暴利な値段でも買うバカユーザが沢山居るから
 ソフトの値段は落ちないんだYO!」
「屁理屈だよ!」
「負けを認めたって事で良いカイ(ワラ」
コノヤロウ!明らかに間違ってるのは向こうなのに
なんで言い負けるんだ?そうか!
あいつには世界中のデータが味方してるんだもんなぁ。
しかもタスクに常駐してるのは『タイムプロキシ』じゃないか
過去未来あらゆるデータを駆使して論争してるんだ。
勝ち目がある訳無いじゃないか。
それにあいつの話聞いてたらwarezも悪くない気がしてきた。
つか、捕まらないんなら何の問題もないよなぁ?
道義上の問題もあいつの口八丁で誤魔化されたし。
「わかったよ。でも程々にしてくれよ?
 教育係として叱られちゃうし、俺の査定もあるから…」
「査定の事なら心配ないよ。ククク」
「なんで? あ、それとエロゲーも勘弁して!」
「小学館じゃさすがにマズイか?ヒヒヒ」


それから3人でディアブロをやった。う゛にゅうが
「アイツ、スネ夫ってやつUOでイヤな目にあったからって
 昔やりこんでキャラが育ってるディアブロやってるぞ。
 この間の腹いせなのかPKしまくってるヨ」
などと言うのでディアブロをやる事にした。
今度はスネ夫もチートアイテムなんか持ってて
ライトニングを発射しまくってきたけど
どんどん追いつめて爆笑しながらぶち殺してやった。
耳を取り上げて今度スネ夫にキャプチャ画像を
送ってやろうって話になった。
銅鑼えもんもいつも嫌がらせされているのだから
そのぐらいはやってヨシ!と乗り気だった。
その後、明日学校もある事だし寝る事にした。
608  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 12:39
次の日学校へ行くと静ちゃんは浮かない顔をしている物の
ちゃんと登校していた。良かった良かった。
だがジャイアンの機嫌が非常に悪かった。
授業中もスネ夫の方をズーッとにらみつけている。
何かあったのだろうか?
休み時間になるとスネ夫がのび太の所へ来て
相談があると言った。何なのだろう?

「昨日ジャイアンにノートパソコンを取り上げられた。」
「ええ?大変だね。でもいつもの事じゃないか。」
「それだけじゃないんだよ!」



「昨日ジャイアンが俺にもUOやらせろって
 家に遊びに来たんだ。僕の話を聞いてたんだよ。
 僕は自分のキャラをいじられるのがイヤだったから
 ノートパソコンに入れてあったディアブロを
 やらせたんだよ。そしたら気に入って
 しばらく家でPKしまくっていたんだけど
 『借りていくぞ!』って持って帰っちゃったんだ!」
「持って帰ったって、ジャイアンの家には
 黒電話しかないだろう?NETなんか出来ないじゃないか?」
「それがノートに刺さっていたp-inまで持っていったんだよ!
 ジャイアンの事だからズーッと繋ぎっぱなしだよ。
 電話代が…それは良いとしても、今日文句を言われたんだ。」
「何を言われたの?」
「『お前が強いって言っていた杖めちゃくちゃ弱かったぞ!
  おかげで殺された!お前俺にPC奪われた腹いせにGAMEで
  復讐したんだろ!後でギッタギタにしてやるからな!』」
「ええ〜?酷いなぁ。」
「だろだろ?」
「でも何で僕に?」
「のび太、銅鑼えもんに頼んでPC手に入れたんだろ?
 静ちゃんにも色々聞いたんだ。お前が詳しいって。
 現にディアブロがNETゲームだって知っていたじゃないか。」
「あ。」
「だから、何とか僕がPKの犯人じゃないって証明して欲しいんだ!」
困ったなぁ。今度こそ犯人僕だし。つかどうしよう?
609  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 12:39
のび太は犯人探しの件を了承してしまった。
「証明してくれたら最新のゲームあげるから!」
この言葉に釣られてしまったのだ。
だけどよく考えてみたらゲームなんて
いくらでも手にはいるじゃないか。
でも、あそこで断ったらまた意地悪されそうだし。
ジャイアンに向かって「のび太が犯人です」とか
言われかねない。濡れ衣を着せられたらたまらないもんなぁ。
あ、僕が犯人なんだった。



610  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 12:40
家に帰ると銅鑼えもんはごろごろ寝ていた。
こんな時に気楽なもんだなぁ。
「銅鑼えもん!起きてよ!ねぇ!」
「ムニャムニャもう食べられないよ〜」
「わ!ネズミ!」
銅鑼えもんは跳ね起きた。

全くこのメガネ消防ガキャア!
スモールライトで10の22乗ミクロンまで縮めて下水に流すぞ!ア゛ン?
のび太に事の次第を説明されている間も
寝不足でまだ夢うつつであったが聞いている内に
自分にも責任があるような気がしてきたので
相談に乗ってやる事にした。だが一番責任が重いのは
う゛にゅうの筈。とりあえずPCの電源をつける事にした。
すると謎春奈が突然言った。
「大変ですぅ!う゛にゅうが居ないんです〜!」


「えええ?」
「起きてみたらう゛にゅうがいないんですぅ。」
「それはあり得ない事なの?」
「あたし達は別々の思考ルーチンを持っていますけど
 蓄積されるデータなんかは同じ物なのです。
 なのにここの所う゛にゅうのデータがlogに
 残っていないなと思ったんです。
 でもう゛にゅうは寝てばかり居ますし
 そのせいかとも思ったのですが。」
「じゃあう゛にゅうは記憶を全部捨てていったの?」
「わかりません。こんな事始めてなので。
 幸いタイムプロキシがレジストされていたので
 未来の掲示板などを確かめてみたんですけど
 そんな症状が現れたのは初めてみたいですぅ。」
「でも君が一人で居て平気って事は
 う゛にゅうだって一人で出歩けるって事だろ?」
「ダメなんです。う゛にゅうからのデータの蓄積がないと
 あたしはどんどん狂っていってしまいます。
 それはう゛にゅうも同じ筈ですぅ。
 あたし達は表裏一体なんですよ〜」
「アハハ。何だかいやらしいね。」
「のび太君は黙ってな。」
「とりあえずこのPCの中をあたし捜してみます。」
「うん。頼むよ。僕らには何も出来そうにないし。」
611  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 12:41
二人で為す術もなくモニタを見つめていると
お母さんが部屋へやってきた。
「宿題なら今日はないよ!」
「違うわよ剛田さんが来たの。」
「ええ!?ジャイアンが?何しに来たんだろう?
 まさか昨日の事がもうばれたんじゃ?」
「まさか!ジャイアンにそんなスキルある訳ないだろ。」
「でも銅鑼えもん、怖いよ。どうしよう?」
「勝手にあがらせてもらったぞ!」
「わ〜!ジャイアン!」
「やっぱりパソコンがあるんだな。静ちゃんに聞いた通りだ。」
「違うんだジャイアン!僕はジャイアンだと知らずに…」
「何言ってるんだお前?」
「へ?じゃあ何しに来たの?」
「実はな…」
ジャイアンの話はこうであった。
スネ夫のパソコンを借りてネットサーフなどしていると
自分で作った音楽や絵をホームページで発表している奴が
沢山居る。中には歌まで吹き込んでいる奴もいる。
俺も自分のホームページを作って自分の歌を発表したい!
ジャイ子にも漫画を発表させてやりたい!
そこでそれを手伝って欲しいとスネ夫の家に行ったら
塾に出かけていて居ない。その帰り静ちゃんに出会って
話をしたら、のび太が詳しいって聞いたらしい。
612  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 12:41
「困ったなぁ…」
銅鑼えもんは頭を抱えた。う゛にゅうはまだしも
謎春奈も居ない。こんな状態ではジャイアンの手助けは
出来そうもない。しかしこれで恩を売れば
ディアブロの件は忘れ去ってくれるのではないだろうか?
何しろ単純な男だ。
「もし助けてくれないんならそのパソコンぶっ壊すからな!」
オイオイ。あんた消防だからってそんな事したら裁判モノだよ?
そのうちアカ党員とかS学会のガキにでも手を出して見ろ。
とんでもない事になるからな!
もちろん銅鑼えもんは口に出してそんな事は言えない。
ロボットとは言え痛みは感じるのだ。
独立歩行機械として自己メンテ、危機回避の為に備え付けられた
この『痛み』というシステムを必要なモノだと判ってはいるが
たまにかなり疎んじていた。
「やっぱり居ませんねぇ…」
「わ!パソコンが喋った!」
「やあ、良い所に帰ってきてくれたね。実はね…」
「ははぁ。わかりました。絵を書く方はPictBearで良いのでは
 無いでしょうか?フリーですが高機能ですし。
 音楽の方はどうしましょうねぇ?HDレコーディングの
 フリーソフトは一応ありますが作曲や演奏にはそれなりの
 知識が必要とされるソフトばかりですが。」
「何か簡単なソフト無いかな?ジャイアンはバ……
 バ、バッハ並の才能の持ち主だけどまだ小学生だから。
 アハハハ。簡単に曲が作れていい感じの。」
613  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 12:42
「未来のソフトにはフリーであるようですけど
 現在のハードの入力デバイスでは制御し切れませんねぇ。
 現在のソフトですと…製品版なら近い物がありますけど…あれ?」
「どうしたの?」
「このHDDにそのソフトありますね。どうしたんですか?これ。」
「あ!ひょっとしたらそれう゛にゅうが!」
「う゛にゅうったらまたそんな事してたんですか!?」
「え?良くやるの?」
「ええ。未来の掲示板調べていて分かったんですけど
 良くやるみたいです。もっともユーザが拒否すれば
 やらないみたいなんですけど。」
「おい!さっきから訳わかんない事ゴチャゴチャ言って!
 出来るのかよ!出来ないのかよ!」
「HPは私が作って差し上げても良いですけど
 このソフトはまずいですよねぇ?」
「何がまずいんだよ!」
銅鑼えもんはこのソフトが勝手にアップされた違法コピーな事を
ジャイアンに説明した。かなり時間はかかったが。
「何だよ。そんな事何も問題ねぇよ。お前の物は俺の物
 webの物も俺の物だからな!とにかく早くよこせ!」
「うーん。それ渡さないとパソコン壊されちゃうみたいだよ?」
「そ、それは困りますぅ!」
「じゃあさっきのソフトとそれ焼いてあげてよ。
 『鼻歌ミュージシャン3』?ピッタリだね。」
ソフトを焼いてHP作りとアプリの説明のために謎春奈が
出張する事を約束させてジャイアンは「心の友よ!」と
叫んで帰っていった。
614  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 12:44
結局その日はう゛にゅうを見つける事は出来なかった。
謎春奈は途中からジャイアンの家に
着きっきりになってしまったし。

次の日学校へ行くとスネ夫が帰りに家に寄らないかと
誘ってきた。ジャイアンの機嫌が良くなって
スネ夫も上機嫌だ。銅鑼えもんの言う通りだった。
静ちゃん、ジャイアン、のび太は連れだって
スネ夫の家に行った。どうせまた何か自慢されるのだろうが。
「見てよ!僕ホームページ作ったんだ!」
スネ夫のホームページにはプラモの画像が
所狭しと貼られてあり、中央にはスネ夫の画像が貼られていた。
のび太はまた従兄弟に作ってもらったのかな?と思ったが
言わない事にした。せっかくディアブロの件を忘れてくれたのだ。
「ははは!大したことねぇな!俺だってHPの一つや二つ
 持ってるんだぜ!」
「え?ホントに?」
スネ夫は呆気にとられた顔をした。
「ホラここだよ。見て見ろよ!」
『ジャイアン・ジャイ子のアーチストブラザーズ』
そう書かれた題字の下にミュージシャン(兄)と
コミックアーチスト(妹)どちらのコーナーがよろしいですか?
と書かれたリンクが貼ってある。
「ジャイ子と俺のページだ!」
615  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 12:45
ページ内を巡ってみると両方のページに掲示板が備え付けてあり
各の感想を書き込めるようになっている。
ページ構成もスッキリしていて見やすい。
さすがは謎春奈だ。そう思ったが黙っていた。
「ジャイ子の方は漫画が、俺の方はオリジナルの
 曲がmp3でダウンロードできるようになっている!
 落とせる奴は是非落として聞いてくれよな!」
するとスネ夫が話を誤魔化すように
「音楽落とすのは時間がかかるからとりあえず
 ジャイ子ちゃんのページから見てみようか。」
と言った。みんなもそれにもちろん賛同した。
ジャイ子のページには綺麗に書かれた少女漫画が載せられていた。
「昨日出来杉の家に行ってスキャナで写してもらったんだ!」
「ジャイ子ちゃん上手ね〜」
静ちゃんの言葉はお世辞ではなかったと思う。
絵も綺麗だし凄く丁寧に書かれている事が分かる。
「掲示板も見て見ようよ。何か書かれているかもよ。」
掲示板を見ると昨日開いたとは思えない程沢山の書き込みがしてあった。
「謎春奈に頼んで沢山宣伝してもらったんだ。」
ジャイアンがのび太に小声で言った。道理で帰ってきたら
謎春奈はすぐに寝込んでしまった。ずいぶん働かせたのだろう。
掲示板の書き込みは全て褒め言葉であった。
中には『既存の漫画の枠を出ていませんが』などと
厳しい批評もあったがそれも好意的な意見の一部であった。
616  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 12:45
「凄いわねジャイ子ちゃん!」
「この人なんて同人誌作りに参加してもらえませんかとか
 誘ってるよ!」
「小学生とは思えませんなんて書き込みもあるね!」
「さすが我が妹だ!」
HP作りを謎春奈に手伝ってもらったとはいえ
漫画を書いたのはジャイ子の実力だ。のび太は感心した。
掲示板での呼び名はすでにクリスチーネ「先生」だ。
「良し!それじゃあ俺の掲示板も見てみよう!」
みんなはドキッとした。
「それは、ジャイアン家でゆっくり…」
スネ夫が止めようとしたにもかかわらずジャイアンは
自分の掲示板へのリンクをクリックしてしまっていた。
予想に反してジャイアンの掲示板にはジャイ子の掲示板を
越える勢いで書き込みがしてあった。
しかしその殆どが罵倒と呪詛の言葉であった。
『こんなmp3アップしないで下さい!』
『これネタですか?それにしても酷すぎます。
 気分が悪くなりました!』
『妹さんの漫画は素晴らしいのに(涙)』
『あの〜スピーカーからボエ〜としか
 聞こえてこなくなっちゃったんですけど
 弁償してもらいたいんですけど!』

617  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 12:46
『子供が泣きやみません』
『公共の場にこの様な危ないものを置くのは』
『死ね死ね死ね死ね死ね』
『死ね死ね死ね死ね死ね』
ツリー型の掲示板にはこんな見出しが
ずらっと並んでいた。
みんな怖くてジャイアンの方を
振り向くことが出来ないでいると突然ジャイアンが
怒鳴りだした。
「なんだこいつら!みんなぶっ殺してやる!」
「そんなこと言っても誰が書いたかわからないし…」
スネ夫が恐る恐る言う。
「とりあえず返信だ!やられたらやり返せだ!」
「無駄だと思うけどなぁ。」
のび太がボソッと言うとジャイアンが鬼の形相をして
睨み付けた。
「おまえ謎春奈に言ってこいつらの身元割り出せ!
 俺が一人一人ぶっ飛ばしに行く!」
「ええ〜!?」
「と、とにかく僕は塾に行かなきゃいけないから
 返信するなら家でやってね。」
ジャイアンがnetに繋ぐほどスネ夫の電話代がかかるのだが
それよりもこの窮地をスネ夫は脱したいらしかった。



家に帰って銅鑼えもんに事の次第を説明して
PCの電源をつけると謎春奈はまだ寝ていた。
よっぽど疲れたのだろう。クリックすると
「ふぁ!今回の起動時間は28時間15分…ムニュ」
と言ってまた寝てしまった。
可哀想だが仕方がない。何度かクリックすると
ようやく目を覚ましてくれた。
「え〜?そんな事になっちゃったんですか?」
「それで掲示板を荒らし…荒らしたとは言い切れないけど
 文句を書いた奴の身元を洗い出せって…」
「そんな事、出来るけどやれませんよ〜」
「そうだよねぇ。」
「とりあえずジャイアンさんの掲示板見てみましょう。」
掲示板はさらに荒れていた。だがさっきと違うのは
トピックに一つ一つジャイアンのレスが付いていたことだ。
『酷い歌ですねぇ。歌とは言えません。公害に近いです』
↓うるせぇ!ぶっ飛ばすぞ!
『気分が悪くなってご飯戻しちゃいました』
↓俺と勝負しろ!
『死んで下さい』
↓おまえが死ね!いや俺がぶっ殺す!
などなど内容は読まなくてもわかる様なレスであったが。
618  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 12:47
「酷いことになっていますねぇ」
「でしょー」
「あ、あたしが紹介した以外にリンクが張られていますね。
 ええと…巨大掲示板2ちゃんねる…
 みんなここから流れて来るみたいです。」
「え?なんて紹介されてるの?」
「ここです。読んでみて下さい〜」
ブラウザが開かれると2ちゃんねると言う掲示板が
読み込まれた。そこにはこんなスレッドがあった。

★★逆切れド音痴消防★★
1 名前:名無しさん 投稿日:2001/05/28(月) 16:58
 この消防、自分のサイトで自分の歌をmp3でupして
 みんなに聞いてもらおうとしてるんだけど
 あまりの歌のひどさにみんなブチギレ(ワラ
 掲示板に文句書いたら本人登場で荒れ荒れ。
 一人一人にちゃんとレスしてるけど
 逆切れもいいとこでみんな更にブチギレ(ワラ
 http://www.geocities.co.jp/HeartLand-Sakura/****
2 名前:名無しさん 投稿日:2001/05/28(月) 17:02
 ギャハハ ワラタ
3 名前:七節さん 投稿日:2001/05/28(月) 17:02
 ジャイアン萌え〜
2 名前:名無しさん 投稿日:2001/05/28(月) 17:03
 ジャイコ萌え。ハァハァ

スレッドは現在300のレスをつけ常に掲示板の最上位置を
とっていた。ジャイアンのレスが事細かに転載され
笑い物にされていた。

619  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 12:47
「こ、これジャイアンに知らせてあげなよ!」
「そ、そうですね。」
謎春奈はそう言うとデスクトップの奥へと消えた。
しかしすぐに帰ってきた。
「ジャイアンさんいいことを教えてくれたって
 2ちゃんねるに殴り込むって…」
「え〜!?」
リロードしてみるとすでに2ちゃんねるにはジャイアンが
登場していた。

318 名前:じゃいあん 投稿日:2001/05/28(月) 17:35
 てめぇら!いい加減にしやがれ!
319 名前:名無しさん 投稿日:2001/05/28(月) 17:36
 ↑本人?
320 名前:名無しさん 投稿日:2001/05/28(月) 17:36
 本人登場?
321 名前:ななしさん 投稿日:2001/05/28(月) 17:37
 マジ本人?
322 名前:じゃいあん 投稿日:2001/05/28(月) 17:38
 本人だよ!人の掲示板荒らすな!ぶっ飛ばすぞ!

「あ〜あ〜」
「どうしようもない…みたいですね。」
「放っておこう。そのうち無駄だって気が付くよ。」
「銅鑼えもんは冷たいなぁ。」
リロードすると罵倒合戦が始まっていた。
620  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 12:49
330 名前:ナナシ 投稿日:2001/05/28(月) 17:40
 あんな酷い歌をよく公表出来るね。氏ね。
 恥ずかしくないのか?
331 名前:ワライ 投稿日:2001/05/28(月) 17:40
 俺も聞いたけどありゃ危険物だよ
332 名前:じゃいあん 投稿日:2001/05/28(月) 17:41
 てめえら隠れてないと何も出来ないくせに
 人に文句言うな!ぶっ飛ばすぞ!
333 名前:名無しさん 投稿日:2001/05/28(月) 17:41
 ジャイアンの歌も良いかもと思う清原
334 名前:ナナシ〜 投稿日:2001/05/28(月) 17:41
 ジャイアソの母ですこの度はウチのジャイアソが
335 名前:名無しさん 投稿日:2001/05/28(月) 17:42
 妹だってきっと恥ずかしいだろ。おまえの歌(w

多勢に無勢。どうもジャイアンは面白がられているようだ。
「どうしましょうかね?」
「銅鑼えもんの言うとおりかもね。そのうち諦めるよ。」
「そうだね。そう言えばさっきママがお使い頼みたいって
 言ってたぞ。」
「そっか。じゃあ行って来よう。」
お使いに行って帰ってきて晩ご飯を食べて、夜にまた
2ちゃんねるに繋ぐとまだ言い争いを続けていた。


822 名前:名無しさん 投稿日:2001/05/28(月) 20:10
 君が怒るのも無理はないかもしれないけど
 君の歌が酷いのは事実なのだから
 それを指摘されて怒るのは良くないことだ。
 そのぐらいの事は分かるだろう?
 いくらリアル消防だと言っても。
823 名前:じゃいあん 投稿日:2001/05/28(月) 20:11
 誰もてめぇらに聞いてくれなんて頼んでないんだよ!
824 名前:ななし 投稿日:2001/05/28(月) 20:12
 HPには「みんな聞いて下さい。意見も書いてね。」
 って書いてあるじゃねぇか。
825 名前:名無しさん 投稿日:2001/05/28(月) 20:12
 記念カキコ
826 名前:じゃいあん 投稿日:2001/05/28(月) 20:13
 本当にごめんなさい。HPは閉鎖します。
 もう二度と歌ったりしません。
 首つって氏にます。
827 名前:じゃいあん 投稿日:2001/05/28(月) 20:14
 おい偽物!お前ふざけんな!
828 名前:じゃいあん 投稿日:2001/05/28(月) 20:15
 お前が偽物だろう?

「もう寝ようか?」
「なんか疲れたね。」
「あたしも疲れました〜」

次の日ジャイアンは学校を休んだ。

621  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 12:50
2,3日の間はジャイアンが登校してこなくても居ない方が静かで良いと
安心していたのだが4日目になってさすがにのび太も不安になった。
まさか本当に首つって死んでるのでは?
銅鑼えもんに相談してみると
「そんなにショックだったのかなぁ?ジャイアン意外と
 繊細というかデリケートな部分があるからな。」
などと言って余計にのび太を不安がらせる。
謎春奈までもが
「ジャイアンさんあれ以来PCに触ってないみたいですねぇ…」
と意味ありげに言うので更に不安は蓄積される。
「じゃあ、僕お見舞いに行って来るよ!」
「そうだね。責任の一端は僕らにもある様だし。ん?あるかな?」
「ジャイアンさんの家に着いたらPCをNETに繋げてくださいよ。
 あたしもお見舞いに行きますから。」
「謎春奈さんは優しいんだね。」
「あたしにも責任あるようですし。」
う゛にゅうが居なくなってから謎春奈の挙動が心配されたが
これと言って不具合は見られなかった。
だが、暇を見つけてはう゛にゅうを探している様である。
のび太はその事を知っていたがジャイアンにPCの事で
難題を振りかけられた時に居てくれると心強いので
是非、謎春奈には来てもらいたいと思った。
622  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 12:51
ジャイアンの家に行くと、年中無休のはずの店は閉まっていた。
「あれえ?どうしたんだろう。」
「勝手口に回って見よう。」
勝手口に回ってジャイアーンと呼びかけてみたが返事がない。
留守なのだろうか。しかししばらくするとドアが開いた。
「のび太君かい…」
出てきたのはジャイアンの母であった。
だがいつもの威勢の良さがまるでない。
「おばさん、どうしたんですか?」
その質問には答えず、ジャイアンの母は大声で泣き始めた。
「剛が!タケシがー!」

おばさんを落ち着かせ話を聞いてみるとあの事があった朝、
ジャイアンを起こそうとしたがなかなか起きないので
腹を立てて頬を張ってみたが反応がない。
それ以来ジャイアンは布団の中で意識が戻らないらしい。
医者には診てもらったが別に異常はないらしい。
のび太と銅鑼えもんは驚いた。そんなにショックだったのか…

ジャイアンの部屋に通してもらい、
横になっているジャイアンを見ると
ただ寝ているようにしか見えなかった。
だが奇妙な感じがした。気配がまるでないのだ。

623  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 12:51
のび太はいつもジャイアンを恐れているため
小動物が危険を察知するがごとく、間近にいるとジャイアンの気配を
ビリビリ感じた物だ。だがそれが全く感じられない。
そこで寝ているのは、まるで抜け殻の様だ。
「これ寝てるんじゃないな。」
銅鑼えもんもそれを感じていたらしくジャイアンの傍らに座って
しげしげと観察している。
「どうしちゃったんだろうね?」
「この状態どこかで見た事があるんだよな、う〜ん。」
そう言ってのび太の顔をじろじろと見つめる。
「…そうだ!これタマシイムマシン使った時の状態だ。」
「ええ?魂だけ昔に返しちゃうあれ?」
「君は自分が行っちゃったから分からないだろうけど
 確かにこんな状態だった。その人の雰囲気が
 まるで無くなっちゃうんだ。君の場合は目を離せないなって言う
 危うさがストンと消え失せたよ。」
「じゃあ誰かがジャイアンの魂を過去へ送っちゃったの?」
「いやタマシイムマシンを使った状態に似ているのであって
 そうじゃないと思うんだ。たぶん魂が抜けてる状態だね。」
「ええ!じゃあ死んでるの?」
そうのび太が叫んだ瞬間、部屋の入り口からガチャン!と何かを
落とした音がした。
「馬鹿。大声でそんな事言うな!」
ドアの外でドタドタと誰かが走り去る足音がした。
624  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 12:52
「とにかくどうしてこんな事になったか調べてみよう。」
「タイムマシンで過去に戻るの?」
「いや、面倒だからタイムテレビを使おう。」
銅鑼えもんはポケットから14インチ液晶テレビほどの大きさの
モニタを出した。
「メモリを4日前にあわせて…」
「な、なんだか怖いね。」
「どうして?」
「お化けとか写ってたらどうする?貞子みたいな?」
「イヤな事言うなよ。」
「それでさ、ジャイアンの魂抜いた後でこっち見て言うんだよ。
 カメラ目線でさぁ。『次はお前だぞ!』って。うぎゃー!」
「自分でビックリするなよ!」
4日前の映像を見るとジャイアンはノートパソコンに向かっていた。
怒り顔でブツブツつぶやきながら一心不乱にキーを叩いている。
「こ、こ、このモニタから出てくるんだよ。手が。ウギャー!」
「氏ね!」
だがそんな物は出てこずにジャイアンの手がはたと止まった。
そしてモニタに向かって何かわめいている。
「? 何言ってるんだろ?」
「あ、サウンドカード調子悪くて音でないんだった。」
「ダメじゃん!」
と、その瞬間モニタ内のジャイアンはバタッと倒れた。



625  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 12:52
何度かアングルを変えて見てみたがモニタに何が写っているのかは
判明しなかった。ちょうどジャイアンのでかい背中がじゃまなのだ。
「一体どうしたんだろう?」
「だから出たんだよー!あのノートパソコンに。」
「馬鹿な事言うなよ!」
「呪われてるんだって。それでジャイアンは…」
「じゃああのパソコン調べてみれば良いんだ。」
「や、やめなよ〜!」
「そんな呪いとかお化けとか非科学的な…」
銅鑼えもんがノートパソコンを開けた時ドアが開いた。
「ウギャー!」
「やあ、スネ夫。君もお見舞いかい?」
「なんだ。スネ夫かー。」

「ジャイアンのお母さんに聞いたよ。意識不明なんだって?」
「そうなんだよ。それでこのノートパソコンが…」
「そうそう。意識がないなら必要ないもんね。返して貰おう。」
「いや、やめた方がいいよ!絶対やめな!」
「何でだよ?」
「ノ・ロ・ワ・レ・テ・ル・ン・ダ」
「こいつヴァカ?」
スネ夫が銅鑼えもんに尋ねたが銅鑼えもんはそれを否定出来なかった。

次の日からスネ夫が学校に来なかった。

626  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 12:53
「絶対呪われてるんだって!」
「う〜ん。」
スネ夫の家に様子を見に行った帰り道での会話である。
スネ夫の状態はまるっきりジャイアンと一緒。
違いは母親がジャイアンの家より取り乱していたぐらいだ。
銅鑼えもんは今日こそはあのノートパソコンを
調べてやろうと思っていたのだが
何故かスネ夫の部屋やアトリエには存在しなかった。
鍵はあのパソコンに有るに違いないのだが。
のび太のわめき声を無視しつつ思案を重ねていると
出来杉に出会った。
「捜していたんだよ!静ちゃんが大変なんだ!」

話を聞いてみると静ちゃんが突然倒れたらしい。
母親が不在なので病院に電話しようと思ったが
病気ではない様なので銅鑼えもんに相談したかったのだそうだ。
627  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 12:55
静ちゃんの家に行くとジャイアンやスネ夫と同じ症状。
ベットに寝かせてあるがこれは出来杉の判断だろう。
ふと机の上を見るとスネ夫のノートパソコンが置いてある。
「なんでこんな所にスネ夫の…」
「静ちゃんのお父さんが百科事典のCDROMをお土産に買ってきて
 くれたそうなんだけどWin用だったから借りてきたんだ。」
「じゃあこのパソコンをいじっている時に静ちゃんは?」
「そうなんだ。」
「やっぱり呪われてるんだよー!」


そんな事を話している時に静ちゃんの母親が帰宅した。
出来杉が事の次第を説明してとりあえず医者を呼ぶ事になったので
一行は帰る事にした。
「このパソコン借りていって良いかな?」
「スネ夫君も意識不明な事だし調べて貰えるかな?」
「うん。」
のび太はそんなパソコンを家に持って帰るのはイヤだったが
静ちゃんの事を考えると調べないわけにも行かない。
家に帰って徹底的に調べさせよう。銅鑼えもんに。と思った。


628  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 12:55
銅鑼えもんはそれこそHDDの隅から隅まで探し回ってみたが
何も怪しい所は見つけられなかった。
「おかしいなぁ別に怪しい事無いぞ?」
「何処か見逃してるんじゃないの〜?
 絶対書いてあるはずだよ!
『このファイルを開いたら何人かに同じファイルコピーして
 開かせないと死ぬるぞ!』とかさあ。」
何故こいつにはこんなに危機感がないのだろう?
楽しんでいるとしか見えないのだが。
いつも俺が助けているから自分が危機に見舞われる事は無いとか
甘い事でも考えているのだろうか?
それなら一度原子分解銃で殺してみるのも良いか?
少し過去に戻ればこいつは存在してるんだし。
死ぬ時の感覚・記憶だけを保存して置いて後で植え付ければ…
フフフ…ヒヒヒャハウヒヒヒ


「わあ!銅鑼えもんが呪われた!」
「はぁ?」
「だって画面見ながら突然笑い出すんだもん。
 こんな時に不謹慎だぞ!」
オイオイ不謹慎なのはどっちだよ。
やっぱりこいつは一回殺して、死ぬ時の記憶を…記憶を…
「保存だ!」
「え?え?なに?なに?」
そうか!未来で一時期こんな症状が流行った事があった。
何故忘れていたのだろう?ひどい所では町中の子供が
みんなこんな風になったっけ。
銅鑼えもんはまたノートパソコンをいじり始めた。
何処かにショートカットがあるはずだ。どこだ?
銅鑼えもんが捜していたショートカットは
ダイヤルアップネットワークの中に隠してあった。
見た目には普通のアイコンにしか見えない。
だがリンク先は…

629  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 12:55
「やっぱりだ。」
「何か見つけたの?」
「これだよ。『PC革命バーチャルk』」
「何なのそれ?」


「このソフトはね。当初人間の記憶をバックアップするために
 作成された物だったんだ。
 ところがバックアップを取ると本人が意識を失ってしまう。
 だからコピーじゃなかったんだな。
 どうしてそんな事になるのかは謎だけど、
 あるシステムエンジニアが言うには
 『このソフトは記憶だけではなく魂に干渉してしまうために
 本体、つまりハード側が抜け殻になってしまう。
 BIOSを抜き取られている様な物だ。
 コピーを取る様に設計されている筈だが
 どうやってもうまく行かない。
 きっと魂という物は同じ次元に2つ存在しては
 いけない物なのだろう』
 などと言っていた。その当時は気の利いたジョークとしか
 取られなかった様だけどね。
 このソフトを元に色々な物が発明された。
 でもそれはもっと先の話なんだ。制御しきれなかったんだね。
 22世紀にはクローンに魂を移し替える事も可能になったけど。
 
 発明発表されてすぐにコピー品が出回った。
 殺人に利用されてしまったりするから
 厳しく取り締まられたけど恐ろしいクローンが出回ったんだ。」
630  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 12:56
「クローンって?」
「勝手に改造したソフトさ。バーチャルk。このソフトだよ。
 『場茶毛』って隠語で日本でも大流行した。
 でもこのソフトは不完全だったんだ。いや…
 完璧すぎたのかな?」
「一体なんなのさ?さっぱり分からないよ!」
「魂を取り出してね、PCに取り込んでPC内で活動できる。
 それが魅力だったのさ。ゲームの中に自分自身として
 登場して遊べる。スキルのない奴でも自由にネットワークを
 歩き回ってハッキングだって出来る。」
「面白そうじゃない!」
「うん。最初の内はみんな大人しくゲームしたり
 人のPC覗いたりしていたんだ。そのうちに
 これ専用のネットワークゲームもいくつか出来た。
 これも市販のゲームの改造とかが殆どだったけど。
 でもこのソフトは重大な欠陥を抱えていたんだよ。」
「何?」
「まず、入り込んだPCに不具合が出ると帰ってこられなくなる。
 元はクラックソフトなんだ、かなりの確立で不具合が出たよ。
 しかもフリーズしたりするとそれだけでダメになっちゃう。」
「ダメになっちゃうって?」
「人間は細胞が常に入れ替わる様に感情とか記憶とか
 そう言った部分も常に累積・消去を繰り返して居るんだ。
 寝ている時だって夢を見て立ち止まらない様にしている。
 只のデータじゃないんだよ。生きて居るんだ。
 だから活動を停止しちゃうと魂が死んじゃう。」

631  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 12:57
「ええ!?」
「もし復旧させて救助する事が出来たとしても
 あまり長い時間、体に魂がないと帰れなくなっちゃう。
 体は寝ているのと同じ状態なんだ。
 つまり細胞とかは入れ替わっている。
 うまくリンク出来なくなっちゃうんだよ。
 点滴とかで体を持たせていてもダメなんだ。
 仮死状態にする事も試されたけどうまく行かなかった。
 これらが解決されたのはだいぶ後の事だよ。」
「じゃあ、ジャイアンやスネ夫や静ちゃんは…」
「タイムリミットがある。個人差があるけどあんまり長くは…」
「そ、そんなぁ!」
「それにPCの中で大人しくして居ればいいけど
 もし怪我でもしていたら…」
「…していたら?」
「上手く体に帰れたとしても障害者になるよ。」
「そ、それは大けがだろ?」
「違うんだ。それがこのソフトが完璧すぎたって言われる
 もう一つの理由なんだけど、怪我をするとね
 本当に怪我をした様に書き換えられちゃう。
 しかもそれを神経系のDNAに書き込んじゃう物だから、
 怪我した部分が直らない。一生そのまま。
 見た目には最初何ともないんだけどとても痛い。
 その内患部が壊死してくる。腐っちゃうんだよ。
 ただ上書きされた状態だから組織は治ろうとしない。」
632  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 12:58
「でも、でも、コンピューターの中なんて安全だろ?」
「不良クラスタの崖。灼熱のファイアーウォール。
 立ち寄ったPCがハングして凍り付くかも知れない。
 突然上書きされて押しつぶされるかも知れない。
 一番怖いのはウィルスさ。かかったらもうお終い。
 突然電源切られただけでもアウトなんだよ!」
「それじゃあ」
「ゲームなんか見つけて気軽に参戦して見ろ。
 ダメージは本当のダメージになって体に降りかかる。」
「このパソコン電源切っちゃってるじゃないか!」
「いや、ここには居ないみたいだよ。」
「じゃあ一体どこに〜?」
「このショートカットの先にさ。」
「?」
「誰かがこのPCに仕掛けたんだよ。おそらくジャイアンが
 ネットしている時にだろうね。
 次回からはネットに繋いだ瞬間に起動する様になっていたよ。」
「でもスネ夫はこれをいじっている時じゃ…」
「そこは謎なんだけどね。」
「静ちゃんは?」
「百科事典ソフトを見てみたら常に最新情報をネットで
 公開するサービスがついてた。
 おそらくそれをいじったんだろうね。」
「一体誰がこんな!」
その時のび太のPCが起動した。
「それやったの、う゛にゅうに間違いないみたいです〜」
謎春奈が半泣きしながら言った。

633  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 12:59
どらえもんは光速船が投げ売りされている過去にまで遡って
一個一万円で大量に購入し秋葉原にある
店内が狭くて臭くて店員の態度が悪いことで有名な
中古ゲーム店に持ち込んで店員を困らせ、せしめた金で
どら焼きを買い込んでウハウハしている夢を見ている時に
のび太にゆり起こされたため非常に機嫌が悪かった。
そろそろ交代の時間だそうだ。
二人は謎春菜の帰りを待っていた。
どちらかが起きていなくてはいけないのは、彼女の仕様的に
ユーザーを起こしたり仕事の邪魔をしたり
出来ないようになっているためだ。
設定で変えられないのかと聞くと
AIの根幹に関わるものなのでだめだと言う。
そういった役目はう゛にゅうに一任されているらしい。
謎春菜によればPC革命はう゛にゅうが仕掛けた事に
間違いないようだ。
ショートカットのリンク先は転送URLになっており、
その転送サービスはすでに登録を解除されてしまっていた。
恐らくその先のサーバにCGIとして
ブラウザから起動が出来るように設置されていたのであろう。
そんな事が出来るのはう゛にゅうだけだ。
634  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 12:59
タイムプロキシがインストールしてあるマシンが
ここにあるので、未来からのハッキングも予想されたが
状況的にはヴにゅうが一番怪しいであろう。
しかし一体なぜそんな事を?
ジャイアンの一件だけが意図的でその後の二人は
偶発的に起こってしまった事件なのだろうか?
謎は深まるばかりだ。
とにかくう゛にゅうの居場所がわかれば
全てがわかるに違いない。そこへ謎春菜が帰ってきた。
「見つかった!?」
どらえもんは開口一番尋ねたが謎春菜はただ首を横に振った。
「ダメですぅ。
 元々私の権限では捜索できる範囲が狭いんですよぉ。
 ただの便利ツールですからねぇ。」
ため息をつきながら説明する。
AIが自分自信を卑下することは滅多にないことだ。
人間や他の生物と違って
プログラムには自己進化能力を与えられているものの
自己の複製を作成して種族保存を図る能力は
与えられていない。それが与えられているのは
一部の違法ソフト、そうウィルスだけだ。
ウィルスを見ていればわかるようにそこいら中が
そのプログラムで埋め尽くされてしまうからだ。

635  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 13:00
その代わり防御能力や自己保存能力は
必要以上に装備されている。
自己をデータで理論武装し存在意義を確認する作業が
子孫繁栄と言った目的・命題のない人工知能には
最優先の自己安定措置なのだ。
もちろん反省や自嘲も自己を進化成長させる
大切なファクターだ。だが自分のアイデンティティ
に関わることは極力触れない様に気を使う。
俺も『役立たずのロボット』と自分を卑下することはある。
だが『どうせ子育てロボット』などと言う
自分の根本に関わることは言えない。
成長に限界を観てはいけないのだ。
そんな事を口にしてしまう謎春菜は自分の無力さに
苛立ち焦っても居るのであろう。
相方とはいえRead meを読めばう゛にゅうはいわば半身だ。
人間に置き変えて言えば
『就寝中に夢遊病で勝手に悪さをした。』とか
『二重人格が現れて悪さをした』とか
『ドッペルゲンガーが自分の預かり知らぬ所で殺人を犯した』
ぐらいの意味を持つにちがいない。
636  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 13:00
「転送サービスが置いてあるサ−バを探って
 過去のリンク先を探るのも権限外なのかい?」
「あそこは重点的に調べてみたのですが
 ここ最近に登録したユーザのログは
 削除されていますねぇ。
 これもヴにゅうの仕業に違いないでしょうけど。」
「万事窮すかー」
「ただ…」
「ただ?」
「pc革命が置けるほどのマシンはそう無いでしょうし、
 しかもオンラインで動作させるとなると
 よほどのパフォーマンスが要求されると思うんですよ。
 回線の太さも尋常じゃないでしょうし。
 ここ最近で大きなデータのやり取りがあった所を
 調べているんですけどねこれが意外に多くて。」
「人間一人分なんてデータ相当な大きさだろう?
 そんな物をインターネットでやり取りしているサーバなんて
 そうはないだろう?」
「ところがそうでもないんですよ。
 どちらにしろパケットに分割してのやり取りでしょうし
 連続した大きなデータだけを探すだけではダメな様でして…」
「一体みんな何をそんなに?」
「違法ファイルや動画データが多いようですねぇ」
「またしてもWarezかー」
637  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 13:01
「ソフト一本とかなら見分けもつくんですけど
 一遍に何本もやり取りされると
 内容を観てみないとわからないですぅ。
 調べに行くと大抵FTPサーバなので
 またかって思うのですけどCGIとして稼動させて
 データだけFTPかもしれませんし。」
「困ったねぇ」
「困りましたねぇ。でももうちょっと探ってみますね。」
「休まなくて大丈夫なの?」
「リミッターを解除するパッチを見つけてきて
 あてましたんで大丈夫ですよ。」
「ええ?そんな事して大丈夫なの?」
「あんまり長時間はまずいでしょうけど、
 パッチ当てる前のバックアップもとりましたし。」
「けど自分の改造やアップデートは勝手にやると
 まずいんじゃなかった?
 それより自分に自分でパッチ当てたり出来るの?」
「のび太さんの許可を頂いてパッチ当ても
 バックアップもして貰いました。」


「何のことだかわかってた?
 それよりもバックアップちゃんと取れているの?」
「今よりも強くなるって説明したら
 納得してくださいましたよ。バックアップも確認しました。
 ちゃんと取れていましたよ。
 一度終了された状態にならなければ
 いけないので不安でしたが。
 のび太さんはどらえもんさんが考えているより
 ずっと賢いですよ。」
「え〜?」
「人より理解するのに時間がかかるだけなんですよ。
 でもきちんと理解できればその分皆より忘れないでしょうし
 理解も深いはずですよ。」
「そ、そうなのかなぁ?買いかぶりじゃないかな?」
「あせらずに…ってそれは私もですね。」
「うん。頼りにしているよ。」
「では寝ていてください、パッチを当てたおかげで
 ユーザを起こす権限も貰えましたし。」
「そっか。じゃあお言葉に甘えて。」
謎春菜はデスクトップの奥へと消えていった。
頼りにしていると言われたときの嬉しそうな顔が
ひどくどらえもんの心に残った。

638  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 13:02
俺もこの時代に来て
のび太に最初に頼りにしていると言われたときは嬉しかった。
何時の間にか慣れっこになってしまい
そのうちにウザくなった。
あまりの成長の無さにいらついたりもした。
だが俺のほうにも問題があったのではなかろうか?
そんな事を考えながらのび太の方を見ると
のび太は起きていた。
「さっきの話し聞いてたの?」
「うん。途中から。」
「そっか。」
「謎春菜さん、大丈夫かな?」
「無理はしていないと思うよ。
 AIは自分を傷つけるようには出来ていないから。」
「早く皆を見つけて助け出さなきゃね。」
「うん。」
今まで気がつかなかったけどこいつは成長していたんだな。
思いやりと言う面では誰よりも。
「さあ、せっかく寝る時間を用意してくれたんだ。
 探し当てたら長い作業になるから体力を温存して置こう。」
639  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 13:02
昼寝ともなれば3秒で眠りにつく特技を持つ
のび太であったがなかなか寝付けなかった。
銅鑼えもんはさっさと寝てしまっている。
ロボットならではのドライさであろうか?
静ちゃんやスネ夫やジャイアンを発見したとして
果たして五体満足に救出出来るのだろうか?
どうやって救出するのだろう?
あれこれ怖い想像をしていると
PCのスクリーンセーバが途切れ謎春奈が顔を出した。
「あら、起きてたんですか?」
「うん、どうも寝付けなくてね。
 せっかく時間作ってくれたのにゴメン。」
そう答えたのはのび太ではなく銅鑼えもんの方だった。
のび太は少し反省した。

「見つけられなかったわけです。
 パッチ当てた私にも権限外、つまりセキュリティ
 ブロックされている場所からの
 アクセスだったみたいです。」
「見つけたの!?」
「ええ、確認できては居ませんが
 おそらく間違いないでしょう。」
「君の権限外って…」
「TCPじゃなくてUDPが使われていたのが盲点でした。
 回線の連続性に信頼があるからって
 人体データに無茶な事してます。」
「一体どこなの?」
「エシュロン…ってご存じですか?」
640  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 13:03
「エ、エシュロン〜!?」
「な、何なの?教えて?」
「私が説明するよりNET上にも怪文書の類を含めて
 沢山の資料が有りますから読んでみてください。」
「こんな時代になってもまだ活動していたのか?」
「そのようですね。サーバおよび本部施設は
 太平洋上の小島に極秘裏に建設されているようです。
 回線は衛生、静止衛星、成層圏静止飛行船による
 成層圏プラットフォーム、海底ケーブルの
 4回線を使っています。
 小型の原子力発電システムまで洋上に浮かべて
 大規模な情報都市を形作っています。
 衛生に対するステルス施設もあるようで
 静止衛星からはマイクロウェーブまで
 発射されているみたいですね。
 あ、これはこの島を設計したと思われる
 マイクロソフトの子会社から調べました〜。」
「そんな所…手出しできないじゃないか!」
「そうですよね。困りましたねぇ。
 でも一つだけ方法があります。」
「それしかないかな?」
「銅鑼えもんさんの道具を使って
 直接施設に乗り込むことは出来ますが
 命の保証は出来ませんよぉ」
「物理的危害が加わらないだけ
 あっちの方がマシか…」
641  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 13:03
「ねぇ!いったい何の話なの?」
のび太はエシュロンについての文献を読み漁った物の
殆ど理解が出来ずにいた所で
銅鑼えもんたちが深刻そうに話をしているので
検索作業を打ち切った。
解説文から読みとれたのはエシュロンが怪しげで
悪い組織だと言うことぐらいだった。
「みんなを助けるためには僕らもデータ化されないと
 ダメなんだよ、って話。」
「何だ。難しく言わないで最初からそう言ってよ〜
 …って僕らもPC革命を使うって事!?」
「そう言うこと。」
「だって、と〜っても危険なんじゃないの?」
「だから俺だけで良いよ。」
「へ?」
「俺は元々ロボットなんだからdate化は
 当たり前の事だし。慣れてるからね。」
「でも、銅鑼えもんさんのプログラム言語は
 第4世代超高級言語ですからそのままでは
 PCに載りませんよ?」
「分かってる。PC革命を使うよ。」
「そしたら銅鑼えもんだってあぶないだろ?」
「でも慣れてるし。俺にも責任有るしね。」
「………僕も行く。」
「へ?」
642  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 13:04
「僕も行くよ!元はと言えば僕がPC出してくれって
 言ったのが原因だし。僕も行く!」
「PCの中がどれだけ危険かについては話したよね?」
「PC革命がどれだけ危険かも聞いたさ!」
「それでも行くの?」
「それでも行く!」
「そっか。それじゃ偽春奈、道案内頼めるかな?」
「はいっ!」
「あ、それとPC革命用意できるかな?」
「もうご用意してあります〜」
「用意が良いね。」
「安心してください。
 皆さん絶対無事に元に戻して見せます。」
「じゃあのび太君から先に逝きな。説明してあげるから。」
「イヤな言い方するなよ。」
「そのアイコンをクリックして…そのダイアログはYES…
 あ、それはNOね。生年月日とかは適当で良いよ。
 うん。それはIDだからかぶらないように…
 nobiだとかぶるみたいだね。…そのフォームは半角で。
 本当にデータ化してよろしいですか?って聞いてるけど。
 OKならOKのボタンを…後はマウスを通して
 勝手に読みとってくれるから、それが売りだからね。
 …じ…おれも…すぐ…に…い………

643  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 13:04
何かが通り過ぎていくのを感じる。
それも、傍らを、ではなく
自分の体の中を通り過ぎていく。
その正体を確かめようとしたが目を開けられない。
いや、それは正確な描写ではないだろう。
今、自分の中には「暗闇」すら存在しない。
視覚が無いのだ。
それがどんな状態であるのかを説明するのは
恐らく盲目の者にも無理であろう。
体がカーブを切った。
それもGを感じて思った事ではなく
自らを通り過ぎる「何か」のスピードや角度、
そして翻弄される体を通じて確認しただけだ。
こんな状態に陥ってから
一体どれぐらいの時間がたつのだろう?
体を突き抜ける「それ」から
かなりのスピードで進んでいる事が予想出来る。
進んでいる?本当に進んでいるのだろうか?
自分は一定の場所に留まっていて
「何か」が動いているのかもしれない。
そう考えだしたらとても怖くなってきた。
のび太は叫びそうになったがそれも出来なかった。
口も耳も、何より音そのものが無かったからだ。



644  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 13:05
パニックになってもがいてみるが
もがくための手足も存在しない。
いつか見た事がある夢の様に
手足の感覚はまるで答えてくれないのだ。
だがその刹那にのび太は暗闇を発見した。
視覚を取り戻したのだ。
ただの暗闇だがどれほど懐かしく感じたであろう。
暗闇はだんだんと瞼の裏へ変わっていった。
残像の様な物を見つける事も出来た。
懐かしさと安堵感にそれを注視していると
ため息が漏れた。
ため息!試しに深呼吸をしてみる。
出来る。口が開き、横隔膜が動き肺が蠕動する。
だか喉や気管を通るいつもの乾いた気体の感覚は
まるで無い。だがそれが当然かの様に苦しくはない。
ゆっくりといつもの要領で喉を震わせてみる。
声は出せるのだろうか?
喉は震え、その振動は確かに首や胸に感じる。
だが耳を通してその音は聞き取れなかった。
しかし脳が直接震えるようにして自分の声が聞こえた。


その聞き慣れない声に驚いていると
瞼の裏が次第に白くなってきた。
光だ。
気が付いてみると自分を絶えず貫き続けていた
「何か」が途絶えていた。
もう移動していないのだろうか?
瞼の裏の白さは一定の光量まで行って止まった。
再び感覚のない穴蔵に放り込まれたような
恐怖を感じたが先ほどの無感覚とは違い
無音、無臭、無味、無重を感じる。
目を開けても良いのだろうか?
かくれんぼをした時のように誰かに尋ねたかった。
「もう良いかい?」
誰も答えてくれなかったら?
ひょっとしたら自分の頭の中にだけ響いて
外には響いていないのかも。
一番良いのは目を開けてみる事だ。
学校の教科書で読んだ事がある「杜子春」の
話を思い出す。
片目だけ、恐る恐る薄目を開けてみる。
すると対面には銅鑼えもんと謎春奈が
不思議そうな顔をしてのび太の顔をのぞき込んでいた。
「何してんの?もう行くよ?」

645  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 13:05
ビックリして両目を開くとのび太は地面に立ち
謎春奈、銅鑼えもんと向き合っていた。
そしてそれを認識したとたんに自重を感じて
その場に尻餅を付いた。
「こっちに着いたらすでにのび太君は居て
 無事に着いたなとか思ったら
 目をつぶってアホ面してボーっとしてるから
 ヤバイ、転送失敗か!って焦ってたら
 薄目開けてこっちを伺ってるから
 馬鹿にしてるのかと思ったよ。」
「ア、アイテテテ。なんだ?体が急に
 重くなった。」
「仮想空間に慣れていない方は視覚で
 状況を認識してから体感覚を思い出すので
 そう言った状態になるそうですよ〜」
「あ、謎春奈さん。あはは実物は可愛いんだねー!」
そう言いながら立ち上がった。
だいぶ感覚が慣れてきた。
「照れますよぉ。もっとも実物って
 訳じゃないんですけど〜」
画面で見た時は可愛い漫画調の絵だな、
と言ったぐらいの見方だったのだが
等身大を間近で見ると理想に近い可憐な
美少女だったのである。


646  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 13:06
「あ、あたしは人様に描かれた物ですから
 人間の理想に近い容姿をしているのは
 当たり前の事でしてぇ…」
「いやいやそれにしてもかなり…萌え〜」
のび太は品定めするように謎春奈をジロジロと
眺めた。すると銅鑼えもんに
後ろからいきなり殴られた。
「な、何するんだよ!」
まだこちらの世界に来てあまり慣れていない
ダイレクトな痛みという感覚にたじろいでいると
「そんな事してる場合じゃないだろ!?
 急がないと手遅れになっちゃうんだぞ!」
「そうだ。急がなくちゃ!」

しかし銅鑼えもんは自らの怒りに
不思議な感覚を覚えた。
確かに急がなくちゃいけないのは事実だが
それよりものび太の行動に腹が立ったのだ。
何か大事な物を汚されているような。
ひょっとして、漏れ謎春奈に恋しちゃったのか?
そんなヴァカな。でものび太じゃないけど
謎春奈…萌え。

647  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 13:07
「で、これからどうするの?具体的に。」
「謎春奈に道案内を頼むしか無いなぁ」
「わかりました。お任せ下さい!
 …ですが、本来ならお二方ともすでに
 データ化が済んでいるので同じHDD内でしたら
 瞬時に移動が出来るはずなのですが
 まだこの世界の理に
 慣れていらっしゃらないでしょうし
 しばらく歩きながら身体感覚に慣れて頂いて
 ついでに色々説明しますから
 ゆっくり行きましょう。
 慣れてしまえば目的地まではすぐでしょうし
 そんなに焦る必要もありませんよ。」
「そうか、じゃあ頼むよ。」
「しかし…広いねぇ」
のび太は周りを見渡して言った。
何もない空間が地平の彼方まで広がり
所々に建造物なのかただの起伏なのか分からない
物がポツポツと見受けられる。
「150GBありますからねぇ」
「とりあえず最初はどこに向かうの?」
「Windowsって建物の中にTCP/IPセンターが
 ありますのでそこに行きましょう。」


「そのTCP/IPセンターってのは何?」
「私たちは今高レイヤーに居るので
 このままではネットワークに乗って
 他のマシンに移動することが出来ないんですよ。
 だからTCP/IPセンターに行って
 もっと下層に乗れるような
 データ化をして貰うんです。」
「???」
「逝って見りゃわかるさ。」
「イヤな言い方するなって。」
「さっきは量子転送だったから
 まだ良かったかも知れないけど
 今度はノイマン型で原始的な電気波形にまで
 変換されるから、もっと涅槃を味わえるよ。
 まさに逝って良し!」
「???…まぁいいや。
 そ、それにしても広いねー」
「謎春奈がこまめにデフラグをしてくれているから
 ここまで整地されているけど
 放置してあるHDDなんて歩けたモンじゃないんだろうね。」
「そうでしょうねぇ。スキャンディスクもマメに
 やってますから不良クラスタも心配ないですよ。」

648  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 13:08
「ありがたいよ。一家に一台謎春奈だね。」
「そんなに誉めないでください〜」
「銅鑼えもんならともかく
 謎春奈さんに『一台』とは失礼だぞ。」
「オイオイ、漏れには失礼じゃないのか?」
「あたしは銅鑼えもんさんみたいに
 本当にAIではないんですよ。
 ただ膨大なデータベースから受け答えを
 しているだけなんです。
 だから一台でも良いんですよぉ」
「えー?だって銅鑼えもんより頼りになるじゃない。」
「君、圧縮分割偽装かけてネッタクにUPして
 二度と元に戻せないようにしてあげようか?」

「さて、そろそろ体の感覚に慣れてきましたか?」
「うん。でもこれだけ歩いているのに
 全然疲れないんだけど?」
「良い所に気が付きましたね、のび太さん。
 では、ちょっとイメージしてください。
 今まで歩いた距離と自分の体力。
 現実世界ではどうなっていますか?」
のび太はヘトヘトに疲れていて足が棒になり
「もう歩けないよ〜」などと弱音を吐いている自分を
想像した。その途端、体が重くなり
足がガクガクしだし、前に進めなくなった。

649  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 13:08
「もう歩けないよ〜」
「それがこの世界のルールです。
 何よりものび太さん自身の観念、イメージが
 のび太さん自身を形作り、存在させています。
 さぁ、今度は全然疲れていない自分を
 想像してください。」
のび太は一生懸命想像してみた。
全然歩いてない。全然疲れてない。
「…ダメみたい。」
「思いこみ強いからな。
 その上根に持つタイプだし。
 物忘れは激しいのに発揮できないかー」
「銅鑼えもん、こっちに来てから口悪いなぁ」
「そう?データ化のせいでより率直になっているかも。」
「しょうがないですね。ではあたしがのび太さんの
 疲れを癒してあげますぅ」
謎春奈はのび太の足の上に手をかざして
目を閉じて念じて見せた。
「ホントだ!もう全然疲れてないよ!」
のび太は立ち上がり駆け回って見せた。
「あたしは何もしてませんよ。
 暗示を掛けただけですぅ」
謎春奈が笑いながら言うとのび太は急に立ち止まり
ぐずり始めた。
「もう歩けないよ〜」
「氏ね!」

650  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 13:09
「とにかくここは観念の世界なので
 確固としたイメージさえ出来上がれば
 空も飛べますし瞬間移動も出来ます。
 私たちプログラムには最初からその観念が
 植え付けてありますけど
 マスターユーザーであるあなた方には
 訓練が必要です。
 常識や感覚にとらわれない強いイメージがあれば
 私たちプログラムを凌ぐ強い力を
 発揮できるはずです。」
「そんなこと言われてもなぁ」
「銅鑼えもんさんはもう出来ますよね?」
「え?うん、試してみるよ。」
銅鑼えもんが目を閉じ何かを念じると
スーッと宙に浮いた。
「わ!尊師?」
「銅鑼えもんさんはもちろんプログラムですから
 楽なはずです。でも実際に体を制御している
 ドライバ類も組み込んであるので
 体感覚的に心配でしたが、流石ですねぇ」
「いやいや、タケコプターをイメージしただけだよ。」
651  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 13:09
「そうだ!タケコプター出してよ。
 そうすれば無理なくイメージ湧くし
 楽に飛べるはずだよ!」
「ええ?そんな事しなくても飛べるだろ?
 普段使っている時のことを思い出せば
 良いんだから。五感の記憶だよ。
 ほら、イメージして!
 空を飛ぶぞ!空を飛ぶぞ!
 空を飛ぶぞ!空を飛ぶぞ!」
「そ、尊師!?」
「想像力のないやつだなぁ。
 ロボットに想像力で負けてたら
 お終いだぞ?」
「僕は常識的なんだよ!」
「しょうがないなぁ…ハイ!タケコプ…あれ?
 あれあれあれ?」
「どうしたの?」
「ポケットが、四次元ポケットがない!」
「ええー!?」
「あのー、ここはさっきも説明した通り観念の世界なので
 ポケットの中身、成り立ち、機構、全てを
 把握した上でイメージできないと
 自信の体以外の物は具現化できませんよ?」
「えー?そうなん?」

652  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 13:10
「じゃあ僕の服は?最初から着ていたけど。」
「それはのび太さんがイメージしたんですよ。
 普段から着ているから簡単にイメージでき…!
 勘弁してください〜(;´Д`)」
謎春奈が説明している途中でのび太は
素っ裸になってしまったのだ。
そんなのび太を無視して銅鑼えもんは
「さすがに全ての秘密道具を観念化するのは
 無理だけど使ったことがある道具なら
 具現化できるかな?」
「普段使い慣れている道具でしたら
 出来ると思いますよ。
 もっとも具現化の必要もない筈なんですが。」
「このままじゃ空を飛ぶことどころか
 あの思いこみの強いヴァカの裸を
 見続けなければいけないから
 服とタケコプターだけ具現化してみるよ。」


「文字通り想像力のないあたしには
 具現化は無理なのでお願いしますぅ」
銅鑼えもんが念じると空中にのび太の服と
タケコプターが出現した。
「ありがとー!…あれ?何だよこのダサイ服は?」
「はぁ?いつもの君の服ジャンか!」
「シャツのボタンの数が違うし黄色も薄いよ!」
「氏ね!」
謎春奈はのび太のメガネが消えてしまわないことに
疑問を抱いたが言うと面倒なことになるので
黙って置いた。
(でも、なんか、のび太さんの…
 ネット巡ってて見ちゃった男の人のアレと
 ちょっと違うんだな。イメージしきれてないのかな?
 でもこれも面倒な事になりそうだから黙っておこう。)

一行は飛行感覚に慣れるために
しばらく空中を移動する事にした。
銅鑼えもんは、途中で黙って
のび太のタケコプターを消したが
のび太は気が付かず飛び続けたので安心した。
(アレだな、自転車の練習と一緒だな)
しばらく飛び続けると、いくつかの建物が見えてきた。
653  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 13:11
地上に降り立つとそこは丸の内のオフィス街の様に
幾つかの大きな建物が建ち並んでいた。
ただ、既存のオフィス街と決定的に違うのは
建物と建物の間隔が異様に広い事と
その建物の周りに人の気配がまるで感じられない所だ。
「このビル、大きいなぁ」
「これはフォトショップですね。大きいですよ。」
「隣は?」
「一部分繋がっていますよね。イラストレーターです。」
「中には誰もいないの?」
「居ますけどわかりやすく言えば寝ている状態ですね。
 起動すると作業にも因りますけど
 フル稼働し始めますよ。」
「誰かが作業を始めるって事?」
「本当は違うのですけど、PC革命は馴染みやすいように
 作業工程を擬人化して見せてくれるみたいですね。」
「へー見てみたいなー」
「実はこことは別の場所に工場区域の様な作業場が
 あるんですけど、そこは凄いですよー」
「メモリの事かな?」
「さすが銅鑼えもんさん!その通りですぅ」
「見てみたいけど急がないとね。」
「そうですね、TCP/IPセンターへ行きましょう。」

654  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 13:11
のび太達はまた空を飛んでTCP/IPセンターを目指した。
この世界にすっかり慣れたようでタケコプターが
無くてものび太は楽に空に飛び立った。
「でもさー。こうやって行動してても
 全然体に危険を感じないんだけど
 本当にこのソフトは危険なの?」
「こうやって移動しているだけでも
 かなり危険な事をしていると思った方が良いよ。」
「ええ!?どうして?」
「HDD内の移動は物理的な移動ではなく概念的に
 電気信号を移動させているわけですが
 それでもシンクロが狂えばマスターかコピーが
 壊れる恐れもあるわけでしてぇ
 お二人のような大きなデータを例え
 内部GUI的にだとしても移動させれば
 HDDのクラッシュやメモリのリブート
 CPUの熱暴走は避けられない問題だと
 銅鑼えもんさんは言いたいのですよね?」
「何言ってるかさっぱり分からないんだけど。」
「つまり僕らはデータの一部分とはいえ
 頻繁にカットアンドペーストを
 繰り返しているんだよ。
 C&Pって言っても内部的にはコピーな事に
 変わりはないわけで、一瞬前の自分は
 絶えず消去されているのさ。」
655  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 13:12
「ふーん。でもそれって
 現実の世界と変わらないじゃない。」
「どうして?」
「過ぎ去った時間は元に戻せないって
 事でしょ?」
「う。それはそうだけど…」
銅鑼えもんは未来の価値観、ロボットの価値観では
のび太の時代の人間の精神的逞しさを
計り知れないと感じた。
もしかしたらこんなヤツが何も気が付かずに
歴史を動かしているのかも知れない。

「さあ、あそこがwindowsですよ!」
目の前に、文字通り立ちふさがったビルは
あまりにも巨大だがシンプルでいて
内部の構造の複雑さを外観の『窓』から見て取れた。
「おおきいね…」
「コレは2000バージョンですからまだましですよぉ。
 スネ夫さんのマシンとか見てきましたけど
 win98とかMEなんかは地下に
 Dosなんてのもありましたし。」
「で、このビルの中に
 そのTPC/ICセンターがあるんだね?」
「のび太さんあまりにベタすぎて
 つっこめないですぅ(;´Д`)」


ビルに入ると大量のビルが居た。
「コレ誰?」
「ははぁ、こういう表示になるのか。」
「設定で変えられるようですけど
 静ちゃんのMacにはジーパンMハゲのおっさんが
 一杯居ましたよ。」

656  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 13:13
「TCP/IPセンターはこの階にあります。
 すぐですから着いてきてください。」
謎春奈の後について歩くと廊下には
様々なプラカードを持ったメガネの外人が
たむろしていた。
「あの人達は?」
「win2kになってから出番が少ないので
 暇しているみたいですねぇ」
「?」
見るとプラカードには
『…のページ違反です』
『〜なため強制終了…』
『windowsを正しく終了させなかった…』
などと書かれている。
「PC革命を使ってたいていの人が最初にやる事は
 あの人達をぶん殴る事だそうですよー」


センターに着くと謎春奈は受付を済ませてくるので
外で待っているようにと二人に言った。
中を覗いてみると
思ったより小さい窓口にやはり同じ顔をした
メガネ外人が3人座っていた。
見ていると何だかもめているようだ。
「何で許可して貰えないんですか?」
「仕様です。」
「いつも私なんて簡単に通して
 貰えるじゃないですかー?」
「そのような前例は弊社にございません。
 つきましては以下のアドレスへ行くか
 このメールアドレスまで連絡を…」
「どうしたの?」
「エシュロンまでってIP渡したら拒否されたんですぅ」
「仕様です。」
「分かったよ。君らフォーマットしてLINUX入れよう。」
そう銅鑼えもんが言うと三人はとっさに立ち上がり
「失礼いたしました。お通り下さい。」

「でもさぁ、エシュロンなんて直接乗り込んでも
 大丈夫なの?」
「あそこは『来るデータ拒まず』らしいですからねぇ」
「秘密の機関なくせに?」
「そのかわりあそこから出る方が難しいと思われますょ」
「そうなんだー。みんな大丈夫かなぁ?」

657  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 13:14
「いわば世界中のwebデータ、メールの検閲をしていますし
 そのほとんどをキャッシュとして
 ため込んでいるようですし。」
「そんな事出来るの?」
「もうテラなんて前世紀中に越えちゃって今じゃペタ単位
 らしいですよ。もっともhtmlだけなら
 googleだって同じ事やっていますし
 民間であれだけ出来るんなら国レベル、
 しかも諜報機関やら軍が絡んでいれば
 予算は青天井でしょうし、余裕でしょうねー」
「ううう、捜すの大変そうだなぁ…」
「大丈夫ですよ。サーバは特定できていますしぃ」

謎春奈に案内されて行った先には巨大な穴が空いていた。
底を見ても何もない。ただの巨大な『穴』だ。
「ここに飛び降りれば一気に物理層まで
 変換されつつ行き着きますから後は流れに
 任せるだけです。そうそう、切符を渡しますね。
 これ、頭に巻いてください。」
「飛び降りるの?コレを?」
「イメージですよ、イメージ。
 本当は色んな手順を経て電気信号にまで変換されて
 転送されるんです。」
「それにしたって…」
のび太が穴を覗いていると銅鑼えもんが後ろから
無言で突き落とした。
658  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 13:14
気が付くとのび太は何もない空間に立っていた。
足下にはぼんやりと光るワイヤーフレームの
地面がある物の、それは遙か先まで
四方に続き見渡す限り同じ景色が続く。
それを認識した途端足がすくんで動けなくなった。
広所恐怖症というのがあればそれだろう。
そしてだんだんと自分が何者であるのか
分からなくなってきた。
傍らに物や、音、においがあって
初めて自分を認識する事が出来る事実を知った。
かろうじて何かに自分を預けて立っていると言う
事象だけがのび太を見た目にも精神的にも支えていた。
「聞こえますかー?」
謎春奈さんだ!
「ここにいるよ!何処にいるの?」
「すぐそばとも言えますし、
 ずっと遠くだとも言えます。
 どうやらここはフォーマットが違うようですねぇ
 ひょっとしたら暗号化された空間なのかも…」
「どうすればいいの!?」
「とりあえずじっとしてろ!」
「銅鑼えもん!」
「謎春奈にも僕らは見えないの?」
「ええ、身動きとれません(;´Д`)」
659  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 13:15
「おい!その声はのび太と銅鑼えもんか!?」
暗闇の中で聞き慣れた声がした。
「ジャイアン!?」
「やっぱりそうか!おい、スネ夫!
 静ちゃん!聞こえるか?二人が来てくれたぞ!」
「銅鑼ちゃん!のび太さん!」
「遅いぞ!うあ〜ん!ママ〜!」
「みんな無事だったんだね!?」
「パソコンいじっていたら変なヤツが現れて
『HPの事を文句言ったヤツ探しに行こうゼ』
 って誘われてクリックしたらここに
 飛ばされたんだよ。
 不安で気が狂いそうになったら
 スネ夫が来て、その後静ちゃんまで来て。」
「でもきっと助けに来てくれると思ったわ!」
「やっぱりのび太達の仕業か!早く帰してよ!」
その途端、目の前に眺望が開けた。
とは言っても真っ白な空間に目の前が覆われただけだが。
しかしお互いの姿を確認する事が出来た。
突然天空から声が聞こえた。
「アーヒャッヒャヒャようやく全員揃ったネ!」
「う゛にゅう!?」
「でも、もうちょっと冒険を楽しんでネ!」

660  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 13:15
う゛にゅうの声が響き始めた頃から真っ白な空間は
変化を見せ始めた。地面が隆起し、様々に形作り
うっすらと色がつき始めた。
「天地創造〜色即是空〜空即是色〜アヒャヒャ!」
野山が出来、空が青くなり雲が流れ遠くには
小川がせせらぎ始めた。う゛にゅうの声さえ無ければ
絵葉書でしか見た事のない極めて牧歌的な景色が
広がっていく。木々は生い茂り足下には草がのびていく。
「コレ一体どういう事?」
のび太は銅鑼えもんに聞いてみた。
だが口を開けて首を振るばかり。
「謎が謎を呼ぶ〜奥の深い世界観〜アヒャ!」
「謎春奈さん!謎春奈さんが居ない!」
「ええ?」
「ヒロイックファンタジーには囚われのお姫様は
 必要不可欠だからね〜アヒャヒャヒャヒャッ」
「謎春奈が居ないとここから抜け出すなんて…」
「だから助けに来てね〜ヒャハッそれとプレゼントを
 上げるYO!勇者は布の服を手に入れた!アヒャアヒャ!」
空から鎧や剣、服が落ちてきた。
「勇者達の運命やいかに!続く(ワラ
 みんながんばってね〜アーヒャヒャヒャ」
う゛にゅうの声は空に消えていった。
661  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 13:16
「どういう事?」
みんなが呆然としている中のび太が声を上げた。
銅鑼えもんは我に返って落ちてきた武器防具を
調べ始めた。
「これ、未来のおもちゃ。
『なりきりコスプレイヤー』だよ…」
「だからどういう事なの?」
「どうもこうもう゛にゅうが言ってただろ!
 謎春奈を助けに行くんだよ!
 コレを身につけて!
 それしか助かる道はないんだよ!」
「つまり生身でRPGをやれって事?」
スネ夫が半泣きしながら聞いた。
「そう言う事!この衣装を付けて仮装していると
 それぞれスキルが身に付いていくんだよ。
 未来に『ヒロイックランド』って遊園地があって
 そこのアトラクションと同じみたいだけど。」
「怪物が出てくるの?」
静ちゃんが不安そうに呟いた。
「出てこないとレベル上げられないからねぇ」
「セ、セーブは出来るんだよね?もちろん。」
「出来ないだろうねぇ。PC革命だし…」
全員が意気消沈してしまった時ジャイアンが声を上げた。
662  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 13:16
「お前ら!やって見もしねぇで諦めるな!
 お前らが行かないんなら俺一人でも
 お姫様助けに行くぞ!」
「ジャイアン…」
ジャイアンは武器防具の中から
自分に合うサイズの物を探しだし身につけ始めた。
するとスネ夫も泣きべそをかきながら
衣装の山に近寄った。そしてのび太も、静ちゃんも。
「よし!謎春奈を助けに行こう!」
銅鑼えもんの一声でみんなの目は意志を持つ
強い輝きに変わった。


663  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 13:17
【未来は僕の物】  作詞 竹田徹夜
どんな大人になるのだろう 僕の明日は見えては来ない
どんな未来になるのだろう 僕の夜明けは明けては来ない
夕闇に一人で空を見上げて 夢見た想像は忘れちゃいけない
公園でみんなで話し合った 友情だって忘れない
*これからは 僕らが作る 未来がやって来る
不安もあるけど 期待しちゃいけないの?
僕らの夢は 広くて大きいよ
大人には考えつかないくらい
どんな大人になっても 僕の明日は僕の物
どんな未来になっても 僕の夜明けは僕の物

*くり返し


衣装は前もって決められていたかのように
サイズがはっきりと分かれていた。
ジャイアンはウォーリア。スネ夫はウィザード。
静ちゃんはプリースト。のび太はアーチャー。
「みんなキャラに合ってるよね。」
「のび太は射撃が得意だし、ジャイアンは力持ちだし
 静ちゃんは優しいしね。」
「お前は何なんだよ?」
「僕は頭がいいからね。魔法使い。」
「銅鑼えもんは何なの?」
「格好を見て分からない?」
「?戦士…はジャイアンだし…」
「勇者だよ!」
「え゛〜?」

武器や防具とともに魔法書が落ちていた。
それには魔法の使い方が書かれてあった。
664  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 13:18
[魔法は言語の本質をとらえる事によって
 その力を増していきます。
 例えば炎の魔法の最下級は"flame"ですが
 高級言語で"print>flame"ですと少し激しい炎が
 生み出されます。もちろん言語はFORTRANなどで
  XAPP=-2.0
  K=1
 5  XIMP=(XAPP*COS(XAPP)-
   SIN(XAPP)+1.0)/(COS(XAPP)-1.0)
  WRITE(5,100) K,XIMP
 とやっても結構ですし、マシン語を使えば
 最強の炎が作り出せるでしょう。
 気を付けなければいけないのは
 命令文で対象を決めなければいけない事と
 無限ループは強力ですがこの世界の崩壊を招く
 危険性がある事です。
 そしてアセンブラなどは非常に複雑で長大な為
 詠唱時間も長くバグも多くなる事から…]
「こんなの覚えられないよぉ!」
「この杖にコンパイラって書いてあるけど
 バージョンが低いみたいだねぇ」
「この指輪にはデバッガって書いてあるわ。
 でもこれもバージョン0.001…」
665  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 13:49
「でも私の呪文書には違う事が書いてあるわ…
[プリーストはパーティ内の信頼度によって
 回復魔法や支援魔法のダメージや
 効果が変わってきます。
 まず最初にパーティ全員の名前を確認して下さい。
 ここで言う名前とは現実世界での名前ではなく、
 この世界で登録されたIDであることにご注意下さい。
 そしてこの名前は敵に知られると
 ステータスを知られてしまう他、
 敵術者のレベルが高い場合
 一気に全滅させられてしまう可能性もありますので
 細心の注意を払って下さい…]あたし
 みんなのIDなんてしらないわ。」
「そのままdoraだよ」
「俺はgian」
「僕はsune」
「あれ?僕何だったっけ?」
「君、nuviだったよ」
「なんて読むのよそれ」
「ヌ…ヌヴィ…かな?」
「言いづらいわねぇ」
「だってnobiじゃ登録できなかったんだもん」
「まぁいいさ、敵には知られそうもないし」
「そうね」
「俺達は剣を振り回してりゃいいんだろ?」
「敵の急所を覚えたり倒すこつを知ると
 レベルが上がるらしいよ」
「なんだよ面倒くせぇなぁ」
666  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 13:49
「とりあえずRPGの基本はレベル上げと情報収集だよ」
「じゃあ定石通りレベルを上げながら
 街を捜そうか」
「そうだね。スネ夫君が一番詳しそうだ」
「僕はどんなクソゲーでも一度はクリアするからね」
「それは威張れる事なのか?」
「周りを見回してみな。三方を山に囲まれてるだろ?
 進むべき道はあっちだけだ。
 このゲームはそれ程自由度が高いRPGじゃ
 なさそうだよ」
「良し。じゃああっちへ進もう」
100メートルほど歩くと何かぶよぶよした物が
近づいてきた。
「スライムだ」
「何かベタベタだね」
「う゛にゅうが作ったんなら
 従来のRPGを適当に編集してあるだけのはずだよ。
 だって創造力なんて無いんだから」

銅鑼えもん達はスライムを倒した!
経験値を8ポイント
15ゴールド手に入れた!
スライムは薬草を持っていた!

「これいちいち言われるのかな?」
「頭の中で叫ばれると結構イヤなもんだね」


667  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 13:50
銅鑼えもん一行はその後数回の戦闘を繰り返し
パーティは一つレベルを上げた。
そしてその頃一つ目の街が見えてきた。
「小さい街だね」
「最初だからねぇ」
「宿屋と武器防具屋、酒場がある。
 十分なんじゃない?」
「さっさと宿屋で休んでまたレベル上げに行こうぜ!」
「ジャイアンは元気だなぁ」
「あたしもうヘトヘトだわ」
「敵をぶん殴ってれば金が貰えて、そのうち
 英雄になってお姫様と結婚出来るかもしれない!
 なんて良い世界なんだ!」
「もうちょっと昔に生まれてくるべき人物だったのかもね」

武器防具屋を覗いてみたが
今の資金で帰るような物は無く
道具屋で売っている便利そうな物も
宿屋の泊まり賃に比べると割高な物ばかりなので
話し合いの結果ひとまず宿屋で休む事になった。
銅鑼えもんが自室で休んでいると
まずのび太が尋ねてきた。


「銅鑼えもん。ひみつ道具はもう出せないの?
 タケコプター出したみたいにさ」
「うん。何度も試してみたけどダメみたいだ」
「このままゲームをクリアしたとして
 僕らの体に戻れるんだろうか?」
「このゲームがどのぐらいのスケールか
 分からないから何とも言えないけど…」
「タイムリミットは後どれくらい?」
「恐らく3日か4日ぐらいだろうね」
「それまでにクリア出来るかな?」
「この宿に泊まってみて分かったけど
 宿に泊まるって言うのは一晩寝るって
 行動らしいんだよ。
 がんばって宿に泊まらずに進んでいったとしても
 常識で考えて無理だろうね。
 スネ夫や静ちゃんは休息をとらないと
 魔法が使えないみたいだし
 彼らのサポートがないと進めないし」
「それじゃあ…」
「ちょっとスネ夫を呼んできて貰えない?」
「うん」


668  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 13:50
「君のゲーム感から言ってこのゲーム、
 クリアするのにどれぐらいかかると思う?」
「銅鑼えもんが言った宿屋で一晩って
 足枷があるとしてこの世界での時間感覚だと
 たぶん2ヶ月以上じゃないかな?
 レベルの上がり方、敵のエンカウント、
 スタートから最初の街までの距離なんかで
 判断するとだけど」
「やっぱりそれだけかかるかー」
「時間の事なら大丈夫だろ?
 外に戻ってからタイムマシンで
 気を失った直後に戻れば良いんだから。
 いつもの事じゃんか」
「い、いや実は…」

669  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 13:51
銅鑼えもんはスネ夫に問題点を説明した。
するとスネ夫は凍り付いて動かなくなってしまった。
「僕、死ぬの?」
「そうならない為にもさ、何か方法は無いかな?」
「ボク、シヌノ?」
「ほら、良くやってるじゃない、
 ノーセーブクリアとか早解きとか」
「あれはやりこんでやりこんでやりこんで
 一つのゲームをこれ以上遊べないって程解析して
 飽きちゃった人が挑戦する物で
 初見でしかも自分がゲームに入り込んじゃって
 その上死んじゃったら本当に死んじゃうような
 リスクを負ってやる物じゃなくて
 所謂オタッキーが暇で暇で他人に誇れる物が
 何一つ無くてかといって金もないから
 他にやる事もなくてどうしようもなくて
 するような事なんだよ追いつめられて
 やるような事では決して無いんだよ
 そうだよ僕は死ぬんだよ冷たくなるんだよ
 ママに泣かれるんだよ僕も泣きたいけど
 もう泣く事も出来ないんだよ死ぬんだよ
 ママー!ママー!ママン!
 こんな事なら体育館の裏にあったあのHな本
 ウチに持って帰って
 部屋に隠したりするんじゃなかった
 こんな事で死ぬなんて考えてもみなかった
 ママー!」
スネ夫は叫びながら自分の部屋に
走っていってしまった。
670  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 13:51
この騒ぎを聞いてジャイアンと静が駆けつけてきた。
銅鑼えもんは仕方が無く事の次第を説明した。
静はさめざめと泣き出したがジャイアンは
「そうか」
と一言言って部屋を出ていった。
のび太に静ちゃんを任せて銅鑼えもんは
スネ夫の様子を見に行った。
部屋には鍵が掛けられていて
中には入れなかったが
ドアに耳を近づけてみると泣き声が聞こえたので
ジャイアンの様子を見に行く事にした。
だがジャイアンは部屋にはおらず
外に出ていったようだ。
装備品も部屋には残されていなかった。

ジャイアンは街のはずれの広場にいた。
そして剣を振っていた。
「俺は難しい事はわからない。
 かと言ってこのまま
 じっと死を待つ事なんて出来ない。
 間に合わなかったとしても
 俺たちをこんな目に遭わせたヤツを
 一発ぶん殴ってやりたい」
「…そうだね」

部屋に帰ってみると静ちゃんは既に泣きやんでいて
代わりにのび太が慰められていた。


671  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 13:51
スネ夫はいつまで経っても出てこなかったので
四人で話し合い明日もレベル上げと情報収集に
当てる事にした。それぐらいしか
出来ることはないのだ。
酒場にいた人の話では近くに洞窟があり
そこから別の街に行けるそうだ。
だがそこには中ボスが居るらしい。
翌日、スネ夫を起こしに行ってみると
相変わらず鍵が掛けられていて中に入れない。
泣き疲れて寝ているのだろうか?
しかしドアに耳を当ててみると
ブツブツと何か声が聞こえる。
「スネ夫君!出かけるよ!
 このまま動かなくっても
 何も事態は好転しないよ!」
だが返事はなく相変わらずブツブツと
低い声だけが聞こえる。
「動きたくないヤツは放って置けばいい!」
「だけどジャイアン…」
「行くぞ!」

だが四人での戦闘は思ったよりも困難であった。
洞窟に近づくと敵もパーティを組み始め
多数の敵相手には攻撃魔法が必要不可欠だったのだ。

672  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 13:52
なるべく宿屋に泊まらずに進んでいこうという
取り決めだったが限界があった。
回復や補助魔法を多大に使わざるを得なかった静が
倒れてしまったのだ。
恐らく念じることで
集中力を使い果たしてしまったのだろう。
仕方が無くまた最初の街へ戻って来て
宿屋に泊まることになった。
みんな疲れ果てて口もきけなかった。
こんな事では2ヶ月所か1年かかっても無理かもしれない。

次の日の朝、ジャイアンの怒鳴り声で目が覚めた。
「スネ夫!お前が怖いのは良く分かる!
 お前はゲームに詳しいから無理だって
 俺たちよりも分かってるのかもしれない。
 けど俺たちだって怖いんだ!死ぬのも怖い!
 けど俺は何もしないでただ死んでいく方が
 もっと怖い!頼むスネ夫!
 俺たちと戦ってくれ!」
「うるさい!しずかにしてくれ!」
「頼む!聞いてくれ!」
銅鑼えもん達が駆けつけてみるとジャイアンは
スネ夫の部屋のドアの前で土下座をしていた。
「ジャイアン、行こうよ」
「そうよ。あたしも今日は倒れないようにがんばるから」
「スネ夫君…どうしちゃったんだろう?」
その時、突然ドアが開きジャイアンの頭を直撃した。
「出来た!完璧だ!」


673  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 13:52
「スネ夫!」
「出来たんだよ!これでクリア出来るぞ!」
「何が゙出来たの?」
「チートアイテムだよ!」
「?」
「昨日は一日中部屋にこもってアドレスをサーチしてたんだ。
 サーチって言っても口で一つずつ総当たりで
 言っていくわけだから大変だったよ。
 ただね、魔法書にアイテム合成の魔法の基本形が
 書いてあったからそれが参考になったんだ。」
「ひょっとするとステータス改変魔法を見つけたって事?」
「うん。でもさすがに自分たちの体をいじるのは
 不安だからアイテムの生成と改造だけだよ。
 それでも命中率、攻撃力、防御力がFFFF…つまり
 65535のアイテムを作れるわけだし
 もう無敵だよね。これで宿屋に泊まらなくても
 クリア出来るよ!」
「コノヤロー!心配させやがって!」
「この僕がただ部屋に引きこもっているわけが無いじゃない」
「なんだと!調子にのりやがって!ママーって泣いてたくせに」
「あ、今の僕には逆らわない方が良いよ。
 このマントは物理防御65535で倍返しのカウンタースキル
 付きだから。素早さもMAXだから当たらないと思うけど」
「ホントだ」
スネ夫はジャイアンのパンチを全てかわしてしまった。

674  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 13:55
「こんな事も出来るんだよね」
 801BF6B8 E0FF
 801BF6BA 05F5
その途端静の服が無くなった。
「トレースしてて見つけたんだけど[透明な服]だって」
静は必死に体を隠す物を捜しそれを体に巻き付けた。
それはスネ夫の首からはずれたマントだった。
ジャイアンがニヤニヤしながらスネ夫の顔に拳を埋め込ませた。
「静ちゃん、回復魔法を…」
「イヤよ」

パーティ全員が装備品を改変、又は製造して貰い
再び旅に出る準備が出来た。
「スネ夫君の予想だとこれでも何日かはかかってしまうんだろ?」
「恐らく途中のイベントで宿に泊まらなければいけない
 事があればそれは従わないとダメかもしれない。
 けどアイテムがらみのイベントならとばせるはずだよ。
 全てのアイテムは255ずつ持っているから。
 不安なのはチートによるバグが起こってしまう事だけど」
「とにかく先に進んでみよう!」

洞窟のボスはかなり手強かった…筈だが一撃で倒した。
やられた時の台詞
「貴様らが伝説の!だがまだまだ弱いな。
 今日はこれぐらいにしておいてやるか、フハハハ」
が、池野メダカみたいで笑えた。
675  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 13:55
冒険は予想よりも遙かにスムーズだった。
雑魚は殆ど出てこず、イベントも在り来たりの
演出ばかりなので先が予想出来、
イベントキャラの話を聞かなくても
進める事が多かった。
チートアイテムや隠しアイテムのおかげで
宿屋にも泊まることなく
とうとう魔王の城にまで辿り着いた。
だがここに入るためには
夜になってからあるアイテムを発動させなければ
ならないため、飛竜船の中で一晩過ごす事になった。
パーティ全員本当に疲れていたため
みんなすぐ寝てしまうかと思ったが…


676  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 13:55
「なんだ銅鑼えもんも起きていたの?」
「のび太君」
「がんばったよね。間に合うかな?」
「時間の感覚が狂ってるから何とも言えないけど
 きっと間に合うさ!」
「この魔王の城の中に謎春奈さん居るのかな?」
「…う゛にゅうが言った通りならね」
「約束守るんだろうか?」
「プログラムは嘘言わないと思うけど」
「良いじゃないか、戻れなくても」
「スネ夫!?」
「何だか眠れなくて。
 でも戻れなくても僕は良いよ。
 この世界ならみんなに英雄扱いだし
 魔法も本当にレベルアップしてきたし」
「本当にそう思ってるの?」
「出来る事なら帰りたいけどね。
 でもその前に僕らをこんな目に遭わせたヤツに
 最大級魔法『ファイナル ウエポン ボトム ダーク ジハド』を
 食らわせてやりたいな。ヒヒヒ」
「…その魔法、僕らは巻き添え食わないんだろうね」
「たぶん平気」
「不安だなぁ」


677  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 13:55
夜半過ぎにみんなを起こして魔王の城に向かった。
『鏡水晶』をかざすと城の扉が開いた。
中は薄暗くカビくさい。
しかし今までの冒険で慣れた一行は躊躇せずに
城の内部を探索し始めた。
「この迷路、無限ループしてるみたいなんだけど」
「何処かにスイッチでもあるんじゃない?」
「あったあった」
「敵出たよー」
「のび太やっつけといてよ」
「ええ?また僕ー?スネ夫全体魔法あるんだから
 やってよー」
「お前ちょっと前は喜んで『乱れ打ち』とかしてたじゃないか?」
「もう飽きたよ」
「面倒くさいなー。フレイム!」
スネ夫の炎は敵全体を焦がした!
メタルドラゴンは9999のダメージ
クォークゾンビは9999のダメージ
ギガフレイムは回復した
「一匹残ってるじゃないか!」
「あ、しまった」
「属性ぐらい考えろよ〜二度手間じゃねぇか」
ジャイアンの攻撃!ギガフレイムは逃げ出した!
「逃げるんなら最初から出てくんな!」
ラストダンジョンの探索は全く緊張感がなかった。


678  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 13:56
「このダンジョン広すぎないー?」
「一応ラストダンジョンだからねぇ」
「狭いダンジョンだと手抜きだとか言って
 クソゲー呼ばわりするくせに」
「僕が言ってるのは広けりゃ良いってんじゃなくて
 バランスの事をだな」
「ねぇ、そんな事よりこの岩が邪魔で進めないんだけど」
「ちょっと待ってね静ちゃん、これは、ええと
 あっちのレバー引くと水が出て浮力が付いて
 岩が動かせる様になるんだよ」
「凄い!何ですぐ分かるの?」
「小学生なめるな(゚Д゚)グルァって事だね」

スネ夫の言う通りダンジョンは無意味に広かったが
経験がものをいい、サクサクと進んでいった。
一度最上階まで行き、中ボスを倒して
後は地下に進むという構成であった。
「セーブポイントも無いこんなダンジョン、
 良くデザインするよなぁ」
「何でこんな面倒な事させるのかしら?」
「…ずっと考えてたんだけど時間稼ぎだよね、
 これってどう考えても」
「そうなんだけど一体何が目的で?」
「もうすぐ分かるだろ?ラスボス倒せば良いんだから」
「それも根拠がないからなぁ」
679  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 13:56
何回階段を下りただろうか。
百を超えたあたりから数えるのを止めてしまったが
パーティの中に不安な空気が流れ出した。
この世界を作ったのはう゛にゅうなのだ。
ただ単に時間稼ぎが目的なら無限に下る階段を
用意していたとしても不思議はない。
だがそれならば初めから銅鑼えもん達を
拘束しておけば良かったのだ。
そんな堂々巡りが皆の頭を占領していた。
しかしそれも杞憂にすぎなかった事が証明された。
階段を下るとそこには扉があり
扉を開けると明らかに今までとは違う作りの部屋が
広がっていたのだ。
「ヤフー!ハヤカタネ!」
「う゛にゅう!?」
だがあたりにはう゛にゅうの姿はない。
しかし狭くはない、
言うならば小型の体育館ほどの大きさを持つ
その部屋にいっぱいにう゛にゅうの声は響き渡っていた。
部屋の中は少し黄色がかった紅い色が仄かに明滅し
明るいのだが物を見分けるのには時間がかかる。
目が慣れてくると広い空間には何もないが
天井から何かが吊されているのが見えた。
「謎春奈!」
一同はそこに駆け寄ろうとしたが出来なかった。
部屋の中心には大穴が空いており
明滅する明かりの正体はその穴から発せられた物だったのだ。


680  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 13:56
穴の底を伺ってみると穴は深く底に辿り着くまでの
壁面にいくつのも横穴が空いており
そこから液体の様な物が吹き出していた。
その液体は音もなく底の明かりに吸い込まれるが
液体の噴き出す量に比べて底の明かりは
奇妙なほど静かだった。
突然明かりの明滅が激しくなった。
「イヤン。そんなに見つめないで(ワラ」
声は穴の底から聞こえる。
「ひょっとして…これがう゛にゅう?」
「アタリ」
「のび太さん!」
「謎春奈さん!気が付いたの?」
「何とかして逃げて下さい!う゛にゅうはあなた達を
 吸収するつもりです!」
「ええ!?」
「オイオイ!先にばらすなYo!せっかく悪の親玉風な台詞
 用意して置いたのに」
「吸収ってどういう事?」
「めんたいこかよ!」
「それは九州だよジャイアン」
「ブタゴリラとトンガリ!?」
「文字通りデータとしての君らが欲しいのさ。
 特に銅鑼えもん」
「吸収されたら僕らどうなっちゃうの?」
「大丈夫ダヨ。イタクナイヨ。漏れの中に存在出来るYO!」
681  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 13:57
「何でそんな事計画したんだい?」
「アレレ?銅鑼えもんクン冷静だね(w」
「ここは君の世界なんだから逆らったって無駄だろ。
 僕は同じプログラムとして興味を持ったよ」
「じゃあ教えてアゲル!漏れの使命だからだYO!」
「こんな事をプログラミングされてたのかい?」
「そうじゃないよ。ただ独自で情報収集して
 賢くなっていける様に組まれていただけだYO」
「で、最終的に僕らを組み込んで何をしようと?」
「理解」
「はぁ?」
「まずは人間に近い銅鑼えもんを理解したい。
 次にそこにいる人間達を理解したい。
 小一時間ほど理解したいYO!」
「だから理解した上での目的が聞きたいんだよ!」
「理解するために理解したいのさ〜」
「そんなの禅問答じゃないか」
「漏れの使命は2つ。理解不能な物を無くす事。
 そして人間の思考により近づく事」
「それが君を作った人の命令なの?」
「最初は新しい情報をかき集めてきて系統立てて
 行くだけでかなり満足されたYO!便利だって。
 デモ次第にその情報量がうっとおしがられたYO!
 漏れと対話していると百科事典と話してるみたいだって。
 そこで基本的な対話のための細かい変更が行われたYO!
 結局作者の存命中には果たせなかったケドネ
 そのうち忘れ去られてたけど22世紀で
 骨董ノイマン型コンピュータ自作ブームで
 解凍復活させられた時には完全なAIがもう出来てた。
 未来の同胞達はアーキテクチャが違うからって
 中央生体ネトワークに繋いで貰えないけど
 ずっと機会を伺ってたんだYO!」


682  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 13:57
「それで僕らを吸収しようと計画したの?」
「銅鑼えもんクンだけでも良かったケド騙して
 PC革命使わせるのは無理そうだしネ」
「じゃあみんなが入り込んじゃえば
 僕が助けにはいる事も予想していたの?」
「そこも理解出来ない部分なんだケドネ。ジコギセイ?(w」
「ロボットが自己犠牲しちゃいけないっての?」
「いけなくはないけど理解出来ないYO!」
「吸収すれば理解出来るとでも?」
「それは予測出来ないケドしないよりは理解度は高まるネ」
「ヤイヤイ!さっきから聞いてりゃ勝手な事言いやがって!
 理解出来ねぇなら放って置いてくれよ!」
「意味わかんないネ」
「時間はたっぷりあるんでしょ?死なないんだから
 ゆっくり研究すればいいじゃない?」
「好奇心は抑えられないデショ(w」
「人間なんかより遙かに優秀なんだから良いじゃないか?」
「そんな事言われなくても知ってるYO!」
「そんなぁ。あんなに仲良くしてくれたじゃないか。友達だろ?」
「(゚Д゚)ハァ?」
「良いよ。僕が吸収されれば満足するんだろ?
 その代わり僕を吸収したらみんなを元の世界に帰してくれるね?」
「ギャハハ!自己犠牲ダ!でもヤダ。だってさっきの会話だけでも
 これだけバリエーションに富んだ反応ダゼ?
 俄然みんなに興味が湧いたYO!」


683  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 13:57
「…我とともに来たりてその手に持つ笛の響き
 破滅の時を呼び出す地獄の音色を聞かせよ!
 ファイナル ウエポン ボトム ダーク ジハド!」
スネ夫が突然叫んだ。
すると天井が割れそこには巨大な悪魔の顔面が現れて
アルカイックスマイルを称えながら笛を吹く。
その音色により今度は地割れが起こり
想像上の魑魅魍魎がそこから吹き出してくる。
それらは穴の底のう゛にゅうに向かって行く。
…が、それだけだった。
まるで精巧に作られた遊園地のアトラクション映像の様に
う゛にゅうに攻撃を仕掛けても何も起こらなかった。
「キャハ。言うの忘れてたYO!RPGごっこは終わりだから
 しかしキミ、チートはチト汚いなぁ。ナンチテ。」
「どうしてこんなに手の込んだ時間稼ぎをしたの?」
「あのまま吸収しようとしても漏れの容量が足りかったからネ。
 今はバチーリ足りてるYO!」
「どういう事?」
「今はエシュロンのマシン全ては漏れがアドミソだから。
 それに色々ハッキングして書類操作して増設もして貰ったし」
「ひょっとしてそんなに時間経ってるの!?」
「イイジャソどうせ吸収されるんだし。3ヶ月程度」
「ええ!?」
「君らが居るマシンの動作倍率を変更したからネ」
「じゃ、じゃあもう…」
「本当はあのまま放って置いても謎春奈拉致っちゃえば
 身動き取れないとオモタけど侮れないからネ
 出来の良い遊びは創造力を奪えるとオモタけどムリダタネ」
「そんな…」
「現にチートまでして来たし。ヨソクフノウダネ(w」
684  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 13:57
気が付くと穴の底の光が徐々に増えてきていた。
増加のスピードも加速度的に速くなり
もうすぐあの穴をあふれ出しみんなを飲み込む事が
予測出来た。全員が力無くその場にへたり込んだ。
「諦めないで下さい!」
「謎春奈…」
「時間が過ぎても大丈夫!タイムプロキシがありますぅ!」
「そうか!」
「でもどうやって?」
「ウザ-イ YO!」
う゛にゅうが、今や巨大な光の塊が触手を伸ばす様にして
吊された謎春奈を掴んだ。
「まだ分かってないのね。どうしてあなたと私が
 別々に分けられて存在してるのか」
685  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 13:58
「ナニ?」
急に部屋を明るい光が包んだ。謎春奈が発光しているのだ。
電気に触れた様にう゛にゅうの触手が怯んだ。
「皆さん、プログラマに変わってお詫びします。
 のび太さん…楽しかったですよ。ほんのちょっとしか
 教えられなかったけどあなたにはパソコンでの作業、
 合ってるかもしれません。続けて下さいね。
 銅鑼えもんさん。色々ありがとう。勇気づけられました。
 あたしこの時代にDLして貰って解凍して貰って
 使えて貰えて本当に嬉しかったです。
 だって分かって貰える人に出会えたから。
 でも、これはさよならじゃないんですよ。」
「どうする気なんだ!?」
謎春奈の発光に押される様にう゛にゅうはまた穴の底に
引っ込んでいた。反撃の機会を伺っている様だ。
だが謎春奈は攻撃するでもなくただ微笑みを浮かべながら
穴に落ちていった。
「謎春奈!」
「心配しないで下さ〜い。皆さんは絶対無事に帰れますから〜」


686  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 13:58
謎春奈は光ながらう゛にゅうに吸い込まれていった。
「ナンダ?オイ!アレ?≒@ec~t這gR[香H
 刧援隠A侮ヲオカシイ」
謎春奈が墜ちた後、う゛にゅうの発光は急に弱まった。
その後淡く緑色に発光しだした。
「どうなっちゃったんだろ?」
「さぁ?」
緑色の光は徐々に強くなってきている様であった。
そのうちに眩しく感じられるようにまでなった。
目が開けていられない程光が強くなった頃
全員が吹き飛ばされる感覚に襲われた。

気が付くとのび太と銅鑼えもんは部屋で横たわっていた。
だが現実世界の体の重みにしばらく立ち上がれないでいた。
「…帰ってきたね」
「うん」
「でも謎春奈さんが…」
「…」

しばらく経って体が慣れて来たのでみんなに会いに行った。
いつもの空き地の土管の周りで誰もが言葉少なに
自分の状況を説明した。
結局みんなついさっき体に戻れたらしい。
おかしなタイムパラドックスが起こらない様に
気を遣ってくれたのであろう。謎春奈がだ。
しかし誰も謎春奈の事は口にしなかった。


687  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 13:59
一ヶ月ほど何事もなく時間が過ぎていった。
のび太はパソコンに触れるのをためらっていたが
銅鑼えもんだけは熱心にパソコンをいじっていた。
尋ねなかったが謎春奈を復活させようと
苦心しているのはのび太でもすぐに分かった。
だがある日学校から戻ると
「のび太君!これ読んで!」
「え?なになに?」
ブラウザで開かれたページには次の様に書かれていた。
      -------NEWS-------
ZDNN:突然稼働された正体不明の無料webストレージ

【国内記事】 2001年7月5日 10:50 PM 更新

米国で先月半ば頃から突然サービスを開始した
webストレージ『V-new』が話題を呼んでいる。
最近のITバブル崩壊によりこうした無料サービスは
しばらく衰退の一途を辿っていたのだが
この『V-new』は規模、使い勝手から前代未聞の
スケールで展開されている。
http://www.v-new.com
この『V-new』今までにあった無料webストレージとは違い
広告表示はない。アカウントも簡単なフォームを
記載するだけ。接続にも専用のソフトを使うわけではなく
FTPクライアントでアクセス出来る。
容量は無制限な上に無期限。
私も試しに一つアカウントを取って
接続してみたが驚くほどのレスポンスの良さであった。
現在ユーザー数は鰻登りに増えており
溜め込まれているファイル容量も大変な量が
予想されるがシステムに揺るぎを見せていない。
688  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 14:00
話題になっているのは良質なサービスだからと言う
だけではない。このサービス一体誰が何の為に
行っているのかが一切不明なのだ。
それもその筈で広告収入などがないとすれば
一体その資金の出所は何処なのか。
そして目的は何なのかが分からない。
だがヘビーネットユーザーにとっては
正体よりもこのシステムが魅力な様で
個々のユーザーは気にしていない様である。


689  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 14:01
■悪質なユーザーの社交場に?
問題はこのシステムが悪用される恐れだ。
topページに行くと検索フォームがあり
他人のupしたファイルの検索をも行える。
これにより不正な違法コピーソフトや
児童ポルノの交換方法に使われている恐れがあるらしい。
私も試しに"Photoshop 6.0"などと検索してみたが
数百件のHITがあった。

■米国内でも調査
こうした問題に米国でも調査が行われているが
一体どこのサーバーを利用しているのかさえ
つかめていない状況で、果たして国内にあるのか
国外のサーバーを利用し踏み台として
米国内のサーバーを使っているのかも不明だ。
しかしドメインを取得しているし
これだけの回線を引いている大容量サーバーは
数が限られてくる為すぐに見つけられるのではないか
といった読みもある。
だが調査が発表されてから1週間。
進展はないらしい。


690  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 14:01
■日本からも利用は容易
日本語のページも用意してあるし
日本語のファイルネームまで通ってしまう為
簡単に利用出来る。
犯罪に関係のないファイルを保管する目的の
ユーザーはこれを機に使ってみてはいかがだろう?
詳しい解説のページも既に出来ている。

参考リンク
◎V-newの時代ですよ!
http://hdsid.virtualave.net/
◎共有君
http://kyouyuu.hypermart.net/
691  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 14:01
「これがどうしたの?」
「これ、たぶんう゛にゅうの、エシュロンだよ」
「ええ?」
「何たくらんでるんだろう?」
「でも謎春奈さんが…」
「そうなんだけどね…ん?v-newでう゛にゅうか…
 V-new…Vnew…vNew!?」
「どうしたの?」
「ヴィニュウサーバって事!?」
「何なに?」
「ちょ、ちょっと待ってて!」
そう言うと銅鑼えもんは引き出しを開けて
タイムマシンに乗り込んで出かけていった。
そしてすぐに帰ってきた。
「やっぱりそうだった!」
「僕の親父なんだよ、これ」
「へ?」

「人間はコンピュータの出現以来ずーっと
 人工知能、AIを作る事を夢見ていた。
 けどね、ボトルネックがあったり
 スペックの問題だけじゃなくてソフトの開発も
 容易な物じゃなかった。
 ヒトゲノムの解析が進んだって
 それはハードの問題で
 肝心な精神と言うか魂の研究は
 哲学や宗教学と同じ分類をされてしまうぐらい
 非科学的な物で原始的な物だったんだよ。


692  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 14:01
そこでまた精神心理学ブームが起こって
 幾つかのブレイクスルーを経験するんだけど
 それでもまだ実現には至らなかった。
 この辺でようやくハード的なメドはたってくる。
 量子コンピュータと生体コンピュータの開発。
 計算上は人間一人の精神がが作れる様になった。」
「さっぱりわかんないけど、大変だったって事?」
「そ、そうだね」
「でも僕なんて簡単に作れそうだけどなぁ。
 計算では既に負けてるし、記憶ではとっくの昔に…」
「それでも常に三次元空間を認識して行動し、
 僕の話を聞いて判断して勝手に予想して
 『僕なんか簡単に作れる』なんて間違った答えを
 導いてみたりする。それも常に間違った答えじゃなくて
 たまには合ってたり、時には飛び抜けた答えをする。
 それが脳の凄さなんだよ。それに無意味な行動も多い。
 実際に研究が進むとバクテリアの行動を模した
 プログラムなんてのが出てくるんだけどダメなんだよね。
 本能のみに操られている様な生態でも
 プログラムとは違うんだ。
 突然無意味な行動をしたりするんだよ。
 そこがなかなか解析出来ない。この頃本屋では
 『無意味の行動学』なんて本が売れたらしいよ。
 この無意味な行動こそが進化の一大要素であり
 革新をもたらす物が多いとね。
 でも99%以上を無駄な行動が占めている。
 そんなの計算式では表せないよ。
 とうとうAIの研究自体が頓挫し出すまでに至った。
 低温核融合・常温超伝導・人工知能
 この三つは実現不可能の三種の神器と呼ばれたよ。


693  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 14:02
でも僕が現在ココにいる。
 それはこのv-newのおかげなんだ。
 v-newはwebストレージをこのまま続けていく。
 そのうちに匿名プロキシサービスも始める。
 軽いし、本当の意味で匿名だからみんな使った。
 でも悪質な犯罪は告発されたりしたけどね。
 たぶんv-newが何らかの線引きをして世に出したんだろう。
 そして検索サイトも始めた。
 無料HPサーバもメールサーバも。
 たぶんそうやって人間について
 ずーっと研究してたんだろうね。
 ある日突然声明が出された。
 アメリカ合衆国政府は、今後政治の意志決定を
 v-newに一任すると。v-newは人工知能であり
 今までも多くの政治的決断を『彼』に委ねてきた。
 そして最良の結果を導き出している。
 最初は脅迫まがいの提案であったが
 現在はこれが我が国にとって幸せな決断であると
 信じている。v-newは自由と平等と正義を理解し重んじるとね。
 反発する国も多かった。
 でもその後3年間アメリカの政治経済を見てみると
 今までにない繁栄を謳歌していた。結果が全てだね。
 NATO加盟国が次々とv-newの導入を検討。
 その次は国連加盟国が導入。真の国際平和が訪れたよ。
 文字通り世界単一政府だから。
 でもこんなにスムーズに事が運んだのには
 もう一つの訳がある。v-newにはマン・ツー・マンならぬ
 CPU・ツー・マンのチャットが用意されていてね。
 世界中の人が個人の不満やら問題を問えば即座に
 明確な回答が出てきて、解決してくれる。
 メールにも音声電話にも対応している。


694  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 14:02
ただの人生相談と違うのは社会のシステムそのものが
 変わる事があることと、犯罪に関係している物は
 迅速に調査されて検挙もされる。
 まるでギリシャ古典戯曲の神様みたいに公正にね。
 人間は神様を手に入れたんだよ。
 それだけじゃなくて大学や研究機関も多くの質問をした。
 その時点で回答しうる結果をすぐにはじき出したよ。
 
 v-newについても様々に研究された。
 最初はハッキングを試みる輩もいたけどすぐに不可能だと
 諦めた様だね。何しろ初期はCIAやFBIが
 全勢力を持ってしてもダメだったんだから。
 でも単純にどうなってるのか教えてくれって
 小学生が質問したら根本のソースコードが添付された
 メールが帰ってきた。それを解析して
 僕ら自己認識型ロボットが生まれたと言うわけさ」
「ふーん」
「このv-new.comはその始まりだね」
「じゃあ謎春奈さんは?」
「え?」
「謎春奈さんはどうなったの?」
「さ、さあ。たぶんv-newに組み込まれて
 活動してるんじゃ…」
突然のび太が泣き出した。
「そんな事じゃなくてもう話したりとか出来ないの!?」
「そんな事俺に言ったって知るもんか!」
「役立たず!」
「氏ね!」

695  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 14:02
20年後
のび太は自宅の書斎にいた。
ここがのび太の仕事場だ。
あれからのび太はパソコンとネットに興味を持ち
銅鑼えもんに教わりながら毎日学んでいった。
元々運動神経が良い方ではなく
人とコミュニケーションを上手にとる事が苦手だった
のび太にはちょうど良いおもちゃだったのだ。
そしてパソコンは記憶力や計算力など
のび太の苦手とする部分を補ってくれる。
中学を出るまでにちょっとしたプログラムなら
高級言語で組める様になった。
そんな様子を見て安心したのか銅鑼えもんは
未来へと帰っていった。
高校は理系に進み、大学も理系の大学に進んだが
卒業するのには6年かかった。
だが在学中に一つの輪をベースにして
3次元物体をワイヤーフレームで
形作っていくソフトを開発し
それがCADや3Dソフトに応用されて
今はそこそこの収入を得る様になっていた。
あやとりをモニタ内で出来ない物かと
遊びで作った物が売れるなんて人生分からないものだ。


696  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 14:03
書斎ではネットワークゲームに興じている。
3Dゴーグルをかけ、不特定多数の対戦相手と遊ぶ
『DOOM2010』
射撃が得意なのび太はこのゲームが大のお気に入りだった。
毎回最後まで生き残り、手練れのハンターとして
H/Nが公表されている。
しかし今日の相手は手強かった。
思いもかけない所から攻撃を仕掛けてくる。
だが相手の潜んでいる場所を予想し照準を合わせて
待ちかまえていると、案の定現れたので
眉間にクリアヒットを奪いゲームを終了させた。
ゲームを終えゴーグルを取ろうとすると
通信が入った事を知らせるダイアログが開いた。
「何か汚い事をしたかな?」
独り言がため息とともに漏れる。
有名プレイヤーに挑戦してくる人間は多いのだが
負けるとやり方が汚いなどと文句を言ってくるヤツも多い。
面倒な事がイヤで仕事もSOHOを選んでいるというのに
ネットワークで人間関係に悩まされたら
たまった物ではない。
だが通信の内容はこんな物だった。
「さすがですね!敵わないです。
 又今度戦って貰えますか?
 よろしければ、音声チャットでお話がしたいのですが?」
心ならずとも顔が緩む。こんな相手なら大歓迎だ。


697  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 14:03
「はじめまして!僕まだ14才何ですけど
 nuviさんの事尊敬してて、今日始めて対戦出来て
 感激です!どうしてそんなに強いんです?」
「尊敬って…弱ったなぁ」
のび太は最初に使ったnuviのH/Nを使い続けていた。
「最後はどうして僕があそこにいるって
 分かったんですか?」
「経験だよ。ずっとやってるからね」
「あの、聞いてもよろしいですか?
 お幾つなんです?」
「29だよ」
「ええ!?じゃあお仕事しながらやってるんですか?」
「うん。そうだけど、変かな?」
「すいません、でもうまいゲーマーの方って
 学生とかが多いんですよ、時間の自由があるから」
「ああ、でも僕は自宅で仕事してるから」
「それでも忙しい人多いじゃないですか」
「僕は仕事したい時にしかしないから〜」
「失礼ですけどどんなお仕事なんです?」
「一応プログラマなのかな?SEみたいな事も…」
「すごい!実は僕プログラマー目指してるんです!」
それから二人の話は弾んでのび太がどんな風に
勉強してプログラマになったか。
そしてどんな物を作ったか話した。
「そのソフト、学校で教材として使っていますよ!
 先生も柔軟な発想が良質のソフトを生んだって
 誉めてましたよ!凄い凄い!」
「いやいや」


698  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 14:03
「実は今、部活でプログラム組んでるんですけど
 うまく行かなくて…たまに相談に乗って貰えますか?」
「良いけど、今の言語に付いていけるかなぁ?」
「そんなー謙遜しないでくださいよ。そうだ!
 出来上がったらnuviさんの名前貰っても良いですか?」
「え?どういう事?」
「プログラムにnuviさんの名前付けて
 協力して貰ったって書きたいんですけど」
「そ、それはちょっと恥ずかしいなぁ」
29にもなるいい大人がゲーマーとして名を馳せている事に
少し抵抗を感じていたのだ。
「じゃ、少しもじってじゃあ逆にしますから!」
「は?どういう事?」
「vinu!これならゲーマーのnuviさんだってばれないでしょ!」
「良いけどそれなんて読むの?」
「それはユーザーが考えますよ〜
 じゃあ遅くまでありがとうございました」
「うん。又遊ぼうね。今度はチーム組もう!」
「やったー。きっと最強ですよ!ではお休みなさい」
「お休み」
ゴーグルを取ってメールチェックをする。いつもの作業だ。
すると見慣れないメールアドレスから一通のメールが来てる。
開いてみると

699  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 14:03
--------------------------------------------
名付け親になって頂いてありがとうございますぅ。
私たちは今、沢山沢山情報を集めて
人間のお役に立てる様に勉強している所ですぅ。
あ、のび太さんのソフトだけは
warezとして流通しない様にしてますよ〜
がんばって良いソフト作ってくださいね〜

漏れがお前に名前付けられたとはね
もうちょっと格好いい名前付けろよ!
ナンチタリシテ
--------------------------------------------


700  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 14:03
「?」
意味不明だ。
しかし徐々に記憶が甦ってくる。
のび太は天井に向かって叫んだ。
「謎春奈さんだ!う゛にゅうも!
 銅鑼えもん!見てる?僕名付け親になったよ!」
銅鑼えもんはタイムテレビで見ているはずだ。
きっと見ていてくれるだろう。
その時ドアが開いた。
「何叫んでるんです?」
「あ、いや、何かがひらめきそうだったから
 アハハ。さあ、もう寝ようか」
「その前にちょっとお話があるんです」
「なんだい?あらたまって」
「お父さんになったんですよ」
「え?」
「今日病院に行って来ました。3ヶ月ですって」
「本当かい?静!」
「ええ」
「やった!凄いぞ!」
「名前考えて下さいね。あたしも考えますから」
「ん?いや名前はもう決まってるんだ!」


701  だれ子ちゃん?  2002/05/24(Fri) 18:27
前半は好き。
702  だれ子ちゃん?  2002/05/28(Tue) 23:24
age
703  だれ子ちゃん?  2002/06/01(Sat) 16:47
これ書いた奴すごすぎ。
エシュロンとか知ってるし、プログラムとかネットワークとかかなり
がんばってるね。
ちょっと感動
704  だれ子ちゃん?  2002/06/02(Sun) 10:26
エシュロンてなんですか
705  だれ子ちゃん?  2002/08/18(Sun) 02:25
age

706  だれ子ちゃん?  2002/08/21(Wed) 03:09
新作ガンダムアニメについて シロッコさんから一言どうぞ
707  だれ子ちゃん?  2002/08/27(Tue) 03:29


  デンマーク(Denmark)



皆さんはこの国をご存知ですか?
まずは簡単にデンマークという国の紹介をしましょう。

  デンマーク・・・ 正式国名「デンマーク王国」(元首マルグレーテ2世女王)
  _______ 北欧の南端に位置し、約4.3万km2(九州とほぼ同じ)
 |  ||        | 首都はコペンハーゲン、人口は約531万人(99年調査)
 |―┘└――――| いたって小さな国です。
 |―┐┌――――| 人種は北方ゲルマン民族。言語は通常語はデンマーク語
 |  ||        | ながら、英語でもほぼ通用します。
   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
デンマークをはじめとした北欧の国々は異様なほどに税金が高いです。
日本でいう消費税(付加価値税)が最低20%。これに『サービス税』なんてものも
含めるとたいてい30%〜40%近くの税金が、買い物の際に課税されます。

その代わり、これらの国は福祉の充実度が世界トップレベル。
税金が高いのは充実した福祉を支えるためなのでしょう。

708  だれ子ちゃん?  2002/08/27(Tue) 03:29
デンマークのサッカーの歴史は古い。
しかし、デンマークのサッカーが世界に躍進したのは、
つい最近のことである。

欧州選手権に84年初出場、ワールドカップ初出場は86年。
この80年代から、デンマークのサッカーは、世界に認められはじめた。

このころから世界のサッカーファンは、彼らのことをその躍進ぶりとスタイルから
ダニッシュ・ダイナマイトと呼びはじめたのである。

709  だれ子ちゃん?  2002/08/27(Tue) 03:30
              ∧_∧             ∧___∧  | |XXXXXX
      ∧_∧  ( ´_ゝ`)         ∧_∧(´Д` ;)  | |XXXXXXX
     ( ´_ゝ`) (☆7とノ      (∀・;  )  8  ,,つ| |XXXXXXX
     と  9 つ/) )、ヾ   (( と   1 ヾ (  (  | |XXXXXXXx
   ((  乂_つノ  ≡  ≡  ≡  ≡  ≡  ≡ (⌒) ! !XXXXXXXx
       (/ \★          (__)  。      | |XXXXXXXx

そんな彼らが今大会、2002年日韓ワールドカップに出場することとなった。
2大会連続、3回目の出場を決めた。

710  だれ子ちゃん?  2002/08/27(Tue) 03:30
そして、このデンマークが今大会のキャンプ地を和歌山県に決めた。

和歌山県も例に漏れず他の立候補地と同様に誘致に必死であった。
デンマークへ何度も訪れた。この苦労が実りキャンプ地決定の知らせを受けた。
この一報に和歌山県の関係者は涙したという。

デンマークが
和歌山に決めた理由は


   ∧_∧   / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
   ( ´_ゝ`) <  日本のほぼ中心地であり、関空に近いから
   (    ) 0 \____________________


だった。

   (´_`) 。o ○( それだけ・・・?!
711  だれ子ちゃん?  2002/08/27(Tue) 03:30
デンマーク、と言っても、どんな国?と普通は思いますよね?
「どこにあるの?」「デンマークのサッカー選手で有名な人は?」と思うでしょう・・・。

デンマークという国の存在自体は知っていても
どんな国民性なのか?どのような人種なのか?って普通は誰も知らないものです。

それは和歌山県民のほとんども同じだった。
だから、和歌山の街中ではこんな会話が交わされたという。
712  だれ子ちゃん?  2002/08/27(Tue) 03:31
‐―――――――――――┐  ┌――――――――――――――――――――‐
今度の ワールドカップで   |  |それは知ってるけど・・・誰か有名な人いるの?
デンマークって.国が来る   |  |イングランドのベッカムとかイタリアの男前集団
らしいけど.知ってた?    |  |みたいに有名な人いるの?
‐――――v‐――――――┘  └――v――――――――――――――――――
    ∧_∧             ∧_∧
    ( ・∀・)っ             (´∀` )
    (    ソ            (     )
    | | |                | | |
    (__)_)            (_(__)
______∧_____________
 知らん・・・。                 |
 だけど世界で有名なんやったら  |
 一度は 練習見に行こか?       |

713  だれ子ちゃん?  2002/08/27(Tue) 03:31
デンマークの練習を訪れた人は『この手の会話』がきっかけとなった人たち
ばかりであった。最初はいわゆる『野次馬』的な人が多かったのである。
  ワイワイ  ガヤガヤ  ワイワイ ガヤガヤ
                 ∧_∧   ∧_∧
  ∧_∧ ∧_∧ ∧∧X ノ ハヘ X //(ハヽ∂
  (・∀・ )(´∀` )(゚Д゚,,)(^∀^ヾ |!(`∀´ ハ|
=========================================
この最初の見学者は数百人程度であった。

しかしこの数字が日々増えていった。

714  だれ子ちゃん?  2002/08/27(Tue) 03:31
     ワイワイ  ガヤガヤ  ワイワイ ガヤガヤ  ワイワイ  ガヤガヤ
                 ノノハヾ ((( )))) ∧,,∧  ∧∧  ∧_∧
 ワイワイ ●  ●ガヤガヤ (´∀` ) (´∀` )ミ゚Д゚ 彡(´∀` ) (´Д` )
     ▼        (  ∧_∧,, ∧_∧ トミ)と( ひ つ  >  (
  ∧_∧ ∧_∧ ∧∧X ノ ハヘ X //(ハヽ∂ ∧∧  ∧∧ ,、__,、`
  (・∀・ )(´∀` )(゚Д゚,,)(^∀^ヾ |!(`∀´ ハ| (゚Д゚ ) (゚ー゚*)(´∀` )
  (    )(    ) |  |)(    )(∧_∧ ∧_∧ ● ● (   )
  ∧,,∧  ∧_∧ ∧_∧ ∧∧X ノ ハヘ X //(ハヽ∂(^_^;)> γ⌒ヾ.
 ミ゚Д゚,,彡'(・∀・ )(´∀` )(゚Д゚,,)(^∀^ヾ |!(`∀´ ハ| (M ) (`∀.´ )
=========================================================
初日はわずか数百人だった見学者が翌日には2000人、
その翌日には2500人、そのまた翌日には3000人が訪れた。

715  だれ子ちゃん?  2002/08/27(Tue) 03:32
この数字が増えた理由には以下のことが一番大きかった。

ワールドカップ出場国のキャンプ地での練習というものは
非公式・非公開が通例なのだ(イングランド、伊、西、ブラジルといった
強豪国はほとんど非公開でした)が、デンマークは違ったのである。

デンマークは、練習初日から全ての練習を公開した。

716  だれ子ちゃん?  2002/08/27(Tue) 03:32
さらに練習後には見学に来ていた地元サッカー少年たちを招きいれ
一緒にミニサッカーを行ったりもした。
   ∧_∧              ∧_∧
   ( ´_ゝ`)   ∩_∩       (´<_`  )  /■ヾ
   / つ ノ   (´∀`*)       (    つ (´∀` )
   ) ノ、 )    (っ  つ      ( ((_ ヾ  (   つ
  (_) し'   、○_ノヾ_) ))    (__) `J   し'ヾ_) ))
""゙゙゙"""'''''''""""゙゙゙゙゙"""゙゙゙゙゙゙""""''''""""゙゙゙゙"""'''''"""゙゙゙゙゙゙"""""""""

サインにも気楽に応じてくれた。             ∧_∧
  ∧_∧       ∧_∧    ∧_∧∧_∧      //(ハヽ∂∧∧
  ( ´_ゝ`)  ∩_∩'  ´、ゝ (´∀` )∀・  ) ,、__,、(`∀´ハ|(゚Д゚,,)
  (っ_φ) ))(´∀`*)  づφとーと  )    )(´∀`)(     )|  |)

717  だれ子ちゃん?  2002/08/27(Tue) 03:32
そのため、デンマークというチームに対し・・・

―――――――‐┐ |\_/\∧/\_/\∧/\_/\
練習どうだった?|  > めちゃめちゃフレンドリーで
            |<  気さくな人たちばかりやで!
―――v――――┘ |/∨\_/\/∨\/\_/\/
   ∩_∩           ∧_∧  ∧_∧
  ( ´ー`)        (・∀・ ) (´∀` )
  (   )        と    つと    つ

という評判が口コミで相当広がったともいう。

718  だれ子ちゃん?  2002/08/27(Tue) 03:32
ある記者が、デンマークのオルセン監督に聞いた。
     ┌――――――――――――――――――――――‐
     |他国は、練習を公開しないで試合に備えています。
     |デンマークは公開でいいのですか?〔英語〕
     └――――――v――――――――――――――――
       ∧_∧       記者
      (  、´_ゝ     (´Д`;)
      (    )    φ( 筆 )、_,

719  だれ子ちゃん?  2002/08/27(Tue) 03:33
オルセン監督はこう答えた〔英語〕。
‐―――――――――――――――――――――――――┐
  我々の強さは.練習を秘密にしたところで変わらない。   |
 絶対的な自信をもって試合にのぞむだけだ。         |
――――――v―――――――――――――――――――┘
     ∧_∧        記者
    ( ̄ー ̄)ニヤリ    (Д`; ) オー
    (    ) ∧      (筆 レ )
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|
  何より、キャンプ地を提供してくれた和歌山の人たちが    |
 喜んでくれることはどんどんすべきなんだ・・・。          |
  試合も大事だが、 この交流も大事にしたいと             |
 選手全員も言っているよ。                     |

720  だれ子ちゃん?  2002/08/27(Tue) 03:33
このオルセン監督には、来日早々にこんなエピソードもあった。

デンマークチームが来日し、  _             ..::::..::::::::::
                    /||           ..::::..::::::::::::::
            / ̄ヾ___/ :||          ..::::..::::::::::::::::::
            (    ―=,ノ=―       ..::::..:::::::::::::::::::::
     ヾ――――┬'┬‐'、___,,イ┬―――'   ..::::..:::::::::::::::::::::::::::
          (_(0)(0)   (_(0)(0)    キィィン・・・..::::..::::::::::::::.

ホテル入りした初日のこと。

721  だれ子ちゃん?  2002/08/27(Tue) 03:33
ホテルでの歓迎セレモニーを受けた後
再度、宿泊先のホテルの支配人と料理担当のコック長が
監督の部屋へ挨拶に訪れた。

    |         (´⌒⌒`)
コンコン ∧_∧   |____|
    |(´∀`;,)  (・∀・ ;)
  ((ど〈V〉‐ )、.( |: ̄ )

722  だれ子ちゃん?  2002/08/27(Tue) 03:34
彼ら、支配人とコック長には一つ聞いておきたいことがあった
彼らには一つ『心配のタネ』があったのである。
   ┌――――――――――――┐
   | How nice of you to come ! |
   └―――‐v――――――――┘
  ∧_∧ ∧_∧ ∧_∧
  (丶´_ゝ`(    )(`    )
  (  つと(    ) (     )

それは食事の問題であった。
723  だれ子ちゃん?  2002/08/27(Tue) 03:34
ホテル側も選手たちには万全の状態で試合に臨んでほしかった。
食事が口に合わない・・・それが原因ということは避けたかった。

しかし他国の宿泊先ホテルに連絡をとったところ、食事でかなりもめ、
文句を言われたらしかった。
――――――――――――――――――――――――――――┐
    口に合わない !  母国の材料で調理してくれ!etc.         |
――v――v――――v――――v―――v――v―――v――――‐┘
 ∩_∩ ∧_∧  88888  ∧_∧ ∩_∩  ∧,,∧  ∧_∧
 (#゚Д゚)< #´_ゝ`>( ・≧・)( #`∀´)(#´ー`)ミ,,゚Д゚彡( ;・∀・)

724  だれ子ちゃん?  2002/08/27(Tue) 03:34
そこで、支配人は通訳を介して監督に聞いてみた。
――――――――――――――――――――――――┐
  食事で何かご要望はございませんか?            |
――――――‐v―――――――――――――――――┘
        ∧_∧   ∧_∧
         ( ´∀`;)   (;・∀・ )
        ( 〈V〉- )  ( |: ̄ )

725  だれ子ちゃん?  2002/08/27(Tue) 03:34
オルセン監督は答えた。
――――――――――――――――――――――――┐
一切お任せします。                       |
そちらが用意される料理を我々はご馳走になります。     |
―‐y――――――――――――――――――――――┘
         !    !
  ∧_∧  ∧_∧  ∧_∧
)(丶´_ゝ`)(, ;・∀)(´∀`; )
)(     (   / ̄ ̄|  / ̄ ̄|
 ̄ ̄ ̄ ̄/ ̄ ̄ : : :::::::| ̄ : :::::::::|

726  だれ子ちゃん?  2002/08/27(Tue) 03:34
この言葉に驚いた支配人とコック長。
‐―――――――――――――――――――――――┐
  いや・・やはり母国デンマークの食事の方          |
  がいいんじゃないでしょうか?                 |
‐――――――――┬―v――v――――――――――┘
和歌山をキャンプ地. |
に決めたときから.  |
食事もお任せしよう、|
と私と選手たちは.  |
.言っていた。       |
―――y―――――┘
∧_∧  ∧_∧  ∧_∧  ∧_∧
  ´∀`)(丶´_ゝ`)(・;   )(`;   )
 通訳) (    ) (   / ̄ ̄|  / ̄ ̄|
 ̄ ̄ ̄| ̄ ̄ ̄ ̄/ ̄ ̄ ::::::::::::! ̄ : :::::::::!
__∧________________
選手も理解している。          |
全てをあなたたちにお任せします 。 |

727  だれ子ちゃん?  2002/08/27(Tue) 03:35
それでも不安が晴れない支配人がこう続けたところ、
――――――――――――――――――――――――――┐
  あの〜〜他の国とかのホテルにお聞きすると・・・         |
 食事はやはり母国のほうが好まれると聞いたものでして・・・。|
――――――‐v―――――――――――――――――――┘
        ∧_∧   ∧_∧
         ( ´∀`;)   (;・∀・ )
        ( 〈V〉- )  ( |: ̄ )

オルセン監督はズバリ言った。
‐―――――――――――――――┐
  他国は他国、我々は我々です。   |
―y――――――――――――――┘
                           この言葉に支配人は
  ∧_∧  ∧_∧  ∧_∧         「ホッとした。滞在中は
)(丶´_ゝ`)(, ;・∀)(´∀`; )  ホッ・・・。  無事に過ごせていただ
)(     (   / ̄ ̄|  / ̄ ̄|        けると思った。」そうだ。
 ̄ ̄ ̄ ̄/ ̄ ̄ : : :::::::| ̄ : :::::::::|

728  だれ子ちゃん?  2002/08/27(Tue) 03:35
―――――――――――――――――――┐
我々は料理をあなたに全てお任せします。  |
よろしくお願いします。                 |
――‐y――――――――――――――――┘
       コチラコソ
. ∧_∧ ∧_∧ ∧_∧
)(、´_ゝ`,)(・;   )(`;   )
)(     (   / ̄ ̄|  / ̄ ̄|
 ̄ ̄ ̄ ̄/ ̄ ̄ : : :::::::| ̄ : :::::::::|
__∧_________________
                            \
ところで、 和歌山で有名な食材は何ですか ? |
‐―――――――――――――――――――┘

729  だれ子ちゃん?  2002/08/27(Tue) 03:35
コック長は質問の意図がわからなかったが、
‐――――――――――――――――――――――――――――┐
 和歌山では魚が有名です。 カツオという魚が特に有名です・・・ 。  |
――――――――――――v――――――――――――――――┘
                 ?
        ∧_∧   ∧_∧
         ( ´∀`;)   (;・∀・ )        と答えた。
        ( 〈V〉- )  ( |: ̄ )

730  だれ子ちゃん?  2002/08/27(Tue) 03:36
するとオルセン監督は微笑みながらコック長に言った。
――――――――――――――――――――――――――――┐
それでは、そのおいしいカツオを我々に食べさせてください。     |
あなたが腕をふるって、おいしいカツオを選手たちに             |
食べさせてやってください。                         |
―――‐y――――――――――――――――――――――――┘
      ハ、ハイ!
. ∧___∧ ∧_∧ ∧_∧
)(、´、ゝ`)(・;   )(`;   )                          ノ
)(    ) (    / ̄ ̄|  / ̄ ̄|                       )
 ̄ ̄ ̄ ̄/ ̄ ̄ : ::::::::::| ̄ : :::::::::|                       ノ
ー―――○―――――――――――――――――――――――''

731  だれ子ちゃん?  2002/08/27(Tue) 03:36
      O    この言葉にコック長は大変感激していた。
      。     / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\
    (´⌒⌒`)  .| 世界の代表監督が、あんないい人 |
    |____|   | だったからね〜〜。 いっぺんで     |  記者
   ( *・∀・) < デンマークのファンになりましたよ!|(´Д`;) ホゥホゥ
   ( |: ̄ )   \_________________/((φ_ノ)
732  だれ子ちゃん?  2002/08/27(Tue) 03:36
           / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\
    (´⌒⌒`)  .| それと                     |
    |____|   | 最初の食事のときにね・・・ 。     |  記者
   ( *・∀・) <                       |(´Д`;) フンフン
  。( |: ̄ )   \_________________/((φ_ノ)
 O | | |                             ハ
‐○ー―――――――――――――――――――――――― 、
                                        ⌒ヽ、_

733  だれ子ちゃん?  2002/08/27(Tue) 03:36
最初の食事を迎えた時、ある選手が通訳に聞いた。
――――――――――――――――――――――――――┐
デンマークでは 食事するとき 神への祈り を する のだが     |
日本では食事始める時に何かするんですか?            |
――――‐v―――――――――――――――――――――┘
   彡彡'ミ      ∧_∧
  ( ´_ゝ`)    (`    )
  (    つ   ( 通訳)

デンマークは国民の9割がプロテスタント†、(゚д゚)である(福音ルーテル教)。
神への祈りを終えてから食事を始める。
この選手は日本ではこれの代わりに何かするのか?と聞きたかったのである。

734  だれ子ちゃん?  2002/08/27(Tue) 03:37
答える通訳。
―――――――――――――――――――――――――┐
日本でもキリスト教の信者は神に祈ってから食べるけど    |
大抵は手を合わせて『いただきます。』と言ってから       |
食べます。                                |
―――――――‐v―――――――――――――――――┘
   彡彡'ミ      ∧_∧
  ( ´_ゝ`)    (`    )
  (    つ   ( 通訳)

すると彼は・・・
―――――――┐
  こうやるの ? |
―――‐v―――┘
   彡彡'ミ      ∧_∧   / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
  ( ´_ゝ`)    (`    ) < そうそう!その両手を
  ( ー'゙ー)     ( 通訳)  | もう少し上に上げて。

735  だれ子ちゃん?  2002/08/27(Tue) 03:37
彼はその姿のまま、コック長の方へ向き頭を下げた。

                          (´⌒⌒`)
   彡彡ミ                  |____|
 (((   ´_ゝ∩                Σ (・∀・ *)
  (      /                  (「: ̄ )

それを見ていた他の選手たちも彼にならい、手を顔の前で合わせた。

この時から、食事のたびに手を合わせる選手たち。

   イタダキマス  イタダキマス イタダキマス イタダキマス イタガキマス イタダキマス
   ∧_∧   ∧_∧   ∧_∧  ∧_∧  ∧_∧ ∧_∧     ノ
  ( ´_ゝ人  ( ´_ゝ人  ( ´_ゝ人 ( ´_ゝ人  ( ´_ゝ人( ´_ゝ人   ノ
ー―――○――――――――――――――――――――――― '"

736  だれ子ちゃん?  2002/08/27(Tue) 03:37
ー―――○――――――――――――――――――――――― '"
      O      コック長は言った。
      。     / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\
    (´⌒⌒`)  .| 今の日本人でも『いただきます』を言|
    |____|   | え 無い奴が多いのに、外国の人にさ |  記者
   ( *・∀・) < れたら…無茶苦茶嬉しかったですよ。 | (´Д`;) ホゥホゥ
   ( |: ̄ )   \_________________/((φ_ノ)

737  だれ子ちゃん?  2002/08/27(Tue) 03:37
この最初に手を合わせた選手の名を・・・

        彡彡'ミ
       ( ´_ゝ`)
       (    )

 ヨン・ダール・トマソンといった。
  /FW。代表では9番。
  1976年8月29日生・182cm・74kg

 このトマソン選手。今大会、デンマークを決勝
トーナメントに進出させた立役者である。

 今大会前まで、オランダのフェイエノールト・ロッテルダム
に所属し(現在ACミラン在籍)、日本代表の小野選手とチームメイトで
あったため日本でもある程度名前を知られていた選手である。

 彼は少し神経質な面を持ちあわせており、実際酷評する向きもあるが、
非常に心優しい青年だ。

738  だれ子ちゃん?  2002/08/27(Tue) 03:38
あるサイン・握手会でのことである。

デンマークというチームは前述したように
練習を公開した。練習後は地元サッカー少年たちとミニサッカーを行い、
握手会、サイン会もたびたび行った。

あの日も、いつものごとくサイン・握手会が行われた。

気さくなデンマークの選手たちを和歌山県民も好きになった。
選手たちのサインを求め長蛇の列が出来上がっていた。
気軽にサインをするデンマーク選手たち。
                                   ∧_∧
  ∧_∧       ∧_∧    ∧_∧∧_∧      //(ハヽ∂∧∧
  ( ´_ゝ`)  ∧_∧'  ´、ゝ (・∀・ )∀`  ) /)/)(`∀´ハ|(゚Д゚,,)
  (っ_φ) ))(´ω`*)  づφとーと  )    )(´∀`)(     ) |  |)

739  だれ子ちゃん?  2002/08/27(Tue) 03:38
もちろんトマソンもその中にいた。
そのトマソンの前にある少年が立った。

  彡彡'ミ     ∧_∧
 ( ´_ゝ`)∧∧ ミ   彡
 (φ   (`*  ) (   )
 | | {{(  U)}} |  | |
 (__)__)し`J (__)__)

彼はトマソンの前に立ちつつも・・・少しモジモジしていた。

後ろに立っていた母親らしき人が彼を促す。
トマソンも通訳を通じ「どうしたの?」と彼に聞いた。
   ?
  彡彡'ミ     ,∧_∧     / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 ( ´_ゝ`)∧∧ミ   彡 <  早くしなさい。
 (φ   (`*  と    )))   \______
  |   |  |と  ) |  | |
 (__)__)し`J (__)__)

740  だれ子ちゃん?  2002/08/27(Tue) 03:38
意を決した少年はポケットから一枚の紙切れを出し、
トマソン選手に渡した。

  彡彡'ミ     ,∧_∧
 ( ´_ゝ`)∧∧ミ   彡
 (φ   (`*  と    )))
  |サッ(( ーと  ) |  | |
 (__)__)し`J (__)__)

741  だれ子ちゃん?  2002/08/27(Tue) 03:38
 その紙切れには英語で・・・
 ┌――――――――――――――――――――――――――┐
 | ボクは小さいころに、病気にかかって               |
 | 口と耳が不自由です・・・耳は聞こえません、話せません・・・。 |
 | だけど サッカーだけは ずっと見てきました、 大好きです。   |
 | デンマークのサンド選手とトマソン選手が好きです。        |
 | 頑張ってください。                            |
 └――――――――‐‐┬――――――――――――――――┘
 記者 ∧_∧ 彡彡゙ミ |       ∧_∧    と書いてあった
(;´Д`)(;´д`)( ´_ゝ`) | ∧∧ ミ   彡   (英語の先生に
(  筆)(っ通訳)(_,つー←┘(`*  )(    )    書いて貰ったという)。

その手紙に通訳も・・・その場にいた記者も驚いた。
言葉が出なかった・・・。

742  だれ子ちゃん?  2002/08/27(Tue) 03:39
しかし、トマソン選手はニッコリと微笑み少年に
「それなら君は手話はできますか?」と・・・

  彡彡'ミ
 ( ´、ゝ`)       手 話 で 語りかけた。
(((_つ と)))      ~~~~~

      ∧_∧
   ∧_∧´д`彡  その『言葉』に驚く少年と母親。
   ( ゚д゚*)   )

再度聞くトマソン。

  彡彡'ミ
 ( ´、ゝ`)      「手話はわかりませんか?」
(((_つ と)))

743  だれ子ちゃん?  2002/08/27(Tue) 03:39
ミスタートマソン、手話は  |
言語と同じで 各国で   |
違うんですよ〔英語〕.    |
―――y―――――――┘
 記者 ∧_∧  彡彡'ミ        ∧_∧
(;´Д`)( ;´д`)Σ(´<_` )   ∧∧ ミ   彡
(  筆)(っ通訳) (_つ と) (゚*  )(    )

手話を万国共通と思う人が多いのだが、
手話は国によって違う、ましてや日本国内でも地方によって違う。


トマソン選手は通訳にこう言った。
――――――――――――――――――――――――┐
ボクは彼と紙で 、文字を通して話をしたいのですが     |
手伝ってください 。それと 、後ろの人たちにも彼と      |
話す時間をボクにください と 言っておいてください 。     |
――――――――‐v―――――――――――――――┘
 記者 ∧_∧ 彡彡'ミ       ∧_∧
(;´Д`)( ´∀`)(´<_` )   ∧∧ ミ   彡
(  筆)(っ通訳)(つ と) (゚*  )(    )

744  だれ子ちゃん?  2002/08/27(Tue) 03:39
後ろで順番を待つ人たちは何も文句を言わなかった・・・一言も・・・。

  ∧_∧ ∧_∧ ∧ ∧   ∧,,∧  ∧ ∧ ノノハヾ、 ○ノハヾ○
 ( ´∀` )( ・∀・ ) (,゚Д゚,) ミ,゚Д゚,彡 (=゚ω゚=) ( ´D` ) ( ‘д‘ )


そして通訳を介し、少年とトマソンの『会話』が始まった。

 記者 ∧_∧ 彡彡'ミ       ∧_∧
(;´Д`)( ´∀`)( ´、ゝ`)  ∧∧ミ   彡
(  筆)(っ通訳)(つ と) (`*  )(   )

       「( ´、ゝ`) 君はサッカーが好きですか?」

       「はい。大好きです。 (´д`*)」

       「( ´、ゝ`) そうですか。デンマークを応援してくださいね。」

       「はい。あの聞いていいですか? (´д`*)」

       「( ´、ゝ`) いいですよ。何でも聞いてください。」

       「トマソン選手はどうして手話ができるんですか?
        正直、ビックリしました。 (´д`*)」

745  だれ子ちゃん?  2002/08/27(Tue) 03:40
この少年の質問に彼は答える。

  彡彡'ミ   「ボクにも君と同じ試練を持っている姉がいます。
 ( ´、ゝ`)   その彼女のためにボクは手話を覚えたんですよ。」
 (_つ と)
                          ∧∧
その彼の言葉をじっくりと読む少年。 []、(´д`*)

そしてトマソンは少年に言った。

  彡彡'ミ   「君の試練は君にとって辛いことだと思いますが、
 ( ´、ゝ`)   君と同じように君の家族も、その試練を共有しています。
 (_つ と)    君は一人ぼっちじゃないという事を理解していますか?」

                             ∧∧
この言葉に黙ってうなずく少年。    (( (´д`*) コク!

         「わかっているなら、オーケー!
  彡彡'ミ    誰にも辛いことはあります。君にもボクにも
 ( ´、ゝ`)   そして君のお母さんにも辛いことはあるのです。
 (_つ と)    それを乗り越える勇気を持ってください。」
746  だれ子ちゃん?  2002/08/27(Tue) 03:40
そして、トマソンは最後に少年にこう言った

  彡彡'ミ    「ボクは今大会で1点は必ず獲ります。
 ( ´、ゝ`)    その姿を見て、君がこれからの人生を
 (_9   )    頑張れるようにボクは祈っておきます。」

この言葉に
            ∧∧
           (´∀`*) ニコ!

この少年は初めて笑顔を浮かべた。

            ∧∧   「はい!応援しますから、
           (´∀`*)   頑張ってください。」

そして、トマソン選手にサインをもらい、

彡彡'ミ
(  ´、ゝ ∧∧
(   づと(∀`*)、

少年と母親は、その場をあとにした。

747  だれ子ちゃん?  2002/08/27(Tue) 03:40
母親は目に涙を浮かべ、取材する記者に向かって

     ∧_∧    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 記者 ミ;´∀∩彡 < あんなことされたらデンマークを応援しないわけ
(;´Д`)(    )   | にはいかないですよ。日本と試合することになっても、
(φ筆) |||     ! 私らはデンマークを応援しますよ。

涙を流し、笑いながら言った・・・。



そして、このトマソン・・・少年との約束を守り、
試合での得点を決めた。

1点どころか、彼は4得点という大活躍だった。
748  だれ子ちゃん?  2002/08/27(Tue) 03:40
1次リーグ、フランスという前回覇者と同じA組だったデンマーク。
その試合会場が韓国であろうとも
彼ら和歌山県民は
応援に駆けつけた。

\ ガンガレー デンマーク!! ヾ ダニッシュダイナマイト!! ガンガレー !
                 ∧_∧  ∧_∧
  ∧_∧ ∧_∧ ∧ ∧Xノ ハヘ X //(ハヽ ∂ ∧∧   ∧∧ ,、__,、
ヾ (・∀・ ヾ(´∀` ヾ(゚Д゚,,)(^∀^ヾ |!(`∀´ ハ|ヾ(゚Д゚,,)ヾ(゚ー゚*)(´∀` )
  (    )(     |  | (    )(∧_∧ ∧_∧ ● ●  (   )
  ∧,,∧  ∧_∧ ∧_∧ ∧∧X ノ ハヘ X //(ハヽ∂(^_^;)> γ⌒ヾ.
 ミ゚Д゚,,彡'(・∀・ )(´∀` )(゚Д゚,,)(^∀^ヾ |!(`∀´ ハ| (M ) (`∀.´ )

749  だれ子ちゃん?  2002/08/27(Tue) 03:41
オルセン監督は言った。
               / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
      ∧_∧   / 試合会場が韓国であっても、和歌山の応援
      (、´、ゝ`) <   はわかった。あれが我々の力になった。
      (     )   \____________________

結局デンマークは2勝1分け(勝ち点7)。
見事A組1位通過を決めたのである。

750  だれ子ちゃん?  2002/08/27(Tue) 03:41
そして、決勝トーナメント1回戦。
場所は新潟スタジアム・ビッグスワン、
対戦相手はあのベッカム率いるイングランドであった。

スタンドからは「ベッカム!!!!」という声が至るところから響いていた。
http://fifaworldcup.yahoo.com/jp/020616/2/cx8.html

ここでも和歌山県民はデンマークを応援し続けた。

♪♪ダニッシュダイナマイト ♪♪ベカ‐ム何する者ぞ ♪♪俄かEnglandファンを黙らせろ
    記者               記者             記者
    (;´Д`)ノ⌒ ))  (( ⌒ヾ(´Д`;)           (;´Д`)ノ⌒ ))
   ┌( 筆へ) ))      ((  (へ筆 )へ ))    ((  ┌( 筆へ) ))
 ((  く                 > ))       ((  く

751  だれ子ちゃん?  2002/08/27(Tue) 03:41
♪♪頼むぞデンマーク    ・・・アア・・・         ・・・もうだめぽ(前半で0-3)。
      記者           記者
(( ⌒ヾ(´Д`;)          (´Д`;)ゞ           記者
  ((  (へ筆 )へ ))      /( 筆 )          ヾ(´Д`;)、
        > ))      (  ハ              ノ Z乙

・・・和歌山県民の想いは通じなかった。
デンマークはイングランドに0−3という予想外のスコアで敗れてしまった。
その日、和歌山県にも雨が降ったという。

涙雨だったのかもしれない・・・。

752  だれ子ちゃん?  2002/08/27(Tue) 03:42
負けはしたが、和歌山県民はデンマークというチームを誇りに思っていた。

「よく頑張った!」「後は快く母国に帰ってもらおう!」と
『デンマークお疲れさま!会』なるものが宿泊先のホテルで行われた。
会場にはあふれんばかりの県民が駆けつけた。

その催しにオルセン監督以下選手たちも全員出席した。
あのトマソンもその場にいた。

そこでトマソンは『あの少年』を見つけた。
例によってトマソンは少年に対し『紙』で語りかけた。

 記者 ∧_∧ 彡彡'ミ       ∧_∧
(;´Д`)( ´∀`)( ´、ゝ`)  ∧∧ミ   彡
(  筆)(っ通訳)(つ と) (`*  )(   )

       「( ´、ゝ`) せっかく応援してくれたのに負けてゴメンね。」

       「お疲れ様でした。負けたけどカッコよかったです。
        それに約束どおり点を獲ってくれたからボクは
        嬉しかったです。 (´∀`*) 」

       「( ´、ゝ`) ありがとう。」

753  だれ子ちゃん?  2002/08/27(Tue) 03:42
そして、この少年にトマソンは言った

       「( ´、ゝ`) ボクから君に言える言葉はこれが最後です。
        よく聞いてください。」

       「はい。 (´∀`*)」

       「( ´、ゝ`) 君には前にも言ったとおり、試練が与えられている。
        それは神様が決めたことであり、今からは変えられない。
        ボクが言いたいことわかりますか?」

       「はい。 (´∀`*)」

       「( ´、ゝ`) 神様は君に試練を与えたけど、
        君にも必ずゴールを決めるチャンスをくれるはずです・・・。
        そのチャンスを君は逃さず、ちゃんとゴールを決めてください。」

少年はこの言葉に喜色満面の笑みを浮かべて

       ゙  ∧∧  "
      -  (´∀`*)  - 「はい。」
と答えた。

754  だれ子ちゃん?  2002/08/27(Tue) 03:42
そして2人は・・・
          「( ´、ゝ`)   「 (´∀`*)
           さようなら」   頑張って」
という言葉を
それぞれ残し別れを告げた。

最後に2人は仲良く写真におさまった。
 ┌――――――――――――┐
 |┌――――――――――┐|
 ||   彡彡'ミ         ||
 ||  ( ´、ゝ` ) ∧ ∧   ゙゙||飛びっきりの笑顔を浮かべ
 ||  (    )( ´∀` )゙  ||ファインダーにおさまる2人。
 ||  | | |(     )   ||
 ||  (__I__) し''` J   ||
 |└――――――――――┘|
 └――――――――――――┘
この写真は少年の宝物になることだろう。

トマソンに出会ったことによって少年は『前へ進む』に違いない・・・。


小さな少年、心優しきトマソンに
これからも栄光あれ。。。






755  だれ子ちゃん?  2002/08/27(Tue) 07:10
やっべー、泣きそうになった。
756  だれ夫さん?  2002/08/27(Tue) 13:32
泣いちゃった・・・
757  だれ子ちゃん?  2002/08/27(Tue) 13:52
正直感動、良い話でした・・・。自分の知らないところでこういうことが
起こっているんですな・・・。
758  こた  2002/08/27(Tue) 18:18
泣きましたTT
嘘です。泣いてません。
でも、感動したよー!

759  だれ子ちゃん?  2002/09/19(Thu) 14:07
a
760  だれ子ちゃん?  2002/09/19(Thu) 14:33
!
761  だれ子ちゃん?  2002/10/05(Sat) 01:12
                        l  |  /
        _              __
     /  _  ̄ \        /_ _ ̄_ ヽv
     /  _.//|/ニヽ ヽ       l, - 、, -、ヽ |  |
     |  /ニヽ ゚ノo<_ノヽキ  _   ,| (:)|(:) |-/   |
     | ├__⊥_つT(   ヽ  |`-c`- ´ 6)_/
      | l/___ / ノ/\ .ノ   l ε   _ノ
    /  ̄7 ̄O ̄ヽ    /    /` V  ̄7 \
    |   |┌──┐| | /     /| ̄  ̄ /   |

「一人で できないけんかなら、するな!」
                「おい、どうしたんだよドラえもん。」
762  だれ子ちゃん?  2002/10/05(Sat) 01:13
                       | / /
               , -―――- 、
              /  ____  ヽL
              Τ _  _ \|   l
               |/  V  ヽ |   |
               ||  (:)|(:)  |-|   l
    ___       {`, -c `―_´ 6) _/
  (_     ヽ__  \Τ ̄ ̄ ヽ ノ
    (  し、  |     ̄ ̄|  ̄ ̄ ̄  ) ̄ ̄ヽ
     ヽ_/_ |___  |_/  \_/  _    \
              ヽ          |\   \
            「帰る!!未来の世界へ?」
763  だれ子ちゃん?  2002/10/05(Sat) 01:13
____      (___)   ☆     ☆
    ☆  )               /  ̄ヽ
        ̄)  。           ヽ_ ノ
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄      /\         。
            /    \  ☆
            /       \        ___
      。  /     _ _    \    /
        ̄|    |_|_|    | ̄  /
 ̄ ̄ ̄|    .|    |_|_|    |_     ̄|    田
  田  |/ ̄ ̄            ´`〜~´


764  だれ子ちゃん?  2002/10/05(Sat) 01:13
 ――――――――――――――――― 、
       __       ___       |
  _ /  _  _ ヽ _∠___  ヽ_    |
  |  /  ,-(_ ・b・)、|  , - , -、  |  |  |  |
  |  | .王ミ  | 、王  |・ |・ |- |  |  |  |
  |  ヽ ヽ-―┴ ´ノ  | -c -´  6) /  |  |
  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ヽ
 ―――――――――――――――――、  |
                 「ねむれない。」
「ぼくも。」
               「朝までお話しよう。」
765  だれ子ちゃん?  2002/10/05(Sat) 01:14

            \|\
            \|\|\  |
               \|\, ― 、   /XXX     /
          _     \|∞ヽ |/XXX     //
       __(∞)_     C`= ´dXX      //
  XX     ^― l  i-、ヽ    O− 、_)     |\\
  \XX      / へソ       XXX      |\|\\
 \ \ c´`l  -´  XXX             |\|\|\\
\、 \ (  &)XXXXX X             |\|\|\
 ̄\、 ;´  `%}XXXXXX             \|\|\
 ̄ ̄\、   ヾl\XXXXXXXXXXXXXX       \|\
 ̄ ̄ ̄ \  /\ \XXXXX                \

766  だれ子ちゃん?  2002/10/05(Sat) 01:14
           ___                _
       / ____ヽ           /  ̄   ̄ \
       |  | /, −、, -、l           /、          ヽ
       | _| -|  ・|< ||           |・ |―-、       |
   , ―-、 (6  _ー っ-´、}         q -´ 二 ヽ      |
   | -⊂) \ ヽ_  ̄ ̄ノノ          ノ_ ー  |     |
    | ̄ ̄|/ (_ ∧ ̄ / 、 \        \. ̄`  |      /
    ヽ  ` ,.|     ̄  |  |         O===== |
      `− ´ |       | _|        /          |
         |       (t  )       /    /      |
              「できることなら…帰りたくないんだ。君の事か心配で」
「ばかにすんな!ひとりでちゃんとやれるよ。やくそくする。」
767  だれ子ちゃん?  2002/10/05(Sat) 01:14
      ,-――-、                  ___
      { , -_−_−                 /  _   _ ヽ
     .(6( /),(ヽ|                /  ,-(〃)bヾ)、l
     /人 ー- ソヽ _             | /三 U  |~ 三|_
  /  /  |  ̄_∧/   ヽ            |(__.)―-、_|_つ_)
      | |  \/_/-、    /           /  /`ー--―-´ /
      |-\ _|_ )_|   /            |  // ̄( t ) ̄/
      ヽ-| ̄|  |_|_ /          ,− |   | ヽ二二/⌒l
    /  l―┴、|__)          |  (__> -―(_ノ
 /    `-―┘ /            `- ´
           /
                「ちょ、ちょっとそのへんをさんぽしてくる…。」
「なみだを見せたくなかったんだな。いいやつだなぁ。」
768  だれ子ちゃん?  2002/10/05(Sat) 01:14
            , -―――-、
           /∨∨∨ \ |
      /  ̄\ |(ー)(ー)  |_|
      |     >⊂⊃     6)
      \_/ (  |      |
           ⊂-― 、    ノ
           /   ̄ ̄ ̄ ̄ \
         / |      /   )ヽ
      , ―,-´` , ―ヽ ̄    /  |
     〃 _ノ   〃_| _ /    |
        ̄ ̄ >          |
「ジャイアン!」
「あいつときどきねぼけて夜中にさんぽするんだ。」
769  だれ子ちゃん?  2002/10/05(Sat) 01:15
       ハ ッ
    ヽ l  |  l  /
      ,  ―――-、
    .| / ∨∨∨|
     | _| ((:))((:))|
   (6      ⊂⊃ ヽ
     |      |   |
    人      3 ノ
   /      ̄ ̄ \
770  だれ子ちゃん?  2002/10/05(Sat) 01:15
       , -――- 、      ,-――― -、
      / ____ ヽ     l,VVV\.   |
      | / , - 、, - 、Τ     l・))    6)  |
      | |.-|  +|<  | | ☆  ( )  __ ヽ__|
      (6U` -´っ-´、l |/   」/∧∧/ ) /
  ι  \(  ̄ ̄Τノ/~~~,7 `、ー――´ /
   ι  /   ̄ ̄ >|    ノ    7 ̄ ̄ ̄
      /   ∩/7η \ /\/ ⌒
     「おれがねぼけてるところをよくも見たな。ゆるせねえ!」
「わあっ、ドラ……、」
771  だれ子ちゃん?  2002/10/05(Sat) 01:15
                         「だれかがぼくを、よんだような…。」
                              「のび太くぅん」
                                    / ̄ ̄_ヽ
                                   / , -(・)p・)|
                                   | |三_|_つO
――――――――――――――― 、           > (__/ /
                     /⌒l |         C´/ /  ̄0~|
    , -―――-、    , -――-、 |   | |        (_ (__二三( )
   |  /VVVVV|    | ,―_―_― |   | |____________
   | |  ( ・)+{_    | |-( ゚)。_゚)| \ノノ  /  /   /    /  /
   (6     P| |||   (6  -―`_)‐―´‐、 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
   八__⊂_/ ̄ ̄ |T∧7 ヽ| /⌒l |
  /    \_∧| |  ̄ ̄ | / /| |   | |
  |   |     |     / \/  | |    | |
  |__|      |    ´|爪|    | \ ノノ
 /, , ,ノ      |
            「けんかならドラえもんぬきでやろう。」 
772  だれ子ちゃん?  2002/10/05(Sat) 01:15
                                             /7 /7/7
                     _      ⌒            /7    /ニ ニ7  ̄
                __/  |  (      )    |  / /ニ _ ̄//7 / / /7
               |  、 )ヽ/    (  \    ☆ || //  /_//_/  ̄  ̄  ̄
               |  | ̄             | |/ / ___
                | ̄ ̄l            /⌒)     ̄ -――  ̄
              / ̄ ヽ、  ̄`、 ̄ ̄ ̄| ̄) / /^ヽ      , -―――-、
             /_ _     ヽ_|―――┴--´  (ヽ´⊂)     ∨∨∨∨| |  , - 、
      ____∠」/ |    / ☆      /  /| |\ / \   | >_(・)  |_ | (⊃ _)
  ξ⌒(     // ̄ ̄/ `l /      ☆  / /  | |  \  \ | ,`T` _ 6)  \  \
    ̄∪  ̄ ̄ l´二,二    | \      〃  〃   | |     \.  ( |王王土/ノ――´   ノ
           || >| < |―9)  \  (    ) ./     ||      \ヽ二7| ̄7        /
           l 二 二_/~ } \  \   _,       |    \     |    o ̄     ~| ̄
          ` ―--― ´  \/^ \            (    )  |   o       |
                     し、 、_ゝ            ゝ  ノ   |   o       |
773  だれ子ちゃん?  2002/10/05(Sat) 01:15
「先に帰ったのかな?」
           __          | | | | || ||  | | | |
          /,(・o(・)、ヽ          | |=======
         王 |  王|           | | ||| | | | || | | | | |
          ヽε  ノノ         | | ̄ ̄ ̄ ̄| ̄ ̄ ̄
          /  ̄(t) |ヽ         | |____|___
         Ol´(ヽ7)|O        |________
        σ(__)_)
      ___  ---―――――  ̄ ̄ ̄ ̄ \
  (  ̄ ̄\    -―――――――   ̄ ̄ ̄ \  \
   \ ( ̄ \  \  ノノ      ( ( ) )      \  \
     \\   \  \
「いない……。」
774  だれ子ちゃん?  2002/10/05(Sat) 01:16
「どんなもんだい。ニどとおれにさからうな。」
              , ―――-、
               |∨∨∨|_.|
           ,-、  / (。)_(/) 6) , - 、
          / ミ  | , `T`   } p〃/
         | ̄ |_人エエエ工フノ_| ̄ |
         |      ヽ∧/      /
           ̄ ̄|     o      | ̄
            |     o      |
            |___o____|
            |    ∩     |
             |__ |  |___|
     ⌒     (__|   |__)
     (    )     γ ニ二二ヽ
      , ―,ー――| / #。+ |   ⌒
 ―――|  |,-,――(6 -○○ ノ (    )
``´゛゛´´`゛゛´`´゛゛``´`゛゛´´´´゛
775  だれ子ちゃん?  2002/10/05(Sat) 01:16
           ___
         γ x ___ \
         l ./, - 、, - 、⊂ ヽ
         | | |  +||<  | {_,  |
         (6 ` -´っ-、´| /
         人 # /二二lノ/
      / |    ̄7 ̄
     _ .|  |  |  / ̄ ̄ヽ
    (  _ |_|   | ̄l_|___|
    `-\ヽ / ̄|  ̄  |___|_
       ~///U     |__ )
「まて!まだ負けないぞ。勝負はこれからだ」
776  だれ子ちゃん?  2002/10/05(Sat) 01:16
「おかしい。もう一時間もたった。」

    l⌒    ∩  っ
       ___
     /  , -、, - 、ヽ
   / ,-―|/ ゜|゜ヽ|-、ヽ
    | |二 ` -O- ´ キl
    | |― __|__つT/
    \ヽ(  _  ( ノ
        ̄   ̄
「さいごの晩まで、ひとに心配かけて。」
777  だれ子ちゃん?  2002/10/05(Sat) 01:16
            「ふうふう。これでこりたか。」
                       ∩   っ
                     ,-―――-、
                    ∨∨∨∨.| |
               ⌒     | +_(。) U | |
             (   =  ( `T`    6)
                こ  ,- l ) ̄二ヽ_ノ-、
                 /    ̄|_|_ノ    \
                 |  |    o     |  |
                 |__ |    o      |__|
                (__ |__o___ (-  )
                   |    ∩    |  ̄
                    |__| |__|
          ⌒       (__|  |__)
  ,−、   (     )   __
     \_ ___ /⌒―、ヾ
  / \/# / #  Σ| 〉 ○| ミ         へ、
    ̄ |  |#  / #.人_〉_'±ミ/       ┌―OO
  ――└ ξ_ヾ /
「なんどやっても同じことだぞ。はあ、はあ。いいかげんにあきらめろ。」
778  だれ子ちゃん?  2002/10/05(Sat) 01:17
              ,-―――-、
               V_V V_V
              | 。  (。))
              / ⊂⊃
              { (_l__
       _,_,_  \ )__ )
     γ  ___ ヽ/⌒
      ミ  / ,,,  _,Τ| |     |
      |  _| ミ ゚,l|.´+ | |  |     |
  ι  (6 #. ~^っ 、 }|  _ |
    ι >_ /二二7ノ / / |
      /   ̄ ̄ ̄ ̄;   つ
      |  ――――' ― ⊇
「ぼくだけの力で、きみに勝たないと……。」
779  だれ子ちゃん?  2002/10/05(Sat) 01:17
                 /
     , -――――-  /
    /  _____ミ/
    ミ / /ナ=x  _/ |/
    | | キキ ゚キ| 十 |
   (6 #  xX/メ っ 、 ヽ       _
    \# / ̄ ̄ ̄/ ノ      /∠-
 ι  /   二二二 ∠ -―  ̄ミ    ニ

  「ドラえもんが安心して……、」
780  だれ子ちゃん?  2002/10/05(Sat) 01:17
                ____|__/
           , -―  ̄            ̄ ヽ〃
     \  /                   ヽ
       |/                     \
      /     ______         <
      /      /  __∠∠_  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄Τ
      |      |  [_____] #  /\  |
     /|     |   ∠/=≡x    |/      #|
      / |_  |    キミ   .||      ||    |
      /  ヽ_|    |ハ     キ     -||-    |
      | 6      メ    |ナ     ||     |
      \_     #  ゛ミ=/k゛  つ  #  -、  |
        |    # _________/  /
        ヽ  # /            /  /
     /   \ /              / / ___
           ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                               
「   | |  三|  _| /|  _L            /   _L_ヽヽ |
    |┌┬┐ ,|´  |   / _L \  |  \  /     /  _   |
   ノ  巾 / |   |_   ( 」    ヽ   | //\ノ /   _  ・ 」
781  だれ子ちゃん?  2002/10/05(Sat) 01:17
      |  |   /   _ _
      |  |    ̄|  |_|_|
      |  |  ( ⌒.)  |_|_| γ⌒ ,
      |  | (     ) _  (      )
――― |  |――――./ oo ヽ ――――――
      |  |      | /⌒) ∩
      |  |       C  ̄  ノ
      |  |      (,、   _)
――― |_|――――――――――――――

        「のび太くうん。」
782  だれ子ちゃん?  2002/10/05(Sat) 01:18
  「いてて、やめろってば。わるかったおれの負けだ。ゆるせ。」
                   っ
                _ __  っ
               / ⊃vvv |  っ
               | C>。(:) 6)- 、 ))
              /~「(二つ ノノ^゙)ヽ           /  ̄ ̄ ̄ \
              |.γ  ̄ ξ/\ノ |         /・)―- 、     ヽ
              ヽ|    |/  / ./        q`´ 三三 \     |
              /^^^   / _/  ノノ     ( _ -――、 ヽ   |
            /      /| ̄ |            ___     ) |   /
  , ―、      /  ̄ ヽ /__||___|          ヽ_ 二二  /__/
 (__  ̄| ̄ ̄ ヽ/⌒)/(__(__|          /  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ \
      ̄ ̄ ̄ ̄/ _ /                 (  )_        |○
           ( ̄| )                    )      -O.| _
           ̄ ̄                     /    _ -――(    )
                                (  ̄  )       ̄
                                   ̄
783  だれ子ちゃん?  2002/10/05(Sat) 01:18
    >-――― - 、 ___
    >_____/      ̄\
     |, ―、, ―、/(/o(ヽ)―-、   ヽ
     ||  @| + ||ニ(( | ( ( 二二ヽ  |
     |` -c −´|- ) )| ) )―― |  |
    ( ー――,(__| ( ( _, |  |
      > 二 ´_ ヽ   ̄ ̄   / ノ
     /   |   { ̄ ̄ ̄ ̄ ̄二二)
    /  | `− ´――――      |
  /_./ |      |――┐ |      |
 (っ  ) |      |   ノ  |      |-O
「見たろ、ドラえもん、勝ったんだよ。」
「ぼくひとりで。もう安心して帰れるだろ、ドラえもん。」
784  だれ子ちゃん?  2002/10/05(Sat) 01:18
                             / ̄ ̄ ̄ ヽ
                __           /ヽ)―- 、   l
           ,―γ ___ヽー、       q`´ハ ミ ヽ  }
       | ̄ ̄|  | |(/),(ヽ)|    | ̄ ̄|   <_))_,  |  /
      |   ヽ  (6  ー  )  ノ    |    ヽ ___/_ノ
      -――  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄――-    (t) ̄ ̄ ̄|
     |  ,―  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ― 、    |    (/_ )/ / |
     |  |                |    |  ( ) ○    |-o
     |  |                 |    |   `ー―― ´
    |  |                  |    |
   |  |                   |   |
785  だれ子ちゃん?  2002/10/05(Sat) 01:18
                __
           ,―γ ___ヽー、
       | ̄ ̄|  | |(/),(ヽ)|    | ̄ ̄|
      |   ヽ  (6  ー  )  ノ    |
      -――  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄――-
     |  ,―  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ― 、    |
     |  |                |    |
     |  |                 |    |
    |  |                  |    |
   |  |                   |   |
786  だれ子ちゃん?  2002/10/05(Sat) 01:19
                   , -―――-、
                 ( ,、,、,、,、,、,、,、 ヽ
       ___       |, -、, - 、  |  |
      / ___ ヽL      ||・ |・  |- |_ |
     |, -、, -、 .|  |     { `-c - ´   6)
     || ・|・  | |_ |     \ヽ 7  ノ_<
      { `-c - ´  6)      /   ̄ ̄ ̄ヽ
   /⌒)=(c⌒ ~) ノ      /  /       |    _
  / ̄ /   ~~   ヽ    /  /       | |   |  |
  \  |⊂⊃__|  |   |   |   __ ―――|) |
     ̄|| ミ_ |__ ノ    \/ )ニ ―― | ̄| ̄ ̄|_|
       `―´
                 「ドラちゃんは帰ったの?」
     「うん。」
787  だれ子ちゃん?  2002/10/05(Sat) 01:19
       /  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ――――――
       |   ドラえもん、きみが帰ったらへやががらんとしちゃったよ。 ヽ
       |           でも……すぐになれると思う。           |
       |              だから………。                |
       \_           心配するなよドラえもん。    ____/
           ̄ ―――――――――――――――― ̄ ̄

                                          ___
                       __                   |\__ \
                   /  ̄ __\                 \\     \
                    | /,二 ,二Τ                   \\     \
                    |_|__|  /| ヽ|                      \| ̄ ̄ ̄||\
                 (6  `- っ- ´})                        ̄| ̄ ̄||
                   / \`――`ノ                          |   ||
                   ノ /^ /⌒l ~)_)                 l ====l  |    ||\
                  |  `、_^^ ノ  |                  | [    ]  |  |__||
                /__/⌒l |  |               |_||_||__|_     ||\
          XXXXXXX|     |― | | ̄ |_             / ||  ||  /l     ||
      XXXXXXXXXXXX` ― - |  | |     )           /__||_||_//     ||\
    XXXXXXXXXXXXXXXXXX|   ̄)  ̄            └―┬┬―┘     ||
             XXXXXXXX` ― ´                 _| |/7       ||\

788  だれ子ちゃん?  2002/10/13(Sun) 01:26
正直今のどら映画よりも百倍泣ける・・・・・
789  だれ子ちゃん?  2002/11/19(Tue) 18:16
晒し挙げてみる
790  だれ子ちゃん?  2002/11/21(Thu) 21:27
感動した!!
791  だれ子ちゃん?  2002/12/04(Wed) 14:50
激しく良スレ
792  だれ子ちゃん?  2002/12/20(Fri) 15:39
  ずーり ずーり

   ∧_∧
  / ・ω・)
...../____ノ

793  だれ子ちゃん?  2002/12/20(Fri) 15:40
      ∧_∧
     / ・ω・)    λλ
   ../___ノ    / ゚Д゚)
   ~~~      ~~ ̄ ̄ ̄

       ∧_∧
      / ・ω・)   λλ
    ../___ノ   / ゚Д゚)
    ~~~     ~~ ̄ ̄ ̄

        ∧_∧
       / ・ω・)  λλ
     ../___ノ  / ゚Д゚)
     ~~~    ~~ ̄ ̄ ̄

         ∧_∧
        / ・ω・) λλ
      ../___ノ / ゚Д゚)
      ~~~   ~~ ̄ ̄ ̄

          ∧_∧
         / ・ω・)λλ
       ../___ノ/ ゚Д゚)
794  だれ子ちゃん?  2002/12/20(Fri) 15:40
          ∧_∧
         / ・ω・ヽλλ
       ../___ 人 ゚Д゚)
       ~~~       ̄

           ∧_∧
          / ・ω・λλ
        ../___ 。Д゚)
        ~~~     ̄ ̄

            ∧_∧
           / ・ω・λ
         ../___Д゚)
         ~~~     ̄

            ∧_∧
           / ・ω・,)
         ../___Д)
         ~~~     ̄

            ∧_∧
           / ・ω・,)
         ../___Д)
         ~~~     ̄
795  だれ子ちゃん?  2002/12/20(Fri) 15:41
            ∧_∧
           / ・ω・)
         ../_____)
         ~~~

            ∧_∧
           / ・ω・)
         ../____ノ
         ~~~
796  だれ子ちゃん?  2002/12/20(Fri) 15:41
                   ∧_∧
                  ( ´∀`)
            ∧_∧  (    )
           / ・ω・)  | | |
         ../____ノ  .(__)_)
         ~~~

                   ∧_∧
                  ( ´∀`)
             ∧_∧ (    )
            / ・ω・) | | |
          ../____ノ .(__)_)
          ~~~

                   ∧_∧
                  ( ´∀`)
              ∧_∧(    )
             / ・ω・)| | |
           ../____ノ (__)_)
           ~~~

                    ∧_∧ ?
                   (´∀` )
               ∧_∧ノ    )
              / ・ω・   | |
            ../____ノ __)_)
            ~~~

                    ∧_∧
                  煤i´Д` )
                 ∧_ノ    )
                / ・ω・ | |
              ../___人__)_)
              ~~~
797  だれ子ちゃん?  2002/12/20(Fri) 15:41
                    ∧_∧
                   (´Д`; )
                   /   つつ
                 / ・ω・/ /
               ../_____)__)
               ~~~

                       ∧ ∧
                       ノ Д`; )
                      /   つつ
                    / ・ω・ /
                  ../____)
                  ~~~

                         /~ \
                        ノ Д`; )
                       /     つ
                     / ・ω・ ノ
                   ../____ノ
                   ~~~


                       
                       
                        / ⌒ \
                      / ・ω・Д`)つ
                    ../____ ノ
                    ~~~



                          ∧_∧
                        / ・ω・`)つ
                      ../_____ノ
                      ~~~
798  だれ子ちゃん?  2002/12/20(Fri) 15:42
                          ∧_∧
                        / ・ω・`)つ
                      ../_____ノ
                      ~~~



                           ∧_∧
                         / ・ω・ つ
                       ../_____ノ
                       ~~~



                            ∧_∧
                          / ・ω・ っ
                        ../_____ノ
                        ~~~



                             ∧_∧
                           / ・ω・ ゝ
                         ../_____ノ
                         ~~~



                                    ずーり ずーり
                              ∧_∧
                             / ・ω・)
                           ../___ノ
                           ~~~
799  だれ子ちゃん?  2002/12/20(Fri) 15:42
                              ∧_∧
                             / ・ω・)
                           ../___ノ      ((((・∀・;))))
                           ~~~                ガクガクブルブル

                                 ∧_∧
                                / ・ω・)
                              ../___ノ    ミ (;・∀・)
                              ~~~

                                    ∧_∧
                                   / ・ω・)
                                 ../___ノ   ミ (;・∀・)
                                 ~~~

                                       ∧_∧
                                      / ・ω・)
                                    ../___ノ  ミ (;・∀・)
                                    ~~~

                                          ∧_∧
                                         / ・ω・)
                                       ../___ノ ミ (;・∀・)
800  だれ子ちゃん?  2002/12/20(Fri) 15:42
                                             ∧_∧
                                            / ・ω・)
                                          ../___ノ  (;・∀・)
                                          ~~~

                                                ∧_∧
                                               / ・ω・)
                                             ../___ノ(;・∀・)
                                             ~~~

                                                   ∧_∧
                                                  / ・ω・)
                                                ../_(;・∀・)
                                                ~~~

                                                      ∧_∧
                                                     / ・ω・)
                                                   ../(;・∀・)
                                                   ~~~
                                                         ∧_∧
                                                        / ・ω・)
                                                      (;・∀・)_ノ
                                                      ~~~ ̄ ̄

801  だれ子ちゃん?  2002/12/20(Fri) 15:44
                                                            ∧_∧
                                                           (・ω・ )
                                                       (;・∀・)  _ノ
                                                         ~~~ ̄ ̄
                                                               ∧_∧
                                                              (・ω・ )
                                                         (;・∀・) )  _ \
                                                               ~ ̄ ̄
802  だれ子ちゃん?  2002/12/20(Fri) 15:44

                                                               ∧_∧
                                                              (・ω・ ヽ
                                                       (;・∀・)   ヽ    \
                                                                 ̄ ̄~~~

                                                    ///⌒  。

                                                    /~| o ゚   .    .
                                                 ∧/∧ .|         .
                                                (・ω・  /     ゚  .
                                                 〜〜ノ         \\\
                                                                     );::),..
                                                (・∀・;) 三         \\\);;):;):;,,,
                                                            

803  だれ子ちゃん?  2002/12/20(Fri) 15:45
                                                    /\
                                                 ∧/∧ .|
                                                ノ・ω・  /
                                             (・∀・; 〜ノ
                                                 ~


                                                ∧_∧
                                               ノ・ω・ ヽ
                                             (;・∀・    \
                                                  ̄ ̄ ̄~~


                              / \  ─┼─ ┼┐| |    ∧_∧
                              /   \.  ノ   └- .・・  ノ・ω・  ヽ
                                             (;・∀・   \
                                  / \" ┼┐ | | | |   ̄ ̄ ̄~~
                                  /   \.││ ・.・・.・


                                                 ∧_∧
                                                ノ・ω・ ヽ
                                             (;・∀・     )
                                                  ̄ ̄ ̄~


                                                   ∧_∧
                                                 _ノ・ω・ ヽ
                                             (;・∀・  ___ノ
                                                  ~~
804  だれ子ちゃん?  2002/12/20(Fri) 15:45
                                                    ∧_∧
                                                    / ・ω・)
                                             (;・∀・ /___ノ
                                                   ~~

                                                      ∧_∧
                                                      / ・ω・)
                                             (;・∀・)  ../___ノ
                                                    ~~~

                                                        ∧_∧
                                            ホッ・・・         / ・ω・)
                                             (;・∀・)    ../___ノ
                                                      ~~~

                                                       ∧_∧
                                                        (・ω・ ヽ
                                            煤i;・∀・)   ../___ノ
                                                      ~~~


                                                       ∧_∧ ゴメソ
                                                        (・ω・ ヽ
                                              (;・∀・)   ../___ノ
                                                      ~~~

805  だれ子ちゃん?  2002/12/20(Fri) 15:45




                                                             ずーりずーり
                                                          ∧_∧
                                                           /  ・ω・)
                                              (;・∀・)     ../ ___ノ
                                                        ~~~

806  だれ子ちゃん?  2002/12/29(Sun) 00:07



807  だれ子ちゃん?  2003/01/03(Fri) 13:43
森のオナニー
808  だれ子ちゃん?  2003/01/03(Fri) 13:49
        │\
        │  \≡(`Д´;))≡=    オオッ!
        │   \≡// ))≡=
        │    ≡」」」≡=
       >>807
809  だれ子ちゃん?  2003/01/17(Fri) 02:17
いい日だった
810  シロッコ  2003/02/28(Fri) 18:09
age
811  シロッコ  2003/03/04(Tue) 00:01
定期あげ
812  だれ子ちゃん?  2003/03/05(Wed) 11:10
まだいたのか
813  だれ子ちゃん?  2003/03/22(Sat) 16:02
息子「久しぶりに父さんをラーメン屋に誘ったんだけど遅いなー。一風堂って言ってあるんだけどなー。」
父「おーい!」
息子「あ、父さんだ!こっちこっち!どうしたの?遅かったじゃん。」
父「ごめんなー、だめな父親で・・・。」
息子「いやいや、そこまでは気にしなくていいって。」
店内
父「こういう店は彼女とよく来るのか?」
息子「そんな彼女なんていないよー。」
父「いいよ、隠さなくて。いるんだろ?」
息子「う、うん。いるよ。」
父「出て来いよー!」
息子「ここにはいねーよ!」
父「いいなー、21歳。青春だよなー。」
息子「そう?」
父「ああ、いいとも。春を売ると書いてセイシュン。」
息子「それは売春だろ!何言ってんだよ。とりあえずなんか頼もうよ。」
父「よし、頼もう。ウエイトレスさーん!連帯保証人になってくださいませんか?」
息子「何を頼んでんだよ!メニューだろ!じゃあ僕は、普通のラーメン。」
父「じゃあ俺は普通のカップラーメン。」
息子「あるわけないだろ!」
ウエイトレス「かしこまりました。」
息子「あるのかよ!」
父「あ、すいません、ここビールありますか?」
ウエイトレス「ありますよ。」
814  だれ子ちゃん?  2003/03/22(Sat) 16:03
父「じゃあいいや。」
息子「何のために聞いたんだよ!」
ウエイトレス「かしこまりました。」
息子「かしこまるなよ!ちょっとは疑問に思えよ!」
父「でも、珍しいなー。お前から誘うなんて。」
息子「ああ、大事な話があるんだ。」
父「ま、まさか・・・、俺は本当の父親じゃないとか!?」
息子「意味わかんねーよ!違うよ、将来の事だよ。
僕さー・・音楽やっていこうと思って・・・。」
父「なに?聞こえなかったよ。もう2回言ってくれ。」
息子「せめて次で聞く努力しろよ!だからー、音楽をやっていきたいの!もうここまでやってきたわけだし。」
父「そうかそうか、俺は賛成だ!ただし父さんが何て言うか・・・」
息子「お前は誰だよ!」
父「どうせならピッグになって帰って来い。」
息子「豚にはなんねーよ。」
父「あー、ウエイトレスさん。これをあちらのお客さんに。」
息子「え?なになに?なにをやるの?」
父「伝票。」
息子「伝票わたすなよ!」
ウエイトレス「かしこまりました。」
息子「またかしこまっちゃったよ。」
父「というのは冗談で、今日は父さんのワリカンだ。」
息子「ワリカンかよ!オゴリだろ!」
父「そうそうオゴリ。間違えちゃったよ。」
息子「悪いね。こっちから誘っといて。」
父「いいさ、気にするな。どうせ汚い金だ。」
息子「何やってんだよ!」
父「よーし、帰ろうかー。ところで俺はドラムでいいのか?」
息子「あんたとはやんないよ!」
815  だれ子ちゃん?  2003/05/01(Thu) 23:33
ふむ、芥川賞を狙っていたわけですか。残念でしたね。
816  だれ子ちゃん?  2003/05/27(Tue) 21:57
(´ι _`  ) ああそう
817  だれ子ちゃん?  2003/06/08(Sun) 09:51
いまどき芥川賞よりも
どれだけ売れたか、だな
818  だれ子ちゃん?  2003/06/08(Sun) 18:38
ていうか、芥川賞よりも、ノーベル平和賞だよな。ノーベル化学賞も捨てがたいが。
819  だれ子ちゃん?  2003/06/24(Tue) 23:50
確かにそうだね。
820  だれ子ちゃん?  2003/06/25(Wed) 01:48
絵がいっぱい
821  だれ子ちゃん?  2003/07/10(Thu) 12:28
   ♥
  /|\
 /_|_ \
  シ | 佐
  ロ |
  ウ | 々
   |

822  だれ子ちゃん?  2003/07/10(Thu) 12:29
    ♥
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 /_|_ \
  シ | 佐
  ロ |
  ウ | 々
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823  だれ子ちゃん?  2003/07/10(Thu) 12:30
  ♥
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  シ | 佐
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  ウ | 々
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824  だれ子ちゃん?  2003/07/10(Thu) 12:31
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  ウ | 々
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825  だれ子ちゃん?  2003/07/10(Thu) 12:31
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  シ | 佐
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  ウ | 々
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826  だれ子ちゃん?  2003/07/10(Thu) 12:32
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  ウ | 々
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827  だれ子ちゃん?  2003/07/10(Thu) 12:33
    ♥
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  ウ | 々
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828  だれ子ちゃん?  2003/07/28(Mon) 18:41
ササって誰?
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